| サブプライムローン破綻が意味するもの かけはし2007.10.29号 |
グローバル金融市場の危機と
「ファンド資本主義」の犯罪性 |
八月に起こった米国の低所得者向けで信用力の低い住宅ローン(サブプライムローン)の焦げつきは、米国から全世界に波及する同時株安を引き起こした。それは現在も続いている。低所得者を詐欺的手法で収奪するサブプライムローン問題は、グローバル資本主義の下での金融犯罪とその破綻を示すものである。先進資本主義諸国は金融危機の再来におののいている。そして危機は不可避である。(編集部)
不安におののくG7諸国
十月十九日(日本時間二十日)、ワシントンで開かれていたG7財務相・中央銀行会議は共同声明を採択して閉幕した。同共同声明は「世界経済は力強い成長が五年目に入っている」としたものの「最近の金融市場の混乱、原油価格の高騰、米住宅部門の弱さは成長を減速させる」との異例の懸念を表明した。同声明は「世界的な金融市場の混乱後、金融市場の機能は回復しつつある」が「市場によりばらつきのある状況はしばらく続くと見られ、注視が必要」と危機感をにじませている(日経新聞10月20日夕刊)。
10月21日の朝日新聞は、「手詰まりG7」との見出しで次のように書いている。「『ブラックマンデー』として知られる米国株の暴落からちょうど20年の19日、ワシントンで財務相と中央銀行総裁が金融不安の対策を話し合っている最中に、ニューヨーク株は366ドル安と今年3番目の下げ幅を記録、偶然の一致とは思えないほどだった。原油価格の高騰も不安に拍車をかけた」「原油価格は19日に、一時、1バーレル=90・07ドルの史上最高を記録した。『原油価格がさらに上がれば、実体経済を痛めてしまう』。G7の会議で、欧州を代表するトリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁らは高騰がもたらす危険性を指摘した」。
八月に世界同時株安をもたらした米サブプライムローン(低所得者向けの信用力の低い住宅ローン)破綻問題は、今日の「ファンド資本主義」あるいは「カジノ資本主義」と言われる金融市場の危機を明るみに出した。表面は平静を装っているが、国際的金融機関や各国の財務当局者は、不安におののいている。今日の原油価格の高騰も、サブプライムローン破綻問題に直撃された金融投機の動きと密接に関連している。
そもそもサブプライムローン問題とは何か。そこからはじめて、今日の資本の新自由主義的グローバリゼーションの枠組みに迫る必要がある。
詐欺と収奪の繰り返し
二〇〇一年のITバブル崩壊以後のアメリカ経済の成長(それはまた世界経済の成長の最大要因だったのだが)を主導してきたのは、米GDPの七割を占める個人消費、なかんずく住宅建設の拡大だった。それを支えたのが住宅ローンである。米国の住宅着工統計によれば、二〇〇二年には年間百七十万戸だったのが二〇〇六年一月には年率換算で二百二十九万戸にまで拡大した。それとともに住宅価格も二〇〇〇年から〇五年にかけて平均五五%も上昇し、住宅バブルと言われる現象も生じた(「経済」07年11月号、今宮謙二「八月世界同時株安の本質をつぐる――『ファンド資本主義』の限界」)。
これによって低金利住宅ローンも拡大した。住宅価格が値上がりすれば資金借入がそのぶん容易となり、その借り入れによって個人消費も可能となった。従来ならば住宅ローンの対象とはならなかった低所得者階層に対する貸し付け=サブプライムローンは、それとともに拡大し、住宅ローン全体の二割程度に達したという。
「頭金も収入証明書などの書類審査もいらない」と誘いの下にサブプライムローンに契約した人びとは、「最初の二年間は低利率の固定金利が適用され、その後変動金利に切り替わるが、二年間立てば住宅資産価値の上昇で『借り換え(リファイナンス)可能』」とささやかれた。実際はサブプライムローンは利率が約六〜八%と高いが、二年後にはそれが倍の一〇〜一五%になる。この高収益=低所得者からの収奪を見込んで、大手ローン会社もふくめて事実上の詐欺行為が多発した。
しかし二〇〇六年以後、住宅価格は下落しはじめ、住宅着工も急低落した。住宅バブルは崩壊した。「甘い言葉」でサブプライムローンを勧誘された借り手の側は、二〜三年後の利率上昇にもかかわらず「借り換え」は不可能となり、滞納による差し押さえ、そして家を差し押さえられて「住宅ローン難民」となる人びとが続発した(「週刊ダイヤモンド」07年9月15日号「借り換え困難、資金市場麻痺燻るサブプライム問題の正体」など参照)。
