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全国ユニオン安部誠事務局長に聞く(上)        かけはし2008.9.15号

公正な働き方を! 今こそ派遣法の抜本改正をかちとろう

派遣対象業種の規制を焦点に労働者の側で法律を作る挑戦


 全国ユニオン事務局長の安部誠さんに、派遣法抜本改正運動の到達点と今後、反貧困運動との関わり、そして派遣最大手のグッドウイルの倒産とグッドウイルユニオンの闘い、マクドナルドとの闘いについて聞いた。(編集部)


院内集会で政党
への働きかけ

――派遣法抜本改正にむけた運動は今までどんなふうに行われましたか。

 最初に院内集会を行ったのは昨年の十月四日です。準備は三週間ぐらいで野党に集まってもらうということで始めた。グッドウイルなどの日雇い派遣問題が明らかになり、闘いがつくられていったので、議員の皆さんの関心も高かった。参院の与野党逆転を背景に、参院先議で派遣法の改正をやろうということと、その内容として原則として一九九九年の改悪以前に戻していくという方向をめざしていくことだった。
 全国ユニオンは二〇〇五年秋には、ほぼ掲げる内容は固まっていた。本来であれば去年の通常国会に派遣法の本当の改悪案が出るはずだった。連合も、連合としての案をつくらなければならないということで、対案をほぼ用意していた。私たちも連合内で、積極的に意見を言った。ところが政府側がエグゼンプシヨン一本にしぼらないと通らないということで派遣法の上程を先送りした。
 政府案は事前面接の解禁であるとか規制改革会議が言っているようなさらなる規制緩和の内容だった。私たちは、一昨年の秋の段階で今の三つの柱を確認していた。@専門型業務にしろA登録型は原則廃止Bマージン規制を行え。しかし政府が改悪案を出さなかったので、お蔵入りになっていた。
 その後、タイミングよく日雇い派遣などが、メディア、それも主要紙だけでなく、週刊プレイボーイ、週刊東洋経済などがとりわけ熱心に報道してくれたこともあって、社会問題化される波に乗れて、小さな集会など何回か行い、その中で。改悪阻止ではなく、法律を変えるということを世に問う形で始めた。
 昨年十月四日の一回目の院内集会では、私たちの案を示したことと、連合本部の長谷川総合労働局長に来てもらって、連合案を説明してもらった。社民党、共産党はワーキングプア問題もあり、抜本改正をしろと主張した。民主党も国民新党も何とかしなければと主張した。
 二回目が去年の十一月二十日。各党に派遣法の方向性を出してもらい、全労連、全労協にそれぞれの考え方を示してもらった。
 社民党、共産党は今はりっぱな案を持っているが、最初はどのように改正していくか案を持っていなかったのではないか。今まででいえば、労基法改悪反対、派遣法改革反対で、こちらが法律をつくるという発想がなかった。その点で、私たちは一年前からその準備に入っていた。野党や公明党からいろいろ問い合わせがあり、こちらから人を派遣して、学習会を行った。

