かけはし重要記事

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154通常国会と小泉内閣の危機           かけはし2002.8.12号より

戦争国家体制形成にストップを

有事3法案を臨時国会で廃案に

 七月三十一日、百九十二日間に及んだ第一五四通常国会が閉会した。この国会での最大の特徴は、「聖域なき構造改革」や「自民党の破壊者」などを標榜して、昨年四月の成立以来圧倒的な「国民的人気」を保持し続けてきた小泉内閣の統治能力が劇的なまでに衰退したことである。自民党内の結集力はバラバラになり、遠心化傾向が急速に発展していった。最大派閥の橋本派や江藤・亀井派などは、小泉政権にとっての「党内野党」としての色合いを深めていった。
 その結果、政府提出法案百四本のうち成立率は八二・四%と、この十年間で二番目の低率である。とりわけ小泉内閣が最重要法案としていた、有事法制3法案、郵政関連4法案、個人情報保護法案、医療改悪法案の四法案のうち、有事3法案と個人情報保護法案が成立せず「継続審議」となったことは内閣にとっての打撃であり、政権のダッチロール現象を促進していった。
 そればかりではない。国会閉会後も、八月五日に運用が開始される予定の住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)への批判が相次ぎ、福島県矢祭町を皮切りに、東京都杉並区、国分寺市など「離脱」を表明する自治体が現れていることも、小泉内閣の危機を促進する大きな要因となる。
 小泉内閣の政策遂行能力の混乱をもたらした自民党の遠心化の要因は、言うまでもなく出口が見いだせない経済・金融危機の中で、倒産と大失業・雇用不安の重圧が、新自由主義的な「構造改革」路線の徹底的な貫徹に対する与党内部からの不安と反発を加速させたことであった。鈴木宗男、加藤紘一、田中真紀子などのスキャンダルや、防衛庁の情報公開請求者リスト問題が議事運営のスケジュールを大きく遅らせたことが、それに追い討ちをかけた。
 「抵抗勢力をつぶす」とぶちあげ、マスコミのあおり立てた「国民的人気」に依拠して支配階級の「懸案」たる新自由主義的既成緩和路線を徹底的に推進しようとしていた小泉内閣は、旧来の政官財ゆ着の利益配分構造にすがりつく保守的「抵抗勢力」との妥協を余儀なくされることになった。その混乱が、有事法制3法案に代表されるアメリカの「グローバル戦争」戦略に対応した「戦争ができる国家体制」=憲法改悪へのテンポにも影響を与えざるをえなかったのである。
 われわれはここで改めて、小泉の「聖域なき構造改革」と新しい国家主義の路線が、旧来の自民党政治支配体制との関係で、どのような転換を意味しているのかを確認しておかなければならない。
 戦後の自民党長期支配体制は、高度経済成長に支えられた大企業の労使関係の安定化と労働者の企業主義的統合(年功賃金と終身雇用制)、ならびに官僚の主導の下に経済成長の成果を地域の公共投資に配分する「日本型福祉国家」体制によって支えられていた。政官財ゆ着の安定的支配構造はこのように形成されていた。
 一九七〇年代の二度のオイルショックと、世界的な経済成長のサイクルの終焉でゆらぎ始めたこの自民党支配体制は、一九八〇年代後半のバブル経済とその崩壊に続く十年間の長期的な経済危機を通じて決定的な袋小路に突入した。官主導の政官財もたれあい体制の弊害が呼号され、金融機関の不良債権の処理の緊急性が強調される中で、資本のグローバリゼーションに対応した規制緩和と「自助努力」による新自由主義的な市場絶対主義的競争社会への「改革」が至上命題とされた。
 ソ連・東欧スターリニスト官僚支配体制の崩壊とアメリカの一元的な軍事・政治的覇権の確立が、このグローバル資本主義の確立に対応していた。それは、アメリカ帝国主義の支配を支える世界規模の共同軍事作戦への日本の参画を強制し、戦後の「一国平和主義」的憲法体制の清算と「不確定な危機」に備えた新しい国家主義の形成を促した。それは強力な国家的イニシアティブを日本の支配階級に突きつけるものであった。
 小泉内閣の「聖域なき構造改革」と憲法改悪の路線は、そうしたグローバル資本主義の要請を体現していた。自民党支配体制は当面する深刻な財政危機を労働者・市民への犠牲の強要によって「解決」し、米軍事戦略に対応する危機対処的な「戦争ができる国家体制」を作り上げることについては基本的に一致しつつも、旧来の利益配分構造解体をめぐって、深刻な対立と矛盾に直面しているのである。
