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                          かけはし2002.9.2号より

対イラク全面戦争に突き進む米ブッシュ政権の「国防報告」


 アメリカのブッシュ政権は、アフガニスタンやフィリピンなどでいつ終わるともしれない「対テロ戦争」を継続するとともに、イラクのサダム・フセイン政権の打倒に焦点を絞った大規模な攻撃を遂行することを繰り返し公言している。北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と決めつけた今年一月のブッシュ「一般教書演説」を皮切りに、そうした対イラク戦争のキャンペーンはエスカレートし続けている。
 八月十五日に米国防総省が大統領と議会に提出した「02年度国防報告」が公表された。それは、昨年十月に出された「四年ごとの国防政策見直し」(QDR)や、今年二月に議会に提出された「核戦力態勢の見直し」(NPR)などを総合したものであり、ブッシュ政権の下でアメリカ帝国主義が進めているきわめて攻撃的な軍事戦略の集大成という性格を持っている。
 「国防報告」は、中国を想定して「地域的な大国が、米国の利益にとって重要な地域の安定を脅かす能力を開発している。とりわけアジアは、大規模な軍事競争が起きそうな地域として徐々に出現しつつある」と述べ、米軍事戦略の長期的な目標が「中国の脅威」への対抗にあることを明らかにした上で、イラク、イラン、北朝鮮が「長距離ミサイルで武装し、核兵器や生物・化学兵器の取得を目指すか、入手しつつある」として当面の打撃対象を特定している。
 そしてこれら「大量殺戮兵器」を備えた「悪の枢軸」を叩くためには、アフガン攻撃の教訓として「時には先制攻撃が必要」だと述べる。さらに、この戦争においては「敵は、米国が可能なあらゆる手段を行使すると理解すべきだ」と脅しをかけている。「可能なあらゆる手段」とは、言うまでもなく「核兵器を含む」ということだ。すなわち米「国防報告」は、「悪の枢軸」に対する核先制攻撃の可能性をおおっぴらに打ち出したのである。
 もちろん当面の戦争においてアメリカ帝国主義は、あらゆる形態の「通常」兵器を使用するだろう。
 「対テロ戦争で勝利を収めるには、敵に常に圧力をかけ、休む間を与えてはならない。ハイテク兵器は、旧来の方法に完全には取って代わらなかった。特殊部隊の偵察を受けて、空爆の効果は劇的に増した」。「テロが二十一世紀唯一の脅威と信じる過ちを犯してはならない。次の脅威はミサイルか、あるいはサイバー攻撃かもしれない。将来的に、地域大国が通常兵器を使用して米国や同盟諸国に挑戦してくる可能性は排除できない。軍は次の戦争に備えなければならない」。
 米「国防報告」は、自らの「国益」に合わせたグローバルな秩序を形成し、維持するためにあらゆる戦争に備えなければならないことを強調する。それは、以前のどの時代にも増して、地球上のどの地域においてもアメリカが国家政策としての戦争に訴える可能性を拡大しているのである。「敵」を徹底的にせん滅し、「敵国」の政権を取り替えるか、アメリカの戦略目的を果たすまで占領するなどということが公然と語られている。「ボーダレス戦争」は現実のものになってしまった。
 こうした新しい軍事戦略にとって必要な「軍改革」として「国防報告」は六つの項目を挙げている。すなわち@本土・同盟国の不可欠な作戦基地の防衛および大量破壊兵器とその運搬手段の保有阻止A遠隔地への兵力展開と維持B監視、追跡、迅速な攻撃による敵の聖域排除C情報技術の向上と各軍の連携ネットワークD情報システムの防御E宇宙への展開能力の維持と防御――である。
 ブッシュ政権は、こうした「戦争マシーン」をフル稼働させている。AP通信が七月十五日に報道したところによれば、米兵器産業界はレーザー誘導爆弾、巡航ミサイル・トマホーク、衛星による全地球測位システム(GPS)を使った精密誘導爆弾などの大増産態勢に入っている。ある軍需工場では、新たに三交代制が導入された。八月一日、米上院は前年度比三四四億ドル増という冷戦後最大の増加となった総額三五五四億ドル(四十二兆三千億円)の03年度国防予算案を可決した。実戦部隊が撤退していたグアム島にも、爆撃機・戦闘機部隊が再配備されることになった。アメリカは総力で対イラク戦争に向かって突進しているのだ。
 ブッシュ政権がもくろんでいるサダム・フセイン政権の転覆をめざした対イラク全面戦争は、サダムの殺害のための特殊工作部隊の送り込み、イラク内の反サダム派の組織化から大量殺人兵器の使用をふくめた大規模空爆、地上兵力二十五万人を投入した大規模侵攻作戦と首都バグダッドの占領にいたるまで、あらゆる範囲に至っている。
