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構造改革の現場から(9) 元日航労働者に聞く--(上)    かけはし2006.6.5号

航空機整備ミス続発の背景


 四月十一日、日航やスカイマークで相次ぐ整備ミス問題で、衆院国土交通委員会で、新町敏行日本航空(JAL)社長、西久保慎一スカイマークエアラインズ(SKY)社長に対する参考人招致が行われた。社長が国会喚問されることは異例である。それだけ、今回の整備ミスが重大であることを明らかにしている。日航は昨年三月にも、相次ぐトラブル発生で、国土交通省から事業改善命令を受けたばかりである。日航はどうなっているのか、長年、整備関連の仕事をしてきたAさん、Bさんに話を聞いた。(編集部)

航空整備の仕事とは

複雑な整備類
型と専門知識

――整備の仕事にA〜C整備とあるようですが、どのようなことをやっているのですか。

A 一番軽い整備ですとT整備です。だいたいオーバーナイトの一日一回。国内線で言えば、飛行機が午後十時に入ってきて、翌朝六時に出るとするとその間に実施する整備です。その間に離発着のため飛行間のサービスがあります。その上になると、A整備。A整備はだいたい一カ月に一度。ほぼ丸一日寝せて、十人くらいで行う。そして、C整備はだいたい一年に一度行う。これは航空機メーカーが指定している標準の整備体系で、A社はこうします、B社はこうしますとやっています。
 ここまでは一般的な整備体系です。この他に、日航の場合はM整備というのを特別にやっています。もともとC整備をずっと繰り返していけばいつまでも使えるというメーカーの考え方ですが、実際に使っているとそうはならない。例えば、最近の中で一番古いB747、それ以前のB707、B727、DC8などこういう第二世代はいわゆるオーバーホール整備が必要です。これをD整備という。これはメーカーがやれといって、おおよそ四年に一度行う。
 なぜそういうふうに決めているかというと、エンジンとか機体そのものなどは何時間に一度、何年に一度と、整備を必要とする時間制限がある。それだから、年に一度とかまとめて整備している。
 ペイントなど一年を超すようなものもある。これはAからC整備に入らない。

――飛行機が着陸して、離陸する。その間に整備をやるんですか。

A パイロットが約一時間前に来て、自分の乗る飛行機を異常がないかチェックする。同じようなチェックを整備士もやっている。ライセンスを持った整備士がこの飛行機を飛ばしてもいいよというここで航空日誌にサインをする。
 羽田や成田・関西など整備士がいるところはいいが、離島なんかに行くと整備士がいないというケースも考えられる。整備士を削りたいと発想したら、だれか別の人がやればよいとなる。日航などでも海外でも整備士を置かない所がある。どうするかというと、整備士がいっしょに飛行機に乗って、向こうに行って整備をやって戻ってくる添乗整備です。今の合理化の最先端です。これからは整備士が乗らずにパイロットがやればよいという発想になっている。

――整備の仕事は飛行機の飛ぶ原理から機体の構造などの知識を持っていないとできないたいへんな仕事だと聞いていますが、どうですか。

A 望ましいのは一人が全部知っていることです。場合によってはそんな知識は必要なくして、むしろ専門的なことを知っていた方が良いという分野もある。エンジンを下ろして、それだけを整備するところもある。
 機体の方で言えば、A整備は比較的、薄くて広い分野を見ることになる。飛行機をばらさないでぐるっと回って見る。あるいは色を見たり、熱の度合いを見たりする目視。せいぜい触ってチェックをする。こうした飛行機全体を知ってチェックするのが運航整備士です。この人々の多くはライセンスをとっている。例えば、無線装置のこの部分がどうなっているのかは知らなくていい。
B 医者に例えると、診療所で取りあえず来た人を診察する。これがT整備です。耳鼻科という専門の医者がいる。本格的に病院に行って入院して治療する。これがC整備(重整備)です。診療所には幅広い知識が必要で、専門医になるとその分野の専門知識が必要になる。これと同じです。

――一機当たり何人くらいで整備するという目安はあるんですか。

A T整備では四人が三チームを作ってやります。羽田だと十五機くらいが止まっているので、一晩で六十人ぐらいがいます。A整備は五年前で十人で六時間くらいでした。一晩で百人くらいでした。
 C整備はエンジン、操縦系統で約二十五人、フレーム・リベットなどの構造で約三十人、電気装備で約十五人、客室で約十五人それから機体内の清掃の人などで約百人くらいでした。これを二交替や三交替でやっていた。T整備は六時間、A整備は一日、C整備は一週間。M整備は二十四日間寝かせてやる。

