「つなぎ融資」に条件をつける
GMとクライスラーに対し労働条件の引き下げを要求
ディアンヌ・フィーリー |
ゼネラルモータースとクライスラーが百七十四億ドルのつなぎ融資を受け取ったとき、ブッシュ大統領は、労働組合の労働者は賃金、手当て、労働規則の面で非組織労働者と「競争できる」ようにならなければならないという注文を付けた。すでに弱体化している全米自動車労組(UAW)を破壊しようとするこのずうずうしい試みは、経済危機のさなかにどのように米国資本が救済され、働く人々が身ぐるみはがされるかを物語っている。
金融機関救済策の第一弾と、かっては強大だったゼネラルモータースとクライスラーに分配されたわずかな貸付を比べてみればよい。救済リストにあげられた銀行の場合は、非組織労働者に対しても、経営者に対しても何の条件も付けられなかった。銀行経営者たちは、AP通信によれば、二〇〇八年に十六億ドル近い年俸、ボーナスやストック・オプションを受けとっているのに、である。最近の調査で、政府資金を受け取る百十六の銀行の大部分が金を抱え込んでいるか、納税者の金を使って銀行を買い上げていることが明らかになっている。
全米自動車労組
の連続的な譲歩
UAW委員長ロナルド・ゲトルフィンガーは、すでに最近の労働協約で、新規採用労働者に対する賃金および手当ての二層構造を含む譲歩を行ったことを指摘している。この譲歩は労働組合の基盤を深刻に掘り崩すものである。なぜなら、新しく雇われる労働者を以前から雇われている労働者と分離し、労働者間の団結を弱めるからである。
三十年前のクライスラーに対する政府貸付(期限前に利息を付けて返済された)以降のUAWの歴史は、譲歩の連続であった。賃金引下げなしの週労働時間短縮の議論などは、どこでも聞かれなくなり、週労働時間短縮の移行処置としての有給休暇などは、古参労働者の思い出話にすぎなくなった。
私が一九七九年に初めてフォードに雇われたときには、三カ月の見習い期間中は本採労働者の賃金から割り引かれた。見習い期間が過ぎると賃金が上がり、六カ月を過ぎるとみんなと同じになり、差額の小切手を受け取った。
その後、二〇〇七年の協約で二層賃金制度が導入されるまで、新規採用労働者が百パーセントの賃金に到達するまでの期間は延長されてきた。七〇%からスタートし、六カ月ごとに五%ずつ上がった。差額は会社のポケットに入ったままであった。
一世代前の譲歩を取り戻そうとする唯一の試みが、一九八〇年代後半にUAWのリージョン5のアシスタント・ディレクター、ジェリー・タッカーによって行われた。彼は、革新的な遵法闘争戦術を始めた。労働条件の向上を目指す労働協約を確保するためにリージョン・ディレクターに立候補することを決心し、そのためにUAW指導部の幹部会と手を切った。幹部会が彼と仲間の活動家を打ち負かすのに数年かかったが、全力をあげて彼を弱め打ち負かした。彼の「ニュー・ディレクション」の約束は中途挫折させられた。
『フォーチュン』誌が「デトロイト条約」と呼んだ五カ年協定である一九五〇年のGM協約の締結後、UAW指導部は労働平和、つまり敵対的関係でなく自動車会社との提携を約束した。これが組合指導部を訓練する道を形成した。UAWは一九三〇年代の座り込み闘争の中で設立されたという伝統を誇りにしているが、今日の指導部は交渉と管理が自分たちの役割であると心得ている。
組合は譲歩によって沈滞しているが、指導部は依然として、組合員の運命は経営を助けることに結び付けられていると信じている。指導部は支部を厳しく支配し、協約にそれを防ぐ条項がある場合でさえ工場閉鎖を許し、降伏条件を交渉するだけである。かっては自動車部品部門は九〇%が組合に組織されていたが、工場が、低賃金で労働権法(クローズドショップ制を認めない)を持つ南部に移っていったとき、対応に失敗し組織化に失敗した。今日では、組織率は逆転し、わずか一〇%に過ぎない。
一九九〇年代には、UAW指導部は、部品部門を売却するビッグ・スリーを支持しながら、労働者に対して労働条件、賃金や手当ての引き下げを決して許さないと約束した。十五年もたたないうちに、二層賃金制度と工場閉鎖の攻撃がデルフィ、ビステオン、アメリカン・アクスルの工場労働者を襲った。UAW役員は手をこまねいて傍観し、損失を減らして前に進むことが必要だと説明するだけだった。協約の中の最善の条項は、早期退職勧奨ぐらいである。