各党から改正
案のたたき台

――公明党が途中から院内集会に来るようになった経過はどうだったのでしょうか。

 あの頃から自民党と公明党で温度差があることが見えてきた。特に貧困の問題について。十一月二十日の時には、自民党も含めて、全会派に参加を呼びかけた。だから、国会議員二十数人がきた。
 公明党の支持者は中小企業の経営者も多いけれど、下層の人も多いので、あまり無体なことをやると、ちょっとまずいということがあるのだろう。あと解散総選挙の中で、公明党の独自性を出したいということがある。公明党がおもしろいのは世代間の違いがあることだ。若い議員は与党ずれしていない。出て来る人は若い議員ばかりだ。
 二回目の院内集会で印象に残ったのは秋田の議員が「私は自衛隊に賛成でも反対でもないが、秋田の場合、高校出てもまともに就職できるところは自衛隊しかない。そうでもないと派遣です」と発言したことだ。
 割に地方の人は派遣の問題は都会の問題と思っているのではないか。しかし、実はハローワークの二階を使って派遣・請負会社が説明会をやっている。派遣募集の多い所は北海道、青森、秋田それから沖縄だ。貧困が深刻になっている所が派遣とか請負の供給源になっている。 
 第三回目が一月二十七日。各党それぞれのたたき台を持ってきてもらい、四回目の四月十七日に、法案要綱を出して貰うよう要請した。社民党と共産党が法案要綱を出した。民主党は最初の頃は威勢がよくて、衆院本会議が午後一時からあるのに、十二時半に来て「登録型は派遣じゃありません。あれは口入れ業でピンハネです」と言う議員もいた。それが偽りだとは思わないけれど、事態を軽く考えていたようにも思う。最初のうちは私たちの案や、連合案について原則的には賛成であると言った。ところが、年が明けてから変わってしまった。 
 一番の問題点は、登録型は二カ月以下は禁止としたことだ。また見なし雇用規定―違法派遣等の場合、派遣先と直接雇用関係があるとみなすこと―がない。なぜ案に入っていないかを七月二十五日の集会の時、山田議員に聞いたら「偽装請負や違法派遣であれば、派遣先に雇用されていると見なすという規定があるが、契約しているのは派遣会社とだ。だから法律を超えて派遣先に雇用させるのは無理だと衆院法制局にハネられた」と言っていた。
 この見解はちょっと前の厚労省のものだった。つまり、違法派遣や、偽装請負を、職業安定法44条(労働者供給業の禁止)や、労働基準法6条(中間搾取の排除)で対応するのでなく、無理やり派遣法の範疇で対応―例えば、偽装請負であっても、派遣業の許可を新たにとれば合法になるという解釈―するという考え方だ。
 社民党、共産党は参院法制局と話をしたがそんなことは言われず、するっと法案要綱の中に入れることができた。 

派遣法の問題点
は期間ではない

 松下プラズマの大阪高裁判決(注@)が出ているから、見なし規定については民主党も出すと思う。民主党は派遣法の問題を期間の問題と考えてしまったことが一番の問題だ。まず最初に手をつけなければならないのは業種規制だ。日雇いでなければまだましだという類推だ。 
 民主党案が出てから、何人かの民主党国会議員に「派遣というのはどういう業界が一番影響を受けるのか」と聞かれたので、「実は製造業よりも流通の方が影響が大きい」と答えたら、その議員は「そうすると業種規制が問題なんだ」とその本質が分かってくれた。 
 二カ月以下の禁止ということは本質的に問題だ。二カ月以下となると、膨大な雇用保険無加入者が再び生まれる。そこを私たちが民主党のとりまとめを行っている人に指摘したら、「だとすれば雇用保険を変えればいい」と返事がかえってきた。でも現実的にはそんなことはありえない。派遣法改正だけでなく、雇用保険法にも手をつけななければならない。  
 現行の雇用保険は、一年以上働くか(会社都合の場合は半年)、一年以上働く見込みのある人が対象になる。二カ月以下になると一般の雇用保険から疎外されると同時に、日雇い保険にも入れない。日雇い労働者は日々雇用もしくは三十日以下の契約で働く人のことだ。二カ月以下と言われると日雇い保険にも入れない。
 また、政府は一カ月以下を禁止と言っている。しかし、一カ月と一日契約として、日々スポット業務ということにすれば、日々転々と就労先を替えることも可能であり、日雇い派遣と同じだ。そこはきちんと常用が原則だとしなければならない。繰り返すが、雇用保険に入れないとすれば、制度として最初から欠陥があるということだ。
 七月二十五日に総評会館で集会をやった。定数百八十のところに、二百五十の資料を持っていったが足りなくなるほど、多くの関心を集めた。この日の一番の収穫は、民主党自身が「民主党案に固執しない、野党共闘を優先する」と言ったことだ。これは大きな前進だった。

秋葉原事件が
もたらした衝撃

 秋葉原事件の後に、自民党のPTなり舛添厚労相が「派遣は専門業務に限るべきだ。雇用は期間の定めのないのが原則だ」と発言した。理念的には自民党のPTが言っている方が民主党案を乗り越えているともいえる。民主党の中にもいろいろ意見がある。私たちの意見に賛成してくれる議員もいれば、日雇い派遣が必要だという議員もいる。しかし、世の中の圧力もあり、民主党は路線を変えざるをえなくなった。これが集会の成果だ。
 派遣法改正の問題を取り組んできたが、一気に加速したのは秋葉原事件後だった。それについてはじくじたるものがあるが。あの事件によって、舛添厚労相だけでなく、町村官房長官も言葉を失ってしまった。今までだったら、自己責任だとして終わっただろう。ま派遣法がすべての要因だとは言わないが、非正規の底抜けの雇用のあり方が絶望感を生んでいる。被疑者のメール「自分がもてない、これから四畳半で六十歳になっても安酒飲んでいるだろうな」。あれは単なる絶望ではなく、自分で酔っているようなところがある。つまり成功体験がない。彼がああいうふうになっていったのは、社会に出て以降だろう。名門校に入ってもペケだったというのは山ほどいるわけだから。

