かけはし重要記事

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戦争国家体制への強行突破許すな!          かけはし2002.6.10号より

有事3法案の廃案へ!窮地に陥る小泉政権をさらに追いつめよう!

STOP!有事法制6・16全国大集会へ

 有事法制3法案の五月中の衆院通過をめざし、野党ボイコットのまま地方・中央公聴会の開催を決定した小泉政権は、今国会での法案成立が困難となるほどの大きな暗礁に乗り上げてしまった。「武力攻撃事態」特別委員会の審議の中で、政府側が立ち往生と言い逃れを繰り返さざるをえないほどのごまかしと矛盾に満ちた法案の内容そのものが、この困難を作りだした一つの要因だった。
 米軍のアジア・太平洋への攻撃的な軍事介入を自衛隊が支援し、そこで「集団的自衛権」を行使して戦争に参加することを、「武力攻撃事態への対処」と言いくるめ、戦時動員体制をしいて「国民の自由と権利」を制限するというこの法案の本質を覆い隠すために、政府は見え透いた言い逃れを行わざるをえないのだ。有事法制3法案への不安と反対の気運が、拡大していった。それは、小泉政権の支持率の急速な低下、あらゆる世論調査で小泉政権への反対が支持を上回るという結果にも反映していった。自民党橋本派などからも小泉の政治姿勢に対する疑問や批判が公然と吹き出した。橋本派の最高実力者である野中元幹事長は、郵政民営化法案とのからみで小泉を「独裁者」と罵倒した。
 有事法制3法案の「拙速審議反対」や「継続審議でもかまわない」と主張する与党内のいわゆる「政局」がらみの抗争の中で、小泉政権はあらためて体制を立て直し、有事法制そのものの必要性については承認する民主党や自由党による「修正意見」をも取り込んで野党を分断し、八月まで国会会期を大幅に延長した上で有事法制3法案の成立を図ろうとしていた。
 小泉政権は、テロ・ゲリラや大規模災害などの「国家緊急事態」に対処することに焦点を据えた法整備を主張する民主党や、「非常事態対処法案」と「安全保障基本法案」を有事法制3法案への「対案」として提出した自由党を抱き込み自民党内の「継続審議やむなし」論を押さえ込んで、突破をもくろんだわけである。
 しかし、こうした小泉の思惑を超える事態が噴出した。防衛庁が情報公開法にもとづく請求者の思想・信条にかかわる身元調査を行い、そのリストを組織ぐるみで作成・回覧していた問題と、福田官房長官の「非核三原則見直し」発言である。
 毎日新聞が五月二十八日の朝刊でスクープした事実によれば、防衛庁の情報公開請求者のリストには昨年四月の情報公開法以降、今年三月までに防衛庁に情報公開請求した百四十二人全員の氏名・住所や計千百四十件の請求内容などが記載されており、請求時に必要のない職業も記されている。さらにこのリストには、請求件数の多い人物・団体順に並び替えた別リストも添付され、市民G(グループ)、元自(自衛官)、マスコミ、学校、業者などに分類され、市民団体や会社名に続いて「反基地運動の象徴」とか「反戦自衛官」「市民オンブズマン」といった思想・信条にかかわる記載もあった。また、請求者の生年月日や、住所転居先、女性請求者の旧姓などプライパシーにかかわる徹底した調査が不法に行われていたことを物語る。
 当初、防衛庁はこの調査リストの作成と回覧が、海上幕僚部情報公開室担当の三佐による「個人的行為」だとしていた。しかし、六月三日の記者会見で中谷防衛庁長官は、このリスト作成が、海自三佐の「個人的行為」ではなく、防衛庁内局、陸上幕僚監部、航空幕僚監部の各情報公開室でも同様のリストが作成され、かつ庁内の職員専用LAN(構内情報通信網)にも掲示されていたことを認めざるをえなかった。まさに上層部からの指示による防衛庁組織ぐるみの犯罪だったわけである。しかもこの職員専用LANについては五月二十八日の報道の後、翌二十九日に運用を停止しており、明らかに事実がもみけされようとしていた。
 防衛庁は、「行政機関の保有する電算機処理に係る個人情報保護法」に違反して、情報公開請求者を反自衛隊思想の持ち主として調査しようとしていたのである。それは政府が提出している「個人情報保護法案」の危険な本質をはっきりさせただけではない。「武力攻撃事態」における「国民の自由と権利の制限」を掲げた有事法制は、「治安」の観点から、戦争協力を拒否する人びとやグループの調査・追跡を「平時」の段階からエスカレートさせるものであり、今回の防衛庁の情報公開請求者への個人リストの作成は、人びとの生活や考え方にまで立ち入って戦時動員体制を築き上げ、反対派を排除しようとする国家意思につらぬかれたものなのである。
