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第四インターナショナル15回世界大会報告集によせて(上) かけはし2004.07.19号

「反資本主義左翼」の結集をめざす闘いのために



「社会的敗北のサイクル」にブレーキ

 第四インターナショナル第十五回世界大会は、世界情勢の転換を確認した。新自由主義の攻勢とスターリニズムの破産のなかで八〇年代から続いてきた世界的な「社会的敗北のサイクル」の進行に、はっきりとブレーキがかかった。逆に、新自由主義グローバリゼーションと軍事のグローバリゼーションは行きづまり、支配の正統性を失いつつある。
 危機に陥った現代資本主義は、労働者人民が一世紀以上の闘いで蓄積してきた成果を掘り崩すことで利潤率を回復する新自由主義政策に突き進んでいる。そのなかで、社会民主主義勢力はイギリス・ブレア政権やドイツ・シュレーダー政権のように、資本の利害を体現して社会保障や労働条件を切り下げる「社会自由主義」へと進化し続けており、スターリニズムはそれに引きずられてますます混迷と危機を深めている。
 しかし、新自由主義グローバリゼーションと軍事のグローバリゼーションに対して、労働運動はじめ多様な領域で続けられてきた抵抗の社会運動は、国境を超えた結びつきを強めながら自信を深め、「もう一つの世界は可能だ」という変革への希望に満ちたスローガンを掲げた反グローバリゼーション運動として登場している。それを代表するものが、全世界の社会運動を結集する「世界社会フォーラム」である。
 世界大会はこのような世界情勢の転換と、国際的に一体化した多様な社会運動の基礎の上に、各国で資本主義に対する実践的オルタナティブ勢力としての「反資本主義左翼」の結集を進めるとともに、同時に第四インターナショナルを構成要素の一つとする新しい大衆的インターナショナルを建設するという挑戦課題に向かって、全力でイニシアティブを取ることを確認した。
 しかしこれはもちろん、社会主義革命運動の新しい攻勢の時代が始まったことを確認したわけではない。ロシア革命の勝利を基盤とした「革命の現実性」の上に、「資本主義へのオルタナティブとしての社会主義」という意識が大衆的に成立していた当時のような時代が、再び訪れたわけではもちろんない。
 労働者人民の大衆的組織的抵抗は拡大し、「社会的敗北のサイクル」には確かにブレーキはかかってはいるが、後退戦はいまも続いている。大衆的高揚を見せながらも政府と資本の攻撃を突破し切れなかった昨年来のドイツやフランスやイタリアの年金制度改悪反対闘争が、それを示している。
 情勢の厳密な確認を抜きにしては、たやすく楽観主義や悲観主義に陥ることになる。「労働者階級の根本的再組織化」という最も基礎的な任務を忘れ、左派の政治的枠組みさえ作ればすぐにも大衆的な「反資本主義左翼」が作れるのではないかという幻想をふくらませたり、たちまち悲観主義に陥って「よりまし資本主義」への屈服や社民の分解への介入に希望をつないだりという動揺を繰り返すことになる。
 今回の世界大会が確認した世界情勢の転換の意味を理解するためには、まず前回世界大会までの第四インターナショナルの情勢認識について理解する必要がある。

八〇年代半ば以降の前提的情勢認識


 八〇年代半ば以降、第四インターナショナルは国際労働運動を基盤とする世界の社会主義革命運動が、新自由主義の攻勢とスターリニズムの破産のなかで全面的な守勢に追い込まれているという認識を、任務を設定する上での共通の前提としてきた。
 すでに八五年の第十二回世界大会は、「人類の危機は革命的指導部の危機に還元される」という「過渡的綱領」の原則がもはや直接的有効性を持ち得ておらず、「労働者階級の根本的再組織化」が求められていることを確認していた。すなわち、「過渡的綱領」を適用できるような階級的基盤が世界的に崩壊しつつあり、それを根本的に再建する闘いに取り組むことこそ求められているということであった。
 革命的楽観主義者と自らを規定していた故・同志エルネスト・マンデルも、八九年の東欧崩壊から九一年のソ連邦崩壊に至る激動のさなか、九一年の第十三回世界大会に向けて起草した『第四インターナショナル宣言』の全体の約五分の一を、この労働者階級の政治的意識の大きな後退の問題にあてている(第2章「克服すべき障害」)。
 このなかでマンデルは、「社会主義の信頼性の危機」「消費社会と私生活主義」「『対抗文化』の衰退」の三つをあげ、労働者階級の階級的意識がきわめて深刻な形で後退し、労働組合や左翼政治組織が「衰退」あるいは「壊滅」的状況に陥っていることを詳しく述べていた。
 マンデルは「今日、人民大衆は社会を全体として改造しようとするどのようなモデルも実現不可能であると考えている」と述べ、「十月革命を基準とする大衆意識」が解体し、「労働者は労働者運動との結びつきを意識しない」ようになり、大衆闘争に参加するとしても「階級」としてではなく「市民や孤立した個人として」関わるようになっている、と指摘した(新時代社パンフ『第四インターナショナル宣言』18〜27頁)。

