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08春闘をどのように闘うか               かけはし2008.3.10号

「許すな格差! なくせ貧困!」

遠藤一郎さん(全労協・全国一般書記長)に聞く
産業構造・労働構造の二層化を克服する闘う側の展望が必要



輸出型企業と
内需型企業

――すでに春闘が始まり、資本の側も連合などの労働組合も動き始めていますが、〇八春闘をどう考えているか聞きたいのですが。

 輸出型産業が好調で大企業は空前の利益を上げています。しかし外国で稼いではいるがそれが日本の安定した経済成長には結びつかない。それは内需が弱いからだ。このことは資本の側も昨年の暮れあたりから認め始め、内需を拡大するために賃上げをしなければならないと考え始めている。これを実際に数字で見てみると過去十年間に大企業の経常利益は十五兆円も増加し、株主配当は四倍となり、企業の役員報酬も四割増になっている。これと比較して労働者の賃金は九年連続して減り続けてきた。だから一定の賃上げをしないとだめだと考え始めたのだ。
 だが今年になってサブプライムローン問題が吹き出し、株価の下落、さらに石油が一バーレル百ドル台に突入し、企業は「先行きが不透明だ」と言いだし、賃上げというトーンが少し後退し始めている。これが現在の状況だと思う。
 私たち全労協は今春闘「許すな格差!なくせ貧困!」を旗印に、労働者が健康で安心して働くことができるような賃上げを闘いとることを目標にしています。つまり生活を守れる賃上げの実現です。とくにこの間急激に物価が上昇していることを考えるとますます重要な課題となってきている。

――具体的な賃上げ要求額はどうなっていますか。

 連合は統一の一律賃上げ額を決めず、要求額は各産別に一任している。自動車がベア千円しか出していないことに、先日の労働ペンクラブの公開シンポジウムのなかで、高木連合会長は「トヨタが千五百円を獲得したところで、全体の流れにはならない。なぜ二千五百円くらいにしないのか」と不満をもらしていた。しかしそのトヨタが、最近になって千五百円を渋り始めている。千円では昨年と同じだから、労組の方が絶対譲れないだろう。

――中小企業の方はどうなっていますか。

 中小をとらえる時、日本の経済をどうとらえるかということと密接不可分であると思う。旧来の大企業と下請け、孫請けという大企業と中小企業の二重構造ではなく、新しい二層構造が形成されてきている。それは自動車、金属、電気などの輸出型企業・業種とそれと関連する中小とその他の中小というふうに分けることができる。例えば、一番悲惨であった同じ鋳物業種でも自動車や電気産業と結びついた企業は一定利益が上がっているが、そうでない鋳物業種は依然として厳しい。この間、原材料の値上げというのがあるが、この二層構造は維持され拡大している。東京の大田区でも金属などの業種の二極化が明確になっている。去年の倒産件数を見ると、六・三%も増え、それが中小の食料やサービス産業という内需型企業と中国、四国、北陸などの中小や地場産業に集中している。
 こういう内需型産業のところでは賃上げどころか企業自身があぶないという状況がある。逆に輸出型産業の大手では、もっと取れるのに自粛して取っていない。ここでは大胆に賃上げを実現させなければならないし、この関連企業でも賃上げを勝ち取っていく必要がある。しかし内需型の場合には、利益を上げている大手のようにはいかない。ここでは制度的に最賃を保障させる闘いがないと労働者の生活を守ることはできない。つまり一方で賃上げを勝ち取るということと、一方では制度的に最賃を上げることは今日メダルの裏表となってきていると言える。
 昨年の最賃では全国平均で時間十四円、青森でも九円上がった。この七年間一円から三円という攻防であったことと比較すると確かに大幅な上昇ではあるが、それで格差が縮まったかと言えば縮まったというより逆に広がっている。しかし内需型の企業や地方の地場産業に一挙に二十円を上げろといっても中小企業には支払い能力の限界があることは明白である。
 したがってこの新しく成立した二層を克服する闘いが問われるのである。これは産業政策というか、中小企業政策ともいうべき闘いである。輸出型産業は輸出分に対する消費税がかからないばかりか、研究開発費が税から免除され、二重三重に庇護されている。さらに金融政策では貧困な者の金利はゼロで、企業には低利で融資するという形で大企業は守られている。この大企業に集中する富を社会的に再配分させる政策が必要なのである。
 このために税制や社会保障給付などあらゆる側面から検討することが問われているのであり、このための闘いが絶対に不可避となっている。賃上げの闘いを、今日の社会全体の中でとらえ直すことなしには前進しなくなっている。この点で言えば、連合も全労連も全労協も個別企業の労使の枠ではどうにもならない状況に立たされている。例えばトヨタが今年も一時金二百五十万円台の回答が出たところで、賃上げ全体に波及するかといえば全くそうはならない。所詮もうけている個別トヨタの問題でその枠を超えられない。

