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韓国はいま                      かけはし2004.08.9号

「週5日制」施行┃生活改善のカギは変形労働時間制の撤廃だ


このままで暮らしの質は向上するか

 施行最初の月を迎えた「週5日制」は、法制定のはるか以前から指摘されていた諸問題が表面化している。最初に労働時間短縮闘争に乗り出していた民主労総の各事業場を含め、6月末までに公共部門は51・4%(145事業所)、千人以上の大企業は20・2%(86社)、中小企業は411社が団体協約や就業規則の変更を通じて「週5日制」を導入した(労働部、「週40時間勤務制の時代開く」、2004・6・30)。
 公共部門が民間部門よりも週5日制導入の速度が速いのは、政府が改悪された勤労基準法に依拠して休暇日数を減らすなど、労組側の譲歩を進めやすいからだ。労働部は週5日制を導入した公共部門の154事業体では、すべて改悪された法律通りに休暇を調整したのを根拠として「改正の基準通りに休暇の調整が大勢」だとし、「最近の保健医療部門の労使の暫定合意によって民間部門も交渉に弾みがつくものと見られる」と見通した。労働部は「週40時間制が施行されれば何よりも、これまでの長時間勤労から脱け出せることによって勤労者の暮らしの質が向上し、労災の予防にも大きく寄与するだろう」と予想している。

変形労働時間で「週6日制」に

 だが月次休暇の廃止後、年次休暇に従前より5日間だけ追加して15日とし、年次休暇の上限ラインを25日に制限したうえ、生理休暇の無給化に加え、変形労働時間制を1カ月単位から3カ月単位に拡大し、改悪された労働基準が適用されても「勤労者の暮らしの質」が向上されると言えるかは疑問だ。
 しかも「1日8時間、週40時間制」を明確にし名実兼ね備えた「週5日制」にならなければならないにもかかわらず、法改正の当時はもちろん、それ以前にも政府および資本の側は、この点をハッキリとはしなかった。まさに変形労働時間制が、形式的な労働時間の短縮にもかかわらず資本の側が実質的に労働時間を延長できるという点であったからだ。
 労働時間短縮要求の闘争が活発だった98年度から昨年の法改悪当時まで、ブルジョア・マスコミでは一斉に「週5日制」という表現を好んで使っていて、「週5日制になれば競争力の喪失が心配される」という言い方を止めなかった。
 当時、資本側は「時間短縮の意味を色あせさせて、実質的に労働時間を増やす効果を持っている変形労働時間制の拡大に必死だった。しかも「週5日制」なら休暇日数が1週間に2日間生じるという点を攻撃するために、月次休暇をなくし年次休暇を調整するというやり方で休暇日数を減らすべきだ、と主張した。その当時、政府や資本の側の労働基準改悪の意図に「週5日制」という表現が実にピッタリだったのだ。
 だが勤労基準法を改悪した後のいまは、労働部は「週40時間制」という表記をしている。この点に注目すべき理由は、まさに変形労働時間制を通じて「週5日制」ではなく「週6日制」を維持できる時代が開かれたということをさらけ出しているからだ。鶏を追っかけていた犬が、これを逃して屋根ばかり見つめているように、「週5日制」による大幅な休暇日数の増加や余暇の活用を期待していたレジャー産業の資本家たちは、すっかり当てがはずれて失望を禁じ得ない状態だ。言わば、変形時間制が適用されるので1日7時間ずつ5日を働き、土曜に5時間働くようにしても「週40時間制」になるという事実を、これまで政府や資本の側は、あえて口にしなかった。
 製造業の資本側の場合には「週6日―40時間制」に特に目星をつけそうなのは、現在でも通常2時間の残業が基本であり、大部分が交代制を通じて「24時間の搾取体制」を維持しているのが製造業資本であるからだ。その場合、現行通りに既存の人員の延長勤務を督励して週6日の方式を維持すれば、「週40時間制」によって1週当たりの総労働時間の上限は56時間(44時間+12時間)から52時間(40時間+12時間)へと形式上、労働時間の長さが4時間減ることになるとしても、労働強度の強化や残業特勤の維持を通じて資本側の、いわゆる労働費用の上昇はそれほどなくとも生産性を保障されるシステムへと資本の側は現場の作業組織の再編に入っていくだろう。
 「構造調整」が常時化された98年以後の政府側の発表を想起するまでもなく、作業組織の再編や配置転換などを通じた日常的な構造調整は、労働者たちの労働強度が強化される一方で、それにともなった事故や職業病などが増加するということは、かつての日本発の労災の代名詞だった「カローシ(過労死)」が証明している。
 過労死は、まさに労働時間の長さを形式的に短縮しておいて作業を過密に編成することによって集中的な労働強度を要求する「変形労働時間制」がもたらす災害ではないのか。そのうち製造業の生産職の労働者たちは大部分が賃金の契約方式において「時給制」の労働者たちだ。万一、残業を拒否すれば、その分、賃金削減がついて回るのだ。
 賃金条件がこんな状態なので現場で残業を拒否するのも容易ではない。労働組合も週40時間制の時代に60時間ずつ働いている組合員らの労働強度の問題や職業上の災害について問題意識を持ってはいるものの、気軽に残業を減らそうと組合員らを説得はしがたい状況だ。
 その反面、資本の側は腹をたたきながら、残業をするもしないも好きにやれと開き直っているのは、そのためだ。仮に正規職が残業をしないというのならば、非正規職を採用すると出てきているのも、そのためだ。非正規職の労働条件が正規職の3分の1の水準である現在の状態では資本側の「雇用の柔軟化」の波は、むしろ正規職を陥穽にはめつつ、一層苛酷なものになるだろう。

