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イラク                       かけはし2005.2.14号

米英軍・自衛隊の即時撤退をかちとろう

「移行国民議会」選挙と情勢の展望


殺りくと軍事占領下の選挙

 一月三十日にイラク移行国民議会選挙が行なわれた。投票率約六割という発表を受けて国連をはじめ、フランス、ドイツ等の政府もこの結果を歓迎するという態度を表明している。
 投票結果はイラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)を中心とする「統一イラク同盟」=イスラム教シーア派政治勢力の圧勝が予想されている。
 移行国民議会が移行政権を選出し、憲法草案を起草した後、国民投票、総選挙(今年十二月)を経て正式の政権が樹立される(昨年六月の国連安保理決議)。
 事態はあたかも、シスターニを指導者とするイスラム教シーア派政治勢力の主導権の下で、「イラク人のイラク」実現に向けて大きく前進したかのように伝えられている。
 しかし、私たちは何よりも、次のことを曖昧にしてはならない。
 第一に、移行国民議会選挙なるものが、米軍の占領下で、しかも戦闘が継続されている中で実施されたものであり、いかなる意味でも民主的選挙の体裁を成していないことである。しかも、この選挙が昨年十一月のファルージャに対する米軍の総攻撃、徹底的な殺戮と破壊を通じてのみ可能になったものだということである。
 第二に、移行国民議会選挙なるものは、クルド人居住地域とイスラム教シーア派の影響下の地域に限定されており、イスラム教スンニ派の影響下の地域においては事実上、実施されていないことである。つまり、イスラム教スンニ派勢力がボイコットする中での選挙の強行はイラク社会に重大な分裂をもたらしたということである。
 第三に、移行国民議会選挙なるものと、移行政権の選出はいかなる意味でも米英を中心とする連合軍による不法・不当な占領の終結を意味しないことである。米国政府は、占領を終結し、軍を撤退させる意図は全くない。この点についていかなる幻想も有害である。
 以上のことを前提として強調した上で、今回の移行国民議会選挙について、さらに次の点を付け加えておくべきだろう。
 第一に、移行国民議会選挙なるものがいかなる意味でも正統性を持っていないという明白な事実にもかかわらず、私たちは移行国民議会選挙がイラクの民衆の意志あるいは希望を全く反映していないと主張するべきではないということである。確かに、六割という投票率が水増しであり、しかも不正が広範に行われたことは容易に推測できる。にもかかわらず、バグダッドをはじめ多くの地域で、おそらく過半数近い住民たちが、テロの脅しにも関わらず、自らの希望を票に託したのは事実である。
 また、占領下の選挙とはいえ、翼賛選挙ではなく、住民たちは占領反対の希望をシーア派政治勢力や他の政治勢力(イラク共産党を含む)に託すことができた。
 第二に、選挙阻止を目的とした無差別テロは多数の市民を犠牲にし、恐怖に陥れたが、それは抵抗闘争の道義的正当性に重大な打撃を与えるものである。

アシュカル論文をめぐって


 これらの点に関連して、「インターナショナル・ビューポイント」誌一月号のジルベール・アシュカル論文(「イラクにおける迫りくる選挙について」)は重要な問題提起を行なっている。この論文は一月一日付であり、その後、「Zネット」のウェブ等でこの論文をめぐる論争が展開されている。アシュカル論文およびその後の批判・反批判の内容は、本紙のウェブで順次紹介する予定であるが、ここでアシュカル論文の基本的な内容を紹介しておく。

1 ブッシュは今回の選挙を米国がイラク民主化のために進めてきた政策であるかのように言っているが、実際にはイラク民衆の選挙実施の要求によって余儀なくされたものである。
 米国は、選挙を可能な限り引き延ばし、代わりに米国によって任命された政府と米国が計画した永続的憲法を押し付けようとした(ブレマーの構想)が、反米・民主化闘争の拡大を恐れて、ブレマー(およびブッシュ政権)は、渋々二〇〇五年一月中の選挙実施を約束した。それはブッシュにとっては時間稼ぎだった。
2 米国政府は選挙実施を受け入れたことに伴い、対イラク政策を修正し、最も強力な反乱勢力を攻撃することに全力を挙げた。「主権移譲」後のアラウィ政権は米軍による攻撃の継続に「イラク人同士の戦闘」という見せかけを与えるものだった。十一月大統領選挙直後からのファルージャ攻撃はイラクの混乱を拡大して、一月の選挙の結果の正統性を弱めることが真の目的だったとも考えられる。
3 イラクにおける「レジスタンス」は雑多な勢力の集まりであり、多くは地方的なグループである。大部分は、占領への反発を基礎にしているが、反動的勢力も関与している(主要にイスラム原理主義勢力)。彼らは市民と軍を区別しない――彼らの行動は米国の宣伝に利用されている。
 西側諸国におけるレジスタンスへの無条件支持は間違っており、非生産的である。正当な反占領の行動と、いわゆる「レジスタンス」グループの行動は区別されるべきである。
4 以上の前提の上で、現在までに、占領に反対する最も効果的な戦略はシスターニによって率いられた戦略であり、選挙を失敗させ、前もって選挙の正統性を失わせる試みは米国の占領を利するだけである。
 シーア派住民の意識は、選挙は占領を終わらせるための最も確実な方法で、戦闘よりも良い方法だというものである。シスターニが推薦する統一イラク同盟の候補者は、シーア派の広範な勢力を広く結集している。サドル支持者も含まれる(サドル自身は「政治ゲームに関わりたくない」という立場である)。スンニ派、クルド人、その他の少数民族の代表も結集している。
5 選挙が実施されれば、親イランのイスラム教原理主義勢力が主導権を握る政府と議会が成立し、占領当局と撤退時期に関する交渉を開始することになる。米国政府が選挙後にどのような行動を取るかを予想するのはむずかしい。シーア派とスンニ派、アラブ人とクルド人の対立を煽ることで支配を継続するという政策を採用する可能性もある。米軍に速やかな撤退を選ばせるような状況が速やかに生み出されない限り、この危険が増大する。イラク国内からの圧力と国際的圧力の組み合わせによってそのような状況を生み出さなければならない。

