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カナナスキス・サミット(下)             かけはし2002.7.15号より

深刻化する世界経済危機への無策
とブッシュ政権の戦争政策の突出


 カナナスキス・サミットで採択された「アフリカ行動計画」は、主催国カナダやアメリカ、そしてドイツやフランス、イタリアなどEU諸国がサミットの最大の売り物として打ち出していたものである。
 会議では、今年三月にメキシコ・モンテレーで開かれた国連開発資金国際会議(モンテレー会議)の採択文書「モンテレー・コンセンサス」が再確認され、その政府開発援助(ODA)追加援助年間百二十億ドルのうち、半分の六十億ドル(約七千二百億円)以上をアフリカに回すことと、十億ドルの追加債務免除が決定された。
 会議にはアフリカから、ナイジェリアのオバサンジョ大統領をはじめ、アルジェリア、セネガル、南アフリカの四カ国の大統領と国連のアナン事務総長が参加した。アナン事務総長は会議および決定を「世界史の転換点」と高く評価した。しかしこの援助は決定的に不十分であり、しかも「援助」の方法には「毒」が含まれている。
 国連ミレニアム・サミットは、二〇一五年までに世界の貧困層を半減すると宣言している。世界銀行(WB)の試算では、この実現のためには毎年アフリカだけで四百億ドルの援助が必要だが、サミットが決定した援助額はその約七分の一にしかならない。十億ドルの追加債務免除も、アフリカ全体の借金返済額のたった五十日分に過ぎないのである。
 しかも援助にはさまざまな条件が付けられた。そもそも、再確認されたモントレー・コンセンサスでは、多国籍企業の規制などの途上国側の要求がアメリカや世銀の圧力で削られ、アメリカや世銀や多国籍企業が要求する、より一層の貿易と資本の自由化が打ち出されていた。
 サミット後の記者会見で、イギリスのブレアは「援助は経済の自由化が前提だ」と公然と語った。クレティエンの議長総括も「自由化を促進する諸国」に援助を集中すると述べている。
 六月十日から十三日、ローマで開かれた国連食糧農業機関(FAO)の「世界食糧サミット五年後会合」では、イタリアが提案した「栄養への権利のための国際規範」がアメリカなどの強い反対で否決された。アメリカ政府代表はこの「五年後会合」で、農産物自由化によってアメリカのアグリビジネス(食糧多国籍企業)が提供する遺伝子組み替え農産物を受け入れることが飢餓を解決する道だ、と公然と主張した。それは、アフリカが食糧生産における自立を最終的に放棄し、アグリビジネスの永続的支配を受け入れるということである。「援助は自由化が前提」とはこのような意味なのである。
 「行動計画」では、ダイアモンドなどの希少資源(ハイテク製品に不可欠だ!)が「武器購入の資金源」となり、内戦など治安悪化の原因になるとして、それらの資源管理を「援助」することが打ち出されている。すなわち「アフリカ行動計画」とは、「援助」を通じてアフリカ諸国を、多国籍資本と帝国主義の管理と支配のもとに再び完全に組み込もうとするものにほかならない。
 今回のサミットでは、これまでオブザーバーであったロシアを、完全なメンバーに昇格させ、二〇〇六年サミットの開催国・議長国とすることで合意した。これについて六月二十六日の声明では「ロシアは地球上の問題に対処する重要な役割を担う潜在力がある」「プーチン大統領のもと、経済や民主主義の問題で特筆すべき転換があった」と述べ、プーチンを最大限に持ち上げた。
 サミットでは、ブッシュのイニシアティブによって、「大量破壊兵器の拡散に対するG8声明」が発表され、ロシアの膨大な余剰プルトニウムや高濃縮ウランの管理と処分、退役した原子力潜水艦の解体処理、兵器研究者・技術者の雇用などに、今後十年間で二百億ドルを支援することが打ち出された。
 ソ連崩壊後のロシアは、大量の核物質を抱え、核物質の管理体制が緩み、しかも核兵器技術者が失業しているという状況にある。この状態が核兵器の国際的拡散や核物質の横流しによる「核テロ」につながりかねず、これを防がねばならないということが、二百億ドルの対ロ支援の第一の理由である。
 しかしそれだけではない。それは第二に、経済的苦況を乗り切るためにロシアを世界の核のゴミ捨て場として開放しようとするプーチン政権の政策と、たまり続ける核廃棄物の処分に困り果てる帝国主義諸国の思惑が結びついたものでもある。
 すでに九八年十二月、ロシア原子力省のエフゲニー・アダモフは、アメリカなど各国の関係者に対して高レベル核廃棄物をロシアが受け入れる方向で交渉に応じる用意があるとする書簡を送っている。アメリカ、日本、台湾、韓国、スイス、スペイン、ドイツ、さらにロシア製の原発を運転中の東欧各国、インド、中国、イランなども顧客として見込んでおり、ロシア原子力省はこれで二百億ドルの外貨収入がもたらされるとしている。
 一方アメリカでは、核拡散の危険性を持つ使用済み燃料や核物質をロシアで集中管理する構想を掲げた「核拡散防止トラスト」というNPOが、九九年に発足している。この構想は、使用済み核燃料の国際共同施設をロシアに建設し、アメリカを中心とする国際共同管理下に置こうとするものである。
 ロシアでは九二年に制定された自然環境保護法によって、他国の核廃棄物の持ち込みが禁止されていたが、プーチン政権は昨年七月、世論調査で国民の九〇%が反対しているにもかかわらず、使用済み核燃料の「輸入」を認める新法に署名した。
