| 資本のグローバル化が加速する「南」の民衆の悲劇 かけはし2005.1.17号 |
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「対テロ戦争」と一体化した災害救援活動の軍事化反対 |
二〇〇四年十二月二十六日午前八時(日本時間同午前十時)頃、インドネシア・スマトラ島沖で起こったマグニチュード9の大地震と大津波は、インドネシア、マレーシア、タイ、バングラデシュ、インド、スリランカ、モルディブ、ソマリア、ケニア、タンザニア、セーシェルですでに十五万人以上(一月六日現在)の死者と、多くの行方不明者をもたらす空前の大惨事となった。五百万人以上が、住む家、あらゆる生活手段を奪われた。タイ、スリランカのリゾート地では、クリスマス・新年休暇を過ごしていた日本や欧米の観光客数千人が津波に呑まれて生命を失ったり、行方不明となっている。
とりわけ、町や村がまるごと破壊される壊滅的な被害をこうむったのはスマトラ島北端のアチェ州とスリランカの貧しい人びとが住む地域である。アチェだけで約十万人、スリランカでは三万人の人命が失われた。新自由主義的グローバリゼーションがもたらす貧困と格差のいっそうの増大や自然・生活環境への打撃、内戦と政権の軍事的弾圧によって荒廃したこの地域に住む数百万の人びとは、いま家族と共同体の崩壊、職と生活手段の破壊、あらゆるインフラの消失によって、飢餓と感染症がまん延する絶望的恐怖の中で、生き延びるための救援を待っている。
家族を失った幼い子どもたちが直面している現実は、過酷きわまるものだ。生命を奪われた子どもの数は最低でも五万人、被災した子どもの数は百五十万人以上に達し、ユニセフ(国連児童基金)の調査によればインドネシアの被災者のうち十八歳以下の人口比率は三五%に達する。アチェの州都バンダ・アチェを訪れたユニセフのキャロル・ベラミー事務局長は、人身売買犯罪組織によって子どもたちが性産業や「奴隷」取引業に売られる危険性が強まっていると指摘した(朝日新聞1月6日)。
なにがこの惨劇をもたらしたか
阪神淡路大震災の千四百倍のエネルギーを持ったとされる今回の地震と大津波が、自然災害であることは間違いない。しかしそれがもたらした諸結果は、きわめて大きな政治的・社会的・経済的・軍事的意味を持っており、資本の新自由主義的グローバリゼーションとグローバル戦争が、被害の規模と今後の趨勢を規定している。グローバル資本の支配と、アメリカ帝国主義と地域の反民衆的政権が結びついた「対テロ」戦争にともなう国家・社会の軍事化が、民衆の受けた惨害を決定的に拡大したのである。それは決して「天災」ではない!
第一に、ハワイの太平洋津波警戒センターを通じて太平洋やその沿岸地域に提供している津波警報システムが、インド洋沿岸諸国をも包括的にカバーしていたならば、今回の被害をもっと小規模にしえたであろうことは明らかであった。スマトラ沖では二〇〇〇年六月にもマグニチュード8の大地震が起こり、それによる津波で数百人が死亡している。すでに一九九七年の国際海洋地理学会の会合では、インドネシアの学者によって早期警報システムの導入が主張され、討議に付されていた。しかしこの提案は取り上げられなかった(本号2面、「インターナショナルビューポイント」誌編集部論文参照)。衛星探査などによる最新鋭の技術を駆使した警報システムは、貧しい人びとの住む地球の大部分とは無縁のものなのだ。グローバル資本の支配にとって、人命は決して「平等」ではない!
