| 読書ノート 『世界の貧困をなくすための50の質問』ダミアン・ミレー/エリック・トゥーサン著/大倉純子訳/柘植書房新社/2000円+税 かけはし2006.7.24号 |
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強化された構造調整を強制するHIPCイニシアティブ (中) |
「債務削減」と
いうカラクリ
債務帳消しの運動は二〇〇〇年沖縄サミットにむけて大きく盛り上がった。途上国支援の国際NGO組織や教会、労働組合、南諸国のさまざまな社会運動組織を中心にした世界的キャンペーン「ジュビリー二〇〇〇」によって、貸し手の側である先進国やIMF、世界銀行などが進めてきた「債務救済イニシアティブ」がまったく解決の道筋を示していないことが明らかにされた。
だが「二〇〇〇年の沖縄サミット以降、先進国のリーダーが採用する戦略は、現在の忌まわしいシステムを永続させるためにデザインされた『罠』であることが明らか」であるにもかかわらず、「どのような立場に立つのか不確かな一部の市民社会組織が、現存システムを推進する側が規定したフレームワークの中で活動することによって、事実上、現システムの政策に正当性を与えています」。
日本でも盛り上がった債務帳消しキャンペーンは、いくつかのネットワークに解消され、それぞれが地道に活動を継続しているが、ジュビリーサウスやCADTMなどが訴える即時一〇〇%債務帳消しを掲げて活動を行うグループはほとんどいない。むしろ先進国の都合で策定されたHIPC(重債務貧困国)イニシアティヴという新自由主義グローバリゼーションの流れにそった「債務帳消し」提案を歓迎する傾向のほうが強い。
HIPCイニシアティヴとはなんだろうか。「一九九六年、債務は風船のように膨らみ再び危機的な状況になりました。世界の強大な金儲け主義者たちは、下心ありありの新しい債務削減イニシアティヴを考え出し、メディアにも大いに宣伝されました。その枠組みは今も使われています。これがHIPCイニシアティヴです」「これはほんの限られた数の最貧国(百六十五ある途上国のうち四十二カ国)を対象に、対外債務を『持続可能』なものにしようとする以上の目的を持っていません」。
それだけではない。前述の構造調整を上回る厳しい構造調整を押し付けるために、このHIPCイニシアティヴを利用している。HIPCイニシアティヴを評価する意見として、これまで債務削減の対象となっていなかったIMFや世銀などが対象になったことが前進のひとつ、というものがある。しかしそれは、「このイニシアティヴはできるだけ債務削減せずに、国際機関の意思決定権をできるだけ大きくしようという仕組みなのです」。
債務削減を望む途上国は、「数多くの段階を異常に長い時間をかけて進んでいかなければなりません」。
IMFと合意し、ワシントンに承認された経済政策を三年間実施し、政策の実施状況をIMFと世銀が判断し、その上でその国が抱える債務が返済不能である、と確認されてはじめて、このHIPCイニシアティヴの適用国であることが認定される。その後もIMF・世銀に承認された政策を実施し続け(一年から三年)てはじめて二国間債務の元本が帳消しされる。
対象となった四十二カ国の最貧国のうち、〇五年末にはわずか十八カ国のみが債務削減を認められた。しかしこれにもカラクリがある。たとえばタンザニアでは、一九九六年にIMF・世銀との間で署名した構造調整政策を継続しつづけ、二〇〇一年十一月に三十億ドルの債務帳消しが認められた。しかしそれは毎年の返済額が一億ドルずつ、三十年にわたって減らされるに過ぎない。その間も、新しい債務は増加し、実施した構造調整によって国家の歳入は減少し、生活や社会保障はぎりぎりにまで削減された中で、タンザニアの人々は生きていかなければならないのだ。
著者は言う。「(HIPCイニシアティヴによって)帳消しにされた債務はどっちにしても返済不可能だった」。「HIPCイニシアティヴの目的はなにより、寛大な見せかけの下で、確実に支払いを継続させ、強化された構造調整を隠蔽することです」。
日本のNGOの中にもHIPCイニシアティヴを正面から批判しない傾向があるなかで、著者の指摘はひろく共有されるべきだろう。
南の民衆に肩代わ
りの義務はない