松下PDP判決
とラポール判決

――本人がブログに書いた言葉が反響をよんだことも大きいけれど、何十万件もアクセスがあり、彼の気持ちは分かるとか、俺もやってみたいとかのメッセージがあった。被疑者が特別の存在ではないことが衝撃を与えたのではないか。

 政府当局者にしても体制的危機を感じとったんだと思う。一九九九年の派遣法改悪は日雇い派遣すら合法にしてしまったという意味で、その政策を推進して立法化した連中も問題だけれど、十年近く問題点を知らなかった私たちも問題だった。一九九九年の派遣法反対運動を取り組んだけれどもこんなふうになるとは思わなかった。

――厚労省は八月二十六日、登録型派遣で一年以上働く労働者について、雇用期間の定めのない「常用型派遣」や正社員などに転換させることを、派遣元企業に努力義務として課す方針を固めた。骨子案は、派遣元は登録型派遣で働く人について、@常用型へ転換するか直接雇用するA常用型への転換を促すための教育訓練などを行うB派遣先に直接雇用される前提で一定期間働く「紹介予定派遣」に切り替える、のいずれかを実施することが求められる(朝日、8月27日付)。これについてどう考えますか。さらに、自動車などで大規模な生産調整に入っていて、派遣社員が次々に首にされている。法改正とともに、この現実との闘いをどうするかが問われている。この点についても、どうでしょうか。

 一つはさっきの秋葉原事件のことを言うと、六月末で切られるということがあったけど、彼の危惧は本当だったということだ。トヨタの九州も数千人規模で切ってしまうわけだから。第一には労働組合だと思うけれども、指加えて見ていてよいかということだ。私たちの言っている方向で派遣法が変わるとかなり大きな歯止めになる。
 派遣法の問題で忘れてはならないのは製造業の二〇〇九年二月問題だ。来年の二月末に三年の満期になる。三年――原則は一年、合理的な必要があれば三年も可――経ったら、労働者に対し、直接雇用を申し込まなければならない。当初、経営側は、クーリング期間という仕組みを使ってすり抜けようとしていた。
 どういうことかと言うと、三年間は派遣、その後クーリング期間を設ける。同じ会社に派遣で雇うとしても三カ月プラス一期もしくは四カ月あいだを開ければよい。そこのことをクーリング期間という。三年派遣して三カ月と一日もしくは四カ月、直接雇用(期間工)にして、また派遣に戻すというやり方があるよと。でもこれは昨年十一月の名古屋高裁におけるラポール判決(注A)が出た。間の三カ月と一日または、四ヶ月は期間工で対処するというのは派遣法の規制を逃れる脱法行為であり、期限の定めのない雇用契約が成立していることを認定した判決だ。
 偽装請負の問題もそうだけれど、松下PDPのケースもいちおう派遣あつかいだ。厚労省は偽装請負でも派遣にすればいいんだとこれまで言ってきた。派遣法の中に押し込めようとしていた。ラポール判決、松下PDP判決のすごいところは、元々は違法派遣とか偽装請負というのは労働者供給事業禁止の職安法四十四条と、中間搾取の排除の労基法六条違反だというところに立ち返れと言う判決だ。つまり派遣法が対象とするのは合法的な派遣だけなんだと。それ以外は職安法と労基法に立ち返れという判決だった。
 だとするとさっき言ったようなクーリング期間を悪用したことができなくなる。ラポール判決は高裁で出てしまったのでたぶん変わらないだろう。そうすると仮にクーリング期間を悪用したようなことをやった場合、裁判にかけられるなどリスクが大きい大手の企業は頭がいたいだろう、
 二〇〇九年二月問題は非常に大きな問題となる。これについて備える必要がある。製造現場はものすごく混乱するはずだ。

各労組大会で
認識の広がり

――期間工と派遣の違いは?

