| 落日のG8と多極化する世界 かけはし2007.6.25号 |
|
ハイリゲンダムサミット 米日同盟の国際的孤立が深まる |
| 「もう一つの世界」をめざすオルタナティブ運動の連携を |
利害調整の枠組みは崩壊
六月六日から八日、ドイツ・ハイリゲンダムで開催されたG8(「主要国首脳会議」)は、気候変動をはじめとする今日のグローバルな経済・社会・政治問題に対する各国の思惑の対立が、G8の枠組の中では解決どころか調整すら不可能であることを明らかにした。
米国・ブッシュ政権は対イラク戦争の行き詰まりの中で、今回のG8においていかなる積極的なイニシアチブも準備できず、「単独主義」外交政策の失敗を取り繕い、体面を保つことに終始した。
ヨーロッパの主要諸国は、英国を除いて、米国の外交政策からの離反を進めて来た。新自由主義にもとづくグローバリゼーションを進めるという点では、ヨーロッパ諸国と米国の政策に基本的な違いはないし、社会的危機の深化に対して強権的支配の強化によって対応しようとしている点も同じである。それにも関わらず資源、新興市場、金融・通貨、環境ビジネス等をめぐる利害対立は、G8の政治的結束すら引き裂きかなねい状況に入っている。
しかし、G8が解決・調整能力を低下させている真の理由は、この数年間に顕著となってきた中国、ブラジル、インドなどの新しい経済・政治大国の台頭である。一九九八年からG8に加わったロシアを加えたこれらの諸国は、それぞれに新自由主義にもとづくグローバリゼーションに適応しつつ、その経済的影響力に対応して政治的発言力を強めてきている。そして気候変動をはじめとするあらゆる重要な問題が、これらの諸国の実質的参加なしに決定・実施することができなくなっている。
グローバル・ジャスティス(グローバルな公正)を求める世界的な運動は、G8が世界の政治・経済の仕組みを決定することに異議を唱え、G8の正統性の欠如を指摘してきた。そして今やG8は、実質的な影響力の点から見ても、その役割を終えつつある。米(日)欧の利害調整が困難になっているだけではなく、米(日)欧の利害調整によって世界の秩序が保たれるという枠組が崩壊しているのである。
温室効果ガス削減と市場原理
気候変動をめぐっては、「二〇五〇年までに温室効果ガスの排出量を少なくとも半減することを含むEU、カナダおよび日本による決定を真剣に検討する」ことが合意され、すべての主要排出国を含む包括的な「ポスト京都議定書」(二〇一二年以降の目標設定)の枠組みについて、〇九年までの合意を目指すことが確認された。
排出量削減に関してはこれまで、EUが「意欲的」な目標を掲げ、米国がそれに抵抗してきた。EU諸国は環境ビジネスにおいて先行しており、排出権取引のシステムの確立においても優位に立っている。
しかし、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が今年二月に発表した第四次報告書を基にした計算では、二〇五〇年までに半減と言う目標すら、温暖化を抑制するには全く不十分であると言われている。
問題は、メルケル・ドイツ首相の「意欲的」な提案も、経済成長を維持しながら、つまり現在の消費水準を維持しながら温室効果ガスの排出を減らすという前提に立っている点である。
G8の議長総括は、具体的な対策として次のように述べている。「技術、エネルギー効率、および排出権取引制度または税制上のインセンチブを含む市場メカニズムは、エネルギー安全保障を強化するとともに、気候変動を抑える鍵である」。
「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」のウォルデン・ベリョ氏は次のように指摘している。「……(G8の宣言案は)たとえば、自動車の利用の大幅な削減を提案するのでなく、自動車の台数が二〇二〇年までに現在の二倍の十二億台に増えることを前提としている。この宣言案は生産の拡大と、バイオ燃料等の代替燃料の開発の加速化を提案している。宣言案の起草者は、温室効果ガスの排出の一層の削減を提案できない。なぜなら、彼らは温室効果ガスの排出を大幅に削減しながら効率と競争力を維持することは、現在の技術では不可能だということを知っているからである。したがって、解決策は、目標を下げて、人々にそれが現実的な目標だと思い込ませることである」。
また、排出権取引などの市場メカニズムを通じて温室効果ガスの排出量を減らすという政策が、投機的な取引や不正・腐敗の温床となることは容易に予想できる。
気候変動をめぐる議論の中で原子力がクリーンな燃料として打ち出されていること、また、穀物やサトウキビの燃料への転用が世界の食糧事情に深刻な影響をもたらすことにも特に注意する必要がある。
IPCC第四次報告書は、二十一世紀末に地球上の気温が最大で六・四度上昇し、海面が六十センチ上昇すると予想している。この警告を文字通りに受け止めて、根本的な対策を確立することは急務である。
