| 秋本陽子さん(ATTACジャパン)に聞く かけはし2006.12.11号 |
| 新しい共同戦略の形成をめざす社会運動ネットワークへの挑戦 |
新自由主義的グローバリゼーションに対する抵抗のネットワークは、新しい局面の中で新しい戦略を必要としている。世界社会フォーラムが提供してきた「場」をベースに、社会運動はどのような挑戦をすべきなのか。九月末から十月にかけてベルギーのブリュッセルで開かれた世界の社会運動戦略セミナーに参加したATTACジャパン(首都圏)運営委員の秋本陽子さんに話を伺った。(編集部)
ブリュッセルでのセミナー
――九月二十八日から十月一日まで、ベルギーのブリュッセルで「帝国主義・戦争・新自由主義・家父長制に反対する社会運動戦略セミナー」が開催され、日本からはATTACジャパンの秋本陽子さんが参加されましたね。今、なぜこの時期にセミナーが行われたのですか。
昨年(二〇〇五年)十月に、スイスのジュネーブでWTO(世界貿易機構)一般理事会が開かれた時に、世界中からそれに反対するさまざまな運動体が集まりました。昨年十二月に香港でWTO閣僚会議が予定されており、そこでドーハ・ラウンドが妥結されるのではないかということで、抗議行動が展開されたわけです。そのせいかジュネーブの一般理事会では合意案が出されませんでした。一方、 WTO反対運動の側は、この行動の中で、われわれはどうしてここに集まっているのか、次に何をしたらいいのか、情勢分析をする必要があるのではないか、という話になりブリュッセル会議が準備されることになったんです。
今回の主要な呼びかけ団体は、世界の主要な社会運動団体で、アジアではフォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス、債務帳消しの運動団体であるジュビリー・サウス、欧州ではCADTM(第三世界債務帳消し委員会)、それから世界的な農民運動団体のビア・カンペシーナ(農民の道)、世界女性行進、中南米のコンチネンタル・ソシアル・アライアンスなどです。
世界の隅々から社会運動団体が集まりました。アフリカからはケニア、コンゴ、セネガル、コートジボアール、南ア、ナイジェリア、マリ、マダガスカル。中東・アラブ圏からはモロッコ、チュニジア、エジプト、シリア、レバノン、イスラエル。南北アメリカからは米国、カナダ、キューバ、ハイチ、コスタリカ、コロンビア、エクアドル、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン。アジアではインド、バキスタン、インドネシア、タイ、フィリピン、そして日本。欧州からはスペイン、フランス、イタリア、スイス、ベルギー、オランダ、ドイツ、イギリス。さらにロシアからも参加しました。それ以外に韓国のように参加が予定されていたのですが、参加できなかったところもありました。会議の全体の規模は百人ぐらいです。
私たちはどういう存在か
――討論の様子はどうでしたか。
参加者の共通認識は、社会運動が新たな段階に来ているということです。二〇〇一年一月に世界社会フォーラムが始まった時と二〇〇六年とでは明らかに違った段階に入っている。それは資本主義の新自由主義システムの新たな攻撃によるものです。とりわけ「9・11」以後、アメリカの「対テロ戦争」が始まりました。その戦争は天然資源の支配を目的としたものであり、世界を永続的なグローバル戦争の中にたたきこみました。セミナー参加者は、この戦争は、人類の大部分にとって、世界を再植民地化するための戦争であると概括しています。
その中で私たちの側にも獲得した成果があります。ラテンアメリカではチャベスやモラレスが登場し、エクアドルでさえも左派がかなり力を伸ばしています。その中で民衆の権利が守られるという明るい話があります。それにフランスでは欧州憲法が否決されるとともに、CPE(初期雇用契約)を若者がひっくり返しました。こうした積極面があります。しかし他方イラクでは米軍の侵略・占領が泥沼状況に陥り、レバノンをイスラエルが攻撃しました。アフリカでも戦争状態が続いています。タイ南部ではムスリムが弾圧され、東チモールの問題もあります。こうした情勢をどう捉えるべきかについて討論が行われました。
そして私たち自身がどのような存在なのかについて討論になり、さまざまな意見が出ました。討論の結果として私たちはかくあるべきであるというような結論は出せませんでした。最初は会議の宣言のようなものを出すことを考えていたのかもしれませんが、そうした規定の仕方は無駄であることを全員が確認して、結局@われわれはどういう存在でありA何が一緒にできるのかBその際どのようなツールが必要なのか、の三点を話し合おうということになったのです。その結果、ある程度確認したのがアセンブリーという名での社会運動ネットワークの構築なのです。
