| 自治体病院民営化と公立病院改革ガイドライン かけはし2009.1.1号 |
地域を崩壊させる自治体病院潰し
許すな! すべての人に医療を |
次々に消える
自治体病院
今、全国の自治体病院が大きな岐路に立たされている。次々と姿を消す自治体病院。なぜこのような事態がつくりだされてしまったのだろうか。
三位一体改革による一方的な交付税削減により疲弊した地方自治体に対して、自治体財政健全化法という監視の網がかけられた。昨年九月三十日、総務省によって公表された全国自治体の連結実質赤字比率では、住民の命と健康を守る自治体病院の運営が多くの地方自治体で重い負担になっている現実が明らかになった。
朝日新聞の報道では、資金不足に陥った百五十六公営企業のうち三分の一である五十三が病院事業である。今後全国の自治体では「財政再生団体」転落を回避するために、自治体病院運営の見直しが強いられることは確実である。
すでに自治体病院切り捨てのマニュアルとして昨年十二月「公立病院改革ガイドライン」が総務省から発表されている。実際、銚子市は財政難を理由に地域医療を支えてきた市民病院をあっけなく閉鎖した。銚子市民病院の閉鎖の影響は、銚子市を超えて近隣自治体にも広がっている。なぜなら行き場を失った患者が、医療を求めて、残った周辺自治体の病院に集中するからである。銚子市に隣接する旭市の旭中央病院には、銚子市からの救急搬送が増加し危機的状況になっている。
地方自治体本来の使命は、地域住民の福祉を向上させることであり財政はそのための手段でしかない。ところがこの間、手段であるはずの財政の均衡を、住民の福祉の向上より優先する逆転した地方自治のあり方が国の方針により誘導されてきたのである。
なぜ財政危機
が広がったか
自治体財政健全化法に基づく総務省の試算によると、〇七年度の決算で北海道夕張市、赤平市、長野県大滝村の三市町村が「破たん」である「財政再生基準」以上、「黄色信号」である「早期健全化基準以上」には全国四十市町村が該当した。なぜこのような地方自治体の財政危機が広まったのだろうか。
総務省やマスコミは、地方自治体の放漫経営に原因があるかのような主張を繰り返しているが、現在の地方自治体の財政危機は、九〇年代バブル崩壊後、経済刺激策として地方単独の公共事業を奨励したことが原因である。この公共事業の経費は後々には地方交付税で補てんされることになっていた。ところが国は「三位一体の改革」により地方交付税を一方的に削減した。これが今日の地方自治体の二百兆円におよぶ累積債務の原因となったのである。
自治を破壊した
「三位一体改革」
「三位一体改革」がもたらしたのは、ナショナル・ミニマムの破壊、地方間格差の著しい拡大である。〇一年度と比較すると〇七年度、地方交付税は六・二兆円減額されている。財政力の弱い自治体は、住民サービスを削減せざるを得なくなっている。
たとえば公立保育園の運営には、地方交付税による財政措置が行われていたが〇四年度から一般財源化された。以降全国で公立保育園の運営を民営化する動きが広がった。このようにこの間、国が進めてきたのは財政的に脆弱な地方自治体が基本的人権を支える公共サービスの継続を不可能にするような政策である。
国は地方自治体を財政的に追い詰め、その役割を根本的に変質させようとしてきた。〇五年三月に発表された「新地方行革指針」では、これからの地方自治体は「『新しい公共空間』を形成するための戦略本部」として位置付けられている。「新しい公共空間」では、公共サービスは住民の権利、行政の義務ではなく、「住民の負担と選択」とされている。これは、たとえば公共サービスが劣悪な自治体をつくったのも、そのような首長を選んだ選挙民の選択という究極の自己責任の思想である。
そして国による地方切り捨ての総仕上げとして〇七年十二月に登場したのが、「自治体財政健全化法」である。「自治体財政健全化法」は、様々な財政指標を用いて、痛めつけられた地方財政をチェックし、地域住民の要求よりも財政を優先させる地方自治を踏みにじる法律である。
自治体が行っている様々な事業の決算を自治体決算に連結させる「自治体財政健全化法」は、自治体が不採算だが住民の命と健康を守るために行う事業を縮小させる。なぜなら自治体病院や国保運営の赤字が自治体の赤字に連結され、財政基盤が脆弱な自治体が「破たん」してしまう可能性があるからである。
20年前から始
まる医療崩壊
