| 中国 官僚と資本が進める企業再編 かけはし2007.8.27号 |
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「改革開放」政策の中で一方的に犠牲を押しつけられる労働者階級 |
| 四川省双馬労働者の闘争は全土に広がる闘いの縮図 林 聡 |
企業再編とストライキ闘争
四川省綿陽市の四川双馬投資グループの企業再編は、今年六月二十九日から始まった同グループ基幹事業である双馬セメント有限公司の三千人以上の労働者によるストライキ闘争を引き起こした。今回の企業再編にともなう事件は、長年にわたり中国全土で繰り広げられ、現在も継続しているものと同様のものである。国有企業の赤字、経営陣と政府官僚の腐敗の極まり、労働者に対する暴力と切り捨て……、これらもすべて同様である。
現在、労働者の闘争が到達しているレベルと要求の目標は、一般的に高いものではなく、勝利を獲得するチャンスも多くはないが、しかしそれは依然として貴重な出発点である。労働者階級は闘争のなかでのみその意識を高め、士気を回復し、連帯を深め、必要な経験と自信を獲得することができる。
四川双馬の発展と衰退
国有企業の衰退は、全体的に言って、資本主義化路線と悪質な民営化の結果である。四川双馬の歴史は、重慶特殊鉄鋼工場、重慶3043工場における争議のケースと本質的にはなんら違いはない。
四川双馬投資グループ有限公司は、国有持ち株会社である。綿陽市国有資産監督管理委員会が八九・七二%の株式を保有している(残りの10・28%は双馬グループ労働組合が保有しており、名義上は従業員所有権とされている)。同グループの前身は、四川省江油セメント工場で、一九五六年に建設され、「第一次五カ年計画」で百五十六の重点建設プロジェクトのひとつにあげられており、全設備をドイツから輸入し、当時はアジアの三大セメント工場の一つと言われた。一九九八年、双馬グループは「優良な基幹産業資産」を用いて四川双馬セメント株式有限公司(以下、四川双馬と呼ぶ)を設立、翌年八月に深 証券取引所に株式を上場した。双馬グループが株式の六六・五%を保有している。
今回、ストライキが発生したのは、他でもない江油市にあるこの四川双馬である。この会社は同グループの中核企業と言われている。
「株式制度」「上場」……、これらはかつて「経営メカニズムを転換し、効率を高めることを企業に促す」万能薬である、と言われてきた。しかし、四川双馬の実態はまったく逆である。株式上場の後、一貫して右肩下がりで、最終的に「生産技術の遅れた、生産能力規模の小さい、小さなエリアの市場にしか対応できない後進的セメント会社に陥っていた」(原注1)。
多数の労働者は政府と在野の自由派が鼓吹する「国有企業非効率論」を黙って受け入れてきた。そこで抹殺されたのは、公有制度あるいは国有制度に対する信頼だけでなく、階級解放の展望であり、同時に数世代にわたる労働者の労働と貢献である。往々にして闘争の必要性から、労働者は国有企業の赤字の本当の原因を暴き出すことに踏み込むのであり、そこからさらに進んで官僚たちの罪証を収集し、官僚どもの醜い実態を描き出すとき、労働者たちははじめて自らの数十年にわたる苦労と恥ずべく事なき功績を記憶することになる。
双馬労働者たちも、同じように企業の創設から現在に至るまでの奮闘史を回顧している。「親方赤旗」と嘲笑されてきたこれらの労働者は、辺境の原生林のほとりで「天を掛け布団に、大地を敷布団にして、天地と格闘し、寒暖と闘争し」、当時アジア最大の近代化された湿式セメントの生産ラインを設立し、高い生産量を誇る古い設備を現在に至るまで維持し、後には資金を集めて多数のセメント用サイロを建設した。(原注2)
中国は「物質面の貧しさと科学と文化面での遅れ」という状態から、比較的完備された工業化の基礎の上に発展してきたが、そこには労働者たちの数十年にわたる血と汗の結晶が凝縮されている。(原注3)