 福田官房長官の「非核三原則見直し」発言は、ブッシュのグローバル戦争戦略と連動して有事=戦争国家体制を築き上げようとしている小泉政権が、まさに戦後憲法のいっさいの歯止めを外して暴走している現実の一端をさらけ出したものだと言わなければならない。
 五月十三日に非公開の会合で安倍晋三官房副長官は「小型であれば原子爆弾の保有も問題ない」と講演した。五月三十一日の記者会見で、この安倍講演についての見解を問われた福田康夫官房長官は、「(核兵器なども)専守防衛なら持つことはできる。憲法上、もしくは法理論的に(核兵器を)持ってはいけないとは書いていない。しかし政治論としては、そういうことをしないという政策選択をしている」と旧来の「自衛のためなら核兵器保有も違憲ではないが、政策として持たない」という立場を踏襲した上で「最近は憲法も改正しようというぐらいになっているから、国際情勢や国民が持つべきだっていうことになれば、非核三原則も変わることもあるかもしれない」と述べたのである。
 政府首脳が「非核三原則の変更」に言及したことはかつてなかったことであり、われわれはこの安倍発言や福田発言を、たんなる「緊張感の欠如」や「失言」というレベルで捉えるべきではない。
 もともと佐藤内閣の下で打ち出された「非核三原則」のうち「持ち込まず」に関しては、米政府の公式報告にあるようにまったくの虚偽であり、現実に核兵器を搭載した艦船は幾度となく在日米軍基地に出入港を繰り返していた。さらに、沖縄返還協定の「密約」において「有事」における核兵器の持ち込みに関して日米両政府の合意がなされていたことも明らかになっている。しかし、歴代の自民党政権は「非核三原則」の建前を、ぎまん的な形ではあれ順守するという姿勢を崩すことなく、「持ち込み」や「密約」の事実も一貫して認めては来なかったのである。
 しかし小泉政権の下で、この立場は明らかに変化しつつある。「歴代政権は核保有に関する政府見解のうち、『一切の核兵器は持たないという政策的な選択をしている』という部分に重きを置いてきたが、小泉政権ではむしろ、『核兵器の保有は憲法の禁じるところではない』という部分がことさら強調されている。/福田長官が(五月)三十一日の記者会見で、安倍副長官の『核兵器可能』発言をあえて否定しなかったことには、憲法改正や核保有、武器使用など、タブー視されてきた問題を『常識論』で強行突破しようという小泉政権の体質が表れている」(東京新聞6月1日朝刊)。そして福田官房長官は、この発言を「従来からの見解を述べたまで」として否定しようとはしていない。
 われわれが繰り返し主張してきたように、歴代自民党政権は、原発の推進と再処理政策を継続することによって「潜在的核武装能力」を維持することに腐心してきた。この蓄積の上に、実戦での「小型核兵器使用」を追求するブッシュの軍事戦略との一体化をすすめてきた小泉首相は、いままた国際的・国内的反応をうかがいながら「非核三原則」という建前上の歯止めを外す方向への一歩を踏み出したのである。
 小泉政権は、明らかに国会運営上の重大な難関に突き当たっている。有事法制3法案の国会審議は、防衛庁情報公開請求者リスト問題や福田官房長官の「非核三原則見直し」問題を通じて、ふたたびストップした。「こんな危険な内閣に有事法制を作らせるわけにはいかない」という主張がマスメディアからも流されるようになってきた。
 この六月、各自治体議会に対して「有事法制反対」を求める要請・請願行動が準備されている。自治体の権限を奪い、権限を内閣に集中する強権的な戦時動員体制に対する地域からの訴えを強化しよう。
 五月二十四日の大集会を引き継ぎ、六月十六日には「STOP!有事法制 全国大集会」(東京・代々木公園B地区およびその周辺、午後一時開会、午後二時半デモ)が五月二十四日の四万人以上の結集を上回る規模で呼びかけられている。全国の職場・学園・地域から六月十六日に大結集をかちとろう。
 いまこそ、有事法制3法案を廃案にするために総力を!
 (六月四日)(平井純一)

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