皆保険の国で無保険の子どもが三万三千人。首都東京で七施設から緊急搬送を断られ脳出血を起こした妊婦が死亡。医療をめぐるこのような状況は、まさに医療崩壊としか言いようがない。高すぎる保険料による皆保険制度の空洞化と医師不足。医療の根幹を揺るがす二つの問題の種は、二十年以上前にまかれていた。
八四年、国は国民健康保険の国庫負担率を四五%から三八・五%に引き下げた。以降各自治体の国保財政は、保険料の値上げと徴収率低下の悪循環に陥り、今日の国保崩壊という事態に陥っていった。
そもそも国民健康保険は、所得の大きさと関係なく世帯に対してかけられる世帯割、世帯人数に応じてかけられる均等割りなど逆進性が強い制度である。それにもかかわらず国が財政的責任を放棄し地方自治体に運営を押し付ければ、国保の運営が破たんするのは容易に予想できたはずである。
現在、保険証を取り上げられた無保険世帯が三十三万世帯にもなり、さらに昨年四月に導入された「後期高齢者医療制度」では、保険料を払いきれず滞納する人が増え、このままでは今年四月に保険証を交付されない高齢者が十数万人にのぼることが予想されている。すでに国民皆保険制度は空洞化している。
八六年、国は医師数が増加すれば医療費が増加すると、医学部定員を一〇%以上削減した。現在、産科、小児科、麻酔科等で医師不足が危機的なレベルになっている。しかし日本では、これら特定診療科の医師のみが不足しているのではない。すべての診療科で医師が不足している。国は医師の地域的偏在を主張しているが、墨東病院事件は最も医師が充足しているはずの東京都でおこっている。
〇六年にWHOが発表した人口十万人当たりの医師数を比較すると日本は百九十八人。これは調査対象百九十二カ国中六十三位の成績である。OECD諸国の平均医師数と比較すると日本の医師数は実に十四万人も不足している。人口十万人当たりの医師数はOECD諸国平均が三百十人、トップクラスの東京都でさえ二百六十九人なのである。
絶対的医師不足のなか、〇四年度から開始された新卒後研修制度が決定的になった。医師不足に陥った大学病院が自治体病院から医師を引き上げた。多くの自治体病院は後任医師を採用できず診療科の閉鎖が相次ぎ、自治体病院の収支がさらに悪化する悪循環に入った。
医師一人を養成するのには十年かかる。今医学部の定員を増やしても、現場の医師が増えるのは十年後になる。医学部定員増とともに、病院勤務医の労働条件の抜本的待遇改善が急務である。
診療基盤を破壊
する報酬引き下げ
病院の「売上」を決定する診療報酬が切り下げられている。二年に一度見直される診療報酬は、〇二年度から四回連続引き下げられている。その結果九六年度と比較すると七・一六%もの削減になっている。
命にかかわる医療は、「デフレだから安く提供しましょう」などということが通用しない。また、医療の進歩・高度化はさらなる労働量の増大を意味する。この点が技術革新により合理化が進む一般産業とは異なる。しかしこの十年、多くの病院は診療報酬の切り下げにより医療環境の変化に合わせて人員を増加するどころか、医療労働者の労働条件切り下げなどにより乗り切るしかなかった。
したがって医療のなかでもとりわけ不採算な部門に真っ先に矛盾が現れた。不採算な医療部門とは、昼夜を問わず多くの人員を必要とする救急部門であり、常に緊急事態に備えなければならない産科、検査・薬剤などで「売り上げ」を伸ばせない小児科である。救急患者の搬送を受け入れられないことがニュースになっているが、〇五年からの二年間、全国で二次救急医療病院が百七十五施設も減っている。また都市部でも分娩を扱う施設は激減している。東京都大田区では年間平均五千五百件の分娩のうち約三分の一を担っていた公社荏原病院と社会保険庁病院が医師不足により、受け入れを中止する事態になった。人口六十五万の足立区で分娩を扱う施設は十を切っている。都内でもお産難民が発生する事態になっている。
国・財界は日本の医療費が高いと喧伝しているが、これは嘘である。日本の医療費は高くはない。むしろ安すぎるのである。〇四年のOECD加盟国の平均医療費はGDPの八・九%である。
日本はわずか三十一兆円、GDPの八%でしかない。日本の医療の特徴は、医療費が安いことと患者負担が高いことにある。多くの国では窓口負担などはない。さらに昨年四月から、「後期高齢者医療制度」を導入し、七十五歳以上の人からも一律保険料を徴収し、医療の内容を制限し、保険料が払えない高齢者から保険証を取り上げる暴挙を行っている。個人負担が異常に高い原因は、国と企業が応分の負担をしていないからである。国は今すぐ、毎年社会保障費二千二百億円抑制政策を撤回するべきである。