UAW幹部会の「取引によって協約を勝ち取るという」という不滅の信念が敗北をもたらしているのである。この間、彼らは独立的イニシアティブを圧殺し、そのような行動を「理性的でない」と決め付けている。しかし、CAFE(燃費基準)を低く保たせようとする経営陣の試みに対しては支持のデモを組織することをいとわない。
トヨタや日産に雇われている南部の労働者を組織しようとするUAWの試みが行き詰まっていることは、別に驚くべきことではない。彼らは、組合のボートが沈まないようにするために長い間ワニを飼ってきたのであるが、彼らは本当は独立したビジョンや戦略を持ってはいないのだ。彼らは、「秩序ある退却」を組織していると信じているが、それはこの状況下では退却が必要だからである。したがって、彼らはいっそうの譲歩の要求すら発見している。今回は、政府からの、そして公衆からの要求であり、それは自動車労働者の賃金、手当てや労働条件に関する露骨なうそによってあおられたものである。
孤立させるための
デマキャンペーン
組合員労働者は時間給七十ドル以上をもらっているのか。ノーである。ビッグ・スリーの賃金は、すでに移転工場の労働者の賃金とほぼ同等である。実際、少なくともあるトヨタの工場の平均的労働者の賃金は、もっと高い。つまり、会社は労働組合を排除するために、常雇い労働者に組合員の組立労働者よりわずかに高い賃金を支払うのである。移転工場は大量の臨時雇用労働者を雇っているが彼らの賃金はかなり低い。ビッグ・スリーも同じ戦略を採用しつつある。
トヨタのビジネス・モデルは、常雇いの組立労働者の小さなプールに基づいている。彼らの賃金は、臨時雇用労働者や自動車部品部門の労働者よりはるかに高い。部品労働者は、近隣の工場で、あるいは組立工場の中で、部分組立を行う。これはビッグ・スリーが採用し始めているもう一つの新しい手法である。
オハイオ州トレドにあるクライスラーのジープ工場では、部品供給業者に雇われた非組合員労働者が組立ラインに部品を並べている。ボディ、塗装、シャーシ部門で、彼らは供給部品の梱包を開き、UAW労働者がすばやく組み立てることができるように部品をラックに並べる。ミシガン州のスターリングハイツのクライスラーの工場では、地区指導部が工場内部で個々の部品組立を行うことを認めることを拒否した。そこでクライスラーは、道の向かい側に数百人が働く部品組立センターを建てた。
組合に組織された自動車労働者は、三十五年以上前に、現役と退職者の生活費増額、医療手当ておよび年金を勝ち取った。これが厳しい労働条件での仕事を望ましいものにした。しかし、当時は米国の労働者の二五〜三三%が組織されていたが、今日では民間部門の労働者の組織率は八%である。
アメリカ企業の攻撃と、ビッグ・スリーと親密なUAWの姿を見て、平均的アメリカ人は高給取りの自動車労働者に憤慨し、自動車会社やその傲慢な態度と自動車労働者を同一視するに至っている。しかし、これらの同じアメリカ人が、自分たちの四百四十倍も稼いでいるCEOのような金持ちを崇拝しているのである。高い賃金や手当ては、かっては他の労働者に希望を与える基準であった。しかし今日では、自動車労働者は、時間給七十ドル以上もらっていると言われ悪者扱いされているのである。
事実は、ビッグ・スリーの工場における平均的生産労働者の賃金は、時間当り二十八ドルであるが、メディアではこれに近い数字は報道されていない。新規雇用者はこの半分であり、したがって退職者が増えるに従って、平均賃金は下がっていくだろう。会社は、長期雇用労働者の手当ては時間あたり約十五ドルであると主張しているが、もちろん、新規雇用者は年金を受け取るわけはなく、会社の医療手当ても少ない。
七十ドル以上という数字にするために、ビッグ・スリーは退職者に関する負担を加えている。これらの会社は約一世紀にわたって存在しているので、百五十万人の退職者と何らかの手当てを受ける協約上の権利を持つその配偶者を抱えている。(現在、ビッグ・スリーの退職者の40%はメディケア(高齢者医療保険)が適用されるほど高齢でなく、医療をカバーするものは会社の給付しかない。)トヨタや日産のような新しい会社は、退職者の数が少ない。退職者に対する医療保険も支払っていない。