資本主義化路線の嵐の中でぼろ儲けをした官僚たちは、旧体制における官僚を上回る権力を有し、多くの特権を享受し、さらに市場経済の助けを借りて、数世代の労働者による労働の蓄積をあっという間に横領してしまった。双馬の退職した労働者による公開状は次のことを暴露した。相場グループの会長、唐月明の夫が、なんら販売の経験もないにもかかわらず、販売ルートに関する権限を掌握してからは、「市の多額納税企業から、赤字企業に成り下がってしまい」、数年にわたる各方面での企業合併の結果、残ったのは赤字と不良債権の山であった。
経営陣は労働者に対する圧力と搾取を強めただけでなく、さらにその骨の髄までしゃぶりつくした。労働者の生命線である六千八百万元の給与積立金にまで手を出し、役員たちが使うための豪華な別荘の建設費用に労働者から集めた建設資金が使われ、労働者から集められた資金数億元が浪費された。そして上場された「職員持ち株」も役員への「プレゼント」にされてしまった。
多国籍企業の侵攻経路
双馬を買収したのは「ラファージュ中国オフショアホールディングス」である。この会社の株主はフランスのファラージュグループと香港瑞安グループが二〇〇五年七月に合弁で設立した「ラファージュ瑞安」である。ラファージュ瑞安は著名なタックスヘイブンである英領バージン諸島に法人登録されている(原注4)。同年十一月、ラファージュ中国オフショアホールディングスは「四川双馬セメント株式有限会社買収報告書」に署名している。
ラファージュはフランス資本で、建材メーカーの巨頭である。一九九九年に四川省に進出し、都江堰市にセメント工場を開設し、その後、成都、重慶、貴州などに展開した。四川省のセメント協会の事務局長である楊渝蓉は得意げにこう分析する。「双馬を買収してから、西南地区の市場はラファージュに握られた(四川省のセメント市場は以前は金頂と双馬の2社によって握られていた)。年間生産能力は三千万トン以上に達した。つぎは西北地区に浸透し、最終的には中国全土を視野に入れている」(原注5)。まさに買弁の面目躍如である。
二〇〇三年八月にラファージュは、香港の瑞安グループ傘下の瑞安建業(西南地区におけるラファージュの最大の競争相手)と統合して、西南地区のセメント市場の約一七%を占有した。瑞安グループは香港の大企業で、セメントや不動産などを手がけている。会長の羅康瑞は二〇〇二年十一月末に中国の全国工商連合会の副会長に選出され、「赤い商人」と称され、中国国内の各地の地方政府にもVIPとして迎えられている。
瑞安グループは早くから中国に進出しており、巨大な利益をあげてきた。不動産のほかに、貴州、重慶などでセメント市場を開拓してきた。競争リスクを削減するために、国有企業の吸収合併、セメント生産ラインの建設という手法を通じてその規模を拡大してきた。
ラファージュや他の外資も同じような道を歩んできた。双馬の企業再編と労働者の闘争については、綿陽市現地だけでなく、四川省、重慶、そして全国でも繰り広げられており、孤立したケースではない。「二〇〇四年六月、綿陽市政府は、……長虹(訳注1)、双馬グループ、東材グループなど、発射の国有企業を含む企業再編の全体的な方向性を提起し、市長をチームリーダーとする企業再編指導チームを組織した」。(原注6)
中国政府と官僚の結託による悪辣な行為と癒着のなかで、外資による国有企業合併の嵐は、いままさに発展している最中である。
買収報告書に署名をした一年半後の二〇〇七年七月十三日、ラファージュ瑞安は、最終的に国有資産監督管理委員会、証券監督管理委員会、工商総局、商務部の許可を受けて四川双馬グループの営業許可書を取得し、中国のA株(訳注2)においてヤドカリ上場(訳注3)を実施した最初の外資系セメント企業になった。許認可のテンポが緩慢だった理由は、双馬の株式構成やグループの再編に関連していたこと、また独占禁止調査などの必要があったからだという。
