| 「靖国合祀イヤです」訴訟 かけはし2007.6.18号 |
死者と遺族の自己決定権奪うな
なぜ靖国は要求を拒否し続けるのか |
【大阪】旧日本軍人・軍属の遺族が二〇〇六年八月十一日、靖国神社合祀の取り消しを求めて大阪地裁に提訴したが、その第四回弁論(被告側の反論)が六月五日に開かれた。
原告は日本人が浄土真宗の僧侶ら八人、台湾原住民が一人で、被告は国と靖国神社。原告らの請求は、@被告は連帯して原告各自に百万円の損害賠償を支払えA靖国神社は、合祀者一覧表の原告名に対応する合祀者欄記載の氏名を、霊爾簿・祭神簿・祭神名票から抹消せよ、である。
合祀は国と靖国
神社の合作だ
靖国神社は戦後一宗教法人となったが、遺族の承諾を得ることもなく、遺族からの申請がなくても、戦没者の名を明らかにした英霊・神として合祀する祭祀を続けてきた。それを可能にしたのは、五六年四月十九日、厚生省引揚援護局長名の各都道府県宛の通知「靖国神社合祀事務に対する協力について」(合祀協力通知)と地方公共団体による全面的な協力によって、靖国神社に提供された戦没者の氏名・階級その他死亡の事実関係等に関する情報であった。
過去何十年以上も前から合祀取り消しを要求してきた遺族に対し、靖国神社はことごとくこれを拒否し続けてきた。国が植民地化され、高砂義勇隊として戦争にかり出された台湾原住民の遺族は、「高砂義勇隊は日本人ではない。靖国は霊を返せ(還我祖霊)」と要求している。
祀る側が一方的
に死者を選別
靖国の神は戦没者であるが、戦争にかかわって死んだすべての者ではなく、空襲や艦砲射撃によって命を失った市民は含まれない。天皇のために戦争で死んだと見なせる者を、祀る側が一方的に選別して神として合祀したものである。
靖国神社は原告らの同意を得ることなく、積極的に独自の宗旨にもとづく合祀を進めてきた。原告らの損害賠償請求の根拠は、憲法二〇条一項(国の宗教活動の禁止・政教分離)と同八九条(公の財産支出・利用の制限)違反であり、民法七〇九条により権利を侵害した場合、損害賠償の責めを負うというものである。また、霊爾簿等からの氏名抹消は、憲法一三条によって保障されているという包括的基本権としての追悼の自由・自己決定権にもとづくとしている。
耐え難い思い
を訴える原告
第三回弁論では、原告三人がそれぞれ直接口頭で陳述した。西山俊彦さんの家庭は皆クリスチャンで、お父さんは海軍飛行場の急造に従事し激務の結果肺結核を患い、一九四三年に自宅で亡くなった。靖国神社に対して何度も合祀取り消しを求める手紙を出したが、返事は、靖国神社は「明治天皇の安國の聖旨」を根拠にしていること、また神社規則に「本神社を信奉する祭神の遺族その他の崇敬者を強化育成し……」とあるから、取り消しできないということだった。
西山誠一さんのお父さんは戦死し、戦中に合祀された。戦後西山さんは浄土真宗に帰依し、靖国神社のあり方に疑問を持つようになり、過去の戦争の加害と被害の責任を痛感し、真宗門徒の父が靖国神社に祀られていることは、許せないと思うようになった。
古野武則さんのお兄さんは航空下士官として出撃して帰らぬ人となり、お父さんは高射砲部隊に所属する陸軍将校で、一九四五年の沖縄戦では日本刀と素手で米軍と闘い戦死した。戦後、山口県自衛官合祀拒否訴訟を支援する運動に関わる中で、例え靖国神社が古野さんの家で代々行われている浄土真宗の弔いに干渉しなくても、合祀そのものが耐え難いものであった。
親族の敬愛追慕
の情を完全無視
死者と一定の関係を有する者に、死者が本来有する決定権や法益を帰属させるという法理は、現行法制度の中に取り入れられている。さらに原告側の和田弁護士の方から、原告らが侵害されたのは「敬愛追慕の情」であるという準備書面の要点が展開された。
靖国神社が、戦没した近親者を「大東亜戦争の英霊」という意味付けをして合祀していることは、原告らの意味付けと相容れないものであり、権利の侵害であるという論理だ。
さらに井上弁護士からの陳述があった。その中で、靖国神社に戦没者の氏名を知らせたのは、靖国神社の照会に応じた「行政サービス」だったとの問題が述べられた。国は、多くの国家公務員を長年にわたって動員し、国費を用いて把握した個人情報を、一宗教法人に過ぎない靖国神社に提供したわけだ。これはサービスとは言えない。
被告・靖国は
どう反論したか
被告側準備書面の要点を代理人の弁護士が口頭陳述した。@原告は「靖国神社には信教の自由は認められない」と言うが(原告側はそのようなことは言っていない)、山口県自衛官合祀拒否訴訟の一九八八年最高裁判決の通り、神社には合祀の自由は認められているA霊爾簿・祭神簿・祭神名票は単なる書類だと言うが、これは一つのものであり、合祀と一体のものだB敬愛追慕の情についても、一九八八年最高裁判決で否定された宗教的人格権と同じものだ。合祀も信教の自由として認められている。
