| 香港閣僚会議をふまえこの一年の運動を考える討論会を開催 |
運動の側の発信
機能の質的飛躍を
一月二十二日、東京の全水道会館で「WTOとどうたたかうか 香港閣僚会議を踏まえこの一年の運動を考える」新春討論集会が開催された。主催は脱WTO草の根キャンペーン。
最初に、昨年十二月に行われた香港でのWTO対抗アクションの映像が流された。映像は、レイバーネット日本の安田幸弘さんが撮影したもので、香港、韓国をはじめ、アジアや世界各国の社会運動がWTOが繰り出そうとする経済秩序に反対するさまざまなアクションが行われたことが伝わった。ビクトリアパークで行われた大小さまざまな集会やセミナー、香港市民の注目を集めた韓国訪問団による街頭行動、そして十二月十七日から十八日にかけての香港当局の弾圧がリアルに伝わった。安田さんは日本においても運動の側の発信のバージョンアップが必要であることを訴えた。
遺伝子組み換え
食品はいらない
香港ビクトリアパークで遺伝子組み換え食物(GMO)のセミナーをおこなった遺伝子組み換え食品いらないキャンペーンの清水亮子さんからセミナー報告をうけた。
「貿易という名の下に危険な食品を押し付けてくる。いま遺伝子組み換えで大きな問題となっているのは中国だ。国策としてGMイネを開発している。グリーンピースチャイナの報告によると、開発中のイネが違法に栽培されている。研究者が政府のバイオセーフティ関連の委員会の委員をつとめたり、種企業の関係者であったりする。直前の十一月の同委員会ではかろうじて安全性が保障されないという事で栽培は承認されなかった。危険な状況には変わりない」。
世界各地からGMに反対する活動家が一堂に会して意見交換ができたことが大きな収穫であり、内外のさまざまな運動につながりたい、と語った。
農業交渉で示さ
れたものは何か
つづいてWTOの分野ごとの交渉状況が報告された。今回の閣僚会合でも最大の関心事となった農業交渉についてフォーラム平和・環境・人権の市村忠文さんが報告した。
「肝心な部分は先送りだが、先進国にとっては痛みのないもの。途上国から批判されていたアメリカやEUなどの国内助成政策については、名目をすりかえて維持できる可能性がのこされた。日本政府は高い関税率を維持することが認められる重要品目という文言を閣僚宣言に書き込めたことを成功として語っていた。しかし現在約七七〇%のコメに対する関税の大幅引き下げの可能性も排除できず、米価下落と自給率の低下が懸念される。また途上国にとっては農業交渉に時間をとられる一方、工業製品やサービスに関する貿易交渉では先進国案が採択された。閣僚宣言は、途上国にとってほとんど利益のない合意である」。
突きつけられる
「豊かさ」の意味
つづいて途上国・開発に関してATTAC Japanの清水政夫さんが解説した。
WTOは基本的に最恵国待遇原則が採用されており、すべての加盟国に対してもおなじ貿易ルールが適用される。しかし、開発レベルの異なる途上国と先進国が同じ条件での貿易競争をすることはできないという懸念をもつ途上国を懐柔するために、「例外措置」として途上国に対する配慮を行うことが話し合われてきた。今回の閣僚会議において途上国をWTO体制につなぎとめるためにも途上国に対する配慮は重要であると先進国は繰り返し強調してきた。しかし清水さんはそれは先進国の欺瞞ではないかと批判した。
「その一環として、たとえば日本政府が発表した開発パッケージは最貧国の輸出を増大させるための技術支援をおこなうとしているが、何ら目新しいものではない。これまでのODAの延長にあり、日本の商社や進出企業のためのものだ。対抗アクションに参加した日本のグループから共同の反対声明がだされた。WTOや各国政府のいう『開発』とは何なのか。輸出が増加することだけが豊かになる手段なのか。わたしたちは改めて豊かさとはなにかを考えなければならない」。
