かけはし重要記事

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                          かけはし2002.7.22号より

グローバル戦争臨戦態勢下で続く沖縄反基地闘争


 六月二十三日、カナナスキス・サミットを目前に控えて沖縄・糸満市摩文仁の平和祈念公園で行われた「沖縄全戦没者追悼式」(沖縄県主催)に出席した小泉首相は、「私たちは、沖縄戦の歴史を後世に語り伝え、将来にわたって平和を守り、二度と悲惨な戦争を起こしてはならない責務を負っている」「沖縄における米軍の存在はアジア太平洋地域の平和と安定に大きく貢献する一方、施設・区域の集中が県民の大きな負担になっていることも事実。県民の負担軽減に向けて誠心誠意取り組んでまいりたい」とあいさつした。
 このあいさつに対して、一般参列席にいた宮城盛光・北中城村議が立ち上がり「有事立法許さんぞ」と叫んで、小泉に対する抗議の意思を表し、会場は一時騒然となった。4期目の無所属議員である宮城さんは祖母とおばを沖縄戦で亡くし、ほぼ毎年、式典に列席しているという。宮城さんは「小泉首相が冥福を祈る一方で、有事立法を進めるのは矛盾していて、満身の怒りを覚える。有事法制ができると平和憲法は死ぬ。県民の思いを伝えたかった」と語った(毎日新聞、6月24日)。
 「復帰三十年」の今年、「安保・基地問題の風化」が語られ、実際に各種選挙でも革新派の退潮が顕著に見られる沖縄ではあるが、根底にある米軍基地の重圧と常時臨戦態勢の現状への拒否感はさらにつのっている。ブッシュのグローバル「対テロ」戦争の出撃拠点となった在沖米軍基地の臨戦態勢が強まる中で、窃盗、恐喝、あて逃げなどの米軍犯罪や、演習場火災、廃油投棄、軍用機からの器物の落下などの事故が頻発している。
 外務省沖縄事務所の報告によれば、一九九五年の米兵による少女暴行事件の後、九六年には米兵とその家族による犯罪の検挙人員は減少したが、その後また増大し、昨年は米軍人・軍属の犯罪検挙人員は七十四人と、一九九五年の六十三人を大きく上回った。家族の検挙人員は一九九五年の十四人が昨年は三十一人と倍以上に増えている(7月10日、沖縄タイムス)。戦時の緊張がこうした犯罪増加傾向を促進しているのだ。
 既成革新が主導してきた沖縄現地の反基地運動が全体として後退している事実は否定しがたい。反戦地主の裁判闘争を支援してきた違憲共闘が財政難と大規模運動の減少によって事務局を閉鎖したことは、それを象徴的に示している。しかし、ジャーナリストで元沖縄タイムス編集委員の由井晶子は「抵抗勢力は労組や政党など大きな組織は痩せたが、小さいほど衰えてはいない」と述べ、五・一五の「復帰の日」から五・一八の「復帰記念式典」にいたる行動に見られた草の根・市民組織の活発な動きにについて語っている(「労働情報」6月15日号)。
 宮城盛光・北中城村議の小泉に対する抗議行動が決して孤立したものではないことは、有事法制3法案に反対、ないし「慎重審議」を求める自治体議会での意見書採択が県内五十二市町村のうち四十八となり、全国でも突出した比率を示していることに示されている。
 本紙7月8日号で「安保の見える丘」閉鎖の動きについてふれたように、在沖縄米軍基地はアジア・太平洋最大の戦略拠点として厳重な警備体制が取られているばかりでなく、質的にも再強化されようとしている。
 七月三日、嘉手納基地報道部は、同基地の第一八航空団が遠征能力を強化する大幅な組織再編を八月十五日に実施する、と発表した。この組織再編では兵たん支援と機動機能を統合した「任務支援群」と航空機や機器の整備能力向上を図る「整備群」を、従来の「兵たん群」と「支援群」に代えて新設することになっている。
 第一八航空団は、戦闘機や空中給油機、空中警戒管制機などの航空隊を有し、所属機は七十四機だが、戦時には最大百七十機まで拡大可能な、米空軍海外部隊中最大規模の航空団である。その活動範囲は太平洋からインド洋までカバーしており、まさに「対テロ戦争」のための「柔軟性」と「機動性」を持った最前線部隊なのである。
