| 構造改革の現場から(8) かけはし2006.5.29号 |
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郵政民営化を前に加速する労働強化と解体される公共サービス |
郵政民営化法案が昨年十月に成立した。二〇〇七年十月に、郵政公社で働く人々は、分割された会社を選ばざるをえない。民営化は十年をかけて行われることになっているが、郵政公社は民営化を前に、局の統廃合など次々とリストラ合理化にむけて準備を進めている。郵政公社に働くAさんに現場はどのようになっているのか聞いた。(編集部)
集配部門の労働再編
――集配部門はどのようになっていますか。
郵便局は全国で二万四千七百局あります。このうち普通郵便局が一千三百局で、全体の四分の三が簡易局を含めた小規模の特定郵便局です。郵便局で働く労働者は職員が二十五万人、非正規雇用労働者(以下、ゆうメイト=日々雇用)が十四万人という構成となっており、来年の民営化を前に、職員の減とゆうメイトの増という傾向は顕著です。
民営化法案が昨年九月に成立しましたが、すでに一九九〇年代半ばから郵政省は「事業の危機」を前面に打ち出すなかで、合理化諸施策を全逓(現、JPU)と全郵政の二大労組の全面協力の下で押し進めてきました。公社に衣替えして以降も同様に行われています。ところで、省―公社が民営化に向け、その全体重をかけた効率化施策である「新集配システム」とJPS(ジャパン・ポスト・システム)の目玉として鳴り物入りで導入したトヨタ生産方式の全国展開という経営方針は、現場の業務運行の混乱のなかでいま、失敗施策であることが明らかになっています。
二〇〇三年に発足した郵政公社は、発足以前の「郵政新生ビジョン」の合理化施策を前倒しし、郵政事業の全分野にわたる徹底した効率化の「アクションプラン・フェーズ1」を発表、二年間で人事・給与制度改革(能率給・成果主義賃金)を導入し、併せて一万七千人の職員の削減と二千億円の経費削減を行ってきました。さらに、公社は〇七年民営化以降の「健全な成長に向かって足場を固める二年間」として「フェーズ2」を発表し、一万人を超える人員削減と生産性向上・コスト削減を至上命題とするトヨタ方式を埼玉・越谷局をそのモデル局として導入してきました。
――集配での一日の仕事はどのようになっていますか。
集配部門は大きく分けて速達郵便・書留を配達する早番者、通常郵便物・書留を配達する日勤者、速達郵便・書留を配達する遅番者の勤務に分かれ、郵便小包は委託業者が配達していました。通常郵便の一日の作業パターンは、郵便内務で大区分された郵便を集配担当者が区分―道順組立―配達―事故郵便(転居・不明)処理となります。
これら作業の他に、転出入世帯の事務処理、各種ゆうパックやエクスパックの販売などが含まれるのです。通常郵便配達は職員とゆうメイトが、速達郵便配達は職員が担うというのがこれまでの作業パターンだったのです。
新集配システムとは
――2002年に導入された「新集配システム」はどんなシステムですか。
試行導入されたシステムです。これは書留・速達・小包郵便などは対面配達として原則的に職員が担い、受箱配達の通常郵便は、原則としてゆうメイトが担うというものです。しかし、六時間雇用のゆうメイトに区分―道順組立―配達―事故郵便処理の一連の作業がスムーズに運行されるはずもなく、職員と組立専門のゆうメイトが応援に入らざるを得ません。
このため、対面配達の書留・速達郵便を除き、小包郵便は委託業者が引き続き配達している状況にありました。試行導入時から、この施策を全国展開していくというかけ声とは裏腹に、実態として頓挫した状況にあるのです。
――トヨタ方式のJPSの問題はどうですか。