公共部門を食い
物にする資本

――産業政策の転換について、もう少し考えていることがありましたら話してもらえますか。

 今検討を始めたばかりで問題意識として持ち始めたところなので方針というか結論はまだ持っていない。従来だと輸出型企業が外で稼いだ利益であっても、もうければもうけるほど、累進課税がかかり、それによって富の偏在を避けてきた。所得税でも利益の多いところからは多く取り、それを分配して格差を広げなかった。しかし今サービス産業や生活関係などの内需型の産業は生産効率が悪いとたたかれている。とくに官がやっていたサービス関連はもっと安くしろとたたかれ、民営化されている。民営化とはもうけることのできる部分だけ取り、もうけにならないところは切り捨てる方式だ。
 例えば、この間高齢化社会に対応するためにといい、さらには雇用の受け皿になるといって介護労働を政府は政策の目玉にしたわけであるが、「人にかかわる」仕事だから生産性が上がるわけでもないから政府と資本はどんどん安い賃金を強制する。そうすればそれに比例してサービスも低下する。その結果少し景気が良くなって仕事が増えてくるとどんどん介護現場から労働者は離れる。
 この結果介護の現場では恒常的な労働力不足に陥っている。仕事はきつい、その上賃金が安いとなれば当然です。若い人が介護の仕事に入ってきても夢も希望も持てないのは当たり前です。
 かつて特養の仕事は自治体の福祉関係の部門であったから、公務員か公務員に準ずる待遇が保障され年休もあり、一時金も期末手当もあった。しかしいま介護保険という枠をはめ、低賃金で劣悪な労働条件が強制されている。介護労働者の年収は先に述べたトヨタの労働者の一時金より低い。この格差の乖離をどうするのか、待ったなしで問われている。これをこのまま放置して置くならば日本の産業構造は完全に二つに分離していく。これが産業における横の分離構造だとすれば、もう一つは正規と非正規の分離という同じ業種内における縦の分離である。
 資本や経営者は、「われわれは利益を上げるために血のにじむような努力をしている」というが、公的分野の利益の上がるところだけ民営化で握り、非採算部門を切り捨てるのが、新自由主義的政策の実態だと思う。サブプライムローン問題に見られるように金融政策によって将来の所得を現在の消費にまわすという究極のアメリカ型のマジックが破産し、資本家さえ被害がどこまで広がるか分からなくなっている。石油は投機により値上がり、すでに需要と供給の関係という実勢価格を反映しなくなっている。その意味では新自由主義の破産はすでに始まっている。七年前にWSFでブラジルのポルトアレグレに集まり「もう一つの世界は可能だ」として新たな闘いを始めたわけだが、いまこの社会・世界がどこに向かおうとしているのかをとらえ直し、「もう一つの世界」のためのプランをみつめ直すということが産業政策の転換という言葉に込められている。〇八春闘はこれへの挑戦の出発点であると思う。日本社会で見ると先に述べた新たな二層構造をどのようにつくり直していくのか、そこにどう踏み込むのかが重要になっている。

