| 傭兵・斎藤昭彦さん拘束が示したもの かけはし2005.5.23号 |
| 不正な侵略戦争に終止符を!自衛隊はイラクから撤退せよ |
戦争請負企業は
何をしてきたか
五月八日午後五時半(日本時間午後十時半)頃から午後六時半にかけて、イラク西部のヒート周辺で、米軍基地を出た車列が移動中にイスラム教スンニ派の武装組織「アンサール・アルスンナ」に攻撃を受け、民間軍事企業「ハートセキュリティー」社所属の日本人・斎藤昭彦さんが重傷を受けたまま拘束された。「アンサール・アルスンナ」の声明で明らかになったこの事件は、米主導のイラク軍事占領が、米兵だけで千六百人を超える死者と一万二千人を超える負傷者を出す泥沼的状況の中で、ますますPMC(民間軍事企業)という名の戦争請負業者に依存せざるをえないことを明るみにした。
一九八〇年代以後、その活動を活発化させてきた戦争請負業者は、アフリカの内戦、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争をはじめとする旧ユーゴの戦争などで、正規軍を補完する形での戦闘、地元兵士の訓練、基地や各種施設、民間企業の警備などに従事し、一般市民の殺害、捕虜への拷問などの「汚い戦争」にも従事してきた。
ハートセキュリティー社は、昨年四月にバグダッドの南東にあたるクートで殺害された南アフリカ出身のグレイ・ブランフィールドを雇っていたことで知られる。このブランフィールドは、一九八〇年代、アパルトヘイト体制下の南ア軍人としてジンバブエ、ボツワナ、ザンビアに避難していた反アパルトヘイト活動家を追跡・拷問・暗殺する「任務」に従事していた人物であり、アパルトヘイト体制崩壊後は残虐行為の追及を逃れるために南アから脱出したという経歴の持ち主だった(フリージャーナリスト志葉玲さんのブログより)。
傭兵・斎藤昭彦
氏の政治的選択
戦争請負業者の中心には、こうした非人道的な独裁体制を支える「特殊任務」に従事していた人物が多数存在することは公然たる事実である。
現在、イラクにいる戦争請負業者の要員は二万人から三万人に達し、十三万人五千人が駐留している米軍に次いで、九千人の英軍を数倍上回っている。ラムズフェルド米国防長官は二月の米上院軍事委員会で、軍務を民間に外注するメリットに関して「民間人を活用すれば、米軍の定員数は据え置きでも、主要任務に回す軍人の数は確保しやすくなる」と説明している。長期化するイラク占領と、日々死傷者が増大する中で、米軍の新兵徴募は困難化し、米陸軍の四月の入隊達成率は目標の六千人に対し三千八百人と六〇%を切る結果になった。米軍のイラク占領を継続するためにも民間戦争請負業者への依存の必要性はいっそう高まっているのだ。
こうした、戦争請負業者の残虐行為は、占領下のイラク民衆の憎悪の的となっている。昨年三月三十一日に、米戦争請負業者ブラックウォーター社の傭兵四人の乗った車両がファルージャで襲撃され、その焼死体が橋につり下げられるという事件をきっかけに米軍による第一次ファルージャ大虐殺が行われたことは記憶に新しい。アブグレイブ刑務所に収容されたイラク人への拷問・虐待に直接手を染めたアメリカ人の中には、こうした戦争請負業者の「社員」たちが含まれていた。
今回、襲撃・拘束された斎藤さんも、陸上自衛隊に入隊し、習志野空挺団にも所属した後、フランス軍外国人部隊に入って二十一年間もの間、チャド、ジブチなどのアフリカ諸国、ボスニア、仏領ポリネシア、同ギアナなど全世界を転戦した「戦争のプロ」であった。彼の経歴は、まさに植民地帝国主義フランスの国益を体現するものであり、その経歴の延長上に、戦争請負企業ハートセキュリティーに入社してイラク占領軍の一端を担うという選択を行ったのである。
イラク新政権の
発足と内戦激化
われわれは今回の斎藤さん拘束事件を「日本人人質」事件としてではなく、今日のイラク情勢との関係で捉えなければならない。
「アンサール・アルスンナ」の武装攻撃は、四月二十八日のイラク「移行政権」発足後、再度激化した武装勢力の攻撃と米軍による大規模な「掃討作戦」に示される、新たな内戦状況の一環である。「アンサール・アルスンナ」の攻撃が行われたヒートが属するイラク北西部のアンバル県では、五月上旬から開始された米軍による軍事作戦で百人以上が殺害された、と言われる。しかし殺害されたのは「武装勢力」だけではなく一般市民も多数含まれているだろうことは、ファルージャの例からも容易に判断できる。
