| 第1回アジア・太平洋水サミット かけはし2008.1.14号 |
十二月三、四日にわたり別府市で開催された水問題での初めてのサミット。前日に、アジア・太平洋水サミット市民会議実行委員会と第一回アジア・太平洋水サミット事務局主催のダイアローグ(意見交換会)が別府・杉の井ホテルで開かれた。
安全な飲み水を
得られぬ十億人
現在世界では、安全な飲み水を得られない人が十億人以上、また水を媒介とする病気で死亡する子供たちは年間百八十万人を超えると言われている。水をめぐる国際フォーラムは一九九二年が初めてで、このとき水は経済財(商品)であることに初めて言及したダブリン宣言が出る。オランダのハーグでの第二回目では、水施設に投資された資金を完全に回収するフルコスト・リカバリー政策の提言が出た。三回目の二〇〇三年京都水フォーラムでは、民間セクター参入を擁護する立場が表明された。水は「ニーズ」(売り物)なのか「権利」(公共財)なのか。NGOからは水の民営化反対が強く主張された。〇六年の第四回目はメキシコシティで開催され、ベネズエラやキューバなどから「水へのアクセスは人権」という理念が主張されたが、採用されるには至らなかった。
世界水フォーラムという言葉から、国際機関が主催するフォーラムのような感じを受けがちだが、この会議を招集したのは「グローバル水環境パートナーシップ」という大企業の圧力団体で、世界銀行やビベンディ、スエズ・リヨネーズ、ネスレといった大企業が会議を仕切ってきたといわている。
第四回のフォーラムでサミット(国家首脳レベルの会議)を開催することが決められ、そして今回の水サミットに至るわけである。水問題は、飲料水と水インフラ、使用可能な水の不足、生態系や環境、流域管理、干ばつと洪水にかかわる水関連の災害管理、森林と水問題など多岐に及んでいるし、温暖化とも密接に関連している。今回の水サミットではあらかじめテーマが設定されていた。それは、A・水インフラと人材育成、B・水関連災害管理、C・発展と生態系のための水、の三つである。
設定された三つのテーマについて、すでにサミット側から提案文書が出ており、市民会議としては、この文書に対する対案を準備し、意見交換会の前日の十二月一日にその検討会を開いたが、検討会に入る前に、その一部として「二時間でわかるアジア・太平洋の水問題」と題する講演会があり、意見交換会で提案や意見を述べる人たちが講演した。
住民自治による
河川流域管理を
二日の意見交換会では、尾田栄章さん(日本水フォーラム相談役・前国土交通省河川局長)が開会のあいさつをし、続いて市民会議が対案提言を説明し、これについてゲストから意見を聞く形で進行した。
テーマCについては、神田浩史さん(桂川流域ネットワーク代表・AMネット理事)の司会で進行し、市民会議の提案を寺嶋悠さん(川辺川を守る県民の会)が行った。
要旨は、水資源関係の事業は生態系に対する配慮が最優先すること。塩害被害を出した大規模灌漑の生態系への影響を調査すること。地域住民が自分たちで補修維持管理できる適正規模の灌漑を推進すること。国際河川の流域管理は住民参加を尊重すること。生物多様性や地域の文化の尊重。住民主体の流域自治の具体化。ダム貯水池は温室効果ガスを相当量排出しているから、水力発電をクリーン開発プロジェクトの対象から外すこと。「緑の革命」は化学肥料と農薬で土壌や地下水を汚染した。汚染者に浄化とリユースを義務づけるべきだ。林業・農業・漁業一体性を考慮すること。慣習的な水利権、漁業権・入会権の実態を調査すること。
ゲストスピーカーのファコンさん(FAO:国際食糧農業機関)は、「オープンで参加型のプロセスは大切だが、提案にはマーケットメカニズムが入っていない」と述べ、チャイパンさん(タイNGO)は、「タイは世界最大の米生産国なのに、工業化が進みダムにより海岸線が浸食され、土地が失われている。昔はコミュニティーが水や森林を管理していたが、政府管理になってから貧困が増えている。FAOなどの国際機関は政府としか話をせず、市民のことを考えていない」と訴えた。川内俊英さん(筑後川流域連携クラブ。久留米大准教授)は、可動堰によって魚の遡上が困難になっている実態を報告し、山から海までを考えた開発をし、長期間のモニタリングをする必要を訴えた。
吉野川可動堰
はいらない!
