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12月WTO香港会議での合意阻止にむけて (4)       かけはし2005.7.25号

農民を殺し、発展途上国の失業、貧困を増大させるWTO反対


求心力を後退させるWTO

 本連載の第一回で指摘したように、 WTO新ラウンド交渉は〇四年七月の枠組み合意にもかかわらず、主要な対立点は一時的に棚上げされたにすぎず、WTOの失速と求心力の後退が一層明らかになっている。
 スパチャイWTO事務局長は、G8首脳会談直後の七月八日に行われた非公式会議で、「残念ながら、現在までの進展は依然として全く不十分である。農業分野では、若干の進展があったものの、最も重要な市場アクセス、段階的関税削減の方法についての交渉は行き詰ったままである。NAMA(非農産品)も厳しい状況である。農業分野で進展がないことがこの分野の交渉にも大きな制約となっている。・・・全体として、閉塞感と苛立ちが強まっているようだ」と発言している。
 七月十二〜十三日には中国大連で非公式閣僚会議が開催された。この会議では農業分野とNAMAに関して一定の進展があったと伝えられている。農業分野では、ブラジル、インドを中心とするG20諸国が関税の定率削減方式を打ち出し、NAMAでは「スイス・フォーミュラ」(高関税品目ほど引き下げ率が大きくなる方式)にマレーシアやアフリカ諸国が賛成した。
 しかし、各国の利害と思惑の対立は何ら解消されておらず、七月末までに合意案の第一次原案を作成するというスケジュールは実現がほぼ不可能となり、十二月香港会議で実質的な合意が形成される見通しはほぼなくなった。たとえ十二月香港会議で、形だけの合意がなされ、交渉の継続が合意されたとしても、WTOはもはや、十年前の発足時に期待されていたような強力かつ包括的な、貿易と投資の自由化を促進する国際機関としての地位を確立することはないだろう。
 その一方で、G20諸国を背景とするブラジルおよびインド政府が、WTOの下での貿易促進に命運をかけており、決裂の回避のために積極的な役割を果たしている。ブラジルの主要な利害は農産物輸出であり、インドにとっては関税引き下げの回避が切迫した問題である。米国とEUもG20諸国の要求に対して一定の妥協と配慮が必要であること「学習」してきた。
 こうしてWTOは、ルールを決める機関から利害を調整する機関へとレベルダウンすることを余儀なくされている。香港会議に向けては農産品と非農産品(工業製品など)の関税引き下げをめぐる調整が中心的な問題となっており、サービス貿易や「ニューイシュー」については見るべき進展がない。

「南」のエリート層と中産階級

 もう一つ注目しておかなければならないことは、WTOをめぐる利害対立がもはや「北」の諸国と「南」の諸国の対立という構造では捉えられなくなっているという点である。
 「南」を代表して行動しているブラジルとインド、そしてそれに同調している中国、南アフリカ等の諸国は、(中国を部分的な例外として)いずれも新自由主義的経済政策を推進し、貿易の拡大に活路を求めようとしている。しかしこのような路線が「南」の諸国を実際に代表しているわけではないし、ましてや「南」の諸国の労働者や農民の利益を代表しているわけでもない。
 これらの諸国において、新自由主義的経済政策にもとづく経済発展は、外国資本と国内の一部エリート層への富の集中と、少数の中産階級の形成(割合にすれば少数とはいえ、絶対数としては膨大な数となり、潤沢な国内市場を提供する)をもたらす一方で、国内の貧富差を耐えがたいレベルまで拡大し、とりわけ農村における地域社会の崩壊をもたらしている。
 このことから考えれば、G20に表現される「南」の諸国の発言力の拡大は、必ずしも米国やEUが進める新自由主義政策に歯止めをかけるものではない。
 WTOがもはや十年前の発足時の「期待」からは遠ざかったとはいえ、今後は後発工業国あるいは「中進国」のエリートをも取り込む形で、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済提携協定)によって補完されながら収奪と破壊のルールを拡大しようとするだろう。
 しかし、従来の交渉における「北」の諸国と「南」の諸国の対立という構造は、一方でブラジル、インドをはじめとする「南」の諸国、とりわけ農民の間での新自由主義的グローバリゼーションに対する強力な抵抗を背景としており、これらの諸国の政府がそれに束縛されずに行動できるわけではない。
 ブラジル、インドとも、九〇年代に新自由主義政策を強力に推進し、高い経済成長率を実現した前政権が選挙で敗北し、新たに成立した政権が前政権の新自由主義政策を継承する形になっているが、政権は非常に微妙なバランスの上に立っている。
 このような力学関係の中では、全世界的な抵抗を結びつけることによって、WTOの交渉を頓挫させることは可能であり、非常に現実的となっている。