著者は腐敗した南の諸国の体制が、借り入れた債務の相当額を着服してきた、と批判する。「三〇年以上ザイールを支配したモブツが死んだとき……彼は八〇億ドルとも言われる遺産を残しましたが、これは彼の故国の債務の三分の二に相当する額でした。……三〇年にわたってハイチを支配したデュヴァリエ・ファミリーが九億ドル以上と見られる財産を抱えてフランス領リビエラに逃げ出した一九八六年、ハイチの対外債務は七億五〇〇〇万ドルだった……。一九九八年、三二年にわたる支配の後、インドネシアのスハルト・ファミリーが逃げ出したとき、彼らの財産は四〇〇億ドルと見積もられていました」。「債務は急激に増加し、同時に独裁制にむらがる人間たちの個人資産も急激にふくらんでいきました。これはまた、北の銀行にも利益をもたらしました。……おまけに、独裁者の富は銀行にとって大変役に立つものでした。それは保証金の役割を果たしたのです。もしある債務国が、政府の名義で契約した債務の返済に関してよからぬ考えを持っている兆候が万が一にも見せたなら、銀行は『おまえの内緒の個人資産を凍結する、果ては没収する』と、その国のリーダーたちをこっそりと脅かせばいいのです。汚職とそれに続く公金横領が果たした役割はこのように大変大きいものでした」。
そして北の債権者が南の民衆に債務返済を要求する権利はない、と断言する。
「先進国の債権者は、多くの場合、自分たちが金を貸した先が腐敗政権であることを知っていました。債権者にはその国の国民にそのような債務の返済を要求する権利はありません。債権者は、打倒された、あるいはまだ政権の座にいる独裁者か、彼らの共犯者宛に請求書を書くべきなのです」。
また南の指導者の多くが、なぜIMF・世銀の押し付ける政策を実施するのかについて次のように述べている。
「ブラジル中央銀行総裁アルミニオ・フラガ・ネトは公式に投資家ジョージ・ソロスの投資資金を管理していた人物です。コートジボワール人、アルセーヌ・ドラメーン・ワタラはコートジボワールの首相を務める前は、IMFのアフリカ担当理事でした。……二〇〇一年二月の(トルコ危機)の際、国際金融機関の行為で最も象徴的だったのは、当時の世界銀行副総裁だったケマル・デービスを、トルコの蔵相として(お金と一緒に)貸し出したことです。二〇〇〇年に選ばれたメキシコ大統領のビンセンテ・フォックスは、以前はコカ・コーラのメキシコ子会社の支配人でした。アレハンドロ・トレドは二〇〇一年にペルー大統領になる前は、世界銀行にコンサルタントとして雇われていました。彼らの政策が完璧にワシントンの意向に添っていたとして、なんの不思議があるでしょうか」。
(つづく)(早野 一)
東峰の森破壊を許すな
暫定滑走路北伸・新誘導路建設の9月着工に抗議する
住民追い出しの
ための強硬策
七月十日、成田空港会社は国土交通大臣に対し、暫定滑走路北側延伸の飛行場変更許可申請を行なった。東峰地区はもちろん、騒音が拡大される久住地区住民の同意もなく、供用時期を優先させた見切り発車である。国交省や空港会社は本来計画を断念しておらず、東峰住民を追い出すための強硬策である。
国交省は公聴会を開くなどして審査するが、そもそも、北側延伸を急がせたのは国交省である。公平な審査などできるはずもない。九月にも許可が出され、空港会社は九月中に着工し、二〇一〇年三月供用開始を目指しているという。
また、空港会社が申請していた反対同盟北原派の市東氏が耕作する農地の「小作権」解除の申請が、同日、成田市農業委員会で受理された。
空港会社は、これまでの謝罪さえ無視して、強硬な方法で、暫定滑走路の拡張に踏み出した。
航空法第43条に基づいて申請した計画の内容は、@平行滑走路を北側に320m延伸し、併せて平行誘導路も北側に延伸A東峰地区を取り囲む東側誘導路新設など誘導路の増設(約5100m)B第2ターミナル南側の誘導路部分等にエプロン新設(約14万5000u)C国道51号付け替え、県道・市道の切り回しD成田新高速鉄道駅施設整備などだ。また、暫定滑走路北側の航空灯火、航空保安無線施設の移設許可申請も行った。さらに、「北伸整備に伴う環境とりまとめ」報告書も同時に公表した。
前言をひるがえ
し生活環境破壊
東峰地区に対しては、申請の直前の六月下旬、東峰の森を破壊する新誘導路建設計画を一方的に示してきた。
空港会社黒野社長は、昨年五月東峰地区住民に対して、暫定滑走路供用を強行したことや、供用にともない生活環境を破壊したことを謝罪し、その手紙を公表した。そして、何回か東峰地区を訪れた。だが、移転の意思がないことがわかると、北伸計画を発表。さらには、東峰地区を取り囲む東側誘導路新設案さえ打ち出した。