非正規問題と
反貧困の闘い

――具体的な〇八春闘の攻防というか、要求をめぐる闘いをどう考えていますか。

 一言でいえばどの位の賃上げを実現できるかということですが、昔のように今年は五千円、六千円の攻防だという形ではない。業種ごと産業ごと、個別企業のあり様にすべて左右されバラバラで見当がつかない。エコノミストの中には二%と予想する人が多いが、二十万円の二%と五十万円の二%では全く違います。その点で私たち全労協と全国一般は非正規労働者の賃上げ、均等待遇の実現に力を入れて闘おうとしています。賃上げ要求額でいうとパート時給の百円アップです。四十時間×百円×五十二週÷十二カ月で、一万七千四百円になるので、一万八千円を要求基準にしています。同時に労働者に月額十五万円、時給千二百円を最低保障とし実現させるために全力で闘うつもりでいる。
 しかしこの要求を実現していくために一番重要なことは非正規労働者問題をどのようにとらえるかということだと思います。この間ワーキングプアーという言葉といっしょに非正規労働者が拡大している現実が理解されてきました。これはある意味で真実をとらえていると思います。非正規労働者化の進行は、なによりも第一に、貧困問題の拡大であるわけですから。
 もう一つは、非正規の進行は労働者を人間としてではなく「もの」として扱っているという事実です。派遣とか請負労働はどの大企業でも労務の担当ではなく、物品部などが担当しているのがその事実を如実にしめしています。現場レベルでは「今度の入れ込みを何人にする」という具合で、ボルトとナットをいくつ揃えるかという形で処理されている。労働というのは商品ではないはずなのに、完全に非人間的に扱われている。
 この二つの側面が非正規問題の切り口だと思う。いま連合も全労連も非正規センターをつくり、本格的に取り組もうとし始めています。非常に重要なことだと思います。しかし最も重要なことは非正規問題に対する運動と闘いが終始一貫して反貧困、非人間的な扱いに対する闘いとしてつくられているかということです。生活保護の問題、路上生活者の問題、外国人労働者問題や人権問題まで含めて取り組もうとしない限り、本物の闘いにはなっていかない。ゼンセン同盟は上から資本といっしょになって非正規を組合員に組織しようとしていますが、組合員は増えるがこれでは非正規問題の解決にはならないし、逆に隠蔽してしまうことになる。
 さらに均等待遇の実現ということでいうと、制度上の問題にどう踏み込んだ闘いができるかである。この間ようやく雇用保険の適用、支給ということを闘いを通じて勝ち取ってきている。次は医療の社会保険の獲得と年金の加入問題である。つまりこの間切り捨てられてきた非正規労働者の問題を反貧困、非人間的な労働問題として具体的に切り開いていけるかである。スーパーで働いているパートの労働者の全部に社会保険を適用せよと要求すれば、資本は「それではやっていけない」と拒否する。そして厚労省というか政府が出した指針の「通常に働いている労働者の四分の三の労働時間」という適用基準に達しないように、パートの働く時間を短くする攻撃を行う。この点をこの春闘を通じていかに突破していくのかということも非正規問題の大きな課題となっている。
 この間北九州で生活保護の打ち切りによって四人の死者が出た。自殺というより餓死である。いわゆる働けないのに働けると社会福祉課の窓口が一方的に決めつけ生活保護を打ち切り、あるいは受け付け拒否によって死者が発生している。実はそのうち二人が規制緩和で低賃金を強制されたタクシー運転手である。ここではタクシーの運転手を労働組合に組織する闘いと同時に生活保護の北九州方式を打ち破る闘いを市民といっしょにつくりあげる闘いが広がっている。この結果、生活保護打ち切りの実態を内部告発する人も出始めている。こうした闘いをひとつひとつ積み重ねることが非常に重要になっている。