ブッシュ政権の抱える矛盾

 アシュカル論文の内容は本紙一月十七日号掲載の拙稿(「新自由主義グローバル化への抵抗」)で紹介しているヨーロッパの反戦運動および左翼の間での重大な分岐・分裂に関わっている。
 私自身は、アシュカル論文の結論部分(選挙に対する態度やシスターニの戦略に対する過大な評価)には同意しないが、この論文が移行選挙後のイラクにおける政治的ダイナミズムを分析する上で重要な示唆を含んでいると考える。
 移行選挙の「成功」は必ずしも米国・ブッシュ政権の政策の成功を意味しない。米国の傀儡としてのアラウィと彼の「イラク人のリスト」が敗北したことにより、ブッシュ政権は統一イラク同盟が支配する移行政権との間で新たな矛盾を抱えざるを得ない。
 統一イラク同盟の政権は、占領の終結・米軍の早期撤退を要求するだろう。一方、ブッシュ政権とネオコンにとって対イラク戦争は中東の軍事的・政治的・経済的支配のための一つの段階にすぎない。彼らは次にはイランを、そして最終的にはサウジアラビアを「民主化する」、すなわち米国の支配下に置くことを目標にしており、そのための橋頭堡としてのイラクから自発的に撤退することはありえない。ブッシュ政権はイラクの政治的安定を回復し、復興の負担を国連やEU諸国にも押し付けるために、単独行動主義を部分的に修正するかも知れないが、その一方で撤退を引き延ばし、永続的に居座るためにあらゆる策動を行なうだろう。
 統一イラク同盟は、選挙をボイコットしたスンニ派政治勢力にも協力をよびかけ、スンニ派政治勢力の中にもそれに呼応する動きがあると伝えられている。そのようなシーア派とスンニ派の協力は、米軍撤退を実現するための重要な基盤となるだろう(この限りにおいて、アシュカル論文が指摘するように、シスターニの戦略は一定の妥当性をもっている)。逆に、統一イラク同盟の政権をめぐってシーア派とスンニ派の分裂が拡大するならば、暴力的状況の永続化と国家の分裂の危険が現実化する。その場合、統一イラク同盟の権力はスンニ派地域には及ばず、また、統一イラク同盟政権の軍事力・警察力では国内の治安を確保できないだろう。これこそ米国が望むところだろう。アシュカル論文が指摘するように、「米軍に速やかな撤退を選ばせるような状況が速やかに生み出されない限り」この危険は増大する。
 冒頭に述べたように、移行国民議会選挙は正統性を欠いたものである。しかし、それにもかかわらず、私たちは選出される統一イラク同盟を中心とする政権を傀儡政権、あるいは当面の打倒対象とみなすべきではなく、この政権の下でシーア派とスンニ派の協力が追求されることを歓迎するべきである。それはまた、イラクにおける非宗教的・民主的潮流の発展にとって必要な民主主義的スペースを拡大するだろう。
 この観点から、私たちは市民を対象としたテロや、選挙に参加した人々を「占領への協力者」として攻撃するような政治主張に対しては明確に一線を画すべきである。

ふたたび反戦運動の攻勢を


 〇二年から〇三年にかけての世界的な反戦運動の高揚は、ブッシュとネオコンのグローバル戦争戦略に対する自然発生的な抵抗の開始だった。それは国連を舞台とする独仏等の諸国の抵抗を背景として、開戦を実際に阻止できるという期待の高まりを反映していた。
 その後、開戦と米・英軍によるバグダッド占領・フセイン打倒を経過して、反戦運動は分散化し、当初のダイナミズムを失ったとは言え、この戦争は間違いだった、米・英軍はただちに撤退するべきであるという声は一貫して高まってきている。とりわけ、開戦時の情報操作が明るみに出たこと、捕虜の虐待、ナジャフやファルージャでの殺戮・破壊が伝えられたことで米国の政権内部ですら動揺が始まり、戦死者の増加・長期にわたる兵役による疲弊・戦費による国家財政の圧迫と、米国はまさにベトナム戦争末期の状況に向かいつつある。
 ブッシュは移行国民議会選挙の「成功」を自画自賛することで侵略を正当化し、国連や仏独の政府すらそれに同調する中で、そのような形での対イラク戦争の免罪を許さず、米英を中心とする連合軍の即時撤退を求める運動を再組織することが求められている。 
 また、日本においては、小泉政権はイラク派兵に続き、津波被害救援を口実にインドネシアへ自衛隊を派遣し、さらにはスーダンPKOへの参加を検討している。こうして自衛隊の海外派兵を常態化し、国連安保理の常任理事国入りを目指し、そのためにも憲法改定を急いでいる。しかし、日本においても小泉への支持率は首相就任以来最低のレベルに下がっており、郵政民営化をめぐっても政権末期の迷走が始まっている。
 ブッシュ、ブレア、小泉の暴走を止めることは現実的に可能になりつつあるし、一刻も早く実現しなければならない。
 昨年十月のヨーロッパ社会フォーラムと今年一月の第五回世界社会フォーラムで呼びかけられた3・19―20国際反戦行動を成功させ、反戦運動の再度の攻勢を実現しよう。
(2月7日 小林秀史)


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