双馬労働者のストライキは、まさにこの買収案の許認可が出される直前に打たれたのである。
官僚への憎悪と改革への幻想
労働者階級は苦労と苦難を重ねてきたが、官僚は「公然と腐敗を重ね」、国有企業をむしゃぶりつくし、もうけにもうけて、「あふれんばかりの金銀の湯水に溺れ」、別荘を保有し高級車を乗り回している。もちろん燃料代は会社のツケだ。賃金、ボーナス、住宅手当など、吸血鬼どもはこれらを懐に入れることも忘れていない。
労働者たちはいまいましそうにこう罵倒する。「あのクソどもは毎月五万元以上ももらっている……」。これらの現象はすでに珍しいことではない。官僚たちの生活の堕落の度合いも多くを語る必要はないだろう。総じて言えばこうだろう。「かれらは(封建時代の)荘園主よりも豊かな暮らしをしており、我々はまさに奴隷と同じだ!」
では次に労働者たちが出したさらなる結論を見てみよう。
「国民はいつになったら本当の民主主義と公平を享受することができるのか!双馬の労働者は断固として企業再編を支持する。双馬の経営陣は中国有数のこの工場を破綻に追い込もうとしているからだ」。「われわれ双馬の労働者は、ラファージュの参入を歓迎する。ストライキが発生した理由は、長期にわたって双馬の普通の労働者と経営陣との間での賃金のランクに大きな格差があったからだ……」(原注7)。
これらの主張がかなりの部分の労働者の幻想を表現していること信じるに足る理由がある。官僚特権に対する大きな失望と怒り、そして国有企業と旧体制に対する極端な失望は、腐敗し悪臭を漂わせている官僚支配から抜け出す方法として、労働者をして「企業再編」への希望を抱かせることになった。メディアと株式市場はこのストライキを隠し通すことはできなかったが、「ほっと一息ついた」ように次のように語った。
「労働者が問題視する矛盾の焦点は前の大株主である双馬グループであり、」……労働者は企業再編には反対していないどころか歓迎しているので、「政府が前面に立って問題解決に当たり、資金不足も解消すれば、短期間内に問題を円満に解決することができる」(原注8)。
政官財による裏操作で労働者の権利が放っておかれたままの「企業再編」とは、労働者にとって不利益な取引になるのではないか? 雇用契約関係の解消、一部の労働者の早期退職案は、結局は政府からラファージュに対するプレゼントなのか、それともラファージュから出された要求だったのか、あるいはラファージュが直接関与しているのか。われわれはこれ以上の憶測に踏み込むことはしないが、すくなくとも次の点については疑問を呈することができる。
いったい何を根拠に新しい経営陣が労働者に「民主主義」と「公平」をもたらすと言えるのかと。もしかしたらラファージュは双馬を破産から救い出し「一新された技術と管理をもたらす」かもしれないし、それ以上に数年以内に多額の増資を行い、双馬を「全く新しいセメント会社」に変えてしまうかもしれない。しかしラファージュは労働者の待遇を引き上げることについてはなんら言及していない。ましてや「普通の労働者の収入を経営陣」と「同じランク」に引き上げることなどは言うに及ばないだろう。
官僚の堕落と労働者の現実
双馬グループの企業再編は、綿陽市政府、国有資産監督管理委員会、双馬グループの執行部が共同で推進してきたものであり、そのための「再編チーム」が結成された。外部のものは、ブラックボックスの中での取り引きを知ることはできない。しかし労働者たちが描写する事件の経過と官僚の立ち振る舞いは、かれらの堕落と恥知らずがいかほどのものかを示している。労働者は怒りあらわに次のように語る。
「第二番目の再編チームのリーダーである林新は、かつて綿陽市ハイテク地区の管理委員会の主任であり、その後一時期、安県へ左遷され、県委員会の書記を勤めた経歴を持つ。安県の政府所在地の移転は彼の『功績』である。安県では、ある女性を巡って暴力団の頭とカラオケバーで揉め事を起こしたこともあり、安県で知らないものはいない。この事件は安県では誰もが噂する笑い話となった。安県に行って林新のことを聞けば、彼のことを罵らない人間はいない」。