 期間工は非正規だが直接雇用だ。派遣のような三角雇用の方が雇用調整をしやすい。雇用責任がないからだ。いざ問題となって、組合に相談するとか、組合をつくって闘うとなった時にどっちの足下がしっかりしているかと言えば期間工です。賃金だって違う。例えば、ある自動社会社の場合、工場の労働者で正社員が年収五百五十万円、期間工が三百七十万円ぐらい、派遣・偽装請負が三百万円以下。同じ仕事をやっていて、半分の賃金しかもらえない。この違いは派遣業者に紹介料としてカネがいくからだ。 
 最近の経営者には、〈直接雇用したくないシンドローム〉がある。この十年ぐらい直接雇用しなくてすんできたから、直接雇用すると何かあった時いやだという心理が働く。グッドウイルが今年の一月に事業停止になり、六月廃業になった。グッドウイルは一月の事業停止の段階でほとんど営業活動をやっていない。
 日雇い派遣がなくなると、日雇い派遣の労働者が困るのではないかと言われるがそんなことはないことが見事に立証された。
 確かに、当座、短期間の混乱はあったが、他の派遣会社に吸収されていった。他の派遣会社にはグッドウイル特需ができた。また、われわれが組織した仲間の中には、流通関係では直接雇用された人が結構いる。すると年収で二百四十万円ぐらいだったのが、四百五十万円ぐらいになった。会社もこっちの方が安いではないかと言っているそうだ。
――派遣先会社は派遣元会社にかなりのカネを払っているということですね。
 
 グッドウイルの場合だと四割ぐらいピンハネしてしまうわけだから、同じ四百五十万円払うのでも本人に払った方が定着率もいい。こういうことを見ると、本当に派遣業って必要なのかと思う。

――自社で働き手を探す手間がはぶけるだけですね。

 日雇い派遣がなくなっても、当初は混乱があるかもしれないけど、充分に対処できるだろう。あと一つは雇用が減るのではないかと言われている。これも何となくもっとらしく聞こえるが、よく考えてみると、派遣会社は雇用を創出しているわけではない。
 ところが派遣会社も、一部の論者も、派遣業が雇用を創出していると錯覚している。世間もそう言われるとそうかと思わされてしまうところがある。

――この夏各単組の大会で、派遣法の論議はどうでしたか。

 連合としては連合案があるんだけど、各産別や単組としてはほとんどない。ただ、先日のJAMの大会で派遣法改正の特別決議が採択された。非常に心強い。
 連合案と、私たちの案の違いは、私たちが、「派遣は原則専門業務」と言っているのに対して、連合は「専門業務について、登録は禁止。被専門業務の一部を認めるがそれは常用が原則」ということ。これだったら賛成できる。
 去年の九月十三日に連合中央委員会で決定し、今年の二月に中執で決定した連合案を堅持するとなっている。

――連合案がなぜ民主党案にならないの?

 民主党の中にはさまざまな意見がある。人材派遣業界を選挙母体にしているところはないけれども、事実上、日雇い派遣廃止に反対すると言っている労組もある。そういう組合に推されている国会議員もいる。トラック業界が日雇い派遣廃止反対の決議をあげた。特に引っ越し業なんかは季節的変動とかがある。その時、大量にパッと人を集めなければならない。今後、こういう業界団体の動きは出てくるだろう。
 連合の中で、日雇い派遣についてイメージをしにくい組合が多い。会社に入り込んでいるが感覚がマヒしていしまっている。派遣法の話をするとたいていむずかしく、論議が分からないという。連合自体はスタッフ、シンクタンクを含めて豊富にいるからそれなりのものができる。個別の単組で、それができるかといえば、よほど意識がないとなかなかできない。ただ、先のJAMの例のように、認識は確実に拡がっている。

――今後の派遣法抜本改正の運動の展望はどうですか。厚労省案については?