カナダ・オタワ大学のミシェル・チョスドフスキー教授(『貧困の世界化』/つげ書房新社刊の著者)は、米軍や米国務省が津波が起きることを事前に知り、インド洋上のディエゴガルシア米海軍基地にはその情報が伝えられ、同基地は被害を受けなかったが、インドやスリランカの政府には伝えられなかったのはなぜか、と問いを発している。ここには何らかの意図が働いているのではないか、とチョスドフスキーは語っている。そしてその意図とは、後述する軍事戦略がらみのものである。
救援活動の妨害と
戒厳体制を許すな
第二に、スマトラのアチェ州やスリランカ東北部沿岸など、被害の最も集中した地域は、GAM(自由アチェ運動)やLTTE(タミール・イーラム解放の虎)などの分離・自治運動に対する軍事的弾圧と内戦の中で戒厳体制が敷かれ、民衆の自由な言論や活動が圧迫され、人権が侵害され、死の恐怖が日常化している軍事化された場所でもあった。
インドネシア民主化支援ネットワークの報告によれば、二〇〇三年五月以後軍事戒厳令、非常事態の下でインドネシア国軍が占領しているアチェでは、州政府機能が完全に崩壊し、すべてが軍の厳格な統制に置かれている。国内・国外のNGOのアチェ入りは当初数日間にわたってストップされ、救援物資は空港に山積みにされたままであり、ボランティアが物資の輸送を手伝おうとしても、国軍兵士によって拒否された。
救援物資は被災者キャンプに届いていない。アチェ駐留の国軍は、多くの兵士が逃亡するなどして事実上その機能が崩壊しているにもかかわらず、国外からの支援の申し入れを拒否したり、はなはだしきはNGO活動家に幾度も「検問」を行って、カネをせびったり、救援物資を横領したりしている。
他方GAMは停戦を宣言したものの、インドネシア国軍の一部は軍事作戦を継続している。この壊滅的状況の中で国軍はGAMの拠点に攻撃を加え、殺傷を行っているのだ。
スリランカではどうか。LTTE支配地の東北部では、医師やスタッフの不足のためにあふれる難民への医薬品、食糧などは配られないままでいることが報じられている(朝日新聞1月4日夕刊)。LTTE和平書記局がまとめた管内の被害は、一月一日現在で死者一万八千六百七人、行方不明者一万八百二十四人、住宅流失十七万九千三百八世帯に上っており、スリランカ政府が発表した被害の過半がLTTE支配地域に集中していることを物語っている。
これらの事実は、被害が長年にわたるタミール人の分離・自治運動に対するスリランカ政府・軍部の弾圧や内戦と決して切り離すことができないことを意味している。戦争による生活基盤の社会的破壊が、被害を増幅させているのだ。
「人道支援」という国際政治
世界のNGO、労働組合や市民・社会運動は、インド洋大津波に直面してただちに緊急の救援運動を開始し、多額のカンパや物資を集めている。イギリスでは当初ブレア政権が約束した支援額をはるかに上回るカンパが、NGOからの緊急要請に応えた五十万人の市民によって一日のうちに集められた。NGOの救援ボランティアも被災地に飛び、連日の救援活動を展開している。
こうした中で、各国政府も遅ればせながら被災国への支援に乗り出した。アメリカ政府は三億五千万ドル、日本政府も五億ドルの無償支援を表明するなど各国別で総額にして五十億ドルの支援が約束されている。しかしこの額は、イラク侵略戦争や軍備に支出している予算や、超国籍企業がこれら貧しい国々から搾取・収奪している額と比較したとき、まったく「雀の涙」ほどのものである。
小泉政権をふくめた各国政府は、被災国政府への債務返済いの猶予を提案した。しかしいま求められていることは債務支払いの「猶予」ではなく、債権の放棄=債務の完全帳消しである。被災国の市民組織、労働者組織はそれを強く求めている。
