| 第166通常国会と労働者・市民の課題
かけはし2007.1.15号 |
憲法改悪に本格的に踏み出す
安倍政権を追い詰める闘いを |
安倍と御手洗の闘争宣言
昨年秋の臨時国会で、改悪教育基本法や防衛省昇格法などを成立させた安倍内閣は、一月二十五日から始まる第166通常国会で改憲手続き法案と米軍再編法案の成立を次の最重点課題に設定した。
安倍首相は一月四日の年頭記者会見で「憲法改正ををぜひ私の内閣で目指していきたい。参院選でも訴えていきたい」と、七月参院選の争点に改憲問題を押し出す強気の姿勢を示している。また「国際社会で平和に貢献していくために、時代に合った安全保障の法的基盤を再構築する必要がある」として、現憲法下では「集団的自衛権」の行使ができないとする従来の政府統一見解を見直す作業を続けることを明らかにした。自衛隊をアメリカの「対テロ」戦争に動員するための米軍再編を実施し、それと同時に改憲手続き法案の成立を強行することにより、憲法改悪の政治プロセスを一挙に加速化していくことを宣言したのである。
この安倍首相の「戦争国家」体制確立に向けた強気の姿勢は、資本家階級の全面的な支援を受けている。一月一日に日本経団連が発表した、今後十年を見据えた将来構想である「希望の国、日本」(御手洗ビジョン)は、「新しい教育基本法の理念に基づき、日本の伝統や文化、歴史に関する教育を充実し、国を愛する心や国旗・国歌を大切に思う気持ちを育む」「教育現場のみならず、官公庁や企業、スポーツイベントなど、社会のさまざまな場面で日常的に国旗を掲げ、国歌を斉唱し、これを尊重する心を確立する」としている。また「戦力不保持をうたった九条二項を見直し、憲法上、自衛隊の保持を明確化」するとも述べている。
まさに「イノベーション」(技術革新)、経済連携協定(EPA)の締結促進、大企業の有利な税制改革、道州制の導入、雇用を破壊し賃金を引き下げ、労基法など一連の労働法制を改悪して労働者を「底辺への競争」に駆り立てる「労働市場改革」などの新自由主義攻撃と一体化する形で国家主義を注入し、国家と企業に対して唯々諾々とつき従う人材を育成する路線が、支配階級の最高意思として表明されたのである(朝日新聞、1月1日)。
この政府・資本一体となった攻撃に対して、圧倒的多数の人びとを無権利と貧困に追いやる新自由主義的グローバリゼーションへの抵抗と結びつけ、憲法改悪や米軍再編に反対する闘いを大きく前進させる必要があることは明らかだ。改憲手続き法案や米軍再編法案に反対する世論を、こうした立場から全力を挙げて作りだしていこう。
与党と民主党のエール交換
ここでは改憲手続き法案について取り上げよう。昨年十一月三十日、自民・民主両党は改憲国民投票の有権者の年齢を、民主党の主張を取り入れて「十八歳以上」とすることで原則合意した。ただし公選法改定で選挙権を現行の二十歳以上から十八歳以上に引き下げることを前提とし、そのための経過措置期間を「三年程度」とする考え方も打ち出された。
これによって与党案と民主党案との最大の相違点は取り除かれたと報道されている。1月1日の毎日新聞に掲載された「改憲論議節目の年 『還暦』迎える日本国憲法」と題した舛添洋一(自民党新憲法起草委次長)と枝野幸男(民主党憲法調査会長)との対談で、舛添は「新しい年の最大の課題は、(憲法改正の手続き法である)国民投票法案を自公民でまとめること。ほぼ成案に近いものが出来つつあるので、通常国会冒頭、できるだけ早い機会に自公と民主で合意し、成立させるのがファーストステップとなる」と枝野に水を向けている。
これを受けて枝野も「国民投票法制が間違いなくできる年になると思う。施行六〇年、国民の皆さんに憲法について考えていただく機会の多い年になるのでは。ある意味、大きな一年になるかもしれない」と応えている。しかし選挙イヤーとしての二〇〇七年は、与野党の対立が必然的に焦点となり、自公民の合意がスムーズにまとまらず、改憲手続き法案の成立がさらに遅れることを舛添も枝野も等しく危惧している。
両者は口々に語っている。「統一地方選や参院選があるので、憲法改正問題を政争の具にしたり、政局の材料にしないようにしないと。コンセンサスが無い形で与野党が割れたまま進める、ということは憲法では絶対避けるべきだ」(舛添)、「確かに統一選と参院選に関心が高まる中だけに、コンセンサスを大事にしないリスクもある。そうしなければ与野党の共通認識に基づく三歩、四歩目のところが具体的に実感できる年になる可能性があるし、そうしたい」(枝野)、「与党には国民投票法案で『いつまで待たせるんだ。多数決で民主がついてこなくてもやってしまえ』という意見はかなりある。でも入り口で民主と対決して、その後うまく行くのか。こと憲法に関する限り、手続き法であってもコンセンサスを得ないと」(舛添)。
こうして両者は、改憲のための「手続き法案」としての「国民投票法案」を「政争」の具にしてはならず、政治的対立から離れて「コンセンサス」を得ないといけない、という点で一致している。
しかし改憲のための「手続き法案」が最も熾烈な「政治的対立」から「中立」であるべきなどということがあるはずはない。改憲問題は何よりも現在の最大の政治的対決の焦点ではないのか。現に安倍首相自ら、参院選の中心的争点が「改憲問題」であると語っているのであり、この問題と直結した「手続き法案」が「政争」から切り離された「コンセンサス」の対象になると述べることは欺瞞以外の何ものでもない。
憲法改悪への予行演習
「立憲主義」を振りかざして「国民投票法案」が存在しないのは「立法不作為」だと語り、改憲問題とは切り離して「国民投票法」を成立させることが必要だ、というのが枝野や今井一(「まっとうな国民投票のルールをつくる会」事務局長)を含む一部の人びとの主張だった。