テーマBについては、石渡幹夫さん(JICA)が司会をした。市民会議の提案は、鈴木恒さん(市民会議実行委員会代表)が行った。要旨は、ダム建設など災害リスク軽減のために行われる開発が環境を破壊し、強制移住の不透明性や不十分な補償などの問題を起こしているので、十分な情報公開をし、透明性確保のため委員会を地元住民や専門家でつくる必要があること。森林保全などとともに総合水資源管理をすること。地元住民の伝統的な知恵を重視すること。
ゲストスピーカーの姫野雅義さん(吉野川みんなの会)は、「二百五十年前につくられた吉野川第十堰がいかに優れているか、23号台風の時コンクリートの構造物は洪水で破壊されたが、第十堰はびくともしなかったのに、国交省はこの堰が老朽化しているからといって、千三十億円の可動堰に変えようとしている」と批判し、国交省のアンケートでも、可動堰よりも緑のダムを選ぶ市民が圧倒的だと述べた。
蔵治光一郎さん(東大愛知演習林講師)は、「自然災害である洪水と社会現象である水害とは意味が違う。水害は洪水を減らしただけではなくならない。水害対策としては、総合的水管理が必要だ。洪水制御は現実的な対策なのか、再考が必要だ。予想外の洪水は必ず来る。干ばつも水災害の一つだから、当然論議すべきだ」と発言。石渡さんは、コミュニティーの災害対応能力を高めることが大切だと述べた。姫野さんは、「流域自治が必要だ。予想外の洪水対策はデータがないとの理由で取り組まれていない」と、国交省を批判した。
水道の民営化
に反対しよう
テーマAについては、ラビさん(APWS執行審議会副議長)が司会で、市民会議の提案は佐久間智子さん(JACSES:「環境・持続社会」研究センター)が行った。
要旨は、二〇一五年までに安全な飲み水を得られない人口、適正な衛生設備を持たない人口を半減させるという国連ミレニアム開発目標(MDG)を達成する手段として、フルコスト・リカバリーと民間セクター参入を決め、水道の民営化が行われたが、水道料金は値上げされ、払えない世帯の水道は止められ、約束の投資はされず、新規接続数はこの十五年間でわずかに六十万世帯。現状を改善するには途上国の債務を削減すること。水を得ることは人権と定め、政府に義務づけること。収益の見込めない小規模飲料水事業は無償で行うこと。水道事業に地域の人材と資源を活かすこと。
ゲストスピーカーのジコスさん(国連ハビタッド水道事業担当)は、「水は政府の責任できちんと供給されるようにすべきだ。自治体に権限を移して支援する。貧困者側に役立つ資金メカニズムを政府と組んでつくる。ライトベースアプローチはどう運用していくかが問われている。バリューベースアプローチは、金融機関が対応してくれるように考える」と発言。コラールさん(世界公務労連)は、「すべての利用者のことを考えて、官官パートナーシップや労使の協力が必要。日本の水道は世界最高。一つのモデルとして広めるべきだ。それぞれの持っている知識を持ち寄ってやれば、アジア開発銀行より安くていける。年金基金などを資金とする方法はどうか。資金の裏付けのない権限委譲が進んでいる。適切なガバナンスが必要だ」と述べた。
各テーマごとの意見交換の最後に、田尾さんがまとめをし、参加の予定で欠席したアジア開発銀行担当者に今日の意見が伝わるように橋渡し、また提言が伝わるように努力することを約束して閉会した。閉会の後、意見交換会での意見を参考にしてサミットに提出する提言書の文章を修正するための会議がもたれた。
日本は非常に多量の水を消費している国である。ところが一方、水に恵まれているはずの日本で、水の民営化は静かに進行している。ここ数年、ボトルウオーターの消費量は急増している。意見交換会には、全日本水道労組の作成した「水基本法」案が配布されていた。普段あまり考えたことのないこういう問題にも、少し目を向けてみる必要があるのではないだろうか。
(津山時生)
`壁aの向こうに耳を澄ませる
パレスチナ・ヨルダン渓谷被占領地での人権侵害
十二月一日、東京の文京区民センターで【ファトヒ・クディラートさんスピーキング・ツアーin東京】が行われた。「`壁aの向こうに耳を澄ませる パレスチナ・ヨルダン川西岸〈占領地〉からの声」と題したこの日の集会は、大阪の「パレスチナの平和を考える会」が企画したパレスチナ・ヨルダン渓谷の占領地の現実を知るための「スピーキングツアー」の一環で東京、大阪以外にも札幌、仙台、名古屋、広島、那覇で開催された。東京集会は九つの団体(アジア太平洋資料センター、アジア連帯講座、ATTAC│Japan、アムネスティー・インターナショナル日本、新しい反安保行動をつくる実行委、在日本韓国YMCA、日本パレスチナ医療協会、ピースボート、ミーダーン)と十六人の個人が賛同して実行委員会が結成された。この日の集会には百五人が集まった。