 原子力開発を続けるすべての国が、たまり続ける使用済み核燃料の処分に困り果てている。処分方法も技術もまったく確立しておらず、受け入れるところもなく、このままでは仮に大事故が起きなくても核廃棄物があふれて原発を止めざるを得ない状況が迫っている。サミットで決定された二百億ドルの対ロ支援は、ロシアを核のゴミ捨て場にしようとする構想の第一歩でもあるのだ。
 サミット直前の六月二十四日、ブッシュ政権はパレスチナ「暫定」国家樹立の前提としてアラファト議長の退陣を求める「中東和平新提案」を発表した。それは、イスラエル各紙が「まるでシャロン首相が書いたようだ」(イディオト・アハロノト紙)、「右派リクードでもこんな演説は書かなかった」(マアリブ紙)とあきれるほどのものだった。
 言うまでもなく今日のパレスチナ紛争の原因は、国連も繰り返し決議した占領地からの撤退をイスラエルが三十年以上にわたって拒否し続け、九三年の暫定自治協定以降もパレスチナ国家の独立を認めようとしないところにある。ガザとヨルダン側西岸に分断されたパレスチナ自治区は、住民を銃と戦車で追い出して作られた百数十カ所の入植地によってズタズタに寸断されている。シャロンが政権についてからだけでも、四十四カ所の新たな入植地の建設が始まっているのである。
 イスラエルが、不法な暴力で作られたすべての入植地を撤去し、国連決議に従ってすべての占領地から撤退し、非道な植民地支配をただちに終決すること、そしてパレスチナ国家の樹立を認めることが「中東和平」への唯一の道である。
 しかしブッシュ政権は、紛争の「泥沼化」の責任がパレスチナ・アラファト指導部にあり、アラファト体制が続くかぎり和平はないかのように、問題を百八十度逆転させて描き出した。まさにそれはイスラエルの商業紙でさえ指摘するように、「パレスチナ自治政府はテロ支援組織」「アラファト議長は敵」という侵略者シャロンの主張を、そのまま追認したものにほかならない。
 しかもブッシュは六月二十六日、サミット出席のために訪れたカナダ・カルガリーで記者団に対し、アラファト議長退陣要求に関連して「軍事行動を排除しない。すべての選択肢を活用する」と語り、武力行使によるアラファトの抹殺まで示唆した。
 それを受けて六月二十八日、イスラエル軍はパレスチナ自治政府本部を立てこもっていた十五人のパレスチナ人もろとも爆破した。イスラエルはヨルダン側西岸のパレスチナ自治区を全面的に再占領する方針を正式に決定した。現在、自治区はイスラエル軍の全面的占領下にある。数十万人の住民は外出禁止令と封鎖で軟禁状態にあり、日々多数の住民が連行され、虐殺され続けている。
 アナン国連事務総長はブッシュによるアラファト排除提案に対して、「パレスチナ人の指導者を決めることができるのはパレスチナ人だけだ」と批判した。サミットに出席した各国首脳も同様の意見を表明した。ブッシュのもっとも忠実な同盟者として軍事行動をともにしてきたイギリス・ブレア政権でさえ、アラファト排除に難色を示した。「ブッシュ大統領の提案を評価したい」と恥ずべきお追従を述べたのは、小泉だけだった。
 重大なことは、アラファト議長を「テロの指導者」として排除しようとするブッシュ新提案が、イラク・フセイン体制を「テロ支援国家」と名指しして先制攻撃するべきだという主張と一体だということであり、軍需産業の意を受けた米国内の主戦論者たちからはそのようなものとして受け取られているということである。
 ロシアをサミットの公式メンバーとし、二百億ドルという巨額な数字に難色を示す日本や一部の欧州諸国を押し切って核物質・核廃棄物管理への国際的拠出を決めたもう一つの意味もここにある。ロシアを目下の同盟者としてアメリカの世界戦略のなかに組み込み、対イラク戦争への参戦は困難だとしても、少なくとも反対はできないように取り込もうということである。パレスチナ和平はサミットによってさらに遠のき、アメリカ帝国主義の対イラク戦争はさらに近づいたのである。
 カナナスキス・サミットは、三十万人の反グローバリゼーション運動に包囲された昨年のジェノバ・サミットの轍を踏むまいとして、山村の会場を厳戒体制で徹底的に隔離して開催された。メディアは、討議の冒頭五分間を取材するためには、四時間前にカルガリーを出発しなければならなかった。検問や待機だけで二時間もかかるからだ。「市民もメディアも遠ざけたサミット」とマスコミに評されたカナナスキス・サミットは、現代資本主義とその帝国主義的支配体制が、世界の労働者人民にどのような未来への希望も指し示すことができず、経済的にも政治的にも自信を喪失していることをあらためて示した。
 サミットで帝国主義諸国が提起したのは、巨大多国籍資本にやりたい放題を保証するあからさまな新自由主義と、グローバル戦争を軸にした政治的統合力の強化という、失業と貧困と不平等と流血と環境破壊の世界でしかなかった。
 サミットに対決して、カナナスキスに近いカルガリーや首都オタワ、バンクーバーなど各地で、パレスチナ解放闘争に連帯し新自由主義と戦争政策に反対する大衆的なデモなどの抗議行動が行なわれた。ブラジル・ポルトアレグレで、新自由主義とグローバル戦争に対決する全世界の反グローバリゼーション運動を結集して開かれた「世界社会フォーラム」が掲げる「もう一つの世界は可能だ」というスローガンは、希望を求めるますます多くの人々をひきつけている。
 このような闘いを基盤として、反資本主義左翼潮流を大衆的な実践的選択肢として登場させようとする闘いもまた、ヨーロッパやラテンアメリカで着実に前進しつつある。民衆の希望はこの闘いの側にしかないことを、カナナスキス・サミットをめぐる状況ははっきりと示したのである。  (7月2日 高島義一)

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