このままでは労働者が疲弊するだけ

 製造業においてばかりではなく軌道労働者たちの場合にも変形労働時間制による「労働時間短縮の効果の無効化」を経験している。交番制勤務や深夜労働は製造業とほとんど同じレベルでなされているにもかかわらず人員は増えず労働強度が蜜になったうえに、それによって地下鉄の「大邱の惨事」や鉄道の「カムゴン里事故」のようなことが、いつ起こるか分からない状況だった。
 それにもかかわらず、改悪勤労法のせいで休暇日数の調整や省力化(労働力投入を減らす)が同時に推進されていて絶対的な労働強度の強化がもたらされている。そのために軌道労働者たちは強化された労働強度に対する対案として人力の充員と夜間労働時間など労働時間の短縮を核心事案として要求し、軌道5社の共同ストを決議している。
 現在のところ、直接的な人力充員の要求と時間短縮が何よりも重要だ。しかし、それにとどまってはならない。変形労働時間制の廃止や深夜労働時間の大幅短縮要求によって一層問題意識を拡大していくことが必要だ。それによって今後、繰り返される労働強度の強化に対処し、人力充員の道も開いていけるだろう。
 もちろん軌道においても会社側は賃金や時間の改善には冷淡であるがゆえに闘争は難関が予想される。会社側が非正規職投入の意思を示していることも、ただならぬ脅迫となっている。だからといって現在の変形労働時間制の適用状態にあって休暇日数の調整や省力化を受けいれるならば「暮らしの質」どころか労働条件の改悪をまぬがれなくなるだろう。その結果はまだ労働者の疲弊化だけだ。
 一方、サービス産業の従事者たちは労働者の60%以上を占めている状態なのに、労働者の約20%余りの製造業労働者たちが「週5日制」を獲得できなくなれば、いまも劣悪な条件にあって非正規職の比重が高いサービス産業の労働者たちもまた、働き口がいまよりもさらに不定にならざるをえないことは言うまでもない。

