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アルゼンチン 債務を労働者に押しつけるな!雇用を守れ! かけはし2009.1.26号

民営化により年金基金が5分の1に

ブラックホールに直面する年金制度の再国有化   エドゥアルド・ルチータ 

 軍部独裁政権以来続いてきたアルゼンチンの新自由主義政策は二〇〇一年の金融破産によって崩壊した。それ以後、労働者・民衆運動の攻勢が継続し、政府が短期間のうちに次々に交代した。中道左派キルチネル政権は、今回の金融恐慌の中で民営化された年金ファンドの「再国有化」に踏み切った。その意味を探る。

 クリスティーナ・キルチネルが先頭にたつアルゼンチン政府は、農産物への変動税率制のプランが失敗した後で、金融市場の要求を満たすことを通じた解決策を求める方向に傾いているように見えた。
 政府は、通貨交換レートを低下するにまかせ、パリクラブ(主要国蔵相会議)への約七十億ドルの支払いと、二〇〇五年に再交渉を受け入れなかった財務省短期証券所有者との交換システムの再開――それは約二百七十億ドルになる――を発表した。この推定額を正当化する公式の主張は、アルゼンチンはそれによって国際金融市場に再統合される、国際金融市場を閉ざされればアルゼンチンは外国からの信用へのアクセスを奪われる、というものだった。

南米の地域
市場に影響

 しかしリーマンブラザース破綻以後の世界規模での危機の悪化により、政府は方針を変更した。こうしてパリクラブへの支払いは「将来において」と宣言され、二〇〇五年に拒否された古い財務省証券保持者との交換再開は凍結された。いわゆる「保証ローン」、すなわち二〇〇一年に銀行に渡され、二〇〇九年には銀行に総額で四十五億ドルをもたらすことになっていた債券だけが有効性を保持した。
 同時に全般的な驚愕の中で、大統領は民間年金の国有化を発表した。それは、年金基金企業(AJFP)への補助金を自動的に国家制度に移転することを意味している。
 この決定は、同様のシステムを持っているチリとペルー、この地域に多くの投資を行っているスペインなど地域市場に強い衝撃を与え、世界規模の危機が悪化すればこの措置が将来において使われる先例となるのではないかという大企業の恐れを引き起こしている。そして、アルゼンチン航空の国家による収用の可能性もますます語られるようになっている。

年金民営化の
幾つかの先例

 一九九四年、カルロス・メネム政権は公共サービス民営化政策の枠組みの中で、人びとが年金システムに支払った金のすべてを年金基金方式に移転した。労働者は公式システムの枠組にとどまることを選ぶのにわずか九十日の猶予しかなく、それは新たに労働市場に参入した被雇用者についても同様だった。こうしてアルゼンチンは、個々の年金基金が民間の経営の下に置かれる約二十カ国の小クラブに入ることになった(幾つかの諸国、とりわけポーランド、イタリア、スウェーデンでは、こうしたシステムは国家経営の下に置かれたままである)。
 こうして公的年金基金の赤字を際だたせながら、年間四十億ドルが民間部門に移転された。さらに付け加えれば、それによって退職世代の年金を就労世代の支払いでまかなう社会的連帯の歴史的基準が、はっきりと破壊されることになったのである。

十四年間のバ
ランスシート

 このシステムの開始にあたって、二十四の年金基金会社(AJFP)が創設された。その多くは銀行、保険会社、大労組と結びついていた。加入者からの保険料集金のために闘い、人びとを引きつけるために競争する中で、AJFPは手数料の削減やその他の高価なサービスを提供した。十年を過ぎた時、これら企業の利潤率は低下し、売却・吸収・合併などを通じて目立った集中化のプロセスが進んでいた。最初に労働組合が「ビジネス」をあきらめ、銀行がそれに続いた。それに替わったのが国際的な保険会社だった。現在残っているAJFPは僅か十社で、約九百五十万人の加入者のうち保険料を支払っているのは三百六十万人にすぎない。
 この十四年間のうちにAJFPは契約料と運営費用として百五十億ドルを受け取ったが、それは出資された資本の二六〜三〇%に達する。このシステムは次のように機能していた。AJFPの利潤は保証され「企業家リスク」はない。しかし加入者によって集積された資本は、株式取引市場の変動と企業の投資基準に依存している。
 二〇〇八年九月までに、AJFPは加入者の資本の二〇%に上る損失を記録したが、それは民間年金システムの本質を明るみに出すものだった。それは市場の論理に従属し、多くの利潤を一定の期間で上げる性質を身につけているが、利潤が低下した時にはどんな社会的保障も提供しない。投資は損失をもたらすだけである。まさに今それが起きているのである。
 現在、民間年金システムの受給者が四十四万五千人いる。国家は彼らの七七%に支払いサービスを行わなければならない。十七万九千人は、その年金が法で定められた最低年金を下回らないように補助を受けているが、別の三万三千人は、その年金資本が完全に失われたため、国家は彼らの年金を全額支払わなければならない。それは国家予算にとって年額約六十億ドルのコストとなる。