それと同時に、われわれが注意しなければならないのは、今回の各国政府による「救援作戦」が世界政治・地域政治に与える軍事的・政治的側面である。ブッシュ政権は、退任間際のパウエル国務長官をタイに派遣してアメリカのプレゼンスを強調するとともに、地震発生当時、香港に寄港していた空母エイブラハム・リンカーン戦闘団など一万二千人の兵員をインドネシアに派遣し、「救援作戦」を主導した。東ティモール独立運動への虐殺などを契機としてクリントン政権時代に凍結されていたインドネシア国軍との共同作戦が、アチェにおいて完全に復活したのである。
この救援作戦の指揮を取ったのは、「イラクの自由作戦」でも前線に立った米第三海兵遠征団(沖縄に司令部を置く)司令官のラスティ・ブラックマン中将であった。アメリカ帝国主義ブッシュ政権にとって、「津波被害者救援」作戦は、文字通り「不安定な弧」における「対テロ」軍事作戦と一体のものなのだ。
そのことは、ブッシュ米政権が国際救援活動の枠組みを米、オーストラリア、日本、インドの「中核四カ国」にオランダとカナダを入れた六カ国の主導で展開し、国連主導を主張するEUなどと対立したことにも示されている。イラク侵略戦争における米主導の「有志連合」の構造がここでも再現された(一月六日にジャカルタで開催されたスマトラ沖地震復興支援首脳会議で、アメリカはこの「六カ国」主導枠組みを解消することに同意したが)。
「緊急援助」を名目
に三軍統合作戦
小泉政権は津波災害の直後、インド洋で「対テロ」戦争支援活動のために派遣していたイージス艦「きりしま」など護衛艦二隻と補給艦一隻をタイ沖に派遣するとともに、一月四日には陸海空自衛隊に「国際緊急援助隊」としての派遣命令を発令し、一月五日には第一陣が出発した。陸海空の三自衛隊がそろって「国際緊急援助」に出動し、統合した作戦を展開するのは初めてのことである。一月六日には空自のC130輸送機が小牧基地から、米軍が前線司令部を置いているタイのウタパオ空軍基地に向かった。同日には、統合幕僚会議の幹部ら九人が、陸海空三自衛隊の活動の調整にあたることになる。統幕が現地で三自衛隊の活動調整を行うのも初めてのことだ。
まさに昨年十二月十日に閣議決定された新防衛計画大綱が述べる「国際緊急援助」を主任務とした作戦の第一弾である。
われわれは、今回の自衛隊派遣をイラク戦争・占領のための出兵とまったく同列に扱うことはできない。しかし護衛艦、補給艦、輸送機などを押し立てた自衛隊による「人道的国際緊急援助」が、「対テロ戦争」のための海外派兵と表裏一体の関係にあることは言うまでもない。地震・津波被災者の救援のための大規模な海外派遣は、同時に海外での戦闘行動の露払いの役割を果たす。自衛隊のイラク派兵が「人道的復興支援」を名目にしたものであることを見てもそれは明らかである。
スリランカの同志たちは、災害救援を名目とした外国軍による介入を厳しく批判している(本号3面参照)。
アチェ、スリランカへの緊急支援を
われわれは訴える。
b非軍事の文民組織による大規模な救援を。自衛隊とは完全に独立した非武装の災害救援緊急組織の創設を。
b被災国への対外債務を帳消しにせよ。被災者に行き渡る無償の大規模な国家的援助を。
bインドネシア軍はアチェから手を引け。米軍とインドネシア国軍の共同作戦を中止せよ。米軍は「救援」に名を借りた「対テロ」作戦の発動をやめよ。
b世界の反戦・反グローバリゼーション運動は、アチェ、スリランカなどの民衆を救援する運動の先頭に立とう。
われわれは読者の皆さんに、インド洋大津波の被災者への救援カンパを呼びかける。(インドネシアへの救援カンパは、インドネシア民主化支援ネットワークが呼びかけている〔振替口座 00190-8-76398
アチェ人道支援キャンペーン〕。またスリランカへのカンパについては、本号3面のNSSPアピール参照。なお銀行口座への送金は一件毎に多額の送料がかかるので新時代社でも受け付け、責任を持ってまとめて送金いたします。新時代社の郵振口座に「スリランカカンパ」と明記して、お送りください)。
(05年1月7日 平井純一)
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