二〇〇七年の協約で、フォードとGMはUAWが協約上の医療手当てを引き継ぐことを要求した。彼らは資金不足のVEBA(任意従業員福利厚生基金)の設立過程にあるが、今やブッシュ大統領は、すべての将来の支払の二分の一を株式(急速に価値を失っている)にすることを規定し、医療保険をさらに麻痺させている。
ブッシュ大統領はまた、「賃金および手当てを含む米国の従業員に支払われる報酬の総額を二〇〇九年十二月三十一日までに削減し、時間当り一人当たりの平均が(トヨタや日産やホンダの)そのような報酬の平均総額と競争できるようなものにすること」を要求した(「担保付長期貸付枠の条件要約」、5ページ)。経営陣が退職手当をこの数字に織り込み続けることが許されるなら、賃金は最低水準まで下げられことになるであろう。
この二十一世紀に、米国ではなぜ福利厚生がその人の仕事にしばりつけられているのか。世界の工業化された国ではみな、医療は公共的権利として整備されている。しかし、その仕事が好きではないが会社の福利厚生給付のために辞めるわけにはいかないと感じている人々がいることを、われわれのだれもが知っている。劣悪な医療を法外な価格で提供する、機能不全の差別的な医療システムをやめるときがきている。
これは、労働者階級全体とその同盟軍を団結させることができる問題であるが、保険産業が利益を守ろうと闘う準備をしているので、勝利することは困難だろう。
つぎはぎだらけ
の医療と年金
自動車労働者にとってのもう一つの重要な福利厚生給付は、年金である。一九三〇年代に設計された社会保障制度は、三本足のいすの一本の足に過ぎない。他の二本は、年金と貯蓄である。部品産業の多くの自動車労働者は年金をもらえず、二〇〇七年協約では、ビッグ・スリーに新規雇用される労働者も四〇一Kの資格しかない。
年金をもらう資格のある米国労働者がますます少なくなるのであるから、明らかな解決策は、社会保障制度を設計しなおし、生きていける退職後の収入を提供できるものにすることである。既存の制度を破壊するキャンペーンを展開してきたブッシュ政権の八年の統治期間をわれわれは潜り抜けたばかりである。多くの若者は、今、彼らが退職を迎える頃には社会保障制度は存在しないという神話を信じている。望ましいのは、社会保障に適切に資金を供給する必要性について、また、特に年金をもらえる資格のある労働者がますます少なくなるという現実を前提にして給付額を増額する必要について、公共の場での討論が始めることである。
そうなるまでは、年金給付を全自動車産業にまで拡大すべきであると私は考える。参加する労働者のプールを拡大することにより、一人当たりの費用が下がり、参加する企業も増えるだろう。これは特に、賃金や手当ての差が大きい部品部門の労働者や、数が増加している移転工場の労働者にとって重要である。われわれは一から始めなければならないわけではない。なぜなら、運輸産業や建設業界では、ある種の全産業的年金がすでに存在するからである。
この国のつぎはぎだらけの医療と年金プログラムを再編成するこれらの「良識ある」措置は、少なくとも一九六〇年代に実施されるべきであった。しかし、労働者を企業に依存させておくことを企業が好んだために(それが労使「平和」をもたらすから)、ドイツや他の工業化された国とはちがい、アメリカの政府と資本はこれに抵抗した。しかし、自動車産業の危機と国全体の経済危機(毎月五十万人以上が解雇されている)が結びついたことによって、これらの改革は今日では不可欠である。
経営者の経営ミ
スと三重の危機
ビッグ・スリーが米国市場向けにSUV(スポーツ用多目的車)やトラックを製造する決定を行ったのは、一台売れるたびに一万ドルという信じられないような利益を生み出すからであった。彼らは、米国市場向けに多くの中型乗用車やコンパクトカーを生産する方向には向かわなかった。(世界の他の部分では、彼らは中型車や小型車の生産に成功しているのに。)