みずから決めた北伸許可申請の期限が迫った今年六月下旬、東峰地区に対して、北伸計画を具体化した黒野社長名の文書を一方的に通告してきた。この文書によると、北伸計画で東峰地区は、@東側に誘導路を新設するA新誘導路は「東峰の森」の3分の2が伐採されるB現在の誘導路も拡張し、航空機の移動範囲を広げるC県道の切回し道路の一部を付け替える。
東峰の森は、開拓が始まった頃から、入会地的に利用され、部落の生活に欠かせないものである。もともとは県有地であったが公団が取得後も「東峰の森を残す」ことを確約してきた。現在も、落ち葉を堆肥にしたり、防音林として欠かせないものだ。ところが、新誘導路は、この約束を一方的に反故し、部落の生活も破壊する。
部落の西を通る現在の誘導路が狭く一方通行のうえ、ジャンボ機が通過できないので、新誘導路が計画された。完成すれば、東西に誘導路、南側も拡張された誘導路や新誘導路に向かう飛行機が通過する。島村さんや小泉さんらの住宅や共同出荷場やワンパックの鶏舎、らっきょう工場、畑や墓地など東峰部落の東西南北を空港が囲むことになる。四方から大型機による騒音や振動がやってくる。黒野は昨年の謝罪文で「今私は、今後皆様の生活環境や人間としての尊厳を損なうようなことは二度とやってはいけないとの強い決意でおります」と述べた。その気持ちはどこに行ったのだ。
飛行コース直下
久住地区の騒音
滑走路延伸で北側の成田市久住地区は騒音が大きくなる。騒特法に基づく移転補償対象世帯の指定をめぐって、県と住民との交渉は、まとまる見通しが立っていないという。「県が五十四世帯の指定を見込むのに対し、三倍以上の百七十二世帯が要望。大きな開きがあるうえ、騒特法で認められていない指数七十五未満でも、指定を求める世帯も数十世帯あるという」(東京新聞7月11日)。
黒野社長自身、今年五月下旬には「順序として地域の方の了解を得てからにしたい。」と述べ、六月中に予定していた許可申請を七月に延ばしたとされている。ところが、暫定滑走路の供用の期限を優先し、住民との合意を切り捨てた。
本来住民の側に立つべき小林・成田市長は「やむを得ず受け入れる」と空港建設優先の姿勢を示した。交渉の当事者である堂本県知事は「引き続き地元住民の理解が得られるよう努力する」とのコメントを出した。
市東氏農地の小
作権解除攻撃
新聞報道などによると、空港会社は、北原派の市東氏が耕作する農地の「小作権」解除の申請を成田市農業委員会に行った。七月二十四日にも審議される。
暫定滑走路誘導路をへの字に曲げている畑の土地は、空港会社が地主から三年前に土地を取得した。しかし、市東氏は祖父の代から耕作しており小作権が存在している。賃貸借による小作地の解約については、知事の許可が必要だ。だが、双方の同意がない場合で、一方的に解約できるのは、耕作放棄など賃借人が信義に反した場合などであり、空港拡張のために許可されるとすれば、農地法や農業委員会の存在そのものが問われることになる。
一部の一坪共有地について、空港公団(当時)が裁判を起こし、六月に一審判決がおりた。空港建設を進め、用地を一方的に囲んでおきながら、「他の目的に使用できない」として金銭で奪う方法は、卑劣としか言いようがない。
強制収用ができない空港会社は、あらゆる方法で土地を奪おうとしている。
環境アセスを「環
境調査」に変更
許可申請と同時に空港会社は「成田国際空港平行滑走路北伸整備に伴う環境とりまとめ報告書」を公表した。成田空港は環境に配慮する「エコエアポート」を標榜しており、北伸が決定する以前は、法律による環境アセスメントを行うとしていた。ところが、六年の工期を四年に短縮するために、時間のかかるアセスをやめたのだ。その代わりに、環境アセスと同等の内容を持つ「一年程度の環境調査」に切り替えた、昨年十一月には「計画書を公表した。だが、実際には、わずか半年の調査でしかなかった。
地元との調整が終わらないまま申請したことを問われた黒野社長は「地元で議論は展開したと思う。これ以上ずるずると延ばしていたら、(目標時期の供用が)危なくなる」と記者会見でこたえている。東峰住民に「人間としての尊厳を損なうよう」なことはしないと語ったことが守れないならば、社長を辞めるべきだ。空港会社と国交省は、地盤沈下する成田の地位を維持し、彼らの利権を確保することしか考えていないのだ。(長沢克巳)
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