 イラクに対する全面作戦は「テロ支援」への報復などとは何の関係もない。イラクが核兵器開発計画を持ち、生物化学兵器をはじめとする大量破壊兵器を備蓄しているというのは、全くの口実にすぎない。サダム・フセインがイラク内クルド人の闘争を弾圧するために化学兵器を使用して大虐殺を行ったのは確かであり、われわれはこうしたサダムの残虐な行為を許してはならない。しかし、核兵器や化学兵器をはじめとする大量破壊兵器を膨大に保有し、現にそれをアフガニスタン戦争でも使用しているのはアメリカなのであって、ブッシュの主張には何の正統性も存在しない。
 そしてサダム以上に、クルド人への弾圧・抹殺政策を系統的に行ってきたのはアメリカの同盟国であるトルコなのである。ブッシュ政権は、サダム政権が大量破壊兵器の「査察」に応じても戦争をやめるつもりはない。「査察問題と対イラク攻撃の問題は関係ない」とまで米政府高官は断言しているのだ。
 一九九一年の湾岸戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾は、現在にいたるまで女性、子どもをはじめとするイラクの一般民衆の間にガン、白血病などを発生させ、数十万人の生命を奪い続けている。イラクに対する経済封鎖は、民衆の被害を致命的に増幅させている。殺人者はまず何よりも歴代のアメリカ支配階級なのであるということをはっきりさせなければならない。
 ブッシュこそ国際法や国際人道法を無視している「ならず者」である。アメリカは対イラク戦争において、国連決議や国際法・国際人道法の枠組みにはまったくとらわれないことを宣言している。アメリカ人を国際刑事裁判所(ICC)に引き渡さないことを求めてICC設立条約に反対するばかりでなく、ICC設立条約を批准しようとする諸国に援助停止の圧力をかけているブッシュ政権の姿に、その本質がはっきりと現れている。
 アフガニスタン戦争において成立した「対テロ国際包囲網」は、イラクへの攻撃に対しては完全に破綻している。イスラム諸国がこぞってイラク侵略戦争に反対しているだけではなく、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国も戦争への「不参加」を表明しており、最も忠実な同盟国であるイギリスでも、与党の労働党の間から反対の声が噴出している。イギリスの世論調査によれば対イラク参戦を支持しないという意見が七割近くを占めるようになっている。
 「つねにアメリカともにある」と述べ、ブッシュへの追従姿勢をあらわにしている小泉首相は、今年二月のブッシュ訪日にあたって、米政府当局者が対イラク攻撃の意図を明らかにした際にそれを「了承」したとされている。しかし、イラク攻撃に「慎重」な態度を取るようブッシュを「説得」することを、中曾根・宮沢両元首相が小泉に依頼したと報じられているように、日本政府・与党の間にも対イラク戦争の発動を全面的に支持することへの動揺が広がっている。アメリカ本国でも、ブッシュが脇目もふらずに対イラク全面戦争に突進することへの批判が拡大している。
 しかしアメリカ支配層や主流派メディアの間での「批判」とは、サダム・フセイン体制を取り除くことの必要性自体については「合意」した上で、国連決議や同盟国の支持・参戦をできるだけ取り付けよ、という主張がほとんどなのである。ブッシュ政権は、たとえ「国連決議」の体裁をまとうことができず、同盟国の全面的な支持・参戦の確約を取り付けられなくても、戦争を決断する可能性が大きい。後は、時期の問題であり、もっともらしい「口実」をいかにデッチ上げるかという問題なのである。
 ブッシュ政権にとって「9・11」一周年は、対イラク戦争に向けて「挙国一致」の国民世論を動員する舞台となるだろう。「9・11」が解き放った「終わりなき戦争」の力学は、その勢いを増している。八月二十七日、二十八日のアーミテージ米国務副長官の来日と日米の「戦略対話」、そして九月に予定されている小泉訪米と日米首脳会談は、「継続審議」に終わった有事法制3法案成立に向けた態勢立て直しの場であるとともに、対イラク戦争や東アジア情勢を見据えた日米軍事協力を具体化していくために計画されている。
 小泉政権は、ブッシュが対イラク戦争を発動する決意を明らかにした時に、「支持」する以外の選択を持ちえない。それはまたテロ対策特措法の強引な拡大解釈や新法の策定、有事法制3法案成立のための「国際的圧力」として最大限に利用されるだろう。
 したがってわれわれは、この秋、「国民保護法制」とセットで強行される有事法制3法案成立阻止の闘いを繰り広げるとともに、ブッシュの対イラク侵略戦争、シャロンの対パレスチナ戦争に反対する闘いに全力を上げなければならない。東京では「テロにも報復戦争にも反対! 市民緊急行動」が呼びかけている「9・11」一周年の反戦デモ(九月十一日午後六時半、社会文化会館前集合)、九月十六日の「アメリカのイラク攻撃と小泉政権の有事法づくりを許すな! 9・16討論集会」(主催:日本の参戦を許さない!実行委員会、午後一時半、文京区民センター)が開催される。グローバル戦争と「戦争国家体制づくり」に反対する運動を、全国各地で発展させよう。(8月26日) (平井純一)  

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