時給制賃金構造の廃止が重要だ

 いわゆる「柔軟な週40時間制の時代」が開かれるとともに、労働者階級にとっては変形労働時間制を撤廃する一方で、時給制の賃金構造を廃止させることが決定的カギとしての闘争課題として火急のものとなっている。
 だが公共部門とは違って民間部門では週5日制を導入することとした86社のうち17社(19・8%)が従前の休暇をそのまま維持することにしたのは、労働部の「改悪された法の定着」についての楽観とは違って、労働者たちの現場の闘争力や問題意識が生きている証拠だ。
 もちろん、それよりもはるかに多い69社(80・2%)が休暇を改悪法通りに減らしたり一部縮小したものと集計されたが、「連帯基金」(注)や、その他の基金のように労働者たちを死へと追いたてる過密な労働強化の展望以外には導き出せない、いわゆる「社会的闘争」よりは、改悪された勤労基準法を突破し、既存の休暇制度をキチンと維持した労働者たちの闘争が持つ意味は極めて大きいと言える。
 労働部「改正された法通りの休暇調整が大勢」となるかは分からないが、これまで「週5日―40時間制」を掲げて闘ってきた労働者階級が、実際に適用段階においてさえ法に自ら合わせていくことによって、施行段階において最初のボタンをかけ間違えることを警戒しなければならないだろう。(「労働者の力」第58号、04年7月9日付、イ・ジョンヒョン/経済分析チーム)
 注 「連帯基金」は労働運動の「危機」状況に対して民主労総が対案として提示したもので、「正規職組合員の賃金から基金を助成し、資本の側からもそれに相応する金額を拠出するように要求して助成」し、これを非正規職に対する福祉基金、職業訓練、正規職労働者の雇用安定基金などとして使用しよう、という内容だ。
 民主労総は、「賃金格差の拡大、賃金所得の不平等などに対して具体的対応が要求されている状況にあって、これ以上モタモタすることになれば階級的・社会的連帯基盤の喪失、社会的孤立、労働運動の進歩性や道徳性も喪失するだろう」とし、危機意識をあらわにしていることが背景だ。
 だがこの「連帯基金」は民主労総の組合員の中でも大規模事業場での、いわゆる「高賃金」正規職組合員らが先頭に立って賃金を返納せよと頼みこむことにほかならない。(「『連帯基金』は労働者殺害のプロジェクトだ!」イ・ジョンヒョン、より)



8・15行動に参加しよう
「イラク派兵」「慰霊・追悼」「女帝・改憲」を問う討論集会

 七月十七日、東京で「イラク派兵」「慰霊・追悼」「女帝・改憲」を問う討論集会が開かれた。主催は「戦争と象徴天皇制」を問う8・15行動実行委員会。文京区民センターで開かれた集会では、最初に天野恵一さんが小泉政権のイラク戦争・占領支持政策・多国籍軍参加問題をめぐって報告、続いて桜井大子さんが、象徴天皇制の延命・強化のための改憲と女帝問題と題して報告した。
 天野さんは自衛隊の海外派兵をめぐって、これまでは何とか憲法の平和条項との間に整合性をつけるための「屁理屈」を弄してきた政府が、ことここに至ってもはや「屁理屈」さえつけようとしなくなったという水島朝穂さんの短評(雑誌『世界』8月号)を紹介しつつ、小泉政権は「憲法は守らなければいけないものだ」という意識すら失った現実を指摘し、イラクからの撤兵を要求し憲法改悪に反対する闘いの重要性を訴えた。
 桜井さんは、イラク戦争で死亡した二人の外交官の追悼式式場中央に天皇皇后からの供物が置かれ、合同葬に向けて皇居で追悼の意を表明するなど、「国のための死」を納得させるために積極的に立ち振る舞ったことを指摘した。また天皇は、三人の日本人が「人質」となっていた四月に来日したチェイニー米副大統領との会見で、自衛隊が「給水」「学校の復旧」「医療」などの「人道復興支援」に派遣されたと強調し、自衛隊撤退を拒否した小泉政権の態度を「国民」に納得させるために弁舌をふるった。
 桜井さんはまた、「雅子問題」が示した天皇制の存続の危機のなかで、憲法改悪と連動して「女帝論」が浮上していることを指摘。さらに六月に発表された自民党憲法改正プロジェクトチームの「論点整理」について、「天皇制をイメージ的に中心に据えた家族共同体主義。国家が『国民』を守り、国民はその国家のために責任を果たすという国家イメージに、日本文化の伝統として天皇制を載せていこうとするもの」と論評した。
 二つの提起を受けて討論が行われ、八月十五日の行動への参加が呼びかけられた。(I)


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