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                           かけはし2002.6.3号より

ワールドカップはスポーツ産業界とFIFAの超搾取・金もうけ祭典だ

違法な児童労働搾取で生産される公式ボール

 ワールド・カップ(W杯)の創始者ジョウイル・リメは「サッカーこそは階級や人種の区別なしに、すべてを一心にし世界を幸せな一家族のように団結されるもの」だと語った。彼の望み通り、わが社会はW杯を前に極めて「団結」している。夢の十六強、交通W杯、親切W杯、正々堂々コリア、労使平和宣言……。街のあちこちにあふれ出ている数限りないスローガンはW杯共同開催国の国民として恥じないように団結した姿を見せようと、あたかも五拍子応援をしているかのようだ。
 それでは、本当にそうなのだろうか。われわれはW杯を前にして親切で正々堂々と、そして平和的に団結しているのだろうか。仮にもW杯がイヤだという人がいるとしたら?
 会社員シン某氏はそのような人々の中の一人だ。朝、目覚めるやいなや運動場に駆けていき、日が暮れるまでボールを蹴って育ったシン氏は三十代半ばのいまも、サッカー好きだ。けれどもW杯はとても嫌いだ。「すべての人が国家の運命がかかったかのように奔走し、金科玉条のように外国人によく見せようと騒いでいるのが気にくわない」と言うのだ。彼は車は運転しないし、だからドリンク剤にいらついて露店を探し回ったりもしないが、それにしてもW杯の期間中、露店商を締め出すのも不当だと考える。しかしシン氏は、これといった選択権がないと考えている。競技が行われている一カ月間ずっとテレビのチャンネル選択権がないことのように。
 シン氏の考え通り、W杯はすでに個々人の好き嫌いという領域を超えた日常となった。そんな中で個々人の好き嫌いのレベルではなくW杯の構造的で組織的な問題点を指摘して踏み出した人もいる。キム・エファ氏は香港にあるアジア・モニター・リソースセンター(AMRC)の常勤活動家だ。彼がW杯を嫌いな訳は、W杯の裏面で余りにも多くの非人間的な労働搾取が行われているからだ。そこで最近、韓国の各市民団体に向けて「本当のフェアプレーを繰り広げよう」との趣旨で「違うW杯キャンペーン」を提案した。
 「W杯はスポーツ用品生産業界と国際サッカー連盟(FIFA)が結託した合法的労働搾取の構造です。ナイキは自社工場が一つもなく、アディダスはドイツにサンプル工場が一つあるだけです。ブランドを所有した超国籍企業の下に販売企業があり、その下に生産企業や下請けの各企業があり、その下に生産企業や下請けの各企業があって、最底辺には直接生産している労働者たちがいます。韓国の企業は大部分が生産企業として最も『韓国的』なやり方で中間搾取をしています。韓国の労働者たちは、その事実を知り、労働者の立場から代案を提示するのでなければなりません。一つの方法は超国籍ブランド企業や生産工場を担当している韓国企業がアジアの労働者たちの基本権を侵害しないように監視し連帯して圧力を加えることです」。
 このような圧力によってW杯のスポンサー各企業は「企業責任報告書」を毎年、出している。自分たちが労働搾取なしに健康に企業を切り盛りしているという一種の「アリバイ」を示す報告書だ。アディダス、ナイキ、マクドナルド、コカコーラなどの世界的ブランド企業も例外ではない。特にサッカーボールの生産過程は国際労働機構(ILO)が注目している代表的な児童労働搾取の現場だ。
 手づくりを最上とみなすサッカーボールは、その大部分がインドやパキスタンで生産される。労働諸団体や市民団体の要求に押されて一九九六年、FIFAは、FIFAの公認として生産されるボールや用品の生産過程で正当な労働環境や給与を保障するようにした基準書に誓約した。この基準には最悪の児童労働禁止条項も含まれている。けれども九八年のフランスW杯の公認ボール「トリコロール」は依然としてアディダス・パキスタン工場で子どもたちの手で作られていたことが暴露された。
 十歳未満の子どもらが一日十二〜十六時間ずつ、指紋が消え去るほどにして皮切れを綴ってきたのだった。真相を調査した国連児童基金(UNICEF)とILOは、これを深刻な児童虐待のケースとして結論づけ、アディダスは巨額の児童保護基金を出して公開釈明しなければならなかった。それなら二〇〇二年の韓日W杯の公認サッカーボール「フィバノバ」の生産で児童労働搾取は根絶されたのだろうか?