さまざまな
解釈と論争

 政府の決定は、多くの論争といくつかのきわめて異なった解釈をもたらしている。

(a)第一の意見は次のようなものである。それは、AJFPの利潤の巨額の喪失とシステム破綻に直面して、年金支払いを保証することを目指した政府の戦略的決定だった。年金の民営化がすべてのレベルで失敗したことについては、今や疑いの余地はない。それはこのシステムの受益者に対する年金支払いを保証していない。国家が支援に駆けつけたのはそのためである。それは当初の目的として提示された、インフラ整備事業や生産的投資に資金提供する資本市場の形成にとって有益なものではなかったことが立証されている。そして社会保障の範囲が拡大すると期待していた人びとは、その誤りを認識しなければならない。そう考えていた人びとは以前の六〇%から今や四〇%になり、さらに低下する傾向にある。

(b)第二の意見はこうである。それは、破産の淵にある、あるいはビジネスから退出したがっている特定の企業の救済を覆い隠す作戦である。いまだ具体的証拠がないとしてもそれには可能性がある。国民資本である特定の企業は、自分たちが撤退を交渉する用意があるが、外国資本の企業は自らの問題を訴訟に持ち込もうとしていることを知らせようとしているように見える。政府の側は、AJFPは十四億三千五百万ドルの補償を主張し、国家は新しい国債を発行して――すなわち新しい債務の増加――支払いに応じると見積もりを立てている。

(c)第三の意見。政府は、民間基金方式の基金を予算に統合することを追求しようとしている。それらの基金を利用して、来る三年間のうちに三百八十三億五千八百万ドルに達する国家債務の支払いスケジュールに対処するためである。
 国家は民間年金を引き継ぎつつ、年間約四十一億ドルの収入(加入者支払い)を確保する。それは予算収入として使えるものであり、約三百億ドルに上る社会保障庁の投資基金(この基金の55%は国債に投資され、ただちに使えるものは10%だけ)を回復させる、と見積もられている。

(d)第四の意見。全国政府は、約四十の企業の株式パッケージを手に入れる。それはAJFPの投資基金の一部を構成しており、政府が企業の決定に介入することを可能にする。それは関係する株式のタイプに依存しており、当面この問題については明確ではない。

オルタナティブな
システムが必要

 今や、民間年金システムは持続不可能である。国家はそれを支えるためにますます多くの資金を移転することを余儀なくされてきた。無分別な再国有化に疑問を投げかけている人びとは、このシステムがすでに強制的な仕方で創設されたこと、そして国家が数十億ドルをAJFPに移転したことを忘れている。
 預託された基金は個々の加入者の個人財産だと言い張る人びとは、こうした基金が彼らによって有効に提供されていたなら、彼らはそれを勝手に処理しないということを忘れているようである。つまり、彼らはAJFPのカウンターに出向いて「私は私のカネがほしい」とは言えないのである。
 リベラル派やネオリベラル派は、この政治的決定に反対し、税の余剰を増やし、債務支払いに充てるために基金をひったくっていると非難している――それはむしろ明白なことなのだが。彼らは、自分たちが経済を冷し、金利を引き上げ、公共支出を削減するよう提案したとき、債務支払いに対処するという目的で税収余剰を増大させるためにそのようにしたことを忘れている。どこに違いがあるのか。それは、対価を支払うのが労働者や民衆諸階級であるならば結構なことだ、という彼らの観点によるのだ。しかしカネが今回のように金融セクターの金庫から持ち出されるのなら、それはダメだというのだ。
 債務の支払いには疑問が投げかけられている。どれもこれもみな隠されている。われわれが「債務を引き受け、支払う」という事実に焦点を当て債務そのものを分析しないかぎり、またわれわれが商業債務と金融債務を、そして何が正当なものであり何がそうでないかを区別しないかぎり、この政府もそれに替わる別の政府もできる限りカネを捜し求めることを余儀なくされる。なぜなら支払い日は支払い日だからである。債務は支払い不可能であり、現実的政策は、監査によって債務のどの部分がすでに支払われたものであり、どの部分を支払うべきでどの部分を支払うべきでないかを定義するまでモラトリアムを実施するということになる。
 われわれは、国内債務に対処して資金を提供しつつ、当面の年金の支払いを保障すると述べて、このプロジェクトを要約することができる。しかしそれは、将来の年金支払いと最近可決された年金のスライディング・スケール法の実現に関しては、疑問を残したままである。長期年金をどのように賄うのか。そしてとりわけ、もし労働者のかなりの部分が「ブラック・エコノミー」で雇用され続けるのであればどうなるのか。
 私の意見では、オルタナティブなシステムは次のようなことに基づくべきである。
(a)退職年齢に達したすべての人への全国共通の最低年金。
(b)年齢条件と勤労年数に適合したすべての人びとに、最終賃金の八二%の収入を保障する年金プラン。
(c)節約の余裕があり、追加的支出を望むすべての人びとに、国家は個人年金方式を運営することができる。
(d)全体としてのシステムは、現役・非現役の労働者の統制の下に置かれるべきである。
(e)AJFPの解散において、国家セクターで活動を続けることを願う同企業のすべての労働者の雇用を保障しなければならない。

▼エドゥアルド・ルチータはマルクス主義雑誌「カルデルノス・デル・スル」のディレクターで左翼エコノミストグループ(EDI)のメンバー。
(「インターナショナルビューポイント」09年1月号)


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