このような人間が、中国の大地において、労働者農民の運命を左右しているのである。
買収報告書には次のように書かれてある。「双馬グループは二〇〇四年五月に再編業務に着手した。労働者代表大会で企業再編と労働者配置案を策定し採択した……。」われわれは当時の「労働者配置案」がどのようなものであったのかを知ることはできない。もし「労働者配置案」が本当に労働者代表大会で採択されたのであれば、労働者はなぜいまだ不満に感じているのであろうか。二〇〇七年六月二十六日、買収案が許可されようとしていた直前、労働者たちが目にしたのは「雇用関係の解消」という恐ろしい言葉であり、身ぐるみをはがれて追い出されるという、残酷な結果を突きつけられた。会社側は在職年数一年につき一三八〇・四元を支払うというものである。また在職三十年以上か、四十歳以上の女性と五十歳以上の男性は早期退職とされた。(原注9)
これは何を意味するのか。労働者が計算したところによると、「もし毎日弁当で十五元で切り詰めた生活を送ると考えて、年間、十五元×三百六十五日=五千四百七十五元必要だ。雇用契約解除の補償金を、在職三十年×千三百八十元=四万一千六百元受け取ることができるが、それは七・五年分の弁当代にしかならない。着るものや住むところ、それに養育費などは含まれていない……」。
役人は労働者がこの方案を受け入れられないことを予測しており、当日は「新しい経営者が安全で順調に工場に入り引継ぎができる体制を確保し、同時に労働者の集団的な陳情事件の発生を断固阻止する」ために、政府は一方では契約解除案を打ち出し、また一方では警察を動員して「双馬セメント工場付近の二郎神廟に全警察力を待機させた。警察の人員が明らかに少なかったことから、六月二十六日午後には江油市公安局は、治安大隊、巡回警察大隊などの部隊から多数の人員を双馬セメントに増援部隊として派遣し、双馬セメント工場の近隣の派出所からの増援を指令した」(原注10)。
三千人以上の労働者の怒りはついに爆発した。六月二十九日午後七時、数百人の労働者が集会を開き協議した後、工場の電源スイッチを切り、全面的なストライキに突入した。
ストライキに
警官隊が介入
かれらは双馬ホテルへ向かい、ラファージュとの引継ぎ式典を行っていた唐月明会長(および綿陽市の役人)たちを包囲して、会社の資金の行方を問いただそうとした。役人どもは機動隊に護送されてやっとホテルから逃げ出すことができた。翌日、ホテル包囲の際に前面で活躍していた女性労働者が政府関係者に身柄を拘束された。怒りに包まれた労働者たちは双馬オフィスビルに押しかけ、六人の経営陣を会議室に閉じ込め、拘束された労働者の解放を迫った。
「その後はよくある話だ。夜六時から七時にかけて、双馬工場敷地内の放送で、江油市公安局長が話し出した。『一部の犯罪分子が事情の分からない労働者を扇動して電源スイッチを切らせてストライキになった。労働者諸君、持ち場に戻り、生産を堅持せよ……』。放送は公安局長の同じセリフとある労働者の自己批判書(双馬化学実験室の職員の自己批判書)を夜八時まで繰り返し放送していた。夜の双馬テレビでもずっと公安局長の講話と労働者の自己批判書が放送されていた。
これを見て怒った多くの労働者とその家族は食後にみんなでオフィスビルに向かった。双馬敷地内の居住区域ではほとんどの家が空になった」。(原注12)(訳注4)
双馬内部の通信は断絶した。株式市場(証券監督管理委員会)も沈黙を保ったままである。地域のインターネットカフェでは双馬のストライキに関するメールや書き込みのやり取りが禁止された。双馬の労働者によるチラシやポスターなどのプリントアウトや印刷などを業者に持ち込んでも拒否された。双馬の労働者がバスで他の町へ出かけようとすると、(長距離バス停留所に待機している警察から)「身分証明書の提示と記帳を求められ、外出の理由を書かないと通行を許可されない!双馬の敷地から綿陽市へ一日一便運行されていたバスも中止された! ああ、双馬の労働者は軟禁されてしまった!」。(原注13)
