| 下町ユニオン学習会 小川英郎弁護士の講演から
かけはし2007.1.15号 |
| ホワイトカラー・エグゼンプション導入は何をもたらすのか |
昨年十二月二十七日、労働法制の改正に関する労働政策審議会の労働条件分科会が、労働者委員が強く反対するなか、長時間労働、過労死を助長する「日本版ホライカラーエグゼンプション」の導入を盛り込んだ報告書をまとめた。厚労省は、今通常国会に改悪案の提出をねらっている。絶対に労働法制の改悪を阻止しよう。以下の資料は、昨年十一月十五日に、下町ユニオンが行った労働法制改悪反対の学習会で、労働弁護団事務局次長の小川英郎さんが「ホワイトカラー・エグゼンプション制」の問題点を明らかにした講演である。(編集部)
八時間労働制が
なくなってしまう
労働者は一日八時間、週四十時間という法律によって守られて働いてきた。実際には、長時間労働やサービス残業があったりで、過労死が起きています。しかし、法律そのものがなくなっているわけではない。いざとなれば、労基署に駆け込んだり、裁判を起こすこともできる。根本的な法律の保護を大幅に奪おうとする法律が新しくできようとしている。
まずサービス残
業をやめさせよう
二〇〇五年度に労基署によって百万円以上の是正があった企業は千五百二十四社です。金額は二百三十三億円で、労働者一人当たり平均十四万円。労働監督官は全国に三千人で、一人五千社を担当している。到底すべての会社に乗り込んでいって、是正させることはできない。いかにこれが氷山の一角かわかる。サービス残業を全部摘発していったら、何兆円にもなる。それだけサービス残業ということで、労働者から賃金が企業へ、ただで移転している。
一方で、企業は大もうけしているのに、賃金はこの間下がっている。本来はもうかったカネを労働者に還元すべきだが、財界はさらに法人税の四〇%は国際的にみると高過ぎるから、三〇%に下げろと要求している。これとエグゼンプションは同じで、露骨にカネもうけをさらに押し進めるために導入しようとしている。
ILOの調査(2000年時点)によれば、週に五十時間以上働く労働者の割合は、日本が二八・一%と最も多い。アメリカが二〇%、イギリスが一二%ぐらい。ヨーロッパでは七%以下だ。三〇代から四〇代の中堅男性労働者で週六十時間以上働く者が二三%も存在する。有給休暇の取得率は、四六・六四%(2005年)と過去最低を記録し続けている。取得率そのものも毎年減少している。各種労働相談でも、長時間労働の相談が激増している。
本来、厚労省がとるべき政策は、まずサービス残業をやめさせるべきだ。それから長時間労働をやめさせて、もっとゆとりのある働き方を法律的につくり、過労死・過労自殺を予防するための法整備をすることだ。
しかし、今出てきているのは逆の労働時間規制をとってしまうものだ。
労働基準法の
原則とは何か
労働時間は原則として一日八時間かつ一週四十時間を超えてはならない。これに違反すると懲役六カ月以下、罰金三十万円以下の犯罪として、企業に守らせようとしている。
休日を原則として、週一回以上与えなければならない。労働時間は、原則として、実労働時間で算定する。
しかし、労基法の36条で例外規定を設けている。36条の協定を結べば、上限がなく何時間働かせてもよいことになっている。労働組合とか労働者代表と協定を結ばなくてはならない。これは一応労働者に拒否権があり、長時間労働を労働者は拒否できることになっている。
専門職裁量労
働の見なおし制
労基法はどんどん変えられていった。専門職裁量労働のみなし制ができた。このみなし制は、一日十二時間実際に働いていても、この制度を導入すると所定労働時間七時間とみなされてしまう。二つの職種に限定されている。専門職(システムエンジニア、デザイナー、コピーライター、弁護士、公認会計士など)と企画職裁量労働(企画、立案、調査及び分析の業務を行う事務系労働者)。
現在、こうした例外で働いてる人がいるのに、なぜ、いまエグゼンプションなのか。
労基法の適用除外が「管理監督者」(41条2号)とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者。労基法の管理監督者は世間一般の管理者とは違う。@職務内容、権限、責任A出退社の自由度Bその地位にふさわしい処遇となっており、会社の部次長クラスの者をさしている(世間一般の課長は入らない)。
三十二件の裁判例があって、三件のみが管理監督者として認められただけだ。後はすべて労働者が勝って残業代を払わしている。実態は違法なサービス残業が蔓延している。
長時間労働が
最も深刻な層
長時間労働が深刻な層は中間管理職層、システムエンジニアなどの技術系の人たちを中心に長時間化が進んでいる。職種別でみると、過労死・過労自殺の認定件数中、管理職が二一・三%と一四・二%、専門技術職が一四%と二八・二%と、いずれも上位を占め、脳・心臓疾患などでは管理職が第一位、精神障害などでは専門技術職が第一位となっている。
長時間化する最大の問題は、業務量が多いこと。いくら自分で工夫しても、仕上げに時間がかかってしまう。さらに、仕事が非常に難しい。どこかでトラブルが起き、顧客からクレームがくる。同じ仕事が非常にストレスになってくる。その時に、会社が支援しない。もう一人だれかつけてくれれば、その人は休めるがひとりしかいないため休めない。予算が限定されていて、本当に別途のソフトを入れれば楽になるのだけどそれができない。
いずれも適正な労働時間管理がなされておらず、自己申告制になっている。残業代は支払対象外か定額打ち切り制となっている。
成果主義賃金
の問題 点とは
年度に目標を決めて、それの達成率で賃金がきめられる。よい成果を上げるために競争しなければならない。人間の能力にはそんなに差はないから、他の人に勝とうとすると長く働くしかない。どうしても長時間労働に拍車がかかる。残業代払わなくてもいいので、会社は見てみぬふりをする。