「来年に向けて金利が上がるサブプライムは全米で約200万件。残高では約3500億ドル(約41兆円)と言われる。ちょうど金利上昇のピーク局面を迎えており、元本ベースで約320億ドル(約3兆7千億円)の金利が9月に上がったという。/焦げ付き・差し押さえは推定約49万世帯にのぼるが、『2〜3年のうちに170万世帯が差し押さえられる見通しもある』(シューマー上院議員)」(「朝日」10月16日「実像サブプライム危機・上)。
まさに自ら煽った「住宅バブル」に乗って、低所得者を甘言でだまして高金利のローンを押しつけて高収益を上げ、バブルの破裂とともに「ローン地獄」に追いやり「難民」化させる金融資本の犯罪がここに端的に示されている。
ローン債権の「証券化」
このサブプライムローンの破綻が、グローバルな金融市場全体に波及した最大の要因は、住宅資産ローンの「証券化」にある。住宅ローン会社の債権は金融機関によって買い取られ、これをもとにして「住宅ローン担保証券」という金融商品が作られ、市場で売買される。さらにこの証券と他のローン債権や社債などが組み合わされ、新しく「債権担保証券」が作りだされる(証券化の再証券化)。この過程が何度も繰り返される。その際、この新しく作られた金融商品である債権担保証券の内容はあまりにも複雑に組み合わされているために、信用力の低いサブプイムローンがどれだけ含まれているかは不明となってしまった。
すなわちきわめて不透明なリスクを組み込んだ「ハイリスク・ハイリターン」の証券が金融市場に蔓延することにより、不安定と危機が構造的に拡大している。「結局、証券化が幾重にも繰り返されているために、損失がどの範囲まで拡大しているかがつかめないというのが現状である」(「週刊ダイヤモンド」前掲号「サブプライムローン問題」の本質をつかむ三つのQ&A」)。
むしろ今日のグローバルな金融取引は「リスクの商品化・証券化」によって成り立っているといって過言ではない。この金融投機の中心になっているのがいわゆるヘッジファンドにほかならない。過剰な投機マネーが、この債券担保証券に群がり、喰いものにしたのである。
そして、現在の原油価格の高騰もまた、こうした国際的投機資金、あるいは中国や産油国の外貨準備高増大を背景にした「政府系ファンド」「国富系ファンド」が原油市場に向かったことも大きな要因である。
二〇〇四年の世界のGDP総額が四十一兆ドルであるのに対し、二〇〇六年の世界の株式市場売買額は七十兆ドル、外国為替総取引額は四百七十兆ドルに上る。GDP総額の倍近い株式取引、十倍をはるかに上回る金融投機は、市場の規制緩和と企業リストラ、雇用破壊と権利剥奪・「底辺への競争」による貧困の拡大をもたらした新自由主義のもう一つの側面でもある。われわれは改めて、このグローバルな金融資本の投機的活動が、全世界の労働者・民衆の生存そのものを脅かしていることに注意を払わなければならない。
金融投機と帝国主義国家
サブプライムローン破綻問題は、米国経済と世界経済に深刻な影響をもたらさざるをえない。上述したように米国経済を牽引してきた「住宅バブル」は破裂した。米銀行大手3行のうち最大手のシティグループとバンク・オブ・アメリカは、サブプライムローン問題で巨額の損失をを計上し、大幅減益となった。米大手銀行と証券の計八社の今年の第3四半期決算では、サブプライムローンの焦げ付き急増に関連した損失を抱え、その合計額は、純利益の一・一四倍にあたる百八十二億ドル(約二兆七百四十八億円)に達した。原油価格の上昇も、今後の景気動向にマイナスの影響を与えざるをえない。
日本でもサブプライム問題の直接的影響を受けて、証券最大手の野村ホールディングスが千四百五十億円の損失を計上し、今年度7〜9月期の連結最終損益が赤字転落する見通しを発表した。こうした中で、米景気の低迷が日本の景気動向に深刻な影響を与えることを危惧した日銀は利上げを再び見送らざるをえなかった。
しかし問題は短・中期的な日本経済の動向や、それが福田内閣の経済・金融政策にもたらす影響ということだけではない。よりいっそうの寄生性、投機性を深め、全世界の労働者・農民・市民の運命を自らの天文学的利益のためにもてあそび、奈落の底にたたき込むグローバルな金融資本との闘いを意識していく必要がある。このグローバルな金融資本の支配は、戦争、人権や民主主義の破壊をもたらす帝国主義国家の強権化にささえられている。
新自由主義的「規制緩和」と貧困の拡大の力学に対決する抵抗のダイナミズムを新たに登場させなければならない。戦争と民主主義の破壊、環境破壊と絶対的貧困化に対して闘い、グローバルな資本の支配を規制し、人間と自然にとって持続可能で公正な社会への構想を発展させよう。
来年七月のG8洞爺湖サミットに向けた行動に向けて、あらゆるレベルから資本の新自由主義的支配に対抗する運動と議論を積み重ねよう。(10月21日 河村 恵)
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