〇三年、JPSの総本山とされてきた埼玉・越谷局におけるトヨタ生産方式の試行導入から、今日まで全国の一千局に導入が拡大されてきました。公社―トヨタは、トヨタ方式によるJPSの導入で一〇%のコスト削減を掲げ、初年度から九・一%のコストダウンを達成したと発表し、民間手法の導入で大きな成果を挙げたと全国に大々的に宣伝してきました。
ところが、JPS検証チームの調査によって、支社と当局で事実を隠ぺいしていたことが明らかになったのです。要するに各パーツの作業時間も全く短縮されておらず、職員の労働時間ばかりが増え続け、何ら効率的な側面のないことが判明したのです。トヨタの担当者は、何ひとつ結果につながっていないのは管理者を含め、全職員にその非があるとして「もっと真剣に、真面目に、改善に取り組め!」と八つ当りする始末です。
しかし、そもそも生産ライン工場での単一作業の流れ工程を、郵便での複合的作業にあてはめようとする考えに`ムリaがあり、逆に`ムダaが積み重なっていく結果となっていると言えます。越谷局でのタテ型区分は廃止されましたが、立ち作業は現在も行われ、依然として長時間過密労働を強いられています。
「2ネット方式」の実施
――それでは「フェーズ2」はどうなっていますか。
先程、「新集配システム」の全国展開は頓挫している状況にあると述べましたが、「フェーズ2」ではさらに、集配能率の向上のため外務職員は担当エリア内のすべての郵便物の配達・集荷を受け持ち、多能工化をベースとする「1ネット方式」(04年から10時間労働を基本とする1週3休制)を東京の芝局と荻窪局に試行導入するというなりふり構わぬジグザグ路線を展開しています。芝局では十二時間拘束の十時間勤務、荻窪局では十一時間拘束の十時間勤務で一週三休制です。
この「1ネット方式」も「新集配システム」同様、ゆうメイトの雇用確保もままならないなかで施行され、以降も定着率の低さなどによって、当初、公社が想定していた`ゆうメイトには担当区の六割の通常郵便物の配達でa運行していけるという目論見はもろくも崩れたのです。このため、ビジネス地域の芝局では新たに十一時間拘束の十時間勤務を追加、荻窪局では住宅地域のため郵便物量が多くバイクに積みきれず、何度も局を往復する非効率も重なって中止となり、〇六年以降、「2ネット方式」に切り替えることとなりました。
効率化・利潤追求を第一義に掲げる公社は、職員の大量削減と合理化諸施策を矢継ぎ早に強行してきましたが、この一方で「新集配システム」の全国展開の頓挫、「1ネット方式」の見直し・中止という事態を受けて、昨年十一月、「平成一七年度における2ネット方式の実施に関する具体的実施計画」を提示、今年度中に郵便外務職員を全国で二千六百七十七人減員するとしています。この「2ネット方式」実施局は全国で五十五局、東京支社管内では三十五局が今年二月以降、すでに実施されており、普通郵便局は基本的に全国実施するとしています。
――これまでの「新集配システム」と「2ネット方式」ではどう違うのですか。
「2ネット方式」では、@「集荷を含めた対面配達」においては、書留、速達、小包などの高付加価値郵便の配達、担当区内の中小口を中心とした効率的な集荷及び営業活動を行い、原則として職員の事務とする。また、委託による小包配達は原則として職員への切り替えとするA「受箱配達」においては、通常郵便・冊子小包のみの配達を行うこととし、受箱配達に従事する職員の配置割合を四割として、残りをゆうメイトに転力化する。というもので、受箱配達のゆうメイトの雇用はこれまでの六時間から八時間(フルタイム)雇用となりました。
この「2ネット方式」は職員の減員に代わるゆうメイトの大量雇用で正常な業務が運行されるはずだったのですが、実施されてわずか一〜二カ月とはいえ、郵便の誤配・遅配による利用者からの苦情は引きも切らず、またゆうメイトの退職も相まって、業務の混乱が続いています。効率化のかけ声とは裏腹にこれまでにも増して、職員・ゆうメイトの長時間過密労働が増大している状況が生まれており、すでに連日二時間程度の過密勤務の上に、非番日の買い上げすら行われている状況が生み出されています。
