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ワールドカップ批判(1)               かけはし2002.5.27号より

「グローバル戦争」と有事臨戦体制ワールドカップ


 五月三十一日から六月三十日の一カ月間にわたって、第十五回サッカー・ワールドカップ(W杯)韓国日本大会が開かれる。サッカーは世界で最も大衆的な、人気のあるスポーツである。国際サッカー連盟(FIFA)には現在、国連加盟国より多い二百四の国と地域が加盟しており、今回のW杯にエントリーした国と地域は百九十八、のべ四百億人が三十二チームによる六十四の試合を観戦するだろうと言われている。
 スポーツを自ら実践し、あるいは観客としてゲームを楽しむのは、労働者人民の権利である。しかしサッカー・ワールドカップは、オリンピック以上に国家主義的なスポーツの祭典であり、オリンピック以上に金権にまみれた腐敗したスポーツの祭典である。「日本チャチャチャ」「がんばれ日本」と浮かれているわけにはいかないのである。
 国家主義的スポーツショーとしてのW杯が果たしてきた政治的役割と、それが今日の「グローバル戦争」情勢下で果たす役割をはっきりと批判的に認識することは、戦争への国民的動員を打ち破る政治的反撃を作り出すためにも極めて重要である。
 国会ではすでに有事法制三法案の審議が始まっている。小泉政権は、戦争国家体制を作り出そうとするこの戦争法案を、今国会でなんとしても成立させることをねらっている。W杯開催期間は、この有事三法案の審議の山場と重なっている。
 政府・行政、そしてマスコミは、ワールドカップフィーバーを派手派手しく演出し、大キャンペーンを繰り広げるだろう。マスコミは、基本的人権を破壊し全国民を戦争に動員しようとする有事三法案の審議や反対運動に関する報道より、W杯キャンペーンの方にはるかに力を注ぐだろう。視聴率や販売部数が稼げるからである。
 もし日本代表チームが順調に勝ち進んだりしたら、そのフィーバーはすさまじいものになるだろう。日本の民衆のみならず、アジアや世界の情勢にきわめて重大な影響を及ぼす有事三法案の審議は、W杯フィーバーの陰で昨年の報復戦争参戦三法案と同様、ほとんどまともな審議もされないまま与党三党によって強行されてしまう危険性がある。
 ブッシュ政権は、今年二月に開かれたソルトレークシティー冬季五輪を、「テロと戦うアメリカ」の威信を押し出す「グローバル戦争オリンピック」として徹底的に演出し、組織した(本紙2月18日号)。韓日W杯もまた、「グローバル戦争ワールドカップ」「有事臨戦体制ワールドカップ」として組織されている。
 すでに昨年九月、米韓両軍がテロへの共同対応策を盛り込んだ共同作戦計画の作成で合意し、韓国軍には「ワールドカップをはじめとする国の主要行事に対するテロや、空港・政府関連施設への航空機テロおよび自爆攻撃の可能性、人口密集地への生物化学兵器の散布など多様なテロを想定し、これに対応する体制を整えよ」という指示が出された。
 W杯期間中には、米本土から生物化学兵器に対応する米軍部隊が韓国入りして臨時配置につき、在日米軍の早期警戒管制機(AWACS)が朝鮮半島上空を監視する。ゲームが行われる全国のスタジアム上空には飛行禁止区域が設定され、対空ミサイル「ミストラル」がスタジアムに二基ずつ固定配備されるほか、対空ミサイル「ナイキ」「ホーク」部隊が戦闘待機態勢に入り、スタジアム上空の半径三十二キロメートルをF16戦闘機が哨戒飛行することになっている。
 小泉政権も、スタジアム上空を飛行禁止区域とし、航空自衛隊のAWACSが警戒監視にあたり、不審な航空機を発見すれば警察のヘリコプターと連携して排除する態勢に入り、F15戦闘機の出動もあり得るとしている。生物化学兵器テロ対策として陸上自衛隊化学防護隊が出動態勢に入り、フーリガンによる暴動に備えるとして各地の自衛隊師団が各道府県警と役割分担を規定した現地協定を結んでいる。
 開催地道府県警は最新型装備の多数の警察部隊を動員し、爆発物処理や生物化学テロ、バスジャックや暴動を鎮圧する訓練を派手な政治的デモンストレーションとして繰り返している。開催地の十道府県警は、大阪府警の七千七百人、神奈川県警の七千四百人など、合計五万人の警察部隊を動員することになっている。
 大阪府警が三月に行った「日本対ウクライナ戦」の演習には、警察部隊千百人、民間ガードマン千二百人に加え、ボランティア六百人が動員された。警察と連携して警備にあたる「自主的」住民組織が各地で作られている。スタジアム周辺や繁華街、駅周辺に新たに多数の監視カメラが設置され、常時監視する態勢が作られた。