「できることから」あるいは「身近なところから」節約するという気休めではなく、資源消費や環境汚染の社会的費用を商品のコストに組み込むことを強制する国際的な税制の確立や、電力、交通・物流等の部門の公有化と労働者・市民による管理、森林・熱帯雨林の保全のための措置、発展途上国の環境対策への支援のための国際税などが、あらゆるレベルで真剣に議論されるべきであり、専門家、地域住民、労働組合、自治体等の広範な参加の下の監視のシステムが確立されるべきである。そして、G8がそのような議論の場としてふさわしくないことは明らかである。
ヘッジファンドの規制
今回のG8サミットで、主催国のドイツがヘッジファンドの規制措置を要求し、EU諸国政府や欧州労連の強力な支持を受けたが、米国の強力な反対により合意できなかった。議長総括では、「ヘッジファンドの金融市場の安定性への積極的な貢献に留意する一方で、透明性と市場規律を向上することにより、システミック・リスクを最小限にすることを望む」という、全く無意味な記述となっている。
今日、米国系を中心とするヘッジファンドによる企業買収・乗っ取りが資本主義システムの根幹を揺るがしかねない深刻な問題となっている。個人資産家や年金基金等をかき集め、営業機密に守られ、タックスヘイブン(租税回避地)を活用した集団が、転売による利益を主要な目的として企業を買い漁っている。米国の圧力により、日本でもこうしたファンドによる企業買収に対する規制が撤廃された。ファンドによって買収された企業では、まっ先にリストラが実施される。事業の社会的有用性や地域社会における役割、雇用は一切考慮されない。
国家の制御を離れた投機資本の活動は、八〇年代、九〇年代には通貨への投機を通じてラテンアメリカやアジア各国に甚大な損害を与えた。現在では、資源への投機や、各国の株式や不動産への投機によってバブル経済を煽っている。そして、まともな事業活動を行っている企業すら投機の対象となっているのである。
ヘッジファンドを規制するためのもっとも効果的な方法は、タックスヘイブンの廃止、法人税の協調的引き上げ、通貨取引税の導入と、企業機密の廃止、富裕層に対する超累進課税の組み合わせである。
G8はこの点でも、投機資本の活動を規制する意志も力もない。
アフリカにおける成長と責任?
二〇〇五年の英国でのG8で、ブレアのイニシアチブで、多くのNGOをも巻き込んで、アフリカの貧困の解消のための援助が大々的に宣伝された。今回のG8の議長総括でも「アフリカにおける成長と責任」という章が設けられており、パートナーシップの目的と主要原則について合意したとされている。これに対して、CADTM(第三世界債務廃絶委員会)のエリック・トゥーサン氏は次のように批判している(ATTAC・Japanのメーリングリストより抜粋)。
「アフリカ援助に関して、G8は再び自分たちの懐が痛まないような約束を作り上げた。これは二〇〇五年のグレンイーグルスの焼き直し、つまり、二〇一〇年までに援助額を倍にするというものだが、最新の実績は惨憺たるものである。OECDと世銀によると、二〇〇六年のアフリカへの援助額は、債務救済額を省くと、逆に減ってしまっている。一方で、AIDS、結核、マラリアとの闘いに六百億ドルが約束されたが(履行の期限への言及なし)、これはすでに数カ月前から言われていたことでなにも新しい約束ではない。今現在、アフリカの保健医療セクターは手痛い後退を被っており、飢えに苦しむ人々の数は常に増え続けている。……」
08年G8を包囲する闘いを
G8はここ数年、延命のためにブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの首脳との対話も設定してきた。現在、WTO交渉はブラジル、インドのイニシアチブによって辛うじて継続されている。中国はアフリカ、ラテンアメリカへ目覚しい勢いで影響力を拡大しつつある。
こうして米国の一元的な世界支配も、それを補完してきたG8も、過去のものとなりつつある。
一方、ラテンアメリカで、ベネズエラのチャベス政権を軸としたALBA(アメリカのためのボリバール・オルタナティブ)やサウス銀行の構想が、広範な人々の支持を得つつある。
米国の孤立が深まっており、日本政府は米国との同盟に拘束されて、この多極化する世界の中で、いかなる役割も与えられていない。
二〇〇八年のG8は日本で開催される。ATTACドイツをはじめとするドイツの諸団体が、G8に対するオルタナティブを目指す運動の確かな前進を全世界に知らせたように、日本においても、環境運動、平和運動・護憲運動、グローバル・ジャスティス運動、労働組合・農民団体の運動、若者の運動、NGOの運動の広範な連携を目指して、G8を包囲する一連の行動とフォーラムを準備しよう。 (小林秀史)
|