以上でこの日の弁論は終了した。靖国神社は(国家と一体の巨大な法人であり、宗教施設だが)形式上は私的な宗教法人だから、一般的な宗教活動の自由の権利は有している。だからといって、すべてフリーパスだとはならないだろう。
勝手な合祀は死者と親族の自己決定権の侵害だ。靖国神社は原告らの親族の合祀を自己の布教宣伝に利用している。合祀を放置すれば親族らが望まない意味付けをされたことを承認したと靖国神社は受け取る。これらのことは、実社会の中ではほとんどの人が認めるところだ。司法がどのような判断をするかが注目される。 (T・T)
大江・岩波沖縄戦裁判支援
「首都圏の会」結成集会開催沖縄戦の真実を伝えよう
六月六日、文京区民センターで「大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会」結成総会が開かれ、百五十人が参加した。
会結成の呼びかけ(6月6日現在)は次の人たちによってされた。石山久男(歴史教育者協議会委員長)、井上ひさし(作家・劇作家)、大森典子(弁護士)、嵯峨仁朗(日本マスコミ文化情報労組会議議長)、柴田健(沖縄平和ネットワーク首都圏の会代表)、下嶋哲朗(ノンフィクション作家)、俵義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)、津田清(出版労連中央執行委員長)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)、渡名喜守太(沖縄学研究所研究員)、野平晋作(ピースボート共同代表)、福山真劫(フォーラム平和・人権・環境事務局長)、丸木政臣(教育評論家)、水島朝穂(早稲田大学教授)、森口豁(ジャーナリスト)、守屋龍一(日本ジャーナリスト会議事務局長)。
最初に、石山久男さんが「三月三十一日、教科書検定によって、沖縄戦で軍命令で強制された住民の自決を、軍の命令はなかったと書き換えさせられた。これを受けて裁判支援だけでなく、検定の撤回を求める運動、沖縄戦の真実を広げる運動を首都圏でも作ることが重要ということで会の結成を決めた」と経過を報告した。
大江・岩波「沖縄戦」裁判について、岡本厚さん(編集局副部長、雑誌「世界」編集長)が報告した。
「文科省の教科書検定によって、訴訟の性格が変わり公的問題になった。沖縄の新聞が大きく取りあげ、九七%の市区町村が削除に反対している。なぜ、大江健三郎の『沖縄ノート』なのか、岩波書店が訴訟の対象にされたのか。それはシンボル的、劇場効果をねらったものであった。『従軍慰安婦』問題は十年で消した、沖縄集団自決問題も消すとして、歴史観の大きな転換をねらったものだ。自由主義史観グループや靖国支援的な大きなバックがあって起こされた」。
「彼らの主張は命令がなくても、自ら死んでいった美しい死であったというものだ。裁判が起こされ、教科書削除問題が起きたことで、かえってさまざまな証言や書面が明らかになっている。軍は住民を守らないことが辺野古への自衛隊艦艇の派遣でますます明らかになっている。裁判の勝利に向けてがんばる」。
石原昌家さん(沖縄国際大学教授)が「操作されつづける『沖縄戦認識』―経過と背景―」と題して記念講演を行った。
「裁判で問われているのは、『国のため、天皇のため、日本軍のために積極的に協力して死んだ、すなわち殉国死した』のか、それとも住民は地上戦闘に巻き込まれた結果、敵軍のみならず『自国軍隊によっても直接殺されたり、死に追い込まれたりした』のかということだ」。
「一九八三年、家永三郎さんの教科書記述に対して、政府は日本軍の住民殺害より、住民の集団自決の数が多いのだから、それを書き加える、と修正意見をつけた。政府の意図は『集団自決は日本軍の戦闘の邪魔にならないように崇高な犠牲的精神で自ら命を絶った』という認識であり、政府の戦争責任と旧日本軍を免責するものだった。『集団自決』の表現を『強制集団死』と書き改めるべきだ」。
「一九五三年に、米国の統治下にあった沖縄にも、『戦傷病者戦没者遺族等援護法』が適用され、旧軍人軍属にも認められた。五八年に『日本で唯一地上戦になった沖縄県の特殊事情』という理由で、一般住民にまで適用を拡大した。しかし、遺族の申請には、いかに日本軍に積極的に戦争協力をしたかが、援護法適格者として認定される分岐点になった。日本軍による避難壕からの追い出しは、日本軍の作戦・戦闘に協力して壕を提供したとされた。そして、被弾死は積極的戦闘参加者とし、祭神として靖国神社へ合祀されている」。
「有事法制が制定され、米軍再編の下で改憲して、戦争ができる国をめざす勢力が、いまこそ沖縄戦裁判をとおして集団自決のことばの定着化を図っている。この点を見ぬかなければならない」。
続いて、大江・岩波沖縄戦裁判支援連絡会(大阪)の小牧薫事務局長が大阪での取り組みを報告した。