安すぎる医療費が病院を不採算に陥れた。〇七年の調査では病院の七割が赤字経営に陥っている。現状では病院経営を安定させるには、差額ベッド代など医療外収入に頼るしかない。このままでは将来、法外な差額ベッド料などを取る株式会社が経営する病院しか生き残れず、多額の自己負担が可能な人のみが入院治療を受けることができる悪夢のような社会がやってくるかもしれない。
経営効率のみの
「ガイドライン」
地方分権の名を借りた「三位一体改革」で地方自治体が疲弊し、医療費抑制政策により病院経営が不採算化する中で、地域医療を担ってきた自治体病院を設立自治体が支えきれなくなる事態が発生し、〇四年以降四十九の自治体病院が民間移譲や廃院となっている。国は「財政再生団体」転落への脅しをかけながら、〇七年十二月に発表した「公立病院改革ガイドライン」により自治体病院の再編を地方自治体に強制している。
「公立病院改革ガイドライン」は自治体病院が設立された経緯を全く無視し、経営効率のみで自治体病院を「再編・ネットワーク化」の名のもと潰そうとしている。総務省が〇八年度中に「公立病院改革ガイドライン」に基づき自治体病院の経営見直しを行うことを全国の自治体に強制した結果、現在全国で四十以上の自治体病院が統廃合・民営化の危機にさらされている。
自治体病院は、医療のなかでも不採算な救急、僻地医療などを担っていた。自治体病院の統廃合・民営化は、地域医療を崩壊させ、地域崩壊を決定的にする。
自治体病院の統廃合・民営化は、運営・管理を民間に委託する「指定管理者」、自治体が別法人を設立する「地方独立行政法人」など九九年以降、法的整備が行われてきた公共サービスを民営化の手法が駆使されている。
自治体病院の統廃合・民営化は、地域医療だけではなく雇用も破壊する。自治体が支えきれない病院をなぜ民間が運営できるのか。それは患者負担を引き上げ不採算部門を切り捨てる一方で、労働条件を切り下げるからである。
昨年四月「指定管理者」という手法を使って民間委託された富山県氷見市の氷見市民病院では、一般職員の給与が四%一律削減された。そして組合役員七人が解雇された。二十三年前の国鉄分割民営化と同じことが行われたのである。
しかしこの氷見市の行った不当労働行為も、全国で進められている自治体病院の運営見直しも社会的反撃を受けずに進行している。「指定管理者」や「地方独立行政法人」といった手法は三年ないし五年毎に、事業の継続も含めて見直すことになっている。これは今後三年ないし五年毎に地域医療と雇用を破壊する攻撃がかけられということである。
現在でも、調理・ビル管理・警備・清掃など自治体病院現業部門で働く労働者はほとんどが委託であり、労働条件は劣悪である。自治体病院の民営化はこれら労働者の労働条件をさらに不安定で劣悪なものにする。自治体病院の民営化とは、行政が積極的にワーキングプアを生みだすことである。
住民と労働者の
連帯した闘いへ
現在、自治労も自治労連も公務員バッシングとセットで展開される地域医療と雇用を破壊する自治体病院潰しに対して有効な反撃を組織できずにいる。自治体病院労働運動の課題は三点に集約される。
一点目は、地域住民との連帯をつくりだすことである。自治体病院を存続、充実させてほしいという地域住民の要求と病院労働者の要求は何ら対立するものではない。二点目は、自治体病院で働く民間委託労働者を組織することである。身近に働く委託労働者の雇用破壊を認めてしまうような運動が社会的信頼を得られるわけがない。三点目は、公共サービス民営化に反対するさまざまな運動と結びつくことである。
国鉄、郵政に始まり、保育園、図書館、自治体窓口業務、学校給食などの公共サービスの現場が民営化されてきたし、現に民営化の危機に直面している。さまざまな運動の蓄積から学び連帯をつくりだすなかで、基本的人権を支える公共サービス民営化を許さない広範な運動をつくり出さなければならない。
医療は人権であり、自治体病院潰しは、憲法二十五条に明記されている生存権の侵害である。すべての人に医療を! 地域を崩壊させ医療難民を生みだす自治体病院潰しを許すな!(矢野 薫)
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