革新的研究開発には手を抜いて、ビッグ・スリーは利益をさまざまな高価な物やCEO報酬に使った。GMは一九九〇年代に電気自動車を作り上げたが、大量生産を考えたことがなかったことは明らかである。「電気自動車を殺したのはだれだ(Who
killed the Electric Car)」は魅惑的なドキュメンタリー映画である。最後は経営者たちがこれまでに作ったEV4を取り囲んで打ち壊す場面で終わる。その車を発売することもできた人々にとってはぞっとする場面である。
過去十五年以上にわたって、私はさまざまな労働者が会社の集会場で経営陣に新製品開発の戦略を尋ねるのを聞いてきた。役員はワクワクするような新製品を開発中であると主張したが、これらはSUVとトラックの改良の周りをぐるぐる回ることであるように思えた。これらのもうけ仕事がいつまでも続くかのようであった。一部の労働者はあやしてもらえたが、他の労働者たちは経営陣から厳しい要求を突きつけられた。
現在の自動車産業の危機は、三重の危機である。過去四分の三世紀の間で最も深刻な経済危機、地球温暖化の危機、そして製造業の危機である。会社の決定が利益に基づいて行われ、必要性に基づいて行われないとすれば、である。
したがって、生産労働者にこれほど強い関心が向けられ、高給を取っていると思われ、怠け者だと思われていることは、皮肉である。経営者は産業の経営をまったく誤り、しかも巨額の年俸のほかにボーナスやストック・オプションを得ている。まことに興味深いことは、総支出のうち労務費はわずか八〜一〇%であるのに、管理費は二〇%を占めていることである。
労働者が危機を引き起こしたわけではないのに、いけにえをささげることを期待されている。しかし、実は解決の鍵を握っているのは労働者であって、労働者が問題の原因ではない。製品が利益を生むように売るにはどうするかという狭い考え方ではなく、労働者は常にどうすれば効率的に安全に仕事ができるかを知っており、どの供給業者の製品が品質が悪く拒否する必要があるかを知っている。
自動車産業のこの三重の危機のときに、自動車会社に金を貸すことよりもっと必要なことがある。この産業の概念と構造を組み立てなおすことである。マイケル・ムーアが言っているように、政府がビッグ・スリーを安く買い上げ、生産労働者や熟練労働者、事務労働者や技術者で構成される労働者中心の委員会が環境運動の助力を得ながら運営すればよい。
燃料効率の良い少数の車を作り、公共輸送システムを優先させることができるのに、なぜ千六百万台もの車、トラックやSUVを作ろうとするのか。工場を作り変えて、軽量のレール、高速列車やバスを作るようにすることができる。太陽光エネルギー、水力エネルギー、および風力エネルギーを開発する必要に応じて、一部の工場、特に五大湖地方に近い工場は、風力発電機や太陽電池パネルを生産するように作り変えることができる。
風力、水力および太陽光エネルギー技術は、三〜五百万人の仕事を生み出すことができる。したがって、輸送やエネルギー産業を含む製造業を抱えるわれわれは、仕事を増やすことになるだろう。利益至上主義をやめて、働く人々の指示の下で生産を拡大することにより、労働者間の競争を減らすことは容易であることが分かるだろう。おそらく、週四十時間労働を減らすことさえできるだろう。週四十時間労働は、前世紀の遺物として博物館に送るべきなのだ。
利益至上主義でないシステムでは労働者間の競争が減るのと同じように、NAFTAのような不公平な貿易法を廃止したいものである。賃金を引き下げるグローバル・システムの代わりに、労働者は自分たちの地域に「よく適した」商品を生産し交換するシステムを発展させることができるだろう。
経済危機の中で階級闘争は続く。ブッシュ政権がさまざまな救済策や貸付策をどのようにして作り上げたかは明らかである。労働者として、われわれは有用な生産のための戦略とビジョンを作り上げることができだろうか。グローバル・ジャスティス運動の活動家たちが指摘してきたように、別の世界は可能である。実際には、別の世界がどうしても必要である。(「インターナショナルビューポイント」09年1月号)
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