| 政府・財界の「税制改革」戦略批判 かけはし2007.10.22号 |
消費税率の大幅引き上げ反対
「反貧困」の課題と結合しよう |
国家財政破綻を住民に転化
現在、国・地方の長期債務残高は約七百七十兆円で、国家予算の約十年分に匹敵する。一九九八年度には十四・九兆円であった公共事業は、〇六年度には七・八兆円へと半減するなど一面では歳出削減が進んだように見えるが、依然として国家予算の三割は新たな国債発行に頼る「借金財政」である。一部学者によると七百兆円を超す長期債務の三分の一強は金融資本を始めとする大資本が延命・「発展」のために「喰った」額であり、また三分の一は公共事業の名のもとにバラまかれた額に相当すると指摘している。
バブル崩壊による危機を脱出した大資本と大企業は今、国家財政の破綻を最も恐れている。大資本の次の「戦略」にとって日本の安定した支配体制は不可避だからであり、そのために〇三年以降、政府・与党に対し繰り返し「消費税率の引き上げによる増税」を提案し続けてきた。これに対して「経済成長戦略」を掲げる小泉―安倍は増税問題を「選挙後」に先送りし、〇七年度に抜本的税制改革を行うという方向のもとですべてを棚上げし続けた。日本経団連を中心とする財界は渋々であってもこれを了承する以外になかった。なぜならバブル崩壊以降の日本資本主義の危機からの脱出と、トヨタを始めとする日本企業の空前の利益増は、政府・与党の協力なしには実現しなかった。銀行をはじめとする金融資本への税金の投入、日銀の低金利政策、労働法制の改悪、なによりも郵便局の民営化。度重なる増税、社会保障の高負担を「国民」に押しつけ、一切の矛盾を「国民」に強制することなくして大資本も大企業も延命できなかったのである。
十月十日の共産党・佐々木憲昭議員の国会質問によると「大企業はバブル期より二倍近く経常利益を増やしながら法人税などの負担が十三・九兆円から十三・七兆円に逆に減っており、法人税率を十年前水準に戻すなどすれば五兆円の財源が出てくる」のである。それは実質的に消費税率が三%から五%に引き上げられた結果得られた税収入をすべて法人税率の引き下げにまわしたことになる。
その結果、バブル崩壊以降消費税率の上昇分に相当する額が個人所得税の上昇、健康保険などの社会保障費の負担増加として住民に押しつけられたのである。
そして今、高齢化問題などで増大する社会保障費に対して、労働者人民の怒りが大資本・大企業に向かう前に、財界と日本経団連は消費税率の引き上げによって社会保障費の「財源」を確保しろと言っているのである。共産党の質問に対して財務大臣の額賀は「企業の国際競争力が強くなければ、失業が増加し経済が不安定化する」とか「企業がアジアに出ていってしまうので法人負担を軽くするしかない」と答弁していたが、実際的にはアメリカもフランスなどEUの多くの国は日本より法人負担は重いのである。
「構造改革」路線の破綻
七月の参院選における民主党の勝利と自民党の敗北は、この間財界や日本経団連が持っていた危惧を顕在化させただけではなく、政府・与党との蜜月関係を激しく揺さぶるものであった。「格差」「貧困」「ワーキング・プア」という言葉に表現される「国民」の怒りが選挙結果として現出したのである。それは「非正規」「派遣」「偽装請負」として全国に広がった労働者の告発や闘いと一体のものであり、一定の軌道修正を政府・財界に余儀なくさせた。日本版エグゼンプションの取り下げ、トヨタやキャノンなどでの正規職採用への窓口の拡大がそれである。
だが安倍の突然の退陣表明は、財界・日本経団連が参院選の結果を受けて開始した軌道修正のテンポを打ち砕き、自民党の総裁選は小泉―安倍のもとで押し進めてきた構造改革路線に対して、どのように評価し、どのような態度を取るのかを一大政治テーマとして一挙に浮上させた。それは構造改革路線の否定、地方財政の改善=消費税という形を取り始めた。
これまで政府・与党に対して一定の枠で「配慮」してきた財界と日本経団連は、あたかも自民党の総裁選に介入するかのように九月十八日、「税制と財政の改革についての提言」を発表した。要約すると@消費税を増税したうえで福祉目的税化する。A当面は二%、一五年までにさらに三%程度に引き上げる。B道州制の導入を展望し、道州が配分権を持つ「地方共有税」を創立し、C一一年度の基礎的財政収支の黒字化を目標とし、D地方法人二税は地域間の偏りが大きいため、基本的に国税の法人税への一体化を図る、というものであった。これは遅らされた消費税の増税をこれを機会に解禁するとともに、一方では自民党総裁選に政治的枠組みを与えるものであった。