多様性を前提とした共働
私はATTACジャパンで参加しましたが、言うまでもなく日本の運動を代表しているわけではありません。ブラジルのCUT(統一労働者センター――PTの基盤の一つである労働組合ナショナルセンター)からも参加していましたが、その人たちがブラジルの労働者全体を代表しているわけでもありません。今後の運動のあり方として志向しているスタイルも従来のものとは違っています。しかしセミナーに参加した人たちは、地域を代表するわけではないにしても社会運動の重要な部分を担ってきました。そうした人たちは、運動の多様性を認め合うことが重要だということで一致しています。この点は重要なことでしょう。
フランスでの移民に対する厳しい弾圧についての討論の中で、チュニジア系フランス人がある異論を出しました。彼は、みんな自分のことばかり言って共通項を作りだしていないことに不満であり、自分の意見を言った後に席を立って出ていきました。普通なら会議がシラけるところだったのですが、シリアから参加した女性がそのチュニジア系の彼をもう一度会議に参加させたいと提案し、公平さを保とうということで彼の参加を保障しました。
そのチュニジア系の彼は、女性グループの運動が排除される傾向があると批判しました。そこでそういう人たちとどのように結びついていくのか、意見の違う人々を包摂する社会運動とはどういうものかを論議することになりました。多様性を認めるとはどういうことなのか、どのように一緒にできるのかが次の課題です。
多様性を前提とした上で、何ができるかを考えれば、たとえば世界行動デーなどがあります。それについて討論すればいいという意見もありました。しかし世界行動デーを設定した場合、どのような人びとが参加できるのか、どこまで参加すれば成功と言えるのか、という問題もあります。二〇〇三年二月のイラク反戦行動では全世界で一千万人以上が参加しました。なぜ私たちはそれを達成できたのかという話にもなりました。グローバルデーと言っても強制ではないし、参加できるところが参加するという形にしかならない。そのような形で論議は集約されました。
もう一つ討論された大きなテーマは、世界社会フォーラム(WSF)とは違う形でのネットワークのあり方です。WSFは議論する場ではありますが、ブリュッセル会議で意図されたネットワークは、アジェンダ(課題)を作る場だということです。具体的な行動を起こす場だということですね。呼びかけの中心は世界銀行、IMF、G8に反対し、途上国の債務帳消しを求めるグループであり、今回の戦略セミナーの名称にあるように帝国主義、戦争、新自由主義や家父長制に反対するのが共通認識だったわけですから。
たとえばセミナーの初日に呼びかけ団体が発言し、ブラジルのCUT、ジュビリー・サウス、フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス、ビア・カンペシーナの四団体がスピーチしましたが、CUTの人びとは、WSFはスペースではあっても運動の場ではないので、もっと社会運動を強化する場が必要であると語りました。WSFではWSFとは別個に「社会運動団体」の宣言という行動アピールが出ますよね。そうした社会運動ネットワークを強化し、もっと情勢を分析したり、キャンペーンのために討論して、戦略を作りだす場が必要だということです。
対抗軸をどううちたてるか
――参加団体の認識として、客観情勢としてはアメリカの常時グローバル戦争などがあるわけですが、社会運動の主体的な問題点として、どういうところにぶつかっているのかといった討議は行われましたか。
フランスからの発言では、欧州憲法を否決し、CPEも葬り去った上で、私たちの戦略をどうするのか、来年の大統領選でどのような対抗軸を打ち出せるのかという問題が投げかけられました。いいチャンスだけれど、その「対抗軸」について打ち出せていない。そこが問題だ、ということです。最初の議論の中には、今の困難とは何かというテーマはありましたが、全体討論の中では出ませんでした。各地域別の分科会ではあったかもしれません。
――ブラジルのルラ政権は反グローバリゼーション運動を背景にして誕生した政権ですが、現実的には新自由主義政策を取っています。運動と政権との関係についての論議はあったのでしょうか。
政権との関係についてどうするのかという討論はありました。ブラジルのルラに対してはみんな辟易しているので、誰もブラジルPTとの関係については話さない。むしろチャベスに対してどうするのかということです。ただチャベスについて個別にあれがいい、これは悪いというのではなく、おそらく地域によって皆の意見が違う。ラテンアメリカではチャベスの評価にいての位置づけは大きい。