「また途上国に対する優遇例外措置は重要だといいつつ、先進国は具体的中身の取り決めをずっと先延ばししている。WTOが結成されて十年たつが、優遇例外措置に関する条文案はほとんど変化していない。十年間も先進国はほったらかしにしてきた、という批判が途上国NGOから上がっている」。
非農産品市場ア
クセスの問題点
先進国政府や多国籍企業が大きな関心をもっているのが非農産品市場アクセスである。ここでは農産品以外のモノの輸出入の関税水準の引き下げ方法が主要な交渉事項となっている。
WTOとは、簡単に言ってしまえば各国にあるさまざまな非関税障壁をすべて関税に置き換え、関税を引き下げていこうというものである。各国は自国の産業を育てるために、高い関税や輸入数量制限などを通じて自国産業を保護・育成してきた。しかしWTO体制の下では、それらの措置は「貿易を歪曲する」であり、政府は極力関与せず、市場を通じて国際競争力のある(=生産性の高い)商品を世界に拡大することが望ましいとされる。多くの途上国では依然として高い関税を維持している。
ATTAC Japanの秋本陽子さんは、「今回の閣僚宣言で決められた非農産品に関する関税の引き下げ方法は、高関税なものほど引き下げ幅の大きくなる方法であり、多くの途上国にとって極めて厳しいものとなっている。先進国の産業は国際的競争力をもっており、関税に守られなくても大丈夫だが、途上国はそうではない。またある品目について影響力のある関係国だけで関税引き下げ率を決めてしまうことにつながる文言などもある。先進国の製品が途上国に広がることで、途上国では失業が増大するだろう。森林資源や水産物なども範囲に含められることから環境への影響も大きな交渉である。多国籍企業に有利になるような結果を阻止しなければならない」と語った。
サービス市場
開放という圧力
WTOがGATTと大きく異なるものに、サービス貿易に関するルールを包括したことがあげられる。サービス貿易とは、金融、運輸、通信、建設、流通などのサービスの国際取引をさし、モノと違い関税措置よりも、サービスの提供または消費に当たって課せられる諸規制が貿易障壁として重要となる。サービス産業や公共サービス部門において外資に対する規制をどのように緩和していくのか、ということである。これは「サービス貿易に関する一般協定」(GATS)交渉のなかで話し合われてきた。
二〇〇三年の世界貿易に占めるサービス貿易の輸出額は約一兆八千億ドルにのぼり、モノとサービスの輸出の合計額約九兆ドルの二〇%近くを占める。輸出のおおくは先進国からのものであり、新たな市場として注目される公共サービス部門の市場開放(民営化)についてもGATSが影響してくることから、この交渉は先進国の多国籍企業にとってもおおいに関心をもつものである。
グローバリゼーション・ウォッチャーとしてWTOリサーチ活動をしてきた佐久間智子さんは次のように指摘した。
「今回の香港会議で採択されたサービス貿易に関する文書によって今後サービス貿易に関する交渉は、これまで以上に国の力関係が反映される。これまでは、ある加盟国が開放してほしいサービス分野を提示し(リクエスト)、提示された国はそのうちのどの要求に応じるのかを返答し(オファー)、オファーした分野を二国間交渉によって開放条件を話し合い、合意した開放条件は全ての加盟国に対しておなじように適用された。しかし今回合意したものは、従来の二国間交渉だけでなく複数国間交渉を正式に認めるとされた。先進国は利害関係の一致する加盟国とのあいだでフレンズと呼ばれる協議グループを十九のサービス分野において形成している。もしこれを軸に複数国間交渉がおこなわれると、サービス市場の開放を迫られる途上国にとっておおきなプレッシャーになる。GATSはエネルギーや医療や福祉など公共性の高い部門も包括している」。
アンチダンピン
グ税の運用交渉
WTO貿易体制では、ある商品の輸出向け販売が、その商品の国内向け販売より安い価格で行われていることをダンピングといい、そのダンピングによって輸出先の国の競合する産業が損害を被っていることが分かればアンチダンピング税をかけることができる。しかしその乱発は「貿易を歪曲する」ことから、節度ある運用がいわれてきた。