 それは、政官財抱合の日本的ケインズ主義体制の崩壊に代わる、新自由主義的グローバリゼーションに対応した新たな統治体制をどのように築き上げるのかをめぐる対立であると言わなければならない。そしてこの点で、自由党や民主党の若手グループは、明らかにグローバル化した資本と都市の上層市民との利害を表現する形で、この新自由主義的「構造改革」の最も意識的な代表者となっている。
 小泉の路線は、郵政民営化、特殊法人の解体をめぐって自民党の「抵抗勢力」的多数派と衝突し、妥協を余儀なくされている。小泉の掲げる首相公選制や、法案提出における「党の事前承認制の廃止」を通じた首相権限の強化・集中という強権化の道も自民党内からの抵抗に直面している。
 しかしわれわれは、新たな国家的支配構造の確立をめざすこの「対立」において、小泉が「敗北」したと断ずることはできない。旧来の企業主義的労使関係と利益配分的支配構造を通じた相対的に安定した政治支配は、すでに過去のものとなっているのであり、日本資本主義はグローバル資本主義の下での競争戦をかけて、「自己責任」の弱肉強食社会における強権的国家統合の道を選択せざるをえないからである。
 それは民主党などを巻き込んだ新たな政党再編を不可避とせざるをえない。そしてわれわれは、この新自由主義的グローバリゼーションと強権的国家主義の支配構造に対する労働者・市民の抵抗を、独立した階級的立場から新たな民主主義的社会主義への方向に組織するオルタナティブな左翼勢力を準備していかなければならない。
 われわれは当面、今秋の臨時国会における有事法制3法案の成立を絶対に阻止するために全力を上げようとする。
 一五四通常国会で、「継続審議」という形ではあれ有事法制3法案の成立をひとまず阻んだことは、反対運動にとっての重要な成果だと言わなければならない。小泉政権がもくろんでいた有事法制3法案の成立が挫折したことは、法案の極度のずさんさといった「敵失」によるところが大きいとことは確かである。
 しかし同時に、陸海空港湾労組二十団体などを軸にした四月から六月にかけた有事法制3法案反対運動の高揚が確実に世論の動向に影響を与えたこと、「九条改憲反対」の根強い平和主義的危機意識が各地で着実に自らを表現したこと、アフガニスタンへの「報復戦争」やパレスチナの民衆虐殺や、ブッシュのごう慢な「単独行動主義」を批判する運動が多様な形で作りだされ、「戦争国家体制づくり」に反対する機運が着実にその基盤を広げていることを過小評価してはならない。そのことは、たとえば「有事法制の必要性」を承認する「連合」指導部が六月の中央委員会で「廃案」の態度を打ち出したことに示されている。
 政府・与党は、「国民保護法制」にかかわる整備の方向を打ち出した上で有事法制3法案を秋の臨時国会で成立する方向を改めて確認している。この際、テロをふくむ包括的な「危機対処法制」の必要性を強調している民主党を法案協議に巻き込んでいくことが、成立を左右する大きな要因となっていくであろう。
 われわれは改めて秋に向けて体制を立て直し、臨時国会での成立を阻止する準備を急がなければならない。有事法制3法案が「国民の権利と自由」を侵害するものであることはますます明らかになっている。七月二十四日の衆院有事法制特別委員会で、福田官房長官は「武力攻撃事態における憲法で保障している国民の自由と権利について」という政府見解を発表した。
 「政府見解」は次のように述べている。
 「憲法で保障している基本的人権も、公共の福祉のために必要な場合には、合理的な限度において制約が加えられることがあり得るものと解される」「具体的な対処措置がすべては定まっていない現段階において、武力攻撃事態において制約される自由・権利と武力攻撃事態においても制約されない自由・権利を確定的に区分することは困難である」「憲法十九条の保障する思想及び良心の自由、憲法二十条の保障する信教の自由のうち信仰の自由については、それらが内心の自由という場面にとどまる限り絶対的な保障であると解している。しかし、思想、信仰等に基づき、又はこれらに伴い、外部的な行為がなされた場合には、それらの行為もそれ自体としては原則として自由ではあるものの、絶対的なものとは言えず、公共の福祉により制約を受けることはあり得る」。
 つまりこれは事実上、「思想・良心の自由」「信仰の自由」の無制約な制限の主張なのである。われわれはますます明確になった有事法制3法案の問題点をさらに多くの人びとに訴え、反対運動を拡大していかなければならない。
 同時に、有事法制を廃案にする闘いの中で、ブッシュのイラクへの全面戦争と小泉政権の加担・協力を阻止する闘いを進めていく必要がある。平和・人権・民主主義を破壊するブッシュの「対テロ」戦争と有事法案との対決に全力を上げよう。    (平井純一)

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