一方、自爆テロをふくめた武装勢力の襲撃によって、移行政府発足後二週間ですでに四百五十人以上が死亡している。五月十一日には北部のハウィジャ、中部のティクリート、そして首都バグダッドの三都市の同時自爆テロで七十一人が死亡した。
新イラク軍、警察などの治安組織をターゲットにしたこうした武装襲撃は、一月末の移行国民議会選挙、難航の末の移行政権発足と、五月十日の憲法委員会の出発にもかかわらずタラバニ大統領、ジャアファリ首相のシーア派とクルド人主導の新政権がきわめて不安定なものであることを示している。
イラク軍・警察に対するスンニ派武装勢力の集中した攻撃については、アジア経済研究所の酒井啓子による次のような分析を考慮に入れる必要がある。酒井は旧アラウィ暫定政権がサダム・フセイン時代の軍、治安要員を取り込む路線を取っていたのに対して、イラク統一同盟(シーア派)とクルド連盟が主導する新移行政権は、それらを排除する方針を取ろうとしている、と述べる。
「移行政府が、これまでの容バアス党路線から反バアス党路線に転じた場合、特に治安組織の徴募、育成に大きな変化が発生する。……治安政策の路線変更や治安組織の多元化が、今後の治安維持の現場にもたらす混乱を過小評価すべきではなかろう。ラムズフェルド米国務長官は、四月十二日、暫定政府が確立してきた治安組織を移行政府が入れ替えることは危険だとの見解を示している」(酒井「分析・イラク新政権」、『世界』05年6月号)。
旧サダム・フセイン体制の情報・治安機関要員をふくめた武装襲撃による治安の悪化は、八月の新憲法草案策定、十月中旬の新憲法国民投票、十二月の議会選挙と正式政府発足というタイムテーブルを攪乱し、寄り合い所帯の移行政権内の対立・分解を促進していくことになるだろう。そしてそうした混乱は、米主導の軍事占領体制の危機をさらに加速せざるをえない。
「戦争の民営化」
の実態を暴露せよ
われわれは、イラク武装勢力によるシーア派やクルド人の一般市民をも対象にした「自爆テロ」や「拉致・殺害」戦術に反対する。それは独立した民主主義的主権をめざすイラク民衆の反占領闘争の大衆的政治基盤の形成を妨げるものだからである。しかし、問題の核心は、すべての外国軍による占領の即時終結である。事実上の米占領軍政が継続するかぎり、イラク民衆にとっての平和と主権・民主主義は決して現実化しえない。「治安の悪化」を理由に占領軍が居座り続けることは、公正な平和を絶対に招来させない。この戦争と占領は不当きわまる侵略戦争であり、新たな帝国主義的植民地支配である。最大の不正をただちに除去することが平和と自由の絶対的前提である。
斎藤昭彦さんを拘束した「アンサール・アルスンナ」軍は、いかなる要求をも提出していない。しかしわれわれは「要求」があろうとなかろうと自衛隊ならびに全占領軍の撤退を要求し続ける。同時にわれわれは、斎藤さんが生きて帰還し、仏外国人部隊の一員として行ったすべての行動、ならびに「ハートセキュリティー」社員として行ったすべての行動の実態を詳細に語ることを希望する。
斎藤さんの証言は、彼本人の政治的指向を超えて、今日の帝国主義の侵略戦争と、戦争請負業者が果たしている「汚い戦争」の中での役割を解明する上で重要なものとなるだろう。マスメディアの報道は、斎藤さんの行動について「使命感のあらわれ」などと肯定的なものが多い。それは昨年の五人の人質や香田証生さんの死に対するバッシングとは対照的である。しかしわれわれは、「戦争の民営化」を組み込んだ、「対テロ」グローバル戦争を徹底的に批判し、反戦・平和のための闘いを拡大し、戦争請負業者を解体するためにこそ斎藤さんの生還と証言を希望するのだ。
そしてあらためてわれわれは小泉政権に要求する。ただちに不正・不法な戦争への加担を中止し、自衛隊をただちにイラクから撤退させよ。「戦争国家体制」づくりと憲法改悪をやめよ。(5月16日 平井純一)
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