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カナナスキス・サミット(上)              かけはし2002.7.8号より

深刻化する世界経済危機への無策
とブッシュ政権の戦争政策の突出


 六月二十七日、カナダ西部のカナナスキスで開かれていた主要国首脳会議(G8)は、二日間の日程を終え、議長(クレティエン・カナダ首相)総括文書を発表し、「アフリカ行動計画」「大量破壊兵器拡散防止」の声明などを採択して閉幕した。
 今回のサミットの最大の特徴は、歴史的限界に直面して行き詰まった世界資本主義経済の危機など、あたかも存在しないかのように、首脳たちが一致して振る舞ったことである。
 クレティエンは「02年の経済は01年より好転しており、03年はさらによくなる。日本でさえそうだ」と極端なまでの楽観的見通しを語り、全体がそれで一致した。
 現実には、楽観的見通しなどどこにもない。アメリカ最大のエネルギー関連企業エンロンが巨額の不正経理の発覚で破綻したことを契機に、二〇〇〇年春のナスダック市場の崩落で始まったアメリカ経済のバブル崩壊の第二段階が、すでに本格化しているのだ。
 小売り大手Kマート、エネルギー大手ダイナジー、通信大手ワールドコム、同グローバルクロッシング、ケーブルテレビ大手アデルフィア・コミュニケーションズなど、アメリカを代表する超有名巨大企業で、次々に同様の巨額の不正経理が発覚して破綻に追い込まれた。事務機大手ゼロックスが六十億ドル以上も売り上げを水増ししていたことも発覚した。日本では、山一証券が複数の子会社への株の損失の「飛ばし」を行なっていたことが発覚して破綻し、九八年金融危機の引き金を引いたが、エンロンは損失を飛ばす特別目的会社(SPC)を、何と三千数百社も作っていたのである。
 大手監査会社や投資銀行が、不正経理を知りつつ共犯としてバブルをあおり続けていたことも発覚した。アメリカが九〇年代半ば以降の一時期、謳歌した「終わりなき繁栄」=ニューエコノミーなるものが、不正経理によって過大評価された収益への期待で株価を引き上げ、そこに世界中からさらに多くの資金を呼び込んでバブルをさらに膨らませる虚構の繁栄に過ぎなかったことが露呈したのである。これが、誇らかに語られていた「アメリカンスタンダード」の現実であった。
 これらバブル企業の株に投資していた公的年金などに巨額の損失が出ており、損害賠償訴訟が始まりつつある。不良債権がとめどなく膨れ上がり、金融危機の可能性が急浮上している。将来への不安が広がり、バブルの恩恵で過大な消費を続けてきたアメリカ経済は、バブル崩壊後の日本経済と同様に、一転して収縮に向かわざるを得ない。
 NY株価も九千ドルの大台を一時割り込み、ナスダック指数も9・11テロ後の最安値一三八七を一時割り込んだ。ドルは、円に対してもユーロに対してもアジア通貨に対しても大きく切り下がり、ドル全面安が進行している。今年一月末に一ドル=一三五円であったレートは、いまや一ドル=一一五円をうかがう状況になっている。
 年間四千五百億ドルを超えたアメリカの経常赤字をファイナンスするためには、海外から巨額の投資が流入し続けなければならないが、今年に入って流入額はすでにほぼ半分に急減している。アメリカへの資金流入をうながす条件の一つであったドル高政策は、もはや維持できず、ドル暴落の危険性が高まっている。ドル暴落が世界経済を大混乱に陥れることは言うまでもない。
 打つ手はほとんどない。ドル安の急速な進行は、世界最大の輸入国であるアメリカをインフレに追い込むだろう。ドル暴落を防ごうとして金利を引き上げれば、バブル崩壊で巨額の借金を抱えた企業を直撃する。金利引き上げは、いうまでもなく株価をさらに押し下げる。また、金利引き上げは借金漬けで膨れあがってきた住宅建設バブルをはじめとする消費バブルを崩壊させる。
 最良のシナリオは、レーガノミックスによる「双子の赤字」(財政赤字と貿易赤字)に落ち込んだアメリカ経済と国際通貨体制を救い出すために行なわれた八五年の「プラザ合意」の再現である。この時レートは一ドル=二四〇円から一ドル=百五〇円へと大幅な円高ドル安に導かれた。