これを受けて福田は十月一日の所信表明の中で、「構造改革を進める中で、格差といわれる様々な問題が生じています。私は実態から決して目をそらさず、一つ一つきちんと処方箋を講じていくことに全力を注ぎます」と述べ、市場の力で経済活性化を図る構造改革を後退させ、累積する財政危機に対して消費税の増税で対処することにも言及した。続けて「……財政の面からも地方が自立できるように地方財政の改革に取り組みます」「経済成長の原動力である中小企業の多くは、景気回復の恩恵を受けられずにいます。……大企業と中小企業の調和のとれた成長を図ります」「若者の非正規雇用が増加してきた状況などを踏まえ、……正規雇用への転換促進や職業能力の向上、労働条件の改善など、働く人を大切にする施策を進めてまいります」。ここには小泉が念仏のように繰り返した「改革なくして成長なし」という言葉も税収の自然増につながる「民間活力の活用」という経済成長戦略は完全に忘却され、小泉の靖国神社、安倍の改憲、「戦後レジームからの脱却」という言葉は消され、強行採決による突破とは反対の「野党との話し合い」が前面に浮上している。
だが注意してみると、福田が総裁選で政権公約として主張した高齢者医療費負担増の凍結や障がい者自立支援法の見直し、地域力再生機構構想などの具体的政策はすべて後景に退けられ、抽象的政策に変わっている。これは福田政権が小泉―安倍に替わる「新しい戦略」に基づく政権ではなく、あくまでも「是正」だけの解散―総選挙までの「過渡的体制」であることを物語っている。
消費税率引き上げ準備
福田内閣が発足し、大田経済財政相の再任が決まった時、福田から大田への指示は経済財政諮問会議のメインテーマから小泉―安倍時代の「歳出・歳入一体化改革」をはずし、「地方再生への構造改革」にあらためるということであった。さらに記者会見で町村官房長官は「小泉内閣のときと同じような感じで物事が進められるかというと、それは無理。一層、政府と与党の関係を密にしてやっていくことが基本的に必要だ」と述べた。構造改革路線からの転換を求める動きは、日本経団連の思惑通り「官邸主導」の中心であり、その象徴的存在であった経済財政諮問会議の位置付けを変えることにとどまり、多くは「是正」にとどめることとなった。それは七月の参院選後、自民党の中から「構造改革をトップダウンで推進した諮問会議のせいだ」という声が吹き出したことへの配慮ともいえるし、「転換」を形でみせる最も簡単な対応ともいえる。
十月四日、福田内閣のもとで最初の経済財政諮問会議が開催された。この席で福田の意をくんだ御手洗日本経団連会長ら四人の民間議員が提出した提言書は、「社会保障と税」「歳出改革」「地域経済のたて直し」の三点になっていた。「地域経済のたて直し」がつけ加えられたのである。それでも会議の終了後、出席した民間議員はマスコミ質問に対して「議論の七割方は地方の話だった」といい、これまで力を入れてきた「グローバル化」や「労働市場改革」などは脇に追いやられたとなげいた。
経済財政諮問会議の相対的後退の一方で、これまで実質的に休会していた自民党の与謝野馨が委員長である財政改革研究会や地域活性化特命委員会などが一斉に活動を再開し始めた。財改研は二年前に消費税率引き上げを前提にした中間報告を取りまとめたが、「成長戦略」を掲げる小泉内閣や中川政調会長によって棚上げされ、実質的に休眠状態になったのである。つまり福田政権になって財界の後押しで息を吹き返したのである。
十月十日に開かれた財改研の会議の冒頭、与謝野は「自民党が良心と、将来に対する責任感を持って取り組まなければならない」と言い、谷垣政調会長は「持続可能な社会保障を維持するための課題はたくさんあり、消費税を含む税財源の根本的な検討をしないといけない」と続けた。さらに「急速な高齢化が進む日本の人口構造を踏まえ、歳入面で間接税をしっかり考えるべきだ」等々の意見が相次ぎ、小泉―安倍時代には封印されてきた消費税増税議論が全面的に開放された。またこの会議の集約として与謝野は、「十一月二十日前後には中間的な取りまとめをお願いし、年末の自民党の税制調査会につなげていきたい」と述べ、年末の税制改正論議と来年度予算案の審議の中に消費税増税を公然化しようと決めたのである。