今こそ派遣法の
全面的改正を

――現在派遣法の改正が問題になっていますが、これについてはどうですか。

 財界はこの間派遣法に対するすべての規制をはずせという形で動いてきた。しかし昨年秋以降データ装備費、高額のマージン、日雇いスポット派遣、二重派遣などが次々に暴露され、実は派遣労働こそワーキングプアーの温床であることが白日の下にさらされ、この結果厚労省は今年になって対立点を棚上げして二重派遣の防止、派遣スタッフが働いた場所を書き込む「管理台帳」の設置の義務化、同意のない天引きの禁止などを盛り込んだ指針を発表する一方、グッドウィルなどに対して事業停止命令を出して事態の収束をはかった。その上で厚労省は新たに研究会をつくり、今秋研究会報告を出し、来年法改正という形で仕切り直しの方向に動いているが、問題は派遣労働に対する規制強化か、財界がいうように緩和なのかが二者択一になっていると思う。われわれとしては規制強化の立場から、第一に登録型派遣と日雇い派遣の禁止、第二に派遣労働が必要な特定業種のみ認めるが、当面は二十六業種に限定する。第三に一年間を超える派遣労働は派遣先に常用雇用を義務づけるという三点をはっきりさせて闘いを続けていくことが重要であると考えている。
 この間、派遣ユニオン、ガテン系連帯、管理職ユニオンなどを先頭とした闘いとロビー活動によって、ようやく社民、共産、民主、国民新党、公明党などの国会議員を巻き込んだシンポジウムが三回も開催され、それぞれが今の国会に法案要綱を提出するという形で厚労省の仕掛けた研究会の流れとは別の流れが形成されている。ここでのポイントは一九九九年の改正前の二十六業種に戻すというのが、大枠の同意になっている。しかし注意しなければならないのは昨年、民主党が自民党と一瞬のうちに合意して労働契約法を成立させてしまったように、運動と闘いが弱ければまた足下をすくわれことになる。したがって、いかに強固な闘いをつくり出していけるかがカギである。
 この間のグッドウィルの闘いでも「データ装備費問題」とか「ネットカフェ問題」という形でワーキングプア問題を突きだした闘いにメディアが飛びつき成果を上げてきたが、この段階をいかに突破していけるかが問われていると思う。
 また派遣・非正規労働者問題でいうとようやく取り組みと闘いが始まった外国人研修生・実習生問題がある。この間全統一労組が取り組んだ栃木県の「とちおとめ」生産をめぐる問題がある。県が研修生・実習生の導入を奨励し、県の経済連・農協が集団でやっていたが、最賃さえ払わない、時間外賃金を払わない、挙げ句の果てに収穫期だけほしいという完全に非人間的扱いである。これと同じことは外国語学校のノバでも起こっているし、高原野菜などの労働集約型の産業、地場産業に広がっている。規模拡大を機械化ではなく外国人労働者を入れ、労働基準法を知りながら無視するやり方である。これも新自由主義グローバル化の結果であり、これを許しておけば非正規問題、貧困の問題は前進しないし、逆に貧困は固定化される。
 昨年参議院での与野党逆転で、政府や厚労省の思惑をストップさせ、資本の攻撃を押しとどめることができ始めている。その意味でバブル崩壊以後一貫して資本の攻撃に押しまくられてきた労働者側に反転攻勢をしていくためのチャンスがきたと思うし、そのための出発点をつくり出すのが〇八春闘だと思う。
 だが先に述べたように多くのユニオンの闘いによって、闘いの入り口は開かれたが、全労働者の三割を超えている非正規労働者の実態からすると、依然としてエピソードの段階を打ち破りきれてはいない。労働者の組織率も一八・一%で一昨年の一八・二%を下回っている。厚労省は〇・一%減は労働者人口が増えた分であるといっているが、逆に言えば組合の組織率は変わっていないと言うことである。ちょっとでも油断すれば資本は再度新しく攻撃をかけてくる。
 先日、高野さんの闘いの結果マクドナルドで「店長は管理・監督者ではない」という判決を勝ち取り、コナカでも同様の勝利をおさめているが、これを日常的な集団的労使関係まで高めていくことが必要である。それが労働組合の意味だと思う。この判決以後、組合にはジャンジャン労働相談の電話がきているが、これをエピソードでなく現実の労使関係にしていくことが課題なんだと思う。
 そこで必要なのはやはり大衆運動であり、集団的労使関係を保障する労働組合だと思う。資本は「解雇の金銭解決」や労働基準法の根幹を揺さぶる日本版エグゼンプションの導入をあきらめたわけではない。機会をみて反撃してくることは明白である。
 〇八春闘は「許すな格差!なくせ貧困!」の旗印のもとに賃上げ、非正規雇用、最低賃金の引き上げ、派遣法・契約法などの労働法制の改正の闘いを軸に展開されていくが、このすべての結論は労働組合の拡大・強化として結実化させていかなければならないと思う。同時に反改憲、沖縄・岩国・横須賀などの米軍基地の強化に反対する反戦平和の闘い、そしてなによりも今夏のG8に対する労働者の闘いを盛り上げ、つくりあげていきたいと考えている。


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