ファトヒ・クディラートさんは、イスラエルがヨルダン川西岸を占領した第三次中東戦争の年、一九六七年に西岸のバルダラ村で生まれた。ヨルダンの大学を卒業した後故郷に戻り、同村評議会議長(村長)、農業組合委員長などを経て、現在パレスチナ反アパルトヘイトウォール草の根キャンペーンのヨルダン渓谷地域コーディネーターとして、人権侵害に反対するキャンペーンを展開し、同渓谷のユダヤ人入植地の農産物の国際的ボイコット運動を行っている。
〇七年で占領から四十年、〇八年はイスラエルが建国し、多くのパレスチナ人が自分の土地から追放され「難民」となってから六十年となる。パレスチナでは五百に上るさまざまな運動体が結集して、来年に向けて大きなキャンペーンを準備しているという。
一方、二〇〇六年七月には小泉首相(当時)がイスラエル、パレスチナ、ヨルダンを訪問し「平和と繁栄の回廊」の構想を提案した。これは、日本、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンによる四者協議会を設置し、ヨルダン渓谷西岸側に農産業団地を設置し、物流の促進を行うために、日本が事業化調査を行い、資金や技術面で支援を行う、という構想だ。すでにJICA(国際協力機構)は、その活動に入っている。しかし実際のところこの「平和と繁栄の回廊」は「平和」や「共存」の美名の下に、イスラエルのパレスチナ占領支配の枠組みを正当化するものになっている。この日の集会は、今後、日本における課題として「平和と繁栄の回廊」構想に対する具体的な批判の運動を開始するための問題提起の場としても位置づけられていた。
「平和と繁栄の
回廊」構想批判
ファトヒ・クディラートさんは、パワーポイントでヨルダン渓谷におけるイスラエルの占領・入植の実態を示す自ら撮影した多くの写真を映し出しながら次のように語った。
「私は占領下で生まれ、すでに三人の子どももいるが、占領がいつ終わるか分からない。毎日が民族浄化に等しい状況の中での闘いだ。ヨルダン渓谷西岸は東京都よりも狭い地域だが、その中に五百二十もの検問所がある。この検問所で荷物が細かく検査される。さらに全長四百二十キロもの分離壁が建設され、日々の生活が破壊されている」。
「ヨルダン渓谷は水源に恵まれた肥沃な土地だ。しかし水や土地がパレスチナ人から没収され、教育を受ける権利も奪われている。一九六七年の占領以後のユダヤ人の入植地はヨルダン渓谷全体の半分に達し、四五%は軍事地域としてパレスチナ人の立ち入りが禁止され、パレスチナ人に与えられた土地は全体の五%にすぎない」。
「イスラエルの法律では、三年間不耕作の農地は没収される。追われた農民の土地はイスラエル政府に奪い取られてしまうのだ。家畜が軍事地域に入ったら、その家畜の持ち主が罰金を取られるということも起きている。パレスチナ人には家を建てる権利もない。オスロ合意にもとづいて建物建設が許可された土地では過密化がすさまじい」。
このように語ったファトヒさんは、会場からの質問について答えた。
(「平和と繁栄の回廊」構想について)「三年前にJICAからいろいろなことを聞いたが、最近では全く聞かされていない。これはパレスチナの人びとのためのものではなく、パレスチナの『パートナー』とされたイスラエルの少数の人びとに寄与するためのものだ。これは日本のプロジェクトであって、パレスチナのプロジェクトではない」。
(パレスチナとイスラエルという「二国家」建設が望ましいのか、それとも両民族の完全な平等な権利に基づく一国家方式が望ましいのか)「かつてのアパルトヘイト時代の南アフリカのようなバラバラにされた黒人居住地からなる『バンツースタン』方式の二国家建設は現実的ではないし、無効だ。われわれはユダヤ人を否定しているのではない。シオニストを否定しているのだ。一国家方式が望ましいと思う」。
ファトヒさんは、さらにイスラエル商品のボイコット運動についても提起した。またアメリカで行われている「中東和平」会議について、「カーター政権以来、米国の各政権は末期になると点数稼ぎのために『和平』を持ち出すが、そこからは何も生み出せない」と突き放した。
集会の中で、今後のパレスチナ連帯運動について、「ボイコット運動」の展開や「平和と繁栄の回廊」構想への批判をふくめて、討論を深め、行動を提起していくことが呼びかけられた。 (K)
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