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「海賊」対策は派兵恒常化の口実            かけはし2008.12.1号

ソマリア沖派兵特措法案を作るな

自民・民主の公然たる連携プレー
「対テロ」戦争への本格的参戦めざし
「集団的自衛権」行使の既成事実作り


次期通常国会に
法案提出を予定


 麻生政権と自民党は、アフリカ・ソマリア沖で頻発する「海賊」対策を名目に海上自衛隊の護衛艦などを派遣して、民間の輸送船舶を守る特別措置法案を制定する方向で検討に入ったと報じられている。麻生首相が十一月十八日に中谷元・元防衛庁長官らとの会談で「海賊」対策の法整備を急ぐ方針を確認した、というのだ。
 特措法案は@ソマリア沖を航行するタンカーなどを護衛するA「海賊船」を発見した場合、停戦を求め、被害を未然に防ぐB「海賊船」から攻撃を受ければ、正当防衛に必要な武力を行使する、という内容で日本船だけではなく外国籍船をも護衛の対象とし、P3C対潜哨戒機による洋上監視も選択肢に上がっているとされる(「日経新聞」11月19日)。さらに十一月二十日に行われた自民党、民主党の議員などでつくる「新世紀の安全保障を確立する若手議員の会」の役員会でも、海上自衛隊艦船などを派遣する特措法案を、議員立法で次期通常国会に提出する方針を確認した(11月21日「朝日」)。

「若手議員の会」
のねらいは何か

 「新世紀の安全保障を確立する若手議員の会」は、「集団的自衛権」行使容認や派兵恒久法の制定を主張する「超党派的」若手防衛族の議員グループであり、二つのアーミテージ報告に沿って米国のグローバル軍事戦略に自衛隊をその忠実な担い手として組み込むために活動してきた。安倍・元首相、石破・前防衛相、浜田防衛相、中川昭一財務・金融担当相や民主党の前原・前代表、長島昭久衆院議員などがその代表的人格である。
 実際、洋上給油継続法案に関する十月十七日の衆院テロ対策特別委員会の審議で、「ソマリア沖での『海賊』活動防止に対する海上自衛隊の貢献」を求めたのは民主党の長島であり、それに呼応して麻生首相は「『海賊』行為は新たな脅威になりつつあるので法制上どのようなものがあるか検討したい」と述べた。すなわち、「ソマリア沖海上自衛隊派兵特措法案」自身、「若手議員の会」をベースにした自民党と民主党の「出来レース」という性格を色濃く持っている。前原、長島ら民主党の防衛族は、自民党と民主党とのアメリカのグローバル「対テロ」戦争戦略に沿って外交・防衛政策を一体化させようとしており、今回の「ソマリア沖自衛隊派兵特措法案」は、「解散・総選挙」をめぐる駆け引きの材料となった洋上給油継続法案での政府・自民党と小沢・民主党との亀裂を修復させようという思惑もからんでいると判断される。
 この「ソマリア沖派兵特措法案」は、外国船籍の輸送船を、海上自衛隊がソマリア沖にすでに展開している米英独ロやインドなどの軍艦と共同で防衛しようとする中身を含んでおり、明らかにそれは「集団的自衛権」の行使につながる。これに対して政府は「海賊は私的集団なので、外国籍船を守っても集団的自衛権行使にはあたらない」との詭弁を弄している。また「海賊」は機関銃やロケットによる先制攻撃をかけてくるので、「武器使用基準を緩和する必要がある」との立場を取っていると報じられている(「日経」前掲記事)。
 すなわち、いったんは「お蔵入り」した安倍内閣の下での「安保法制懇」による「集団的自衛権」容認論議を、この「ソマリア沖特措法」を通じ既成事実化して復活させ、派兵恒久法への道筋をつけるねらいが見て取れるのである。

