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フィリピン、ウォルデン・ベロ教授へのインタビュー    かけはし2008.6.16号

10代の若者たちの闘いは
アジア人の健康を守る闘い


 この20年間、韓国の政治・経済に関心をもって見守りつつ多くの文章を書いてきたフィリピン国立大学の社会学科教授ウォルデン・ベロと米国産牛肉をめぐる事態について話をかわした。彼は国際通貨基金(IMF)と世界銀行、世界貿易機構(WTO)に象徴される新自由主義の世界化に一貫して反対してきた世界的な碩学であり、活動家だ。インタビューは彼が設立し責任をとっているタイ・チュラロンコン大学のグローバル・サウス(Focus on the Global South)の事務室で行われた。

新自由主義の「選択の自由」

――韓国では今、米国に牛肉市場を開放することがBSE(牛海綿状脳症)と関連して熱い社会的イシューとなっている。

 今回の事件は2つの意味において意味深長だ。ひとつは韓国が1997年から急速に推進してきた米国式新自由主義体制の完成という点だ。韓国は東アジアにおいて唯一、IMFの勧告を全面的に受容した国だ。今回の牛肉交渉と韓米自由貿易協定(FTA)は、これまで韓国政府が推進してきた米国市場との完全なる統合を目的としている。これを通じて韓国は東アジアで最も新自由主義的な国家となるだろう。他方で、10代たちが街頭を占拠し闘争を繰り広げていることもまた意味深長だ。韓国は社会運動の観点からして、いつもアジアにおいて先頭に立っていた。韓国で新たな社会運動が展開されると、それは直ちに全アジアに広がる傾向がある。政府の新自由主義化と新たな社会運動の台頭という点において、今回のBSEの事態は極めて意味深長なのだ。
 
――韓国政府は、米国の検疫体制に問題はなく、国際獣疫事務局(OIE)のような国際的な検疫システムがあるから米国産牛肉は安全だ、と主張している。

 話にもならない言い分だ。これは米国でどんなに徹底して検疫をしているかという問題とは関係のない検疫主権の問題だ。日本はなぜ今なお輸入を制限しているのか? 率直に言って私は米国の農務省が徹底して監視しているということも信じがたいし、OIEが米国の圧力から自由たりえるだろうとも考えてはいない。
 それよりもさらに重要なのは各国がそれぞれの事情にふさわしい検疫基準を設けていなければならない、という点だ。韓国では骨を煮込んで食べる唯一の民族だと言うではありませんか? それならばそのような食生活の習慣に合わせて、その部分では一層敏感かつ厳格に検疫をする権限が韓国にあって然るべきです。

――韓国の大統領は、質が良くておいしい牛肉を安く食べることができるのであり、食べる食べないは国民が選択する問題だと語っている。

 それがまさに新自由主義だ。新自由主義において自由とは「選択の自由」だけを意味し、それはいつも消費者の名によって称えられてきた。市場が開放され多様な商品が陳列されれば、消費者はその中から自分が望んでいるものを選ぶことができるというのが新自由主義だ。そしてこれを消費者の権力が強化され、市場に参加するものだと美化してきた。
 だが、その「消費の自由」の大部分は生産者たちの膏血を搾取して一時的に作り出した虚像にすぎない。消費者が権力を持っているというのも虚像だ。消費者は陳列されているものを選ぶことができるだけであって、何が陳列されなければならないかについては介入することができない。それは全的に金融と流通資本によって決定される。生産者は一方的に収奪され、消費者は自らが権力を持つものへと錯覚させるのが新自由主義の体制だ。国家がなすべきことは「適当に選んで食べよ」ではなく、国民の健康のために食べてはならないものを統制しつつ国民を保護することだ。

米国への従属=韓米FTA

――牛肉市場の開放は韓米FTAの妥結と連係する。韓国政府は競争が加速化する状況にあって米国とFTAを妥結しなければ経済的危機を克服できないだろうと主張している。

 韓米FTAは韓国経済を完全に米国に従属させるだろう。今も韓国は政治的に米国に従属しているが、これまで追求してきた独自的な経済発展は放棄することになる。そうなれば韓国の経済は米国と全的に連動し、米国の経済の浮沈によって揺さぶられることになるだろう。
 現在、イ・ミョンバク政府が推進している経済政策は新自由主義の中にあっても既に古くなってしまい、西欧にあってさえもはやなじまない1990年代式の新自由主義だ。最近では新自由主義者たちも、それほどに完全な開放を主張してはいない。大統領周辺の経済諮問ラインに問題があるのは間違いない。

