もどる

「消えた年金」問題と安倍政権の危機           かけはし2007.7.2号

社会的公正をめざす闘争と結合し参院選の中から改憲阻止のうねりを


安倍内閣と与党の悪あがき

 安倍内閣と与党は、国会会期末を一日前にした六月二十二日、会期を十二日間延長し参議院選挙の投票日を七月二十二日から一週間延期して二十九日にすることを決定した。この強硬きわまる国会運営は、「五千万件の消えた年金記録」をめぐって労働者・市民の不信と怒りが安倍内閣に集中し、安倍内閣の支持率もついに三〇%以下に低下するなど、このままでは参院選での与党の大敗北=大幅な過半数割れが必至だとの深刻な危機感に基づいている。
 「誰のものか分からない」保険料納付記録が五千万件に達したことが明らかになり、労働者・市民が納めた年金保険料が「未納」とされ、このままでは年金を全額受け取れない人びとが多数出ていることは、政府・厚労省と社会保険庁による国家的サギと収奪にほかならない。社保庁は、この「消えた年金記録」の存在をすでに十年も前から把握していたという。安倍内閣は、今年初頭にはすでにこの事実を知っていた上で、隠蔽を図ろうとしたのである。
 実際、安倍は二月の衆院予算委員会で、加入・受給者に納付記録を送付して点検を促すよう野党議員から質問された際、「年金そのものに対する不安をあおる危険性がある。従来から個別にご本人に年金の加入記録を確認していただいている」と答弁し、五月八日の衆院本会議でも「基本的な問題は解決済み」としていた。
 だが「消えた年金記録」によって年金を受け取れない人びとが、各地の社会保険事務所に問い合わせをした際、社会保険事務所は自らの責任を居直って「納入の証拠」を求め、何十年も以前の「領収書」の提出などを求めるという官僚的な対応に終始した。その際、国会答弁で安倍首相は野党の追及に対して「申請通りに年金受給資格を認めよというのか」と居丈高に反論し、いっそうの怒りをかき立てることになった。

「元凶は公務員労組」なのか?

 安倍内閣と与党はここに至って、「改憲」を前面に据えた参院選方針を「年金」を中心にしたものに置き換え、攻撃の対象を「親方日の丸」の公務員労組(社会保険庁職員の六〇%以上は自治労・全国社会保険職員労組加盟)と民主党に設定している。中川秀直・自民党幹事長は「特権に安住した公務員労組」との闘いが、参院選の最大の「争点」だと叫んでいる。政府は社会保険庁職員に対して夏期一時金の返上をも強要している。国会の会期延長は、年金特措法と「役人の天下り廃止」を断行する「国家公務員法改正」のためだというのが安倍内閣と与党のキャンペーンである。
 「天下り廃止法案」という宣伝は全くのデマゴギーである。この法案は省庁ごとに行っている高級官僚の「天下り」ではなく、内閣に「新人材バンク」を作って一元的に「再就職」をあっせんするものに過ぎない。これによって官財癒着や「官製談合」がなくなるとする政府の主張はお伽話以下のしろものである。
 他方「消えた年金」問題の本質は、人びとの生命と健康をないがしろにし、公的社会保障・公共サービスを解体して市場原理に委ね、貧しい人びとから医療と福祉=シビルミニマムとしての生活権を奪う政府・与党と財界=資本の新自由主義的戦略と一体のものである。コムスンの不正と「消えた年金」はまさに共通の土台に発している。
 参院東京選挙区から立候補する元HIV訴訟原告の川田龍平さんは、「国民年金台帳」の破棄を命じた社会保険庁長官が厚生省薬務局長だった当時、製薬資本と結託して汚染製剤の輸入継続を認め、薬害エイズを拡大させた張本人だったことを厳しく批判している。