他の国の人が、「われわれは政党から独立している」と言います。しかしたとえば日本の私たちが「政党から独立している」と言うことと、ベネズエラなど「対テロ戦争」の前面に立たされているようなところとでは政党との関係について一様には言えません。そのことを皆分かっているから、政党との関係をどうするかを詰めるということは、あんまりしませんでした。
ハイチから参加した人は、チャベスが大統領になったことで勇気づけられたと言っていました。この人はハイチでオルタナティブ開発政策運動に取り組んでいます。世界社会フォーラムに示唆を受けて二〇〇〇年以後、運動を開始したそうです。民衆教育、ジェンダー問題、生物多様性など新しいスタイルのデモクラシーを追求するキャンペーンを基礎にしています。中南米のコンチネンタル・ソーシャル・アライアンスに参加しているようですね。おそらく昨年十一月にアルゼンチンのマルデルプラタで開催された米州サミットでFTAA(米州自由貿易協定)をつぶす運動にも参加したのでしょう。彼はハイチで多国籍企業に反対する運動も組織しています。
私はハイチのような国でそうした運動が作りだされていることに正直ビックリしました。現在の局面でこうした運動が作られていることの意味は大きいと思います。
チャベスが政権を取り、ポピュリストかもしれないけれど貧しい民衆の利益になるような政策を進めている。ハイチでオルタナティブを追求しようとするグループにとっては、それは非常に励みになることです。それについて政党との関係や、チャベスはどうなんだということを先進国の視点で語ることはできません。それを皆理解しているので、良いとか悪いとか論じる人はいません。もしかしたら多様性を認めるということは、この考えにつながるのかもしれません。
ブズガーリンの主張は
――会議は、全体会と分科会という組み合わせだったのですね。
はい。テーマ別ではなく、地域別・言語別のグループ討論でした。最初地域別の討論をやって、論点を出したり報告をしたりして、全体会に持ちかえって討論しました。
――結論は出ないにしても、現状認識を共通のものにした上で多様な社会運動をつなげていくということでしょうか。
あとロシアのブズガーリンが延々と喋っていたのですが、彼は最後に執行部か書記局のようなものが必要だと語っていました。彼は「新しい社会主義」を主張していて、関心がある人は私のところに来てくださいと言ってましたね。私は彼とは初めてだったので結構面白かった。みんな彼の話をきちんと聞いていました。
彼は七月のロシア社会フォーラムについて話していましたが、われわれはきちっとしたレフトの運動をすべきなんだと強調していました。G8サミットに対してロシア社会フォーラムを準備し、千人ぐらいの参加を予定していたのですが、結局弾圧の関係もあり千人まではいかなかった。ロシアの中でプーチンに反対している人たちの間では、ソ連に対してノスタルジアを抱いている人たちと、彼のようなニューレフトのグループなど幾つかに分かれています。ただ社会運動が必要だというところでは共通しているようです。
ブズガーリンのグループは公共サービスの民営化に反対する運動をやっています。そうしたことは欧州の人びとは知っていたのかもしれませんが、ラテンアメリカの人などは非常な関心を持って聞いていました。
ナイロビWSFに向けて
――来年の一月にケニアのナイロビで世界社会フォーラムが開催されますが、それに向けた討論はどうでしたか。
ナイロビWSFを成功させようというのは参加者の一致した意見です。ナイロビからは三人来ていて、準備状況の説明がありました。インドのWSF組織委員会のマーシー・PKがセミナーに参加していましたが、彼はいまナイロビに常駐してWSFへのてこ入れをしています。またWSF国際評議会(IC)のブラジルとインドの人がナイロビに入っています。
会場の問題など多少の混乱はあるかもしれませんが、登録のためのウェブサイトもようやく立ち上がりました。WSFの参加をアフリカから募らなければならないので、いまアフリカの西側と南端からキャラバンをやっています。アフリカの中でも小規模ながら地域フォーラムは結構やられています。ただどういう人びとが参加するのかという点で、例えば大手NGOの活動家しか来ないのではないかという危惧もないわけではありません。
