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「非核三原則見直し」発言糾弾!        かけはし2002.6.17号より

いまこそ非核三原則法制化の要求を

有事立法阻止、非核自治体条例運動を強化しよう

 福田康夫官房長官の「非核三原則見直し」発言が、内外に大きな政治的波紋を作り出している。小泉政権はいままさに戦争国家体制の法的確立をめざして有事関連三法案の成立を強行しようとしており、福田発言に表現された「核武装した軍事大国」への露骨な願望は、とりわけアジア各国に大きな政治的不安と衝撃を作り出したのである。
 福田は、安倍晋三官房副長官が早稲田大学での講演で「大陸間弾道弾(ICBM)は憲法上問題ではない」「憲法上は原子爆弾だって問題ではないですからね。小型であれば」などと述べたことが週刊誌で報じられた問題について、五月三十一日の記者会見で問われ、「非核三原則見直し」に言及したのである。
 福田はそこで「長距離ミサイルとか核爆弾とか、非核三原則があるかもしれないが、理屈から言えば持てる」と述べて安倍の発言を擁護したうえ、記者団との懇談で次のように放言した。「非核三原則はいままでは憲法に近いものだった。しかし、憲法改正の話も出てくるような時代になったんだから、なにかが起こったら国際情勢や国民が『(核を)持つべきだ』ということになるかもしれないよ」。小泉は翌日午前、この福田発言について問われ、「どうってことない」とこともなげに述べてあっさり容認した。
 この暴言に対する被爆地広島・長崎はじめ内外の怒りに直面した福田は同日午後、非核三原則の見直しは「真意ではない」と弁明した。しかし「真意」がどこにあるかを隠すことはできない。福田も小泉も「現内閣においては非核三原則の見直しは考えてはいない」と述べ、あくまでも「現内閣」に限定して、将来の見直しの可能性を示唆している。見直したいが、いまはできそうもないので、やらないということに過ぎないのである。
 「陸海空軍などの戦力はこれを保持しない」と定めた憲法の下で、いかに小型であろうと核爆弾を保持できるはずがないことは議論の余地がない。しかし自民党を中心とする歴代政府は、「小型の核兵器なら憲法上持てるが、『政策として』持たない」と強弁してきた。そして福田はその「政策」を変更する可能性について、遂に言及したのである。
 一万キロの彼方まで飛んで相手国を核攻撃する大陸間弾道弾(ICBM)は、いくらなんでも「専守防衛の範囲を超えるので法理論上持てない」というのが従来の政府見解だった。ところが、官房長官と官房副長官という政府を代表する二人のスポークスパースンが、そろってこの政府見解をあっさり踏み越えてしまった。
 日本の国境線内で「専守防衛」に徹するはずの自衛隊が、はるばるインド洋まで出撃して米軍との共同作戦に参戦するという「時代になったんだから」、地球の裏側まで飛んで核攻撃するICBMだって持ってもいいだろうというわけである。
 この発言に驚いた秘書官に「従来の政府見解を超える」と耳打ちされた福田は、「ICBMは持てないそうだ」と訂正し、「それなら非ICBM三原則でも作るか」と冗談めかしながら、「非核三原則見直し」に言及したのである。福田らの「真意」が、非核三原則も平和憲法も投げ捨ててしまいたいというところにあることは疑問の余地がない。小泉政権は、それに向けてアドバルーンを上げ、世論誘導を開始したのである。
 小泉政権の「真意」は、かつて日本帝国主義に侵略されたアジア各国に直ちに理解された。韓国金大中政権の与党・新千年民主党(民主党)は声明を発表した。声明は、「韓日間の友好協力の雰囲気に冷水を浴びせ、東北アジアの平和・安定体制を害する重大で危険な発言だ」として、福田らのこの発言を厳しく批判するとともに、「日本政府は核兵器保有の主張を公式に撤回すること」を要求している。
 声明はさらに、W杯開会式に出席した小泉が「私の内閣では非核三原則の見直しは考えない」と語ったことに触れ、「『現政府の下では』という前提があり、(将来の核保有の)可能性に道を開いている」と批判し、「侵略の経験を持つ日本が核兵器を保有することを憂慮し、反対する」と述べている。
 アジア各国の反原発運動が連携して作られたノーニュークス・アジアフォーラムは、毎年開く国際会議のなかで「日本こそアジアの核軍拡の震源地だ」と指摘し続けてきた。日本は二〇〇〇年段階で、原発の使用済み核燃料の再処理によってすでに三十七トンの分離プルトニウムを保有している。三〜四キロのプルトニウムがあれば、小型の核兵器を作ることができる。日本が保有するプルトニウムは、すでに数万個の核兵器を作ることができる量に達しているのである。