最後に、会則の説明と今後の活動方針の提起があり、運動を広くすすめていくことが確認された。
活動方針は、「大阪や沖縄から平和をすすめる会(沖縄)との連携の強化、ニュースの発行、裁判支援b不当な検定意見への諸行動b沖縄戦の真実と沖縄の現状を広く知らせる」。(M)
当面の行動
6月9日、沖縄戦の歴史歪曲を許さない沖縄県民大会。6月15日、沖縄戦の削除問題で文科省要請。沖縄から大挙して参加の予定。
6月18日〈連続講座〉教科書検定―沖縄からの異議申し立て、講師:高嶋伸欣(琉球大教授)、午後6時半(神保町・岩波セミナールーム)。
7月27日、大阪地裁202号法廷、午前10時。9月10日、那覇地裁(沖縄出張法廷)午後1時半。
政府(旧厚生省)の政教分離違反と安倍政権による隠蔽、政教分離原則破壊の改憲策動への抗議声明
国立国会図書館が刊行した『新編 靖国神社問題資料集』によって、戦死者の靖国神社への「合祀」が、戦後も国(旧厚生省)によって主導されてきた事実が、具体的に明らかになってきました。全国紙各紙が、三月三一日の社説で、こぞってこの問題を取り上げたことによく示されているように、マスコミも大きく話題にしだしています。
そこでは、靖国神社への「A級戦犯合祀」のプロセスが、大きな問題として注目され続けています(今回の資料では、それはよく読めないのですが)。しかし私たちは、憲法二十条の政教分離原則を政府が踏みにじり続けてきたという歴史的事実、またそのことを歴代政府が人々の目から隠し続けようとしてきた事実、さらには「A級戦犯合祀」問題が露呈したときにそうであったように、その事実が表に出てしまうと「(靖国神社に)求められて情報を提示した」(これは安倍首相の言葉です)という具合に神社側に責任転嫁して事実を隠蔽しようとしてきた事実(政治家の姿勢)にこそ、注目しなければなりません。
これは許されてはいけない行為です。
安倍政権は憲法九条を軍隊を保持できるものに変え、二十条を「社会的儀礼又は習俗的行為」と国が判断すれば、その「宗教活動」を「国及び公共団体」が支えたり、行ったりすることができるように変えてしまおうとする動きを加速させています。戦争ができる国に日本をつくりかえていくためには、非武装平和主義の原則と政教分離の原則を全面的に破壊する必要があるのです。
政教分離原則の破壊をくりかえしながら、それを隠蔽し続けてきた権力者たちは、今度は、その破壊行為を公然と可能にするために、憲法を書きかえてしまおうというわけです。
私たちは、安倍政権のこうした姿勢に強い抗議の意思を表明します。安倍政権は、政教分離原則の破壊とその隠蔽の歴史的責任と向き合い、キチンと謝罪し、それを繰り返すことをやめるべきです。
そしてもう一つ、この問題を契機として、靖国神社に代わる「宗教色のない」新たな国立の追悼施設、あるいは千鳥ヶ淵戦没者墓苑の拡充といった声も、またもや大きくなりつつあることに注目せざるをえません。
私たちは、こうした主張にも反対です。すでにアフガニスタン・イラク戦争で、自衛隊は米軍とともに活動していますが、安倍政権は米国の要請にしたがい、さらなる日本の派兵国家化を推し進めようとしています。改憲策動はそのための一環です。つまり、権力者は新たな戦死者をつくりだす政治を実行しているのであり、それゆえに「復権」された靖国神社、あるいはそれにかわる国家の追悼儀礼空間が必要とされているわけです。それは戦死者を讃え、戦死を意味づけし、戦争継続に対する国民的合意を取りつけるための「宗教的」儀礼とならざるをえません。その儀礼の中心には、まちがいなく天皇が座ることになるでしょう。私たちには、そのようなものをつくりだす必要など、まったくありません。いや、そういうものをつくりだすことを許してはいけないと思います。
私たちは、政府(旧厚生省)の政教分離違反と、安倍政権による隠蔽、政教分離原則破壊の改憲策動に抗議します。
共同声明への参加、賛同を呼びかけます。
二〇〇七年四月二九日
連絡先
東京都千代田区三崎町3-1-18 近江ビル4F 「市民のひろば」
TEL03-5275-5989FAX03-3234-4118
*http://www.ten-no.net/20jo/ からも賛同できます。
呼びかけ人[個人]
天野恵一(反天皇制運動連絡会)、大津健一(日本クリスチャンアカデミー)、菅原龍憲(真宗遺族会、浄土真宗本願寺派正蔵坊住職)、辻子実(靖国参拝違憲訴訟・東京)、千葉宣義(日本基督教団牧師)、長澤正隆(日本カトリック正義と平和協議会)、弘田鎭枝(カトリック・メルセス修道会)、山本浄邦(憲法二十条が危ない!緊急連絡会、僧侶)
呼びかけ団体[団体]
京都「天皇制を問う」講座実行委員会、「反改憲」運動通信、反天皇制運動連絡会(VII)、やめろ!「昭和の日」4・29集会実行委員会
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