自律的労働など
どこにもない
「自律的労働にふさわしい制度」が、「自律的な働き方を可能とする制度」と言い方がかわり、労働者側から、そんな「自律的な」労働なんてどこにもないと批判されると、「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」などと言い換えて、ごまかそうとしている。
制度のねらいは、第一に、近年の労基署の摘発に対して、行政の介入を排除したい。第二に、コストカット。成果があがらない限り、賃金を払いたくない。第三に、過労死・過労自殺などでは企業の労働者への健康への配慮義務が問われる。企業は労働者を働かせ過ぎてはいけない義務を負っている。
しかし、エグゼンプションが入ってくると、企業は労働時間対策をしなくてもよくなる。仮に倒れるとそれは本人が悪い。自分で段取りをとって、自由に労働時間を設定して働けという制度なんだから、働き過ぎたとなるとそれは本人の責任だ。健康管理の責任が企業から自己責任にされる。
エグゼンプショ
ン対象は拡大する
どういう人をエグゼンプションの対象にしようとしているのか。
制度の要件。対象労働者の要件として、次のいずれにも該当する者とする。@労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であることA業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であることB業務遂行の手段及び時間配分の決定などに関し使用者が具体的な指示をしないこととする者であることC年収が相当程度高い者であること。
この四点のなかに、業務量をコントロールできるという観点が何もないことに大きな問題がある。
当初、非常に高い年収要件にして、多くの人に「それだったら、自分に関係ないな」と、思わせようという戦略をねっていたようだ。千七十五万円くらいのラインを考えていた。それからだんだんラインを下げていけば良いと考えていた。
偽装請負が問題になっているが、あれができたときは、ごくごく限定的にした。だんだん対象労働者を拡大し、いまや製造業でも派遣は解禁されている。いったん法律が通ってしまえば、経団連が言っている四百万円水準まで下がっていくのは必須だ。だから、はじめに阻止することが重要だ。
制度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、対象労働者の範囲などの事項を決議し、行政官庁に届け出ること――としようとしている。
最終的には、この労使委員会がどうつくられるかによってかわってくるだろうが、実際としては使用者の諮問機関だ。団交拒否の問題の時の不当労働行為の法律上の救済措置はなにもない。
これがいったん出てしまうと、恐らくは、最終的には四百万円をねらっているということなので、相当多くの人が労働時間の規制から外れていく。そうなってくると、いま、現場で起きている過労死・過労自殺がこれは絶対に減らない。今でも過労死などの裁判で、時間管理していないために、何時間働いたか証明するのがすごくたいへんだ。
六月の素案では、エグゼンプションの導入にあたって、労働者の同意が必要としていたのが一応残ったが、経団連は「個別同意はけしからん」とかみついている。年収要件をとってしまえとか経営側の委員は言いたい放題だ。
現場の労働者の話を聞くと、厚労省の言っているような自律的な働き方をしている人が増えたから、労働時間規制がいらなくなったとか、自由に働いて自己実現をしたい労働者がいっぱいいるから労基法は時代遅れだという主張がいかに、現場の感覚と離れているか、よくわかると思う。
12・5集会の呼びかけには、日本消費者連盟が入っている。組合関係だけでなくて、もう少し広い視点で運動に取り組む必要がある。長時間労働の問題は、労働者自身の問題でもあるが、それとともに家族の問題でもある。おもに男性労働者の長時間労働が問題になっているが、家に父親が帰ってこない。帰ってきてもイライラして会話が楽しくない。子ども立場からみても、長時間労働を是正していくことは重要だ。
中身を知れば誰
も賛成しない
十二月二十一日か、二十七日の労働政策審議会において、建議という最終まとめが出る。法案上程が二〇〇七年通常国会の二月中旬頃ではないかと言われている。上程されると国会闘争になる。七月の参議院選の争点に必ずなる。
厚労省がいろんな案を出してきているが、こうしたものが普通は議論して出すものだが、議論していない。労使が対立して何のコンセンサスも得られていないのに、たたき台だけは出てくる。いまの労政審の議論もなにも話はつめられていない。官僚が裏でいろんな話を聞いてもっともらしい案を出してくる。審議会の議論の仕方じたいにまったく民主主義がない。ここが非常に問題だ。
こうした法律をつくる以上は目的が必要だ。厚労省が言っているような「自律的な働く人、労基法がじゃまでしょうがない人がいる」と言うのなら、「連れて来い、どこにいるんだ」と労側がずっと言っているが、それについては何も答えないままに、自律的な働き方を確保する必要があると抽象的なことだけで、法律案をつくろうとしている。
最近、テレビや雑誌でもエグゼンプションについて取り上げられているが、連合がやったアンケートでは二割しか知らず、聞いたこともないという人が圧倒的だ。こうした中で、知らないうちに法律だけができようとしている。これは非常に危険だ。
逆に、この話を聞いて中味を知れば、賛成する人はいない。広げさえすれば、必ずこの法案はストップできる。(講演要旨、文責編集部)
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