生活圏を保障する基礎年金を

 われわれは基礎年金制度については累進制を強化した所得税と法人税によって賄われ、東京の生活保護支給額と同程度の最低給付水準が保障されるべきであると主張する(高島義一「年金大改悪を打ち破ろう! 全額国庫・事業者負担で生存権保障の基礎年金を」本紙04年3月8日、15日号参照)。労働者・市民は、「制度の根幹」に関わるとされる「消えた年金記録」問題を、自らの生活権・生存権をどのように実現していくかという問題として捉え、生きる権利を剥奪する新自由主義に対する批判と抵抗の論理を確立していく必要があるのだ。
 しかし政府・与党は、今回の「消えた年金」問題に関する自らの責任を覆い隠すために、年金・医療保険・介護保険の個人情報を一元的に管理する「社会保障番号」を二〇一一〜一二年度をめどに導入し、ICチップ入りの「国民カード」を全国民に配付する方針を固めている(朝日新聞、6月23日)。そしてそれを「住民基本台帳ネットワーク」(住基ネット)と連動させるというのだ。このようにして職歴・健康状態・病歴などの個人情報が一つの番号で国家によって集中的に管理される制度を強化しようというのである。
 われわれは自らの失態を、新たな住民管理・監視システムの強化に転化しようという政府のねらいを許すことはできない。

保守2大政党構造を超えて

 「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍政権は、国際的・国内的に重大な袋小路に直面している。「日本会議」などの極右勢力を主軸にした安倍政権は、安倍自らの「慰安婦の強制連行はなかった」とする発言によってアメリカの主流政治家・メディアなどからも猛反発をくらった。自民党・民主党などの「日本会議」系国会議員などが名を連ねた「慰安婦強制連行の証拠はない」とする意見広告は逆効果となり、七月にも「軍隊慰安婦」問題での明確な謝罪と補償を求める決議案が米議会で採択確実の状況となった。沖縄戦での日本軍の強制による住民の「集団自決」を否定した教科書検定意見の撤回を求める決議は、沖縄の各市町村議会に続き、六月二十二日、県議会でも全会一致で可決された。
 安倍内閣と与党は、安倍が擁護し続けた松岡農水相の自殺、年金問題に発する急速な支持率の低下と参院選での大敗必至の状況の中で守勢にまわっている。この情勢の中で、参院選の結果次第では、安倍の責任追及の声が自民党内にも高まり、「政党再編」もふくんだ急速な政局の流動化も予測される。そこでは民主党の分解、あるいは改憲問題を射程に入れた自民・民主の事実上の「協力」関係の進展もありうる。
 それは、労働者・市民が、自民党が二〇一〇年にもかまえている「改憲発議」の阻止を最大の焦点とした闘いをどのように準備していくかを突きつけている。われわれはこうした立場から七月参院選に全国各地で取り組んでいかなければならない。
 安倍内閣と与党は、今国会において強行採決を幾度も繰り返して改憲手続き法、教育4法、米軍再編特措法、イラク派兵特措法改悪などを成立させた。さらに「集団的自衛権」の行使を違憲とした一九八一年の政府見解を廃棄する「有識者懇談会」会合を発足させた。安倍内閣の危機の中で、その攻撃は憲法改悪と米軍と一体化した「戦争国家」体制づくりへと一直線に向かっている。われわれが繰り返し主張してきたように、この「改憲・戦争国家」体制は、資本のグローバルな競争の中での生き残りをかけた新自由主義的な国家・社会再編と緊密に結びついている。それは「ワーキング・プアー」問題に表現される絶対的貧困化の加速、労働法制の改悪・権利の剥奪をもたらしている。
 われわれは今回の参院選において、憲法改悪・戦争国家体制の構築に反対し、「底辺への競争」に抗して社会的公正の確立を訴える政党・候補者の当選のために全力を上げる。われわれは共産党、社民党など改憲に反対する政党・候補への投票を呼びかける。東京では元HIV訴訟原告の川田龍平さん(無所属)、沖縄では辺野古新基地建設に反対し米軍基地撤去を求める糸数慶子さん(野党統一候補)の必勝を訴える。また広島選挙区では河野美代子さん(無所属)への投票を呼びかける。
 極右国家主義・改憲推進の安倍政権にノーを突きつけよう。新自由主義的グローバル化への抵抗の意思を鮮明に示そう。参院選の中から、「自民・民主」の保守二極化構造を批判する労働者・市民の新しい政治の流れを作りだそう!
(6月25日 平井純一)


もどる

Back