とりわけ、ゆうメイトの雇用が増大しているなかで、ゆうメイトの雇用が長期に安心して働ける環境は全く整備されていない状況にあり、賃金・雇用・訓練など職員並みの労働条件の改善・整備の確立は不可欠です。
郵便内務部門の労働
――郵便内務部門はどうなっていますか。
「フェーズ2」で一万人強のリストラを計画していますが、その具体策として郵便内務事務のアウトソーシング(外部委託)とともに十時間二交替制を提示しています。この提示内容では、「郵便計画人員が五十人以上の全普通局を対象に、窓口・計画以外の郵便内務事務すべてを部外委託する」「アウトソーシングの対象局以外の深夜帯勤務を行っている局では、十時間勤務を基本とする四勤三休の勤務体系に移行する」としています。
つまり、郵便内務部門ではその基本業務のすべてを部外委託することによって低賃金労働者に置き換え、徹底した人件費コストを抑えるというものです。
郵便内務のこれまでの夜間勤務は、拘束時間十六時間、仮眠時間二時間の新夜勤が入っていました。この新夜勤は、拘束十六時間十五分で、実働は十四時間(2時間カット)、仮眠時間が二時間あり、「泊り〜明け〜非番」で運用されてきたのです。ところが、〇三年一月、つまり郵政公社が発足する三カ月前に、公社はJPUと全郵政の二労組に深夜勤実施の提示と協力を水面下で進め、とりわけJPUは現場組合員の反対の声を抑えるために協約改悪をしてまで導入を決定したのです。
二日間にまたがる実働十四時間勤務の新夜勤に対して、一日の実働十時間勤務の深夜勤となったわけですから、深夜勤が二日連続した場合、はるかに長時間労働が強いられますし、しかも最長で四夜連続の深夜勤も行われているのです。仮眠時間がなくなった上に、朝帰宅してその日の夕方に勤務に就くというパターンが連続するのです。特に、勤務が明けたその日にまた仕事に就くというのは肉体的にも精神的にも想像以上の厳しさであることは内務労働者の共通した意見です。
この結果、年間百四時間もの実働時間の増加となっています。
ILO条約の勧告、日本産業衛生学会の意見書や提言などで、@夜間勤務者の労働時間は常日勤者よりも短くすることA夜勤の連続は避けることB仮眠時間を設けること、などが指摘されているにもかかわらず、効率化・コスト削減を旗印に公社はこれら提言を真っ向から否定し、郵政二大労組の全面協力の下で労働者に対する明白な労働条件の引き下げを行い、過酷な労働を強いてきています。
こうした公社と二大労組の暴走に対して、郵産労、郵政労働者ユニオン(以下、郵政ユニオン)、JPU労働者が労組の垣根を越えた全国で四件の、そして百人近い原告で深夜勤の廃止を求めて裁判闘争に立ち上がっています。
このように、〇七年十月の民営化を前にして、郵便事業の外務部門、内務部門を貫いた合理化諸施策が矢継ぎ早に加速されてきています。しかも、これまで述べた施策の導入の背景には、郵便事業における収益が多くを望めない状況にあるために、小包獲得とその営業に重心を置いた物流事業への参入にシフトしていくことにあるのです。
したがって、郵便の外務・内務での効率化・コスト削減の主要な矛先は、徹底した職員の削減と低賃金ゆうメイトの大量雇用に置き換えることを第一義として展開・強行していると言えます。しかし、前述しましたように公社が効率化の目玉として試行実施し、これを全国展開すると豪語していた「2ネット方式」もまた業務が混乱するなかで、職員・ゆうメイトを問わず長時間労働が常態化している状況にあるのです。
公務非常勤裁判の勝利
――公務非常勤裁判での勝利判決と郵政ユニオンの運動の接点は?