 こうした在沖米軍の再編、基地機能の強化と、名護市辺野古に新設をもくろんでいる海兵隊の最新鋭ヘリ基地は一体のものであり、ブッシュの新たな先制的戦争戦略の中で沖縄基地の占める軍事的比重ががますます高められようとしているのだ。
 小泉は「県民の負担軽減に向けて誠心誠意取り組む」と語った。しかし、その具体的内容については決して明らかにすることはできない。G8サミット前に行われた日米首脳会談で小泉がブッシュに対して在沖縄米軍基地について語ったことは「日米外相協議」の提案だけであり、稲嶺沖縄県知事や岸本名護市長なども強調している「十五年期限」問題などは、はなから論議の対象にはなっていない。自民党の麻生太郎政調会長は「十五年という期限を付けた普天間基地移設に一兆円も使うなどもってのほか」と語り、「十五年期限」という建前そのものがもはや通用しない、という圧力を沖縄県当局にかけている。
 小泉首相が七月十日に決定した向こう十年間の「沖縄振興計画」では、もともとの県案では基地問題について「沖縄に関する日米特別行動委員会(SACO)最終報告を踏まえ、さらなる整理・縮小を計画的、段階的に進めていくことが重要」としていたものが「SACO最終報告に基づき在沖米軍の部隊・装備等の移転を含む米軍施設・区域の整理・縮小を計画的、段階的に進めていく」と、「さらなる」整理・縮小ではなく、厳密に「SACO最終報告に基づ」いたものという枠がはめられることになった。
 それもそのはずである。小泉が推進する「有事国家体制」確立の展望は、アメリカのグローバル戦争戦略の一翼を自ら担い、米軍と共同して海外での武力行使を遂行することを目指したものであり、在沖米軍基地の維持・強化は、そのための不可欠の前提条件だからである。
 六月二十七日の毎日新聞は、一九七二年五月の沖縄返還にあたって、返還された米軍用地の現状回復のためにアメリカが支払うべき補償費を日本が肩代わりするという「密約」の存在をはっきりと裏付ける文書をホワイトハウスが作成していたことを報じた。米国立公文書館が保管し、秘密指定を解除されたニクソン政権関連公文書の中にふくまれていたこの文書は、日本政府が密約が表に出ないようアメリカ政府に強く依頼していたことをも明らかにしている。
 しかし福田官房長官は、六月二十七日の記者会見であくまで「密約など存在しない」と居直り、情報開示を拒否し続けている。こうした日本政府が強行しようとする「有事3法案」を絶対に許してはならない。
 沖縄の反基地闘争はねばり強く闘われている。読谷村の米軍楚辺通信所(象のオリ)をキャンプ・ハンセンに移転する問題で、移転予定地に最も近い恩納村喜瀬武原(きせんばる)区の区民は六月三十日の総決起大会で「工事即時中止」を決議した。決議文は「生活地域から数百メートルの地点で着工され、住民に大きな衝撃を与え不安な生活を余儀なくさせている。基地機能の強化、固定化を図るもので断じて容認できない」と述べている。
 七月二日には、宜野湾市の米軍普天間飛行場を離着陸する戦闘ヘリと輸送機などから発生する騒音は「受忍限度を超える」として、周辺住民が市街地上空での訓練や夜間飛行の差し止めを求める普天間基地爆音訴訟団の結成大会が行われた。この結成大会には、地元宜野湾市民だけではなく、普天間飛行場の「移設」先である名護のヘリ基地反対協代表の安次富浩さんも出席し、「この訴訟に勝利し、基地撤去につなげてほしい」と訴えた。
 原告団団長の島田善次牧師は「普天間は日米両政府に『危険な基地』と指摘されながら、今も欠陥機が訓練している。さらにオスプレイが配備されることに、市民として黙ってはいられない」「ここに人間が住んでいるという怒りを法廷にぶつけよう。長期の闘いだが、手を取り合って勝利しよう」と力強く訴えた(沖縄タイムス、7月3日)。
 戦争国家体制づくりの戦略拠点である沖縄の反基地闘争と連帯し、有事法制3法案の廃案・米軍基地撤去を実現するためにともに行動しよう。(平井純一)

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