その後、工場に警官隊が派遣されて工場を占拠した。そして四人の労働者が秘密裏に拘束された。そのうちの一人の労働者は、連行された厚 が派出所で手首を切って自殺を図り、中
市医院に運び込まれた! この事態を受けて政府は他の三人を釈放せざるを得なくなったが、企業再編についての方針は堅持した。これらの事件がインターネットを通じて広まったが、政府はウェブ上で事件の進展を散布したとして二人の双馬関係者を「反動的情報を散布した」罪で拘束した。経営陣らは終始、恫喝と利益誘導、そしてペテンで「労働者を恫喝し、ペテンで生産を再開しようとした」。
全く譲歩しようとしない政府官僚と企業経営陣を前に、双馬の「すべての退職労働者による公開状」(原注14)が張り出された。それは四川省人民代表大会常務委員会、反汚職局、規律検査委員会、四川省総工会に対して、経営陣の汚職問題を徹底的に捜査することを要求し、「もしこの公開状が無視されたならば、つぎは中央政府に訴える」と述べられていた。
ある現地のネチズン(インターネット利用者)は次のように語っている。
「綿陽市のすべての国有企業再編は同じように進められている。雇用関係解除の補償金の金額も大体同じ(闘争のあった企業では少しだけ高くなっている)、争議がおこれば装甲車と機動隊が現場を制圧するし、争議の指導者は騒乱扇動を理由に捕まえられる!もし企業再編の過程で役人がポケットに利益を入れている証拠をつかんだ場合はまた別な問題が生じる!」
幻想を捨て闘争の堅持を
「沈黙する双馬労働者」。これも現在の国有企業労働者の普遍的なイメージである。かれらは「単純で単一」で「これまでずっと自らの分をわきまえ、管理に服従するということで名を馳せている」。止まる所を知らない集団的闘争事件において、「理性」、「過激な行為は絶対に避けなければならない」などの主張がますます声高に叫ばれている。
しかしこれまでに、大多数の闘争する民衆は一貫して「理性的」であり、「過激な」行為あるいはそのような場面を見ることは少ない。過激なのは例外なくつねに経営者や官僚やかれらに派遣されてくる軍隊や警察や機動隊や暴力団やチンピラたちのほうである。双馬労働者の闘争でも同様である。
前述のとおり、双馬労働者は企業再編に対して幻想を抱いている。
ある労働者は次のように語る。「われわれも双馬の一員だ。みんな企業再編は歓迎している。……われわれは正当な利益が保障されることを希望しているだけである。……いまわれわれの配置転換の補償金でさえも削られている。自分達の利益のためにできる唯一の方法、それが理性的な権利闘争(ストライキ)であり、それ以外に選択肢はないのだ!」。
またある労働者は次のように語る。「多数の労働者は、恨み重なる役人達に対する処分さえ実現すれば、たとえ補償金を手にすることができなくても……」。
労働者が抱く恨みは、企業再編の結果がもたらした悲惨さと不公正さに対するものであり、企業再編それ自体に対するものではない。逆にかれらは企業再編で腐敗官僚の支配から抜け出すことができるのではないかという幻想を抱いている(しかし「企業再編」はまさに腐敗官僚らによって行われる)。「腐敗反対」と「権利闘争」は彼らが用いることのできる数少ない武器となっている。そして資本(ラファージュ)に抱いている幻想は、労働者が今後厳しい情勢に直面するための思考とそのための準備を妨害する。
「資本」は「官僚」よりもましなものなのか。「世界500強」のラファージュの役割と言動を見てみよう。表面的には他の企業と同じく、企業再編の前面に出ることはない。それゆえ企業再編とストライキ事件に対する責任はないように思える。