「もう一つの世界」の始まり


 WTOの求心力の後退が明らかになり、新自由主義的グローバリゼーションの破綻が顕在化しつつある今、世界社会フォーラムで掲げられている「もう一つの世界は可能だ」の合言葉が、多くの人々の想像力を喚起し、人々の抵抗と闘いを結び付けている。
 今日のグローバル化する経済の中で、巨大な力と影響力を持つに到った多国籍企業を規制し、米国・EU・日本の三極からBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)やAU(アフリカ連合)、ASEANの台頭という流れの中で複雑化した利害と思惑を調整し、切迫する貧困の問題と環境問題を解決することは、一握りの大国や単一の国際機関の力量をはるかに超えている。多元的で多様な国際的、地域的協力の枠組みが求められている。
 唯一超大国としての米国は、その軍事力を基盤にして世界の資源を支配し、ハイテクや金融部門でも圧倒的な優位を保っている。対イラク戦争では、「ネオコン」に連なる企業が、軍隊と共に進駐し、復興ビジネスを通じて莫大な利益を上げている。
 また、昨年末のアジア各地の津波に際しても、米国企業が復興支援と称して自らの利益を追求してきた驚くべき実態が明らかになっている(ナオミ・クライン「台頭する災害資本主義」、「世界」八月号を参照)。このように、米国経済の優位性については、経済の法則や合理性だけでは評価、予想できない面がある。
 米国経済の軍需への依存は、それ自体が戦争への衝動を不断に再生産している。米国の長期戦略は、中国との軍事的対決をも射程に入れている。また、米国のブッシュ政権は〇一年十二月にドーハで開催されたWTO閣僚会議をテロとの戦いの戦略の中に位置付けていたし、EU憲法条約はテロとの戦いのために軍事力強化のための努力を謳っている。
 このように、経済のグローバル化は軍事的、政治的な力学と切り離して論じることはできないし、われわれが目指す「もう一つの世界」が、こうした米国や西欧諸国の軍事・政治的覇権と共存できることはありえない。
 これらのことを前提とした上で、経済のグローバル化の現在の段階の特徴と、そこから導かれる課題を考えてみよう。今日、米国・EU・日本の経済はBRICs諸国やAU、ASEAN諸国の経済発展に依存する構造となっている。つまり、後発工業諸国の富裕層と中産階級によって形成される新たな市場を投機的・寄生的な方法で自らの権益圏へと統合することが生き延びの戦略となっている。
 そのための国際的競争力を強化するために、国内ではリストラと強迫的な自己責任原理が強制される。商品やサービスは飽和状態を超えて充足されているにも関わらず、人々は日々不安と絶望と刹那的消費文化へと駆り立てられ、右翼ナショナリズムの危険が増幅されている。
 われわれはBRICs諸国やAU、ASEAN諸国が米国・EU・日本の資本や技術を自らの経済発展のために活用する権利を擁護するべきである。また、これらの諸国が地域的経済協力のイニシアチブを発揮することは必然だろう。しかしそれは、後発工業国が先進資本主義国をモデルに経済発展を実現するためではなく、本連載の第三回で提起したように、富と資源の国際的再分配という観点からである。
 同時に、このプロセスが最大限に民主主義的に進められ、すべての人々の基本的人権が増進される方法で、また、環境破壊が最小限に抑制される方法で進められることが不可欠である。
 貿易や投資のルールはこうした原則に従属するものでなければならない。ILO条約をはじめとする人権擁護、差別撤廃のためのさまざまな国際条約、地球温暖化防止条約などの環境問題に関わる国際条約が貿易や投資のルールに優先され、より民主主義的な機構の下で強い強制力を確立するべきである。
 「もう一つの世界」は、企業の利益がすべてに優先されるルールからの根本的な転換を通じて実現される。それは単なる対案の提示ではなく、それを実現する主体=階級の組織化のための粘り強い闘いを通じてのみ実現される。反資本主義の立場に立つ左翼は、ここにおいて、さまざまな異なる立場で活動している団体や活動家と協力し、信頼関係を築きながら、進歩的かつ能動的な役割を担いつづけることができるかどうかが試されている。

