| アパルトヘイト体制崩壊から11年―南アフリカの現在 かけはし2005.5.16号 |
AUとNEPAD
の一体化が進行
ANC政権は自らの採用している新自由主義政策をアフリカ全体に拡大しようとしています。ムベキが一九九九年に大統領になった時にアフリカ・ルネサンス構想を打ち出しました。それは綱領でもなんでもないし選挙公約でもない。ムベキが彼の構想として発表したものです。それはアフリカ中に広がっていきました。一言で言えばアフリカを新自由主義的にまとめていこうとするものです。
二〇〇一年から〇二年にかけてAU(アフリカ連合)が組織されます。以前のOAU(アフリカ統一機構)が、アパルトヘイトがなくなったことによってその役割を終えたとしてAUを組織するわけです。その過程でNEPADという構想が出てきます。NEPADとはNew
Partnership for African Deveropment (アフリカ開発のための新パートナーシップ)ですが、それはAUの基本文書にも綱領にもまったく関係なく、アフリカをこれからどうするかという構想です。このNEPADを作成する過程で中心的に動いたのが南アフリカ、ナイジェリア、セネガル、アルジェリアというアフリカの中でも豊かな先進国の大統領でした。
二〇〇二年のG8サミットがカナダで行われた時に、大きなテーマの一つがアフリカだったわけですが、その朝食会でNEPAD構想が承認され、二〇〇二年の八月か九月にAUの設立総会が開催されました。AUとNEPADはセットのものになりました。NEPADのポイントはアフリカの問題はアフリカで解決していくということです。これまでは植民地支配のためヨーロッパの影響力が大きく、紛争でもヨーロッバが出てきて解決するというパターンだったのをアフリカ自身で解決するということであり、これはそれ自体としてはいいことです。またこの構想は、アフリカを経済的に一つにまとめる、新自由主義経済政策の中でアフリカの開発を行っていくということになります。
現実にそれがどのように使われているかといえば、アフリカの中の経済的に豊かな国がアフリカをとりしきるということです。現象的に言うと、アフリカで紛争があった時にAUがPKOなどの形で軍隊を派遣するんですが、その中心は豊かな南アフリカになります。南アが軍事的な影響力を行使するわけです。たとえば今、コンゴ(旧ザイール)で内戦がまだ続いていて、一時南アフリカが調停に出て和平協定ができたということになっているわけですが、それも非常にあやふやになって内戦がまた始まっています。南アフリカは軍隊を派遣しているわけです。
どうして軍を派遣しているかといえば、南アはコンゴに非常に多くの利権を持っています。南アフリカの鉱山会社がたくさんコンゴに入っています。かなり以前から、内戦のまっただ中にあるコンゴに、南アフリカ航空は直行便を飛ばしていました。また南アフリカの資本はアフリカ中に出回っています。スーパーマーケットチェーンがアフリカ中に店を持っており、南アのビール資本はアフリカ中に工場があります。そうしたことを保証するのがNEPADです。結局NEPADは、G8のお墨付きを貰ったわけで、南アフリカやナイジェリアなどのアフリカの中の先進国がアフリカの代表となってG8などの窓口になるという構造です。その構造を通してアフリカをグローバリゼーションの中で開発していこうとしています。結局それによって、南アフリカの中でも起こっていることですが、貧富の差が拡大し、民営化がどんどん進むことになります。それがAU、NEPADを通して加速される。いまアフリカはそのように動いています。
新自由主義政策
の積極的な推進
このNEPADの問題やアフリカにおけるグローバリゼーションの進行状況が日本には伝わっていません。日本でアフリカのことに関わっているメディアも、この問題についてはほとんど何もふれていないことに、僕は危機感を持っています。たとえばNEPADに対して、圧倒的に多数のアフリカのNGOや社会運動団体はいらないと言っています。これまで歴史的には一九八〇年代の構造調整政策、一九九〇年代の重債務貧困国への債務削減、それからその後のPRSP(貧困削減戦略ペーパー)――すなわち搾取を反省して市民社会を引き込んで貧困を削減しようというIMF・世銀の構想、これらすべてが破綻してきました。アフリカのNGOや市民運動はこうしたものにずっと反対してきたわけなんですが、NEPADも同じ流れの中にある、アフリカの中の先進国が自ら進んでこういう構造を推進するものであるとして「NEPADいらない」の声を上げています。