従来からアンチダンピング税の賦課申請を多発してきた米国に加え、この間はインド、中国、ブラジルなども「国益」をまもるためにこの制度を利用してきた。いかに節度ある運用を行うのかについての交渉も進められている。
日本消費者連盟の山浦康明さんは、「これらのルール整備の目的も貿易促進のためであり、途上国を国際貿易に参加させるためのものに過ぎない。ただアメリカは独自の国内法としてアンチダンピング法があり、ますます単独主義を深めている」と語った。
どのようなたたか
い方が必要なのか
それぞれの提起に続き、大野和興さんが今後一年の運動をどう構築するのかについて提起した。
「今回の閣僚会議の結果を見ても、相手側も必死であることが分かる。サービス貿易や非農産品市場アクセスの分野で巻き返しを図ったが、無理をした分、矛盾も今後あらわれるだろう。私たちが主張してきた合意断念も非現実的な要求ではない。あと一年合意を阻止すればWTOの実効性は地に堕ちる。しかしWTOは分かりにくいという問題がある。暮らしと労働の現場で運動をつくる努力が必要だ。グローバリゼーションにはグローバルに対抗しつつ、ローカルレベルでもたたかい、そしてそれを全国政治のレベルに持っていくことだろう。市民、労働者、環境活動家などが連帯しあい、そしてそれをアジアに広げなければならない。また『開発』をどう考えるのか、も問われるだろう。このままで経済が発展すればそれでよいのか。交換のありかたを考えていく必要もあるだろう。」
参加者の活発な
問題提起と討論
討論では、香港でおこなわれていた国際公務労連のセミナーに参加した池田実さん(郵政4・28処分者)が「公共サービスの切り崩しに対抗する準備を始めなければならない、そのためにGATSを視野に入れた民営化反対の取り組みが必要だ」と発言した。
秋本さんは、WTOだけでなく、日本農業の切捨てを主張する経団連などの経済団体の露骨な要求にも関心を持つべきだろうと提起した。山浦さんは、「BSE問題でアメリカが強気なのは、WTO協定の衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS)が規制のゆるいアメリカの国内基準を基礎にしていることから、日本の輸入規制をWTOに訴えても勝てる、という自信があるからだ」と食の安全を重視しないWTO体制を批判した。
佐久間智子さんは「なぜこんなにひどいWTOから途上国は離脱しないのか。それは離脱すると、極端に高い関税をかけられることによる世界貿易からの孤立を心配しているからだ」と指摘した。
WEF東アジア会
議への取り組みを
今後の運動の広がりは、二〇〇一年から始まったWTOの新ラウンドの交渉期限である二〇〇六年末までにどのように連帯する対象を拡大していくのかにかかっている。一月下旬には世界経済フォーラムにあわせてスイスで非公式閣僚会議が開かれた。二月末はサービス貿易交渉のリクエスト提出、四月末には農業、非農産品市場アクセスの関税引き下げの枠組みを決定する。六月には世界経済フォーラム東アジア会議が東京で行われる。今年上半期だけをとってみてもグローバリゼーションを推進するこれだけの節目がある。節目節目にアクションを行うことはもちろん、その間の活動をつなぎ、地域と世界をつなぐこれまで以上の取り組みが問われている。全国農民組織連絡会議の落合さんから、四月の枠組み決定の際にはWTO本部があるジュネーブに駆けつけることが伝えられた。
最後に大野さんから、WTOをはじめグローバリゼーションの動きを追いかけること、全国農民組織連絡会議の取り組みを孤立さないこと、多くの運動体の連携を実現すること、六月の世界経済フォーラム東アジア会議に対して何らかの取り組みをアジア規模で準備することなどが提起された。 (早野一)
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