――ボーイング社、ダグラス社と機種がいろいろあり、飛行機の作り方がかなり違うようですが整備に違いはありますか。

A ボーイング社がダグラス社を買収して、全部ボーイングになってしまった。ダグラス社はいまは民間機を作っていない。ボーイングDC10、ボーイングMD80となっている。飛行機メーカーによって、飛行機の構造がかなり違い、整備はたいへんだ。アメリカのボーイング系とヨーロッパのエアバス系とふたつの系列が世界にある。日本ではどちらも使っている。
B 長さの単位がヨーロッパはメートルだが、アメリカはヤードだ。それだけでも大きな違いがある。
A 整備士は両方の知識がないとだめです。同じ機体でもB747でも日航系はプラットアンドホイットニーというエンジンを積んでいる。全日空系はロールスロイス(今はゼネラルエレクトロニクス社)を積んでいる。そういう組み合わせです。それは航空会社が選ぶ。

下請・委託が
進む整備部門

――勤務時間はどうなっていますか。

B 整備の工場はほとんどが交替制です。土日休みというのは装備品関係のみです。
A @8―17時、A13―22時、B22―翌朝08時、C明け、D休み。これの繰り返しで、ずれていきます。約百三十人で一グループで五グループあれば回せます。

――賃金など待遇はどうなっていますか。

B 日航の場合、賃金は基本的には年功序列です。成果主義は薄いです。土日とか夜勤だと手当が出て、これがかなりの額になります。それでがまんしている。
A 賃金レベルは一般的に言うといいほうです。日本の航空会社で一番賃金が高いのはJASでした。今は日航と合併して、日航になっています。ANAとJALは同じくらいです。
 整備だと遅番やると交替制手当がついたり、土日行くから休日手当がついたり、夜勤やるから夜勤手当がつく。夜勤だと五〇%増し、法定だと二五%増しですが残業で三五%増しです。整備士には資格が必要なものもありますが、資格によってそれぞれ手当がつきますが大きい格差はありません。

――下請、派遣などで非正規社員はいますか。その人たちの待遇はどうなっていますか。

B 一九八六年頃に整備の補助業務で下請会社を使いはじめ、八八年頃に専門会社をめざして下請会社を作った。二〇〇〇年を境にして極端に増えてきて、現在ではそれが主力になっています。賃金格差は一番低くて正社員の三分の一です。これは最初から意図的にやっている。二分の一くらいが普通です。
A 海外整備だと三分の一くらいです。

――人数も減らされているのですか。

B 仕事自体は委託が増えている。下請は人数を増やしている。JALから出向という形で大量に下請に移っている。
A 整備の中には成田整備工場と羽田整備工場とエンジン整備工場と部品整備工場と四つある。そこにそれぞれ別の会社を作ります。当初本体は大で、別会社は小だった。しかし本体は採用しない、別会社はどんどん採用する。本体の方からも出向する。全体の従業員は三千八百人くらい必要ですよ。いまはこの関係が逆転している。というのは、この四月一日から、本体のエンジンと部品整備工場がなくなってしまった。
B JALではドラスチックに進んだ。以前は全日空なんかの方が下請化は進んでいた。全日空は大阪人の抜け目のない商売をやっている。プラザ合意の後、日航機事故がからんで本格的な下請化が行われた。こういう事態が招いたのはなんなんだと言えば、国が既成事実を容認して、どんどんルーズにしていった。耐震強度偽装マンションと同じですよ。

なぜトラブルが起きるのか

海外委託の問
題点はなにか


――八五年の御巣鷹事故後どのような安全対策が組まれましたか。

A 八五年の御巣鷹事故があり、「機付整備士制度」が導入され、〇三年にこの制度が廃止されました。これは一つのドラマだ。「機付整備士制度」ともう一つ最大違ったのは自社整備を確立することだった。
 事故の前は下請化をやろうとしていた。しかし、事故があって反省しましょうということで自社整備に徹するとなった。当時、人が足らなくて例えば国鉄とかIHIとか百人〜二百人規模で出向してもらってきた。二年ぐらい埋め合せをしながら自社整備をやろうとしてきた。社員の意識も盛り上がり真剣にやっていた。行政も整備の外注化なんて認めなかった。ところが、それを突き崩したのがそれ以降の一連の規制緩和です。さらに、八七年に日航は民営化した。