 このような「第二プラザ合意」が仮に実現したとしても、当時をはるかに超える赤字を抱えたアメリカはドル安で深刻なインフレとなり、経済は縮小し、対米輸出に頼る日本やアジアの不況はさらに激化せざるをえないだろう。また、ドルが一〇〇円以下となり、八〇円、七〇円と下落していけば、基軸通貨としての地位が維持できなくなる可能性もある。
 何しろアメリカの経常赤字は年間四千五百億ドルにも膨れあがっている。それは日本とEUの黒字の合計千六百億ドルの三倍にも達しており、しかもその巨額の赤字による過剰消費に、膨大な過剰生産能力を抱えた世界資本主義経済がすがってきたのである。
 ドル急落を止めるための協調利下げなど、すでにゼロ金利の日本にできるわけもなく、景気後退で財政赤字が増大してきたEUは、スタートしたばかりのユーロの基礎を固めるためにもむしろ金融引き締めにシフトせざるをえない状況にある。
 なんとかして赤字を減らそうとすれば、現にブッシュ政権が日本やEUの鉄鋼製品にセーフガード(緊急輸入制限)を発動しているように、ユニラテラリズム(単独行動主義)を発揮して保護主義を強化することになる。
 FRB(米連邦準備制度理事会)に残された手段は、この間、十回以上引き下げてきた公定歩合をさらに引き下げ、日本と同様のゼロ金利にすることぐらいだろう。しかし、それが再びバブルを作り出し、海外資金を株式市場に呼び込み虚構の繁栄を再現するなどという可能性は、日本の現実を見てもほとんどない。
 もはや小泉の強がりを信じるものはだれもいなくなった。二〇〇一年度のGDP(国内総生産)は、実質で前年度比一・三%という大幅マイナスとなった。倒産も完全失業率も過去最悪の水準に張りついたままであり、景気底入れ宣言にもかかわらず、全所帯の今年一―三月期消費支出は前年同期比一・三%のマイナスとなった。
 全国銀行協会が発表した今年三月期決算によれば、「金融再生法」の基準による不良債権残高は四十兆九千五百五十二億円となり、前期比三一・七%増と過去最高の勢いで急増した。ペイオフ解禁を前にして弱小金融機関をつぶしてしまおうとする金融庁の強引な検査によって、昨年から今年にかけて五十六もの信金・信組がつぶされた。地域経済はますます冷え込んでいる。
 預金は中小金融機関から大手へ、しかも定期性預金からいつでも引き出せる普通預金などの要求払い預金に急激にシフトし、いまや全預金の六割が要求払い預金となっている。何らかのきっかけさえあれば、いつ取り付け騒ぎなどの金融危機が発生してもおかしくない状態になっているのである。
 財務省は六月二十五日、国際と借入金、政府短期証券を合わせた〇一年度の国の借金残高は過去最高を更新して六百七兆三千百二十二億円となったと発表した。これに地方の借金を加えれば八百兆円に迫る借金の山がそびえ立ち、しかも日々急速に大きくなっている。
 現在のように経済成長率が名目金利を下回っていれば、この債務を税収増で支払うことができず、財政赤字は雪だるまのようにどんどんふくれあがっていく。国と地方の債務残高の対GDP比は国債の日銀引き受けで膨大な軍事費を賄った第二次大戦中に匹敵するほど悪化している。日本政府がデフォルト(債務不履行)に陥る危険性は現実にある。アメリカの格付け会社が日本の国債の格付けをボツワナ以下に引き下げたのは、理由のないことではない。
 健保本人負担の三割への引き上げを柱とする医療改悪や、金持ち・大企業減税と低所得者・中小企業大増税、強引な不良債権処理など、「小泉改革」を進めれば進めるほど泥沼の不況は深刻化していく。
 「日本でさえ景気が改善するだろう」と発言した議長国カナダの首相クレティエンは、記者会見で「しかし引き続き困難な状況にある」と指摘せざるをえなかった。そしてこのカナダの債務残高の対GDP比も、日本、イタリアについで一〇〇%を超えるというきわめて深刻な状況にある。
 サミットは、これらの現実を前にして何の対策も打ち出せず、打ち出そうとすらせず、だれも信じてはいない超楽観的な見通しを何の具体性もなく語るだけに終わったのである。(つづく)(7月2日 高島義一)

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