――韓米FTAは問題の解決ではなく、もっと深刻な結果をもたらすだろう、ということか。

 現在、米国の経済は深刻な不況の局面にさしかかっている。こういうとき賢明な政府であるならば米国経済の渦に巻き込まれないために米国とできる限り早く距離を置くべきだ。この時点で米国と完全に経済的に連動するFTAを締結するというのは自殺行為だ。IMFの事態を今一度、考えてもみよ。1997年、経済危機が押しよせたとき、全地球をわが手に握っているかのように乗勝長駆(闘いに余勢を駆って一気にせめ込む)だったのがIMFだ。ところで今はどうか? IMFは生き残ることにきゅうきゅうとしている。ラテン・アメリカはIMFからの脱退の動きを示しており、貸出の減少によって財政の圧迫も深刻だ。
 このようなIMFが勧告したものにそのまま付き従ったのが韓国であり、それが今日の韓国が味わっている2極化と経済不安の一要因ではないか。ところが再び韓米FTAによってそれを反復しようとしているのだから、韓国の外にいるわれわれとしては到底、理解できないのだ。また米国は韓国の牛肉市場開放と韓米FTAによって先例を作り、他の国々を圧迫しようとするだろう。米国は台湾と日本の牛肉市場もまた開放せよと圧力を行使するだろう。米国は今、タイ、マレーシアとFTA交渉を進行中だが、韓国と交渉した内容がモデルとなるだろう。韓国で今、繰り広げられていることは必ずやアジア全域で展開されることだ。

暮らし、生き方と直結

――それならば今回の牛肉市場の開放に反対している人々の行動もまたアジア的な意味があるということなのか。

 街頭にとび出した韓国の10代たちや主婦たちは今、夢中になっていて認識はできていないだろうが、今日の韓国の牛肉市場開放反対のデモは韓国民たちの健康だけではなくアジアの人々全体の健康を守る重要な闘争だ。いまさっき語ったように韓国は1997年以降、最も忠実に米国式新自由主義につき従ってきたために、牛肉市場とFTAを制度的に完成させれば、米国はアジアの諸国家全体に圧力を行使するだろう。

――今回の韓国のデモで最も特徴的なことは、10代の若者が登場したという点だ。彼らは極論すれば、自分たちが熱く支持してやまないスターをBSEから守るために身を乗り出したのだと語ってもいる。

 (笑い)幻想的だ。なかなかステキじゃないか。私は彼らが自分たちのスターを米国やBSEから守りぬくことを願う。相手が誰であったにせよ愛する人を守るために行うすべての行動は美しいものだ。愛する人がいる人々だけがなし得ることではないだろうか? 
 おそらくアジアで、いや世界で初めてのことだろう。遠からず他の国の10代たちもそのように行動しないだろうかと期待する。(笑い)もちろん、大衆スターだけのことではないだろう。話を聞いてみると学校給食の問題もあるし、さまざまな理由が10代たちや主婦たちをゆり動かしたのだろう。彼らの暮らし、生き方と直結する問題ではないのか。
 むしろこのような問題で伝統的に韓国の社会運動を率いてきた大学生の運動や労組が大きく動いていないということがもどかしい。労組でも問題の深刻性や、この闘争の世界的な意義を理解し、10代の若者たちとともに肩を組んで街頭に立つことを望む。韓国の闘争は世界の闘争でもあるからだ。(「ハンギョレ21」第712号、08年6月3日付、バンコク=オム・ギホ〈さあ来い、世界化〉著者)