 常用型促進といっても努力義務でしょ。ないより増しかもしれないが、企業の良心にまかせておいて、良くなったことはあまりない。
 今、反貧困の問題を含めて、社会的関心が高まっている。この気運の中で派遣法の抜本的改正をしないといけない。
 十一月に日比谷野外音楽堂で、派遣法抜本改正にむけた集会とデモを行うことが決まった。ぜひとも満杯にしたい。今後の見通しとしては、国会情勢とからんで、労政審の報告が上がるのが九月二十五日、十月上旬に閣議決定というスケジュールと聞いている。臨時国会が七十日間と言われているので、その期間を考えると、ことによると今度の臨時国会では、政府案、野党共同案とも廃案または継続審議になる可能性がある。そうすると来年の通常国会になる。いつ解散になるか分からないこともあり流動的だ。

――院内集会は今後ともやっていく? 

 そうですね。法案をつくるということだから、最終的に私たちの案もすべて丸ごと通るとはならないだろう。そうすると取捨選択をしなければならない局面がくる。とにかく業種規制を一番目に考えていきたい。妥協を今から考えているということではなくて、労働者の側から法律をつくるというのは、たぶん戦後初めてのことだろう。これはいろんな人の知恵をお借りして、よりよい派遣法をつくっていきたい。(つづく)

【注】
@派遣(請負)→クーリング(C)期間(派遣先による直接雇用/期間工)→派遣(請負)と言うやり方は、C期間は、派遣会社からの在籍出向にあたり期限の定めなき雇用契約が成立していると言う判決。
A元々は違法派遣とか偽装請負というのは、労働者供給事業禁止の職安法四十四条と、中間搾取の排除の労基法六条違反だというところに立ち返れと言う判決。



韓国9条の会・金承國さん講演会
日本の9条と連帯し朝鮮半島に新しい平和運動をつくり出す

 【大阪】八月三十一日、エルおおさかで、「韓国平和づくり」代表で「韓国9条の会」運営委員の金承國さんの講演会が開かれた。憲法9条の会・関西、阪大9条の会、大阪YWCA平和環境部委員会が共催した。
主催者を代表して澤野義一さん(憲法9条の会・関西代表)があいさつをした。 金さんが講演することになったきっかけは、昨年八月澤野さんがソウルで平和憲法の講演をしたときに、通訳を金さんがしたからだったそうだ。
 憲法九条に関する動きは、一九九〇年代に米国で始まり、九九年にはオランダ世界市民会議でもその宣言の第一項目に九条のことかかげられた。日本でも二〇〇四年に九条の会ができ、今年は九条世界会議が開かれ、紛争の武力解決ではなく、平和的生存権を!のメッセージが世界に発信された。
 日本では明文改憲の動きは下火になっているが、政府・与党には二〇一〇年をめどに国民投票を実施するために、その関連予算五十九億円を計上する動きがある。名古屋高裁ではイラクでの自衛隊活動が違憲であるとの判決が出た。六カ国協議では朝鮮半島の平和の方向性が出ているが、日本の考えだけが違っている。六カ国協議の動向に注目したい。澤野さんはおよそ以上のように述べた。

昨年結成された
「韓国9条の会」

 続いて、康宗憲さんの通訳で金さんの講演が始まった。
 昨年十一月誕生した韓国9条の会の活動目的は、日本の改憲反対運動を側面から支援する、朝鮮半島のそれぞれの憲法を平和憲法に変える、日本の九条と連帯して新しい平和運動をつくることだ。
 日本の右翼勢力は、東北アジアのヘゲモニーを改憲でつくることをめざしている。米軍再編と改憲は連動している。韓国の李明博政権は日米韓同盟を強化しようとしているが、米国のネオコン政権、日本の保守政権、韓国の李明博政権いずれも人気がない。正しい平和運動によって、われわれの望む権力構造をつくっていくことが必要だ。日本・米国・韓国の9条の会が大阪で声を上げることを提案したい。権力は市民の意見を反映させるものとしてあるべきで、市民も無関心ではいられない。
 ロウソクデモと韓国社会の未来について話したい。今年八月十五日、韓国は光復節だったが、各地でロウソクデモが行われた。機動警察隊の放水車が出動し、青インクの入った水を放水した。私も不良市民として逮捕され二日入っていた。今も逮捕されたままの人がいる。ノムヒョン政権の時は考えられなかったことだ。デモに参加した人はどんな市民だったのか。