「ラファージュが四川双馬への経営参加の過程で支払った株主権の譲渡費用によって従業員の移籍補償費をまかなった」(原注15)という者もいる。しかしいわゆる「従業員の移籍」とは単に経営者が変わるというだけでなく、雇用保障を完全に喪失するということである。ラファージュは約束を守ることを公言している。しかしその約束とは「すべての在職職員を少なくとも三年は雇用継続する」(原注16)というものおよび「現在の労働条件を保障する」(原注17)というものである。ではラファージュが保障するという双馬労働者の「現在の労働条件とは」どのようなものなのかを見てみよう。
「苦労を厭わない労働人民」であり「善良で、仕事を敬い、家族のごとく工場を愛する」双馬労働者は、「国家のために十億元以上もの法人税を納めたが、自分達の収入は極めて少なかった。唐月明が会長に就任してからのこの十年は、労働者の賃金水準は基本的に抑えられたままだったが、社会の賃金水準は猛スピードで引き上げられてきた。
いまでは、綿陽市の賃金水準はすでに一カ月あたり一三八〇・四元に達しているが、普通の双馬労働者の賃金はわずか五百元から八百元である……。たとえば多くの労働者が子どもを養うのに自分の親の収入(退職金)に頼らざるを得ない。これは本当に情けない……」。「十五年も働いている労働者の一カ月の収入がわずか六百元にしかならない」。しかも三百〜四百元しか受け取れない労働者も少なくない。
「全世界七十六の国家に二千百もの生産拠点と八万人の従業員を雇用し、二〇〇五年の販売総額が百六十億ユーロに達した」巨大企業が労働者に約束した労働条件がこのような暗澹たるものなのである。
経営者と官僚
は「義兄弟」だ
実際、インターネット上では双馬に対して次のように喚起する主張が流れている。「ラファージュは早くから重慶でも企業再編に携わっていた。重慶最大のセメント工場である騰輝セメント工場(元重慶第二セメント工場)でも同じように企業再編に携わってきた。最新技術の生産ラインを導入し、かつコストを削減しなければならないことから、一部の労働者を正式に労使契約を解除する。すなわち金を払ってやめてもらう。みんな国家の正式な労働者からレイオフされるということがどういうことなのかについては分かっていた(とくに中年の人間は)。その後、労働者はストライキを打ったが、政府の力でむりやり操業を再開させ、最後には軌道にのせられた」。
労働者はここから次の事実を知る必要がある。今日の経営者と官僚は杯をかわした義兄弟であり、強固な利害関係をもつ同盟であり、そしてどちらも労働者の敵である、と。
現在と将来の生活保障のために、官僚に奪い取られた労働の成果を奪回するために、「公正を取り戻す」ために、双馬労働者は自らの要求を提起している。職員保険の解除に関連し、レイオフ労働者に失業保険および「失業証」の手続きを行うこと、職員の積み立てた資金(子会社の徳_実業公司の所有権)とそれに関連する既得権の返還、住宅手当の問題、双馬グループの所有権の一〇・二八%の職員持ち株を実際の移譲価格に従ってもとの職員に支払うなどである。各地で繰り広げられている労働者の闘争の結果から見て、要求が実現される可能性は少ない。厳しい前途において、持久戦の準備は必要である。これは不均衡な階級間の力関係の結果である。
労働者が資本(ラファージュ)に抱いている希望は幻滅にかわるだろう。ラファージュはすでに経営に携わっている。だが労働者はいまだ次のことに気がついていない。これまでの管理者による劣悪な状況と待遇を、ラファージュが改善することに同意はしていないことを。
そして(ラファージュが維持すると約束している)「現在の労働条件」は、そもそも労働者にとって「屈辱的」と考えられていたものなのである。それゆえ、双馬労働者はラファージュと団体交渉を行い、労働条件の改善と賃金と福利厚生を引き上げる要求を行ない、ラファージュによる一方的な解雇を阻止するための準備を行わなければならない。組織化を行ない「民主主義と公正」――それはまさに労働者が望んでいるものである――を勝ち取らなければならない。