労使政委はもういらない?
使用者側の要求を満た
したロードマップ改悪

解雇を可能に
する法体系

 「労使政委員会」は脱け殻だけ残して、今や「労働規制改革委員会」が乗り出す? 
 参与政府(ノ・ムヒョン政権を指す)は2003年9月「労使関係法・制度先進化方案」(いわゆる労使関係ロードマップ)の準備に乗り出した。論議の場所は労使政委員会だった。民主労総は参加を拒否し、3年余にわたった長い論議と攻防の末に06年末、「政府案」としてロードマップが確定された。当事の政府案はb不当解雇の刑事処罰条項の削除b不当解雇に対して原則復職の代わりに金銭保障制の許容(勤労者からの要求がある場合)b必須公益事業において争議期間中の必須維持業務の導入b必須公益事業でのストライキの際、代替勤労の許容などを盛り込んでいた。このうち一部の内容は国会に提出され労働法の改正に反映された。労働界はこれを「ロードマップ改悪」だと規定した。

派遣許容業種
を大幅に拡大

 5月19日、労働部(省)は「労働規制改革タスク・フォース」と労・使・政代表および公益委員らが参加する「労働規制改革委員会」を電撃的に構成した。労働をめぐる社会的協約を追求する労使政委員会とは違って、労働規制改革(事実上の緩和・撤廃)を目的として攻勢された委員会だ。民主労総は即刻、労働規制改革委員会への参加を拒否した。事実、労働市場と労使関係にかかわる規制の大部分は、とりも直さず「労働の保護」を意味するものであり、このような規制は数十年間、労働組合と労使者たちが闘い、勝ちとった諸制度だ。
 ところで労働規制改革委員会は5月15日、知識経済部が経済5団体の要求を盛りこんだ「労働規制緩和(案)」を労働部に提示した直後に構成された。この緩和(案)はb期間制および派遣制の使用期間3〜4年(現行最長2年)に延長b最低賃金に各種の手当を含ませるb就業規則の不利益変更時の労組同意規定の削除b無労働無賃金順守企業へのインセンティブ提供b勤労者の要求がなくとも不当解雇についての金銭的保障制度の許容b有給週休日の無給化b一般事業場でもストライキ時の代替勤労制許容b派遣許容業種をネガティブ・リストとして大幅拡大を盛りこんでいる。
 賃金を削り、解雇をより自由にさせ、非正規職を簡単に使用できるようにする内容の数々だ。参与政府のときに貫徹できなかった、まだ残っている労働への諸規制を今回、ことごとくなくしてしまう、ということだ。労働部側は「労働規制全般をゼロ・ベースから再検討する計画だ。知識経済部が送ってきたのは使用者団体の意見であるにすぎず、労働界の要求も同様に検討し、論議に値する内容を選別するだろう」と語った。事実上、「第2次労使関係ロード・マップ」が始まったと言えるだろう。
 よくよく見ておくべきは、労働市場や労使関係を大きく揺さぶるほどのこのような労働規制緩和の論議が労使政委員会ではなく、労働部が独自的に構成した「労働規制改革委員会」というタスク・フォースで行われるという点だ。労・使・政間で長い間、論議が進めらざるをえない労使政委員会の枠を捨て、労働規制改革委員会というタスク・フォースを通して速戦速決で労働規制を撤廃する、という構想だ。
 労働部側は「6つの分野別に労働規制改革アクション・ランニング・チームを構成して集中運営するとともに、規制改革の課題を『発掘』する考えだ。また短期的に労働規制を改革する成果モデルを創出していく」と語った。あえて多少、拡大解釈をすれば、労働規制をめぐる論議を労働部が直接担当するとして乗り出した今回の措置は労使政委を事実上、認めないという宣言として解釈することができる。ビジネス・フレンドリーの中で労使政委員会も無力化しているわけだ。
 
民主労総が
全面対決へ

 労働部は「規制緩和ではなく『よりよい規制』を作るようにしていく」と語っている。だが、イ・ミョンバク政府は労働市場と労使関係を規律する一切の制度に「硬直性」というレッテルをはり、規制を解除して労働を柔軟化していくと言明している。
 したがって労働団体側が労働規制改革委員会に「規制強化」の要求を提出したとしても論議の対象に含まれる可能性はほとんどない。事実上、使用者団体が要求した、すなわち知識経済部が提示した諸事項を論議し貫徹する委員会となる公算が大きい。労働部さえもが財界の要求を貫徹する部署に転落するのだろうか? 民主労総は5月23日、「労働規制改革委員会の発足は『労働版BSEの事態』を呼び起こすだろう」として全面対決に乗り出した。(「ハンギョレ21」第712号、08年6月3日付、チョ・ゲワン記者)


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