ロウソクデモ
の主体は誰か

 きっかけは李政権が無条件に米国産牛肉を輸入したことだった。背後に不穏な勢力がいると思われた。しかし、最初にやったのは五月一日ソウル市庁前広場での女子中学生の抗議だった。これがインターネットで広がった。今までは運動団体だったが、今回は運動に無関係な中・高生が平和的生存権、健康を守りたいと声を上げ、それが全国に広がった。
 アゴラというウェブサイトには五百万人の会員がいる。私は彼らをオンライン大衆と呼ぶ、米国の学者は知恵深い民衆と言ったが。この度は運動団体は彼らをサポートした。韓国では国家が危機に瀕したとき大衆の中から出現すると言われている、そのような運動だと言う人もいる。一八九〇年の東学農民戦争や植民地下でのパルチザンのように。私は、サイバーパルチザンと呼ぶ。
 今までの運動は、機動隊と正面から対決していたが、サイバーパルチザンは非暴力だ。指導部がない。オンラインで充分意見を交わし、街頭に出る。機動隊に追われると路地に隠れ、再びどこからか出てくる。
 冷水を放水されると、「暖かい水くれ!シャワーが浴びたい」などとからかったり、爆竹をあげたり、闘いというよりまるでお祭り気分で、朝の五時頃まで楽しく続ける。参加したのは、地域のおばさん、若い母親、会社帰りの社員。四千八百万人の韓国社会で、参加したのはソウルで百万人、この様子を家で見ていた人が千百万人近い。
 李政権は従来型の弾圧しかできない。巨大メディアはこれを報道しなかったが、市民が自分のビデオで映し、インターネットで広めた。韓国では、わずかの金額を払えば、一人放送局を開設できる時代になった。私も、平和専門テレビネットをつくろうと考えている。民衆の新しい運動形態だ。権力には脅威だろう。

新しいオンライ
ン政党の可能性

つぎに李明博政権について話したい。代表的なアナログ時代の政権で、冷戦時代の思考だ。国民はノムヒョン政権の新自由主義を清算し、本当の右派に猛進する李政権の新自由主義を選択した。この政権はローソクデモが理解できず、背後勢力を捕まえたが、デモは下火にならなかった。
 野党にとってはチャンスだが、この情勢を活用できない限界を露呈させた。民主党は元気がない、民主労働党は分裂して成長のチャンスを失った。政党政治は無重力状態だ。デモの民衆を受け入れる受け皿がない。だから、民衆の考えを形成していくことが重要だ。デモは現在は小康状態だが、再来年以降の地方・国政選挙に向け新しい政党をどうつくっていくのか。既存の政党ではない、第三のオンライン政党でもいい。グラムシのいう陣地戦を参考にして。

アナログ時代
の李明博政権

李政権は韓国版ネオコン政権で、新しい未来がない。反共・反北的だ。金大中・ノムヒョンもよくやったが、足りないところが多かった。
 市民から見ると、李政権は軍事独裁政権に逆戻りするように見える。北に対する政策が米国より強硬で、太陽政策と正反対だ。牛肉無条件輸入は、米国への李明博政権の貢ぎ物だった。市民のために安いBSE牛肉を輸入し、それで労働者の生産力が上がると考えた、しかし自分たち富裕層は絶対に食べない。
 訪日時に天皇にあったときの李明博大統領の態度に韓国市民の目は厳しかった。日本との過去の問題を問わないと何度も発言したことについて、なんということをいうのかと怒りをかった。日本の政治家が立て前で言う謝罪とその裏の本心を韓国市民はよく知っている。竹島問題での日本の最近の動きは、李明博大統領の発言が原因で、パンチを食らったのだと市民は見ている。
 李政権の中国政策について。今や、貿易額は対米貿易より大きい。南北統一、東北アジアの平和の上で、中国は重要だ。ところが李政権は米国一辺倒だから、中国訪問でも冷遇された。市民はこの政権に未来はないと落第点をつけている。しかし、韓国には昔の親日派、今は親米の厚い支配層が存在する。これをつき突き破るにはたいまつデモが必要だ。
 李明博大統領はユーラシアへの視野が狭い。中日米には領土問題などで葛藤があり、一方、日米同盟の目的は中国包囲網である。李明博大統領はそのことについて配慮が欠けている。誰も自分の国の大統領を悪く言いたくはないが、未来に責任を持った政権になってほしいから批判しているのである。以上が講演の内容である。
 この後、ウェブのこと、独島のことなどについて質疑応答があり、有元幹明さん(9条連・近畿代表)のあいさつで終わった。(T・T)


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