官僚が「公正を守る」という幻想だけでなく、「先進的」な資本家に対する幻想をも払拭しなければならない。これは労働者にとって極めて重要なことである。また、上級政府、あるいはインターネットに過大な期待を抱くこともできないだろう。社会的な影響力を広げることや世論の支持を勝ち得ることは闘争の多様な手段の一つに過ぎない。労働者自らの力以外に、現在の労働者の状況を変革できるものはない。また自らの組織化と階級的団結のほかに、労働者が持てる力はなにもない。労働者の闘争、あるいは「権利の闘争」においていま最も必要とされているものは、自分たち自身の組織化である。
また、関係する工場や近隣の工場の労働者との連帯と連絡を広げる努力をする必要があるだろう。これまでの経験から、単に一工場での闘争に限定されたものであるなら、運動の力はあきらかに限定されたものにしかならない。もちろん、工場内での組織化であろうと、工場外の労働者との連携であろうと、当局によるかく乱と弾圧を招かざるを得ない。労働者の最も重要で最も基本的な自衛の武器は、一貫して厳しく断固として妨害され、抑圧され、禁止され、弾圧される。これらの武器をかちとる、そのためだけでも厳しい闘争を潜り抜けなければならない。
労働者階級の現状と闘いの展望
ストライキ闘争において、双馬労働者たちは、自らが団結して生産を管理し、企業の経営を主導するということを想像することはできなかったし、想像することを恐れさえした。官僚や資本家に頼ることなく、「企業再編」に頼ることなく、自らを組織化してその運命を握ることが必要である。確かに、われわれ労働者階級はそのようなレベルにまでは遠く及ばず、現在の闘争は、そこへ達するための万里の長征の第一歩でしかない。
官僚独裁の悲しむべき結果は、労働者が何ら民主的な権利を有していないということである(しかし比較的高い社会的地位と社会保障は獲得したこともあった)。
これは「公有制」「計画経済」の負の結果であり、労働者階級の意識と混乱と消沈の根本的原因である。双馬労働者が官僚に反対する闘争において資本と企業再編の将来に幻想を抱いていたが、それは労働者階級が普遍的に経験不足であることの表現でもある。各々の国有企業再編でも、あるいは「改革・開放」路線全体においても、労働者階級は終始発言権がなかった。まるで「まな板の上の鯉」のように。そして開放政策によって「トロイの木馬」を招きこんだ。「改革・開放」は労働者を生贄として踏みつけにし、叩き出した。
中国労働者階級の多数は依然として深い困惑と消沈の中にとどまっている。困惑が消沈を加速させ、消沈はあらゆる展望への道をふさいだ。官僚の独裁、腐敗、無能は、国有企業を半死半生の状態に追い込み、それは労働者の不満を引き起こし、変革への渇望を呼び起こした。しかし如何に変革するのか。
問題は次のところにある。労働者は無権利で、無経験で、企業再編に対して自らの要求を提起してもこなかった。少数の抵抗者が「毛沢東思想」の旗印を掲げ、雇用と待遇を守るという正当な願望が屈折して表現される。そして多数の国有企業労働者は、市場経済の巨大な流れの中で、旧体制への回帰という展望を持たない、本当に旧体制に戻りたいかどうかについては言わずもがなである。
多数の労働者は「改革」で「今よりもよくなるだろう」という期待を寄せてきたが、結局は労働者にさらなる打撃が加えられた。冷酷に街頭に投げ出される事態が身に及んではじめて、労働者達は「権利闘争」を迫られる。厳しい政治的状況や凶暴な弾圧のみが労働運動の凋落の唯一の理由ではない。階級意識と階級闘争への意識、団結して抵抗する経験の欠如、社会の展望に対する困惑など、これらがその理由の根源なのである。