――九二年に赤字間接部門の削減と外部委託が始められたがどうなりましたか。

A いわゆる安全に関係ない分野・部門に競争を導入する。それが九四年あたりになるとあれほど反省をして整備を自社内でしたのに、行政そのものが規制緩和して定例整備の海外委託・外注化を認めた。全日空やJASも外注化を始めていた。自分たちはそうしたことはよくないと思っていた。

――海外委託の問題点はなんですか。海外の整備工場に行ったことがありますか。

A 私は整備士ではないので、外から見ているだけですが行ったことはあります。日本との違いは非常にあります。シンガポールのサスコ社や中国の厦門(アモイ)のタエコ社に、日航が一〇%出資し、役員も送っている。だからいいんだという大臣もいますがそうではありません。
 機体整備の目的の半分は検査です。それから実際に整備します。検査の質が問題になり、それは検査をだれがやるかによります。日航の場合にはいままでは検査員が基本的に独立していました。本当の検査員と調べる部所のベテラン整備士が検査をやります。良否を判定して、整備の方法が決まります。サスコやタエコは検査員はいますが、エンジンなどの各部署を専門的にやっているベテランが見るというより、国家資格を持っていて全体を見る人がやっている。一般論で言えば、深みがまったくなく、平面的な検査になってしまっています。
 それ以外にも、自社の検査だと右のエンジンに異常があれば左のエンジンも当然見ます。そうすると、左のエンジンも異常があることが多い。しかし、海外委託の場合は絶対に左は見ない。自分が与えられた所しか見てはならないとなっています。これが決定的な違いです。
 また実際整備の問題ですと、日本の整備は機体の整備をやった人が必ずここをやりましたと記録をつけてそれを保存しています。事故が起きた時は、整備の記録を追って事故原因を調べることができます。海外の委託会社では、一人の資格のあるスーパーバイザーの下に整備員がいっぱいいて、整備員は記録をつけていない。スーパーバイザーがサインをすれば良いとなっています。
 スーパーバイザーはぐるっと回って「終わったか」とそれでサインをする。これがスーパーバイザー方式です。国内法では整備をやった人がサインをするとなっていて、スーパーバイザー方式が禁止されていたが、規制緩和で今は認められています。さすが日本の航空会社では無責任になってしまうからやっていません。
 ミスは必ず起きます。その時、日航の場合はちゃんと報告してミスを復旧します。日航でミスがこれだけ明らかになるということはミスを隠せないということではいいことなんです。サスコやタエコは整備士がミスをすると厳罰なんです。重大なミスの場合は首になったりします。ですからミスが出てこない。これが実は極めて問題なんです。知っていても自分のペナルティーになると隠してしまうことになる。それがずっと繰り返されてしまうと大事故につながる可能性があります。
 その他にも、人の流動化をもたらしている。中国のタエコがシンガポール・サスコの整備士を引き抜くというようなことが起こっています。これがまた質の低下につがっています。自社整備の場合はこうしたことはほとんどない。しかし、分社化した下請会社の中では引き抜きが起こり始めています。賃金や労働条件の悪さが原因です。

労働条件悪化
とモラル危機

――二〇〇〇年に日航羽田整備工場で、ボーイング747型機の電気配線が切られ、八月にも再び切られた。〇一年二月にも同じ事件が起き。〇二年トイレ内壁に故意に穴が開けられていた。こうした事件をご存知ですか、なぜ起きたと思いますか。

A 事実ですね。会社としては調査委員会を設けて調査したが原因不明と発表しました。モラルが危機的になっているわけですね。二〇〇〇年に整備の子会社化が進められ、労働条件がすごく悪くなった。上司は日航から出向してくるし、職場的にも覇気がなくなった。そういう中で起こっているなと思っています。
B 空洞化が進んできた時です。日航は割に手厚い賃金がもらえていたので、こんな事件は起きるはずがないという常識があった。そこに一般世間が入ってきたので十分起こりうる。日航の庇護されたものからある種異質なものが入ってきた。そうすると本工内部の崩れも起こってきた。内容から見るとある種専門知識がないと無理だ。それも安全の致命的なところまでいかない範囲で起こしている。
A 成田でトイレにドライバーで穴をあけちゃった。電線が切られたのが四回。エンジンカバーの外側から傷をつけられた。この種のものが二〇〇〇年以降立て続けに起こされた。今はあまり聞かない。その頃と職場環境が変わっていると思えないが、会社はセキュリティーを強化して監視カメラなどを設置した。あるいは見回りを増やした。現在も膨大な費用を使ってやっています。
(つづく)


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