もう一つその中で最近MDGs(ミレニアム開発ゴール)が、この流れの中で国連を中心にした動きとしてやられようとしています。G8と国連が貧困の問題を解決する基金を作ろうということで、先進国政府がGDPの〇・七%を拠出しようと決められ、そこに向けた動きが始まっています。これに対してもアフリカの社会運動団体では、それは同じグローバリゼーションの枠組みの中でやられることで、自分たちのためにはならないとして反対の声が非常に大きい。しかしその声は日本にはほとんど聞こえてきません。日本の中ではMDGsの運動をやろうとする人もいるのですが、日本でそれを進めるということはどういうことなのか、アフリカやグローバリゼーションの問題を考える時にやるべきなのかどうなのかを考えなければいけないところにまで来ている。
アフリカは新たな泥沼の中に投げ込まれようとしていて、このままG8の中でこうした動きが進んでいけば別の形の貧困、新植民地主義が作られていく。そういう動きを止めるために何かをやらないと泥沼に落ち込んでしまいます。だとしたら一体何ができるかということになりますが、とにかくそうした情報が伝わっていないので、それを伝えることが重要だと思うんです。
南アフリカはIMFや世界銀行といった国際金融機関やWTOに非常に近いところにあり、そこになんとか入り込もうとしています。一九九六年以来財務相になっているトレバー・マヌエルという人がいます。かれはANCで反アパルトヘイトの活動家だったのですが、一九九九〜二〇〇〇年にはIMF・世銀年次総会の議長をつとめました。また通産相のアレック・アーウィンは白人なのですが、ANCの活動家で一九八〇年代にはCOSATUの前身の労組連合体のイデオローグでした。彼はいまWTO事務局長のポストを狙っていると公然と言われています。また有名なスティーブ・ビコの連れ合いだったマンペラ・ランペレという人も世界銀行の専務理事のポストに就いています。
はっきりしているのは、いま南ア政権はそうした新自由主義的グローバリゼーションの構造の中に入り込もうとしていることです。だから南アはアパルトヘイトを廃絶して前途有望なすばらしい国だという評価は、一面ではそうだとしても、そうした世界的構造の中で新自由主義経済政策をとっており、あるいは喜んで推進している。それに反対する「極左派」を締めつけており、新自由主義経済政策以外他の選択肢が与えられていないということを忘れてはならないと思います。
対抗的政治勢力の不在と共産党
選挙前には、COSATU左派や反民営化フォーラムのトレバー・ングアネなどから、きちっとした左派の政治勢力を作らなければならないという議論があったのですが、結局できませんでした。
南ア共産党も基本的にはグローバリゼーションに反対という立場です。COSATUの指導部のほぼすべては南ア共産党員です。しかしさっき言った三者同盟(ANC、COSATU、南ア共産党)の構造で共産党は政府に閣僚を送り込んでおり、労組と政府との交渉では共産党員どうしがやりあうという関係です。共産党としてはグローバリゼーション反対と言っているけれどもANC政府の一員ですから、なかなかすっきりそれを打ち出せない。
どこに問題があるかと言えば、南ア共産党の戦略である二段階革命論がその要因の一つだと思います。アパルトヘイトを最終的になくすところにその力を傾けていて、それが達成した時に社会主義へ向かうという路線です。今は、とりあえずANCと一緒にやっていくということになります。だからグローバリゼーション反対と言うけれども、そうした戦略をとっているので彼らは決断ができないのです。
労働者党を作ろうという呼びかけもいろんなところからポツンポツンとは出ていますが、いま仮に作ったとしても孤立するのは目に見えています。反民営化フォーラムに代表される反グローバリゼーション勢力も一つの政治勢力として認知されているけれど、政治団体ではなく社会運動団体という限界があります。
(3月21日)
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