三月二十四日、東京地裁で日本労働裁判史上初めての公務非常勤に対する画期的な勝利判決が下されました。国立情報学研究所(文部科学省管轄の大学共同利用機関)に時間雇用として一日六時間、約十四年にわたり任用更新を繰り返してきたMさんが、〇三年一月、理由もなく更新拒絶を通告され、〇四年三月に地位確認などを求め東京地裁に提訴していたものです。
公務非常勤労働者は法的な身分は「雇用ではなく任用」とされ、民間非常勤労働者であれば適用されるパート労働法による解雇制限の法理からは除外されてきました。任期が一日あるいは一年であるということで、正当な理由も告げられず、一方的に雇い止めされてきた公務非常勤労働者はこれまで幾度となく裁判闘争を闘ってきました。とけわり、郵便局で働くゆうメイトもこの二十年間で全国で十数件もの雇い止め裁判を郵政ユニオンの全面的な支援のなかで闘ってきた経過があります。
この判決では「思うに、非常勤職員といっても、任用更新の機会の度に更新の途を選ぶに当たっては、その職場に対する愛着というものがあるはずであり、それは更新を重ねるごとに増していくことも稀ではないところである。任命権者としては、そのような愛着を職場での資源として取り入れ、もってその活性化に資するよう心がけることが、とりわけ日本の職場において重要であって、それは民間の企業社会であろうと公法上の任用関係であろうと変わらないものと思われる。……任用を打ち切られた職員にとっては、明日からの生活があるのであって、道具を取り替えるのとは訳が違うのである。……」という注目すべき人間味あふれる記述で、解雇無効の断を下したのです。
しかも、この判決文では横浜港郵便局、岡山中央郵便局のゆうメイト裁判の判決を引用しており、これまでのゆうメイト裁判の地平から導かれたものであることを見逃すことはできません。まさにゆうメイト裁判が公法の壁に風穴を開けた歴史的判決を導き出したと言えます。
この法の谷間に放置され続け、不安定な地位に苦しみ、常に雇い止めの不安にさらされてきたゆうメイトの処遇に対して、郵政ユニオンは郵産労と協同して四月二十八日、参院でゆうメイトの労働法適用を求める署名一万八千七百十筆を衆参両議長へ提出、そして〇七年民営化を見据えた雇用継続を求める交渉を総務省と行ってきました。今後、民営会社へ業務承継計画の提示を受け、さらなる取り組みの強化をはかっていかなければなりません。
労働者・市民の共同闘争を
――07年の民営化を前に何が起こっていますか。
民営化法案の成立によって〇七年十月、郵政公社は持ち株会社の下で、窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便保険会社、郵便貯金銀行の四会社に分割されます。「民営化後も現行サービス水準は維持される」「国民の利便に支障が生じないよう万全を期す」と国会審議や付帯決議でも確認されてきましたが、こうした確認は民営化を前に、すでに反故にされる計画であることが明らかとなってきています。
この承継計画では、郵便を配る郵便事業会社は各都道府県のエリア統括支店を七十、統括センターを一千百、配達センターを二千六百カ所としており、しかも段階的に配達センターは統括センターに統廃合していくというもので、結局、現在全国に約四千七百ある集配郵便局は一千百局に縮小されます。さらに、今年九月から実施される集配拠点の統廃合により、全国で一千余の過疎地域に多く設置されている集配特定局が集配業務を廃止し窓口だけの郵便局となるのです。
したがって、この統廃合で職員定数の減員や一方での集配エリアの拡大によって配達や集荷の遅れは必至であろうと思われます。加えて公社は全国四千七百局の集配郵便局のうち、三千六百局の時間外窓口サービスの廃止を打ち出すとともに、全国で約二万六千台あるうち利用価値の小さい局舎に設置されているATM(現金自動預払機)の撤去と取り扱い時間の短縮も取り沙汰され、明らかにサービスの切り捨てが行われ、また過疎地の切り捨ても行われようとしているのです。
公共サービスを守る闘いを、郵政事業を市民・社会の手に取り戻す運動を広範に粘り強く創り上げていかなければなりません。郵政ユニオンは、郵政民営化を監視する市民ネットワークと協同でこれらの闘いを全力で取り組んでいます。(文責編集部)
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