WTO反対の広範な運動を

 日本においては、新自由主義的グローバリゼーションに対応する「構造改革」が、伝統的保守政治からブルジョア二大政党制への移行という政治再編を伴いつつ進められてきた。
 このプロセスはメディアによって、「改革派」のイニシアチブに対する「守旧派」の抵抗という構造として意識的に提示されてきた。一方で、グローバル化の深刻な影響として、農林業の危機、食べ物の安全の問題、人の移動に伴う移住者の人権の問題等の具体的問題をめぐって、市民団体や消費者団体、農民団体、労働組合による持続的な運動が続けられてきた。
 しかし、これまでの経過としては、「改革派」のイニシアチブが貫徹し、政府の個別の政策について批判する人々の間でも、「改革」そのものについては肯定的な立場を取ったり、既定の事実として受け入れる人たちが多数であった。
 とくに、高級公務員の特権や腐敗に対する憤りや、公務員の相対的に高いレベルの労働条件に対する妬みが、メディアによって意識的に流された公務員バッシングと相乗効果を発揮し、一連の民営化への流れが形成され、民営化に反対し労働者の権利を擁護する労働組合を孤立させてきた。
 郵政民営化をめぐる攻防を通じて、「構造改革」をめぐる世論の分裂が初めて顕在化したことに注目する必要がある。郵政民営化に対する広範な人々からの批判の高まりが、郵政族と結びつく自民党内反小泉派の抵抗という歪められた形であれ顕在化し、政権を揺るがすまでに到っている。その中で少数とはいえ、労働者と市民の立場から郵政民営化に反対する流れが、連日の国会闘争として可視化されたことは、画期的な発展である。
 このような流れの変化は、「構造改革」のもたらす影響の深刻化を反映している。「構造改革」に直撃されている人々が、小泉や竹中が言う「改革の痛み」の意味を理解し、それが一時的なものでも、自分の努力でどうにかなるものでもないことを理解しはじめたのである。
 今後数年の間にも、給与所得者の所得控除の廃止(大幅な増税)、消費税の引き上げが想定されている。介護保険、医療費、年金、教育費をめぐる一連の負担増は、雇用の不安定化とあいまって、人々の不満を沸点に近づけるだろう。
 日本における新自由主義的グローバリゼーションに反対する運動は、ここにストレートに働きかける言葉と行動スタイルを創造する必要がある。
 たとえば、日本・メキシコFTAをめぐっては豚肉の輸入拡大が大きな焦点となり、養豚業者の組合がこれに反対する運動を展開し、五〇万人の署名を集めたという。また、日本・タイのFTAでは鶏肉の輸入拡大をめぐって、養鶏業者の組合が同様の運動を展開した。
 しかし、このような運動が、他の分野における運動と結びつきひとつの流れを形成するには到っていない。ここに日本における新自由主義的グローバリゼーションに反対する運動が担うべき役割が示唆されている。
 個別の分野における規制緩和、構造改革に対する抵抗を一つの明確な政治的流れとして結合し、多数派を形成していくことが課題である。

十一月釜山、十二月香港へ

十一月釜山APEC、十二月香港WTOに向けた闘いは、アジア、とりわけ東アジアにおける新自由主義的グローバリゼーションに反対する運動の重要な飛躍をかけた闘いでもある。
 (東)アジア共同体に向けた各国政府の思惑が錯綜する中で、民衆レベルにおける共同の討論、共同の闘いを発展させることが重要である。
 これらの行動の呼びかけにおいては、韓国民主労総や香港工盟などの労働組合が中心的な役割を果たしてきた。日本からもいくつかの労働組合が組織的参加を計画している。当然のこととして、グローバリゼーションの中における労働組合や労働者の権利の問題が重要なテーマとなるだろう。
 中国における労働問題、とりわけ独立的労働組合と、外国資本の下の労働組合の組織化が大きな焦点となることが予想される中で、この問題を(東)アジアの共通の課題として主体化する重要な機会としなければならない。
 〇三年のWTOカンクン閣僚会議に向けては、現地への代表団の派遣と合わせて、首都圏を中心に広範な取り組みが行われ、カンクン現地の行動に連動した街頭デモが行われた。さらに、日韓FTAをめぐっては、日韓共同の行動が継続的に展開されている。この到達点にふまえて、運動をさらに全国化することが求められている。
 そのことと同時に、具体的課題をめぐるキャンペーンを拡大するために力を合わせることが重要である。遺伝子組み換えイネに反対する運動は緊迫した重要な局面が続いており、全国で農民、消費者団体を中心とした運動が展開されている。水問題、熱帯雨林の保全、AIDS問題、難民救援等においても、持続的な取り組みが国際的に展開されている。
 このようなキャンペーンに積極的に参加しよう。また、「構造改革特区」を通じて、規制緩和の新たな段階を先取した一連の「改革」が、導入されている。これらは特に、教育、医療、農業、水民営化等に関連して、重要な影響をもたらすだろう。これに対する地域レベルでの意識的な闘いと全国的連携が重要である。十二月のWTO香港閣僚会議に向けて、次のことを主張し、討論を組織しよう。
 WTO新ラウンド交渉を中止せよ!
 米国とEUは農産物のダンピング輸出をやめよ!
 関税一括引き下げ方式反対、すべての国の関税自主権を擁護せよ!
 公共サービスをマネーゲームの具とするサービス貿易交渉を中止せよ!
 日本政府は、新ラウンド交渉の中止を提案せよ!
 香港当局はWTO閣僚会議反対の行動への一切の弾圧・妨害を行わないことを確約せよ! (小林秀史)


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