解散―総選挙を射程にして民主党は「当面は消費税は五%のままでやれる」という態度をとっていることに対して、福田を押し上げた自民党は「財源」を人質にして消費税増税に弾みをつけようとしているのである。「洋上給油継続新法」と「政治資金規正法の再改正案」の次の対決軸に、消費税増税問題を内包した税制改正が浮上したといえる。
住民側からの論議が必要
谷垣も伊吹もそれぞれ政調会長、幹事長就任会見で「消費税は引き上げますか」という質問に対し、「財政再建のために消費税を上げるのは国民の理解を得にくいが……最終的には国民に決めてもらわないといけない」と答えている。これは「五年間で最大十四・三兆円の歳出削減」を盛り込んだ〇六年の「骨太の方針」を与党自ら反故にするという宣言であり、現在歳出が歳入を三十兆円前後も上回っている財政の破綻構造を消費税率の引き上げで「突破」しようとする労働者人民に対する「戦闘宣言」に他ならない。バブル崩壊以後、あらゆる矛盾を一方的に「国民」に押しつけ、なおその破産を「是正」という名目で再び「国民」に犠牲を強制するのが今度の税制改正である。
与党と政府は予算審議に合わせて消費税率の「改正」を含む抜本的方針を党税調に提出するといい、これに対応する形で民主党もまた藤井裕久税制調査会長のもとで年末までに税制改革大綱を作成すると述べている。
こうして税制改正をめぐる二つの新しい争点が浮上した。一つは高齢化が進むなかで増大する社会保障費の財源をどうまかなうかである。自民党はすでに決定している「〇八年度に予定されている高齢者医療費の負担増の凍結」を増税問題の突破口にしようとしている。「凍結」は約一千億円の国庫負担が必要であり、加えて基礎年金は〇九年度から国庫負担分を現在の三分の一から二分の一に引き上げることが決定されている。このためには二・五兆円の新たな財源が必要である。日本経団連の御手洗は基礎年金全体の国庫負担化を主張し、その財源を消費税でまかなうように提案している。「全額国庫負担」という甘い言葉の後には税率を六〜七%上げる必要があり、最終的には消費税を一五%にすることを目論んでいる。
同じように「全額国庫負担」を主張する民主党は「次の衆院選までは消費税は五%のままでいける。将来人口構成がさらに変わった時は……税率を一ケタ台の上の方になると思う」と主張している。すべてを「財源」問題にして消費税問題の突破をねらっているのである。われわれの立場は共産党と同様に廃止の決まっている証券優遇税の延長をやめ、法人税率を倍にせよでなければならない。それは「非正規」や「派遣」「偽装請負」で企業を追いつめている闘いと同じであり、労働法制の改悪や過労死問題で闘うと同じ課題である。
税制改正をめぐる二つ目の問題は、七月の参院選で全面化した「地域経済の再生」のための財源問題である。自民党の「地域再生振興委員会」は消費税の一部をこれに当て、再び公共事業などのバラまき予算を主張している。また自民党の一部には小泉も安倍も「やる」といいながら先送りされた「道路特定財源」を一般財政化し、「地方経済再生」の財源にせよという主張である。自民党の古賀誠を中心とする「道路族」は当然にも反対としているが、この「道路特定財源」と結びついた国の各地方行政の補助金がバラマキの中心をなしていたのは明白である。われわれは道路特定財源の半分を占める揮発油税を環境対策にまわすなど新しい視点が求められている。同様に都市と地方格差是正問題にとって決定的に必要なのは、地方法人税(事業税、住民税)の仕組みをどうするかという問題である。地方法人税の四分の一が東京で、さらに全体の四分の三が東京、大阪、名古屋圏で占めている。企業の事務所が大都市に集中することをもろに反映する事業税、住民一人当たりで決められる住民税、法人二税で東京と長崎で六・一倍の差がつくのは当然である。これは思いつきの「ふるさと税」では解決しない。
増税しなくても「財源」はいまの政策を見直すだけで多数存在する。自衛隊の軍事費、インド洋で米艦船に給油しているオイル代、米軍に対する思いやり予算、カネ持ちへの累進課税の強化、議員歳費、思いつくだけでも際限なく存在する。税制に関する論議が必要であり、それはわれわれがどのような社会を展望するかというオルタナティブと密接不可分である。
今日「洋上給油継続法」をめぐる闘いが攻防の中心であるが、同じように消費税率の引き上げ反対、増税反対」を掲げ、福田政権を追い込んでいく闘いが必要である。全国で闘いのスクラムを (松原雄二)
|