前回世界大会の情勢確認と課題設定

 九五年に開催された第十四回世界大会は、このような労働者階級の運動そのものの危機が、以下の三つの政治的サイクルの終焉によってもたらされていることを確認した。
 「★一九六八年に始まった政治的サイクル││その終焉は革命的左翼にとって直接の打撃になっている。★一九一七年に始まった政治的サイクル││その終焉はスターリニズムの世界モデルを確かに解体したが、同時に資本主義に取って代わる社会の『現実的可能性』についての全般的疑惑を作り出した。★一九世紀末の四半世紀に始まった政治的サイクル││この時期に広大な社会階級としてのプロレタリアートが形成され、このプロレタリアートが、社会民主主義、労働組合及び『社会主義的対抗文化』の出発点になったが、これらすべてが衰退しつつある││こうして提起されている問題は、力を強めつつある活発な伝統的労働運動を基礎にして旧(改良主義)指導部を別の(革命的・反資本主義的)指導部に取って代えることではなく、歴史的危機の下にある労働者運動総体の転換を通じて新たな政治的再武装を実現することである」(第十四回世界大会報告集『社会主義へ、いま』58〜59頁)。
 同様の認識は、さらに次のようなきわめて深刻な表現で語られていた。「過渡的綱領は現在、以下のような問題に直面している。まず第一に現在の局面は、『革命的扇動、宣伝及び組織活動』(トロツキー、一九三八年)の時期ではなく、真の政治的無力によって特徴づけられる非革命的時期であり、大衆とその闘争は適切な政治的・組織的手段を持たず、社会を変革できるという希望を失っている。『過渡的転換』は明らかに広範な大衆にとって課題になっていないし、新しい過渡的転換を通じて実現されるべき社会のあり方ももはや自明ではない」(同70頁)。
 このような情勢を表現するものとして、社会民主主義はブレアのニュー労働党を先頭に新自由主義に全面的に屈服して「社会自由主義」となり、スターリニズムは社会民主主義化するとともに深刻な政治的混乱と危機に陥り、分解と解体を進行させた。第四インターナショナルをはじめとする革命的左翼勢力も、その力を大幅に後退させた。同志ベルカマンはこれを、「第十五回世界大会は何を獲得したか」のなかで「地獄への下り坂」と表現している。
 第四インターナショナルと各国支部は、このような左翼勢力と労働者運動が陥ったきわめて深刻な「社会的敗北のサイクル」(ベンサイド)の認識の上に、その情勢の重圧に抗して、社民やスターリニストのような右転落を拒否し、国家と資本への集団的抵抗の歴史的連続性をあらゆる戦線で防衛し、他の戦闘的左翼勢力や諸運動との非セクト主義的連携を強めつつ、労働者階級の「根本的再組織化」(第十二回世界大会)をめざし、「政治的再武装」(第十四回世界大会)と反転攻勢を実現するための試行錯誤と具体的実践とを積み重ねてきたのである。
 たとえば九七年四月から六月、EU通貨統合に向けてヨーロッパ各国政府が押し進めていた労働条件の改悪や社会保障レベルの切り下げに対決する闘いとして、「多国籍企業のための統一ヨーロッパ」に「労働者のための統一ヨーロッパ」を対置する「反失業ヨーロッパ大行進」が展開された。
 十八のメインルートを軸に、二十カ国の労働者が参加し、各地で一千カ所以上の集会を開催し、延べ五千キロ以上を行進したこのユーロマーチの組織化にあたって、第四インターナショナルのヨーロッパ各国組織はそのイニシアティブ装置として全力をあげて闘い抜いた。ここにそのすべてを列挙することはできないが、このような「労働者階級の根本的再組織化」をめざす多様な戦線での持続的闘いが、今日の「情勢転換」を主体的に準備したのだということをはっきり確認しなければならない。

第十五回世界大会と情勢転換の確認

 第十五回世界大会は、九〇年代末以降、第一四回世界大会で確認したきわめて困難な主体の状況、すなわち大衆的な階級意識の後退と崩壊が、一方では持続しているだけでなくいまも深化し続けているにもかかわらず、反グローバリゼーション運動の高揚という形で、全世界的に情勢の大きな転換が始まっていることを確認した。
 情勢転換の客観的基盤は、労働者人民が数十年にわたって蓄積してきた社会的獲得物を破壊した新自由主義グローバリゼーションの二十余年の経験であり、新自由主義グローバリゼーションの行き詰りである。
 「新しい世界秩序はとりわけ南側諸国では整合的な発展のモデルを与えることができず(南側諸国では社会的解体が進行している)、東ヨーロッパ諸国では約束を果たすことができず(これらの諸国における資本主義への移