 児童労働搾取反対のための汎世界的な社会運動機構であるグローバル・マーチはW杯開幕を一年後に控えた昨年五月から児童労働反対のキャンペーンを繰り広げてきている。インドに居住しているグローバル・マーチの活動家キム・ソニョン氏は「FIFAは二〇〇二年のW杯で使われるすべてのサッカーボールがパキスタンのシアルコットで生産されたものだとの報道が出てきている」とし「さまざまな現場調査によれば、依然として子どもらの労働が搾取されている」と語っている。今年一月にインド・ニューデリーで開かれた「W杯の陰にある児童労働」をテーマとした催しでは、正視するに忍びないさまざまな事例が発表された。
 十〜十二歳ぐらいと思われるインドの少女キッタは、いつもサッカーボールを縫い綴ってきたという記憶以外には、自分の年もキチンとは知らない。キッタが綴っているのは、児童労働追放(child labor free)というロゴが刻まれたサッカーボールの革切れだ。
 キッタは、それでもボールを縫い綴ることのできる木製の受け台があるけれども、周りには受け台もなく一日中しゃがみこんでサッカーボールを縫い綴ってる子どもが、いっぱいいる。グローバル・マーチはインド、パキスタンの子どもが労働者らと一緒にキム・エファ氏らが準備している「違うW杯キャンペーン」(五月二十七日〜三十一日)に参加する予定だ。
 サッカーに対する熱中はサッカー・ファンの権利だ。だが英国のドキュメンタリー作家デビッド・ヤロップは著書『盗まれたワールドカップ』の中で「サッカーというドラマは、その最も核心的な要素である観衆の力と熱情とが段階的に盗まれている」と告発する。
 ブラジルのサッカーの英雄ロナウドに関する話を見よう。サッカーの神童として育ったロナウドはナイキの広告モデルになると、意味のないナイキ主催の大会に出場し、ナイキの広報のために、報道陣と会うことをずっと強いられ疲れきった。九八年のフランスW杯の時も決勝戦を前にして発作を引き起こすほどまでにストレスに苦しめられた。けれども彼はナイキとブラジル・サッカー協会の間の裏契約によって何としても決勝戦の九十分を駆けるようになっていることが明らかになった。
 決勝戦のわずか一時間十五分前に病院を出たロナウドはブラジル・サッカー協会ティシェイラ会長(アベランジェ前FIFA会長の娘むこ)の強要によって出場せざるをえず、この事実を知ったチームメンバーの間に大きな分裂が生じたまま競技に臨んだ。観衆や視聴者たちは目を疑うようなロナウドの足さばきを見なければならなかった。結局、ブラジル・チームはフランス・チームに零対三で大敗した。
 韓国でも「ビジネス化したFIFA」に反対する人々がインターネットで行動を開始する見通しだ。インターネットで名前が知られたTシャツ行動党の「ワン・オンニ(姉さん)」は昨冬、アンチFIFAドットコム(antififa.com)というドメイン名を登録した。
 「W杯は人類の五分の一を超える信徒が熱誠的に従う宗教となり、FIFAはその宗教の指導者です。加入会員国教において国連を上回っています。けれども、はたしてそれにふさわしい行動を示しているでしょうか?」。彼は「W杯自体に反対はしないけれどもFIFAの何人かの頭目の加害関係に左右されるW杯は嫌いだ」と語る。
 「W杯という単語を独占し、どこであれ許可なしには使えないようにし、ビールを飲めなくしながらバドワイザーは自分たちが販売します。チケットはまた、なぜあんなに高いのですか? 公式的に国家主導の行事でもなく、サッカー協会レベルの行政機関が競って戦乱をまきおこさなければならないのですか? 文化的多様性や違いを尊重せず、FIFAの利害に縛られた画一的なルールに従うことが嫌です」。彼は本業のTシャツの仕事が忙しく、まだサイトを正式に開いてはいないが、一緒にやる人々がいるならドメインを共有して各種の支援をする考えだ。(問い合わせsister@thet.co.kr)。彼はアンチFIFAドット・コムを「お役所的、上意下達的論議を超えて人間的で水平的な公論の場として作りあげる計画」だと語っている。
 W杯の熱気であふれている季節にW杯に対する「異なった視線」に触れるのは、サッカーの真価が何なのかを改めて確認させる。サッカーが「世界共通の言語」と呼ばれる訳は、その中に人類がともに解決しなければならない共通の夢や理想が込められているからではないだろうか。(「ハンギョレ21」第409号、5月23日付、キム・ソヒ記者)

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