闘争なくして獲得するものはない。もちろん必ず成果が得られるとは限らない。しかし闘争すらしなければ、弾圧され、なされるがままにしかならない。闘争のためであろうと、闘争で勝ち取った収穫を維持するためであろうと、強固かつ柔軟な組織化が必要である。そうでなければ獲得物はいつでも失う可能性があるからである。この二十年、相次ぐ国有企業改革のなかで、官僚は最初にわずかな利点を労働者に示し、「改革には希望がある」と労働者に思わせる。その後、労働者に対して残忍な仕打ちに打って出る。次から次へ続く搾取が待っている。これこそが労働者階級が汲み取らなければならない無残な教訓である。
官僚と経営者に対する幻想をかなぐり捨て、労働者階級自身の組織化に根ざし、意識的に反資本主義の道へと踏み出し、労働者階級の集団的な力量を通じて工場を接収し、最後に労働者民主主義を官僚と資本家の支配する社会に取って代える。極めて長く苦難に満ちてはいるが、しかしこれこそが労働者階級にとっての唯一の征途なのである。
原注
(1)「拉法基瑞安西南大重組 三・〇五億収購四川双馬」、21世紀経済報道紙、二〇〇七年七月十七日
(2)「四川工人維権 双馬停産懲腐」、二〇〇七年七月八日参照
(3)当然、農民や農業によってもたらされた巨大な蓄積も含まれている。
(4)「四川双馬水泥股分有限公司収購報告書摘要」、二〇〇五年十一月十五日、出典は上海証券報。
(5)同(1)
(6)「股改前夜全球最大建材企業拉法基搶籌四川双馬」、二〇〇五年十月二十三日、21世紀経済報道紙
(7)発信者不明のインターネット上の書き込み。おそらく双馬の労働者によるもの。他の地域や他の工場からの書き込みは注目に値する。「ハルピン人民は君を支持する!」「双馬の今日は、あすの金頂だ」など。金頂は四川省にあるもう一つの大型国有セメント企業。
(8)「四川双馬:中長期拉法基入主質変趨勢依旧」、出典は申銀万国研究所、二〇〇七年七月十二日、著者、林珍。
(9)政府が公表した二〇〇六年度の綿陽市都市労働者の平均収入。
(10)「双馬改制 数万工人遭殃」
(11)この「自己批判書」は、当局が偽造したものか、労働者が迫られて書いたものなのかは不明である。
(12)「双馬改制 数万工人遭殃、為鳴不平、停産罷工(三)」
(13)「双馬改制 数万工人遭殃、為鳴不平、停産罷工(四)」
(14)中国の国有企業の経営陣は、労働者に対してレイオフを脅し文句にすることから、退職した労働者が闘争の前面にでることがしばしばある。
(15)「四川双馬 停工事件得到解決」、証券時報、二〇〇七年七月十七日
(16)「『在職職員』には雇用契約を解除された労働者は含まれない。」申銀万国研究所、二〇〇七年七月十二日、著者、林珍。拉法基
(17)「拉法基瑞安水泥首席執行官華顧思在四川分公司成立慶典上的致詞」、水泥商情網、二〇〇七年七月十一日
(18)「四川双馬:西南水泥寡頭拉法基中国藍図開巻」、二〇〇七年六月六日、出典、申銀万国。
(19)「双馬目前現状(工人和政府的分岐、六月二十六〜二十九日)」、「四川双馬集団買断工齢職工基本要求」および双馬退職労働者による腐敗管理職に対する徹底した調査要求を見よ。
(20)双馬労働者の闘争に関するインターネット上の情報は次々に削除されている。
訳注
(1)長虹:四川省に本社のある中国の大手家電メーカー。今年六月、マイクロソフトが、戦略的投資として九千四百五万元(約15億円)を出資して同社の非公開株千五百万株(全発行株の3・75%)を取得した。
(2)A株:人民元建てで取り引きする株式。上海、深 の証券取引所で取引される。二〇〇二年十二月に財務内容や資産規模で適格と判断された外国機関投資家に、一定の保有上限の範囲内(最低5000万ドル、最高8億ドル)で購入を解禁した。
(3)ヤドカリ上場:非上場企業が上場企業を買収することで、株式上場の権利を得る行為。
(4)双馬住居区域:中国の大型の国有企業では、敷地内に事業所だけでなく、住宅地、病院、学校、放送局などがあり、一つの社会を構成している。
(先駆社のウエブサイトより)
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