 プルトニウムを燃料とする高速増殖炉が「もんじゅ」の大事故で破綻し、プルトニウムを通常の軽水炉の燃料にむりやり使おうとするプルサーマルも完全に行き詰まっている。にもかかわらず、いまや核兵器にしか使い道のないプルトニウムを取り出すために、二兆一千四百億円もかけて青森県六ケ所村に巨大な再処理工場を建設している。
 プルトニウムを瞬時に一カ所に集中して核爆発を起こさせる爆縮技術をはじめとする技術的準備は、とっくの昔に整っている。H\2ロケットは、わずか数十キロの人工衛星を軌道に乗せることに失敗して大騒ぎされた北朝鮮のテポドンとは、文字通りケタ違いの二トンもの重量を大気圏外の軌道に打ち上げる能力を持っている。福田や安倍が「持てる」と述べた核弾頭を付けたICBMは、いつでも作ることができる。日本はすでに「潜在的核超大国」なのである。
 小泉政権・日本帝国主義は、確かにいますぐ核武装に踏み出すつもりはない。なによりも、アジアと世界の軍事力バランスが激変することを恐れるアメリカ帝国主義が、日本の核武装を絶対に許さないからである。また、政治経済を含む国際関係の上からも現在は得策ではないと考えている。
 しかし、福田が言うように「国際情勢が変化」し、そこで政府が決断すれば瞬く間に核超大国として登場し得る能力を保持し続けるというのが、自民党を中心とする歴代政府の核政策であった。韓国政府のみならず、日本帝国主義の「真意」は国際的にすでに知れ渡っており、「いよいよやる気なのか」という戦慄をもって受けとめられたのである。
 七一年十一月二十四日に衆院本会議で採択された、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という「非核三原則」は、「国是」ということになっている。採択にあたっての趣旨説明では、「一切の核兵器の禁止に対する国民の悲願を体し……非核三原則を、国権の最高機関である国会において、核兵器の製造、保有、持ち込み禁止を明確に決議し、国民の総意として内外に鮮明にする」とされていた。
 福田康夫官房長官の父である故・福田赳夫首相は、七八年三月三日の衆院予算委員会で次のように述べた。「いかなる政府ができましても、国会が非核三原則を遵守すべしということを決議いたしておるわけでありまするから、この決議が健在である以上、その決議はいかなる政府によっても守らなければならないし、守られる、かように考えます」。
 言うまでもなくこの非核三原則は、当時の自民党政府の平和主義政策で作られたわけではない。それは、米軍基地撤去を求める沖縄本土復帰闘争が強制したものである。
 広島・長崎の惨劇を経験した日本では、五〇年代半ばからの原水爆禁止運動の高揚を通して、核兵器反対の世論が強力に形成されていた。六〇年の日米安保改訂で、日米政府は米軍による核持ち込みの秘密合意を取り交わしており、日本政府は核兵器を搭載した空母や原子力潜水艦の寄港を容認し続けてきた。
 また、沖縄米軍基地の貯蔵庫に大量の核兵器が貯蔵されていることは、「公然の秘密」であった。沖縄本土復帰闘争は、米軍政支配と米軍基地からの解放を求めて高揚した。当時の首相佐藤栄作は沖縄の核基地や日本への核持ち込みの問題を追及する大衆闘争の高揚のなかで、六七年十二月十一日に初めて、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という「非核三原則」に言及した。言うまでもなく、闘争の矛先をかわすためであった。したがって当初、佐藤政権は「非核三原則を国会決議とせよ」という野党の要求を拒否し続けていたのである。
 しかし七一年十一月、沖縄本土復帰闘争の爆発的高揚のなかで、「非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する決議」として「非核三原則」が遂に国会で決議された。「沖縄米軍基地を撤去せよ」「沖縄に核を持ち込むな」という闘いの爆発がなければ、「非核三原則」国会決議は実現しなかったのである。
 非核三原則のうち、とりわけ「持ち込ませず」は日米の秘密合意によって空文化してきた。それは、米国の公開文書や七四年の米海軍退役少将ラロックの証言や、八一年の元駐日大使ライシャワーの証言など、多数の証言によってすでに立証されている。
 一九六三年の「大平・ライシャワー合意」では、「核兵器を搭載した艦艇の領海通過や寄港は、事前協議の対象にならない」ことが再確認されている。さらに、NPOピースデポの梅林宏道代表らによる米国公文書の調査によって、米空母が核兵器を搭載したまま横須賀を母港にすることを日本政府が容認していた事実が明らかになっている。