この点に関して昨年一月に「許すな!憲法改悪・市民連絡会」は、枝野に出した公開質問状で「『憲法改正国民投票法』の問題は、自民党などの憲法改正の要求から浮上してきたもので、決して『憲法改正に中立的』な問題でははないと思います」と問うた。
枝野の回答は「近年の国民投票法制をめぐる議論が、主に自民党などの憲法改正論の一環として浮上してきたことは否定しません」と認めた上で、「しかし議論のきっかけは何であれ、国民投票法制はもともと日本国憲法の付属法典として整備されることを予定されていたものであり、日本国憲法下で立憲主義が真に機能するための不可欠の手続き法であることは間違いありません」とするものだった(質問と回答の全体は、高田健著『9条が、この国を守ってきた。』梨の木舎刊に収録)。つまり、枝野は現憲法を変えようと変えまいと「立憲主義」を機能させるためには「国民投票法」が必要だと主張したのである。
しかしこの「毎日新聞」の舛添との対談で枝野は、自らの本音を述べている。「投票法案は本体の『トライアル』(試行)なんですよ。本体の憲法改正をやるとき、現場からの積み重ねで合意形成しておかないと。自民党案に野党が修正を加えて可決なんて、あり得ない。中身より簡単な手続き法でさえそれができないのに、本体でやれるわけがない」。すなわちこの改憲手続き法案での与野党の「合意形成」こそ、本体の憲法改悪を与野党合意で実現するために必要な「試行」であると認めているのだ。われわれはこうした「改憲予行演習」を断固として拒否する。
成立阻止する国会行動を
「国民投票法案」が、改憲からは中立的だとする言い分が間違いであることは、与党案と民主党案の双方の内容から見て明白である。井口秀作(大東文化大学大学院法務研究科助教授)は、この点を明解に述べている。
「今回提出された法案は、与党案も民主党案も、『国民投票法』の制定と国会法の改正の両方を含むものであり、その意味では『憲法改正手続法案』とよぶべきものである」「このような法案を『国民投票法案』とよぶことは、その基本的性格をあいまいにするものである。与党案も民主党案も、その施行期日を『公布の日から起算して二年を経過した日』としながらも、国会法改正の部分だけは、『公布の日以後最初めて招集される国会の招集の日』としていることからしても、法案の重点は国会法改正にあるともいえる。その中核は、憲法調査会を、憲法審査会に改組することにある」(「『国民投票法案』に浮上した新たな問題点」、『世界』06年11月号)。
そしてこの「憲法審査会」には、「議案提出権」のない憲法調査会や、その「暫定的後継組織」である憲法調査特別委員会とは違って、「憲法改正原案」や「改正手続に関する法律案」への「審議権、議案提出権」も与えられているのであり、きわめて大きな権限を有しているのだ(井口、前掲論文)。この改憲手続き法案に反対する闘いは、憲法改悪を阻止するために絶対に避けて通ることのできない課題であることが鮮明になった。
その上で、与党と民主党との「コンセンサス」がほとんど出来ているとされる法案そのものの問題点を簡潔に指摘しなければならない。
@改憲発議の方法についてすべてを「一括」投票に付するというやり方はとっていないが「内容において関連する事項ごと」に発議する、という方法の中に危険性が浮き彫りになっている。たとえば九条に関して「専守防衛の自衛隊は認めるが、海外派兵については反対」という意見の人は、その「海外派兵反対」の意思を表現する余地を奪われることになってしまう。
A「有権者」の中から、義務教育を終えた十八歳以下の青年や定住外国人が排除される。また「国民投票」における過半数規定が、「投票総数の過半数」なのか「有効投票の過半数」なのか、「白票」を「無効票」とするのかに関しては、いまだ不確定である。
B「国民投票運動期間」が六十日から百八十日と余りにも短期間であり、有権者が冷静に熟慮して判断するには不十分。かつ放送でのスポットCMについて、資金的に潤沢な改憲勢力が圧倒的な宣伝で世論操作・誘導を行うことへの規制が検討されていない。公費での新聞広告なども政党に限定されている。
C与党案では「罰則」規定は設けないとされているものの、公務員や教育者の「地位利用による国民投票運動の禁止」が残っており、拡大解釈や他の法律の使用による弾圧の可能性に道を開いている。それは自由な言論活動・意見表明に対する圧迫の作用を果たす。
与党案と民主党案の統一のための最終的合意はいまだ出来ておらず、かりに「コンセンサス」ができれば、批判すべき内容はさらに明確になっていくであろう。「まっとうな国民投票のルールをつくる会」の今井一は、この自民・民主案の原則合意をもって、「ほぼすべての項目で私たちの『市民案』と同じもの」と評価し、「会」そのものを昨年十二月十一日付で解散してしまった。
しかし労働者・市民は、改憲手続き法案の与党・民主党合意、成立を阻止し「廃案」とするために国会内外での闘いに取り組んでいかなければならない。改憲派のねらいを的確に暴き、その動きを伝え、国会を包囲する行動に取り組む中から、「手続き法案」の早期上程・成立という「悲願」を再びみたび水泡に帰せしめよう。
通常国会の開催日である一月二十五日、「2007年5・3憲法集会実行委員会」は「改憲手続き法を廃案へ 院内集会」(衆院第2議員会館第1会議室、午後3時半開場)を開催する。1・25集会を出発点に、改憲手続き法案廃案の大きなうねりを組織しよう。
(1月5日 平井純一)
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