 スタジアム周辺地域では、試合が行なわれる期間中の隣接するスポーツ施設の閉鎖、酒類の販売自粛、のぼりや広告類の撤去、小中学校の休校から刑事裁判の公判停止に至るまで、日常生活に対するさまざまな制限が行なわれる。
 「グローバル戦争」に参戦するために基本的人権を制限し、全国民を管理し、監視し、動員しようとする有事三法案がめざす社会が、「W杯へのテロ対策」なるものを口実にして先取り的に出現しつつあるといっても過言ではない。それは、自衛隊や警察が社会の前面に出ることを常態化し、それが当たり前であるかのような社会的雰囲気を作り出す。こうして、有事法制と戦争国家体制を自然に受け入れる気分が醸成されていこうとしているのである。
 W杯が引き起こす「がんばれ日本」の絶叫と打ち振られる「日の丸」の波は、「日本」という帝国主義国家への一体感と忠誠心を感動と興奮のなかで作り出す。ほほに「日の丸」をペイントし、夢中になって「日の丸」を打ち振る青年たちに対しては、厳しい弾圧のなかで続けられてきた「日の丸・君が代」強制反対の闘いもほとんど無力化せざるを得ないだろう。
 大不況下のリストラと失業と将来への不安のなかで、帝国主義国家日本の国民的統合力は弱まり続け、社会的分裂が広がりつつある。この弱まる国民統合力を、戦争国家体制への動員に向けて再強化するために、国家主義的スポーツショーは極めて大きな政治的役割を果たすのである。
 そしてそれは、天皇制を正面に押し出した国家主義的国民統合の強化と一体である。天皇皇后は、五月二十五日に国立競技場で行なわれる日本・スウェーデン戦と六月三十日に横浜国際総合競技場で行なわれる決勝戦を観戦する。皇太子夫妻は六月四日の日本対ベルギー戦をベルギー皇太子夫妻とともに観戦し、さらに埼玉スタジアムで六月二十六日に行なわれる準決勝戦を観戦する。日本サッカー協会名誉総裁である高円宮夫妻は、小泉首相とともに五月三十一日にソウルで開かれる開会式に出席し数試合を観戦することになっている。
 「グローバル戦争」の下で、朝鮮植民地支配に対する天皇制の責任と天皇制の戦争責任を素通りしたまま、W杯を通じて天皇を中心にした日韓親善の欺瞞的セレモニーが行なわれ、それがあたかも日韓民衆の親善と友好を深めるものであるかのように演出されているのである。
 現在、植民地支配や「従軍慰安婦」問題に対する日本の責任をあいまいにしたままで、W杯共同開催を通じて「市民レベル」の友好と相互理解を深めることができるかのようなキャンペーンが行なわれている。もちろんそこには善意の動きがあることは否定できない。しかしそれは残念ながら反動的幻想にすぎない。
 九八年W杯フランス大会で優勝したフランスチームの主力選手には、ジダンをはじめアルジェリアなど旧フランスの植民地であったアフリカ系移民が多かった。フランス政府やマスコミはこの優勝を、移民も一体となって融和したフランス社会の勝利として書き立てた。しかしW杯から一年後に政府系機関が行なった世論調査では、七割が「移民はフランス社会に溶け込む努力をしていない」とし、六割以上が「フランス社会が統合するには、移民は余りにも異なる生活様式を持っている」と回答した。移民に対する排外主義的感情はW杯での優勝で少しも弱まりはしなかったのである。
 「ルモンド」紙のサッカー担当記者F・ポテは述べた。「政治家たちが口にした『W杯優勝は(フランス社会と移民の)統合のシンボル』などという言葉は、(規制が強化される一方の)フランスの移民政策を正当化するため、国民の熱狂を政治的に利用しようとするものだった。いま考えると、真の統合に結びつく効果はなにもなかった」(毎日新聞01年7月16日)。そして今年四月の大統領選挙では、移民排斥を訴える極右国民戦線のルペンが決選投票に残るという躍進を遂げてしまったのである。
 国家主義的国民統合は排外主義と一体である。アルジェリアは第二次大戦後にフランス帝国主義から独立をかちとるために、百万人以上が命を奪われる独立戦争を戦わねばならなかった。植民地支配に対する真の反省もなしに、アフリカ系移民との真の融和がもたらされるはずはなかったのである。戦争責任と植民地支配の問題をすりぬけ、天皇を押し出した「ワールドカップを通じた日韓親善」もまた、このフランスの例と全く同様の反動的幻想の最たるものである。このような欺瞞と偽善を厳しく批判しなければならない。
(つづく)(高島義一)

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