 九一年九月、米大統領ジョージ・ブッシュ(現大統領の父)は空母に搭載された核兵器の撤去と地上配備の戦術核の全廃、平時における艦艇と航空機への戦術核搭載中止を発表した。ブッシュとスコークロフト大統領補佐官の共著の回想録によれば、ニュージーランドや日本での核艦艇寄港反対運動がこの政策の一因であった。
 現在では、攻撃型原子力潜水艦だけが、核巡航ミサイル・トマホークを配備していることになっている。そして、核巡航ミサイル・トマホークを搭載したソルトレークシティー、ヒューストン、サンフランシスコ、ホノルルなどの攻撃型原子力潜水艦は、横須賀港、佐世保港、沖縄県勝連町ホワイトビーチに毎年五十回前後も寄港している。
 しかし日本政府は、「核持ち込みについて事前協議が行なわれない以上、米国による核持ち込みはない」という建前で押し通し続けている。「持ち込ませず」は、完全に空文化し続けているのである。
 そして日本政府はアメリカの核戦略と一体となり、核廃絶に敵対し続けてきた。国連での期限を切った核廃絶決議には常に反対し、核廃絶を不定の未来に遠ざけるために全力を上げてきた。
 ブッシュ政権は六月七日、九七年にクリントン政権が開始して以来十七回目の未臨界核実験を強行した(ブッシュ政権になって四回目、今年二回目)。また五月三十一日、米エネルギー省は八九年以来停止していた核弾頭用プルトニウム塊の製造再開方針を表明した。ブッシュ政権はまた、イラクへの核攻撃の可能性すら隠そうとはしていない。小泉政権は、核廃絶に逆らうこれらの暴挙に抗議するどころか、容認し続けているのである。
 福田官房長官の「非核三原則見直し」発言に対して、野党は一致して官房長官罷免を要求している。罷免要求は当然だが、それだけでは決定的に不十分である。「非核三原則」を法制化し、潜在的核超大国であり続けようとする日本政府に「持たず、作らず、持ち込ませず」を厳格に守らせる法的基盤を作り出さなければならない。
 七五年三月十八日、神戸市議会は「核兵器を搭載した艦艇の神戸港入港を一切拒否する」という決議を上げた。入港を希望する艦艇には、核兵器を積んでいないという「非核証明書」の提出を求め、提出しない艦艇には停泊許可を与えない(非核神戸方式)。
 アメリカは、核兵器の搭載について「肯定も否定もしない」(NCND)政策をとっている。したがって、搭載していてもいなくても「積んでいない」とは言えない。このため、それ以前の十五年間に四百三十二隻も入港していた米艦艇が、それ以降は一隻も入港していないのである。
 新ガイドラインや周辺事態法によって、アメリカの行う戦争に全国の港湾や空港を動員しようとする動きが強まっている。港湾や空港の管理権を持つ自治体を拠点に、「非核神戸方式」に学んでこのような動きに対抗しようとする「非核平和市民条例」制定運動が、函館や小樽を先頭に始まっている。二〇〇〇年には函館で、二〇〇一年には横須賀で、そして今年は鹿児島で、「非核平和市民条例」の制定を求める全国集会が開かれた。
 全国各地での創意あふれる闘いによって、「非核平和市民条例」制定の可能性は広がっている。しかし小泉政権が推し進める有事三法案が成立すれば、自治体の権限を政府が奪い取り、日本全土を核基地にすることも可能になってしまう。有事三法案をなんとしても廃案に追い込まなければならない。そして非核三原則を法制化させなければならない。
 小泉政権は、「非核三原則は国是」としてきた歴代政府の見解を公然と否定することはできない。それならその「国是」を法律にしても何の不都合もないはずだ。小泉政権にはそれを拒む理由はない。非核三原則を法制化し、核兵器の保有、研究と製造、持ち込みのすべてを、違法な犯罪として処罰と取り締まりの対象とする必要がある。
 現在、カシミール問題をめぐってインドとパキスタンが激しく対立している。五月三十一日、パキスタンのムルシェド駐ロシア大使はインタファクス通信とのインタビューで「パキスタンの領土が侵略を受ければ、われわれが保有するすべての手段を使って防衛する」と述べ、攻撃を受ければ核の使用で反撃することを示唆した。両国が核兵器を使用する戦争になれば、千二百万人が死亡するといわれている。
 このような緊張した時期に飛び出した福田らの「非核三原則見直し」発言は、アジアに核軍拡の新たな波と緊張を作り出すものであり、絶対に容認することはできない。小泉政権と日本帝国主義の核武装の「真意」を徹底的に暴露し、糾弾しなければならない。
 福田官房長官と安倍官房副長官を即時罷免せよ! 「非核平和自治体条例運動」を全国に広げ、すべての米艦艇の入港を阻止しよう! 沖縄米軍基地撤去! 日米安保条約を破棄しよう! 非核三原則の法制化を! 六ケ所村再処理工場の建設を中止せよ! 原子力・核開発からの全面撤退を!(6月9日 高島義一)

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