アフリカの中では多くの地域戦争が続いています。それはイラクの戦争など米国の「対テロ戦争」とは性格が違うものです。この戦争をやめさせるために援助活動している人びとは、一番被害を受けている当事者ではないわけですよね。援助をしている人は社会フォーラムに参加するかもしれないけれど、私たちが一番話を聞きたい、連帯したいと思っている被害当事者たちは実際に参加できるのでしょうか。インドの場合にはダリットと呼ばれる差別された底辺の人びとが参加できました。その意味でインドは大きな成功でした。アフリカの場合、そうしたことが可能かと考えた時に、私はかなり無理だと思います。
アフリカの誰かが言っていたのですが、実際の現地での活動は、地域の文化グループのリーダー格とコンタクトを取っている段階で、そこから下にいくのはかなり難しいだろうということです。アフリカから来たその人が言うには、そうしたリーダーたちを育てることが重要だと。つまり来年のナイロビWSFで、リーダーたちが参加することによって世界社会フォーラムのあり方、運動の作り方を学び、地元に帰って実践することが可能であれば、ひとまず成功と言えるだろう、ということですね。
つまりスーダンなどでは一触即発の紛争が続いているし、マラウィでのようにエイズで亡くなる人びとがたくさんいる。そういう人びとにコンドームの使用などの民衆教育をしていくという形で運動が展開するきっかけをWSFが作れるのであれば、ナイロビでWSFを開いた成果でしょう。
紛争下の当事者の参加という点では、交通費の問題など難しいでしょう。しかし、リーダー格の人びとにWSFを通じて、あなたたちと連帯し、あなたたちに注目し、あなたたちのことを忘れない人びとが何万人といるんだということを肌で感じてもらい、現場に帰って民衆教育などで具体的に活動する励ましとなれば成功でしょう。
パブリック・ファイナンス
――ATTACジャパンはナイロビWSFにも参加するそうですが、どういう企画を計画していますか。
ATTACは通貨取引に課税するトービン税運動をやってきました。この間、今年一月にマリのバマコで開催されたWSF以後、ワールド・バブリック・ファイナンス(WPF)というイニシアティブが始まっています。WPFはフィンランドのNIGD(グローバル民主化研究機関ネットワーク)とリベルダージ・ブラジルが中心になっています。ATTACジャパンもこのイニシアティブと連携しています。
この連携は、二〇〇五年のポルトアレグレWSFで始まったのですが、バマコWSFではトービン税の運動をもっと拡大する形でパブリック・ファイナンスという概念を取り入れ、そのためのセミナーを開催しました。ここには債務帳消しを訴えるジュビリー・サウスのアフリカの人たちが参加しました。
債務返済のために教育、医療、福祉にまわるおカネがなくなる。そのために貧困に追いやられ、教育を受けることもできない。いったいおカネって何だろう。公共のために使うオカネって何だろう。それが途上国の人たちの疑問点です。私たちのやってきたトービン税運動は、国際金融投機の規制だし、通貨取引に課税することでその財源を途上国の貧困克服のためにまわすということです。トービン税の運動はグローバルな貧困克服と一体です。そこで債務帳消しのグループとともにバマコでセミナーを開き、ワールド・パブリック・ファイナンスという考えを打ち出したのです。つまり民衆にとって国際的なおカネの使い道とは何かということですね。
ナイロビではワールド・パプリック・ファイナンスのセミナーを開き、そこにトービン税運動をやってきた人びと、債務帳消し運動をやってきた人びとに加えて、公共サービスの民営化に反対するグループも関わることになりました。パプリック・ファイナンスという考え方が拡大したということだと思います。
九月の初めにフィンランドのヘルシンキでASEM(アジア・欧州会議)が開かれる前段にアジア・欧州民衆フォーラムが対抗的に開かれ、私も招待されて参加しました。そこでトービン税をやっているグループと債務帳消しのグループと公共サービス民営化反対グループの三者が集まり、意見交換をしました。
パブリック・ファイナンスという概念を軸に立てれば、「公共性」という点でいろいろな運動体がくくれます。パプリック・ファイナンスはいかにあるべきか、民衆のためにカネの使い道はどうあるべきかを討論していこうという了解に達しました。つまり通貨取引に課税することで財源を作りだすというところから、作りだしたカネをどう使うかという観点が加わりました。その意味で来年のナイロビWSFで開催するセミナーは重要だと思います。
――ワールド・パブリック・ファイナンスはまだ「横文字」の言葉ですが、それを日本語でどう打ち出すのかをふくめて、私たちのオルタナティブとしてどのように分かりやすく提起していくかが重要ですね。一緒に考えていきましょう。
(このインタビューは10月中旬に行ったものです│編集部)
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