漁民はなぜ「海
賊」になったか

 ソマリア沖の「海賊」活動はいま国際的に大きな関心をひいている。
 十一月十五日には、ソマリアの隣国にあるケニアの沖で、サウジアラビア国営石油会社のサウジ・アラムコの大型タンカー「シリウス・スター」(リベリア船籍)が「海賊」に乗っ取られるという事件が起きた。全長三百三十メートルという巨大タンカーすら「海賊」の攻撃対象になっているのだ。この事件に象徴されるように、ソマリア沖での「海賊」被害は今年になってすでに百二十件以上、三十五隻が乗っ取られ、六百人以上が「身代金」目的の人質になったとされる(国際海事機関ミトロプロス事務局長報告、11月20日)。
 国連安保理事会は今年六月に、ソマリア沖の「海賊」に武力行使をふくめた対応を各国に認める決議(決議1816)を採択した。十一月二十日の国連安保理でも「海賊事件の増加に深刻な懸念」を示すとともに、「ソマリアの平和と安定を脅かした個人や団体に対し、渡航禁止や資産凍結などの制裁を科す」ことを求める決議を全会一致で採択した。
 同日、紅海沿岸六カ国(エジプト、イエメン、サウジアラビア、スーダン、ジブチ、ヨルダン)はソマリア暫定政府の高官をふくめて「海賊」対策会議を開き、「あらゆる手段を検討する必要がある」としている。
 それではソマリア沖「海賊」とは、どのような存在なのか。「朝日新聞」11月15日付は、「海賊」の広報担当との電話取材記事を掲載した。「みんな漁師だった。政府が機能しなくなり、外国漁船が魚を取り尽くした。ごみも捨てる。我々も仕事を失ったので、昨年から海軍の代わりを始めた。海賊ではない。アフリカ一豊かなソマリアの海を守り、問題のある船を逮捕して罰金を取っている。ソマリア有志海兵隊(SVM)という名前もある」「ソマリアに軍を送る国は、米国であれ日本であれ間違っている。我々の海をもてあそぶな。すべての外国船が出ていくまで戦う」。これが「海賊」の「広報担当」の発言である。
 一方、「毎日新聞」11月18日付の報道は「海賊行為は元漁師らの『零細経営』だったが、この数年で分業化。周辺海域を熟知する元漁師らを頭脳役に、武装勢力が幅を利かすようになった」と報じ、「海賊」行為については「無政府状態のソマリア情勢を逆手に取った『ローリスク・ハイリターンの有力ビジネス』と化しているのが実情」と断定している。
 他方、米国政府は「海賊」が手に入れた「身代金」が「アルカイダ」系の、ソマリアにおけるイスラム武装勢力である「シャハブ」に流れているとして、「対テロ戦争」の観点からソマリア情勢を重視している。米国にとっては「不安定の孤」の西端にあたる東アフリカのソマリアが紅海の出口にあたるアデン湾を扼する戦略的位置を占めているため、中東戦略全体との関係から言っても重要なのである。

ソマリア内戦
と米国の介入

 一九九一年に始まったソマリアの内戦の中で、国連安保理決議に基づき一九九二年十二月には米軍を中心とする多国籍軍がソマリアに投入された。しかしこのソマリア内戦へのクリントン政権の介入は、米国にとって完全な失敗(「ブラックホーク・ダウン」)であり、一九九四年三月には米軍は逃げるようにソマリアから撤退する。
 その後、ソマリアは無政府状況となり二〇〇〇年八月にはジブチで「暫定政府」が成立したものの、暫定政府はソマリア国内において基盤を持たず、首都モガディシュを支配していたのは原理主義派の「イスラム法廷連合」だった。二〇〇六年十二月、エチオピア軍の軍事攻撃に支えられて「暫定政府」は首都モガディシュをふくむ中南部を制圧した。アフリカ連合(AU)はAUソマリア平和維持部隊(AMISOM)をソマリアに展開し、国連の承認を得ている。しかしモガディシュから退いた「イスラム法廷連合」は、エリトリアのアスマラで「ソマリア解放・再生会議」を開催し、「ソマリア再解放連盟」を結成した。内戦はさらに継続している。
 米ソ角逐の場となってきた「アフリカの角(つの)」に位置するソマリアは、米ソ冷戦の終焉の中で氏族間の紛争が拡大して全面的内戦に入り、人道的惨害が拡大していった。米国の軍事介入は、この内戦を終わらせることなく、混乱と住民にとっての悲劇を拡大するだけだった。
 ソマリアの内戦と人道的惨害、そして全国政府の長期にわたる崩壊は、まさに植民地支配とその後の無責任な介入の結果にほかならない。われわれはこのような歴史的経過を無視して、もっぱら海上輸送ルートの確保といった「国益主義」を掲げ、さらに「対テロ戦争」戦略への参画を「国際貢献」という美名の下に自衛隊派兵を押し進めることに断固として反対する。
 「海上交通の安全」という観点から「海賊」の取り締まりに従事しているイエメンの沿岸警備隊作戦局長も、自衛隊の派遣計画について「高い効果は期待できず必要ない」と断言している(「朝日」11月15日)。この発言が基本的には「イエメンへの財政援助」を求める立場からなされたものであったとしても、自衛隊の派兵にはいかなる効果も期待できないことは事実であろう。
 インド洋での海上自衛隊による給油作戦延長法案に反対すると共に、「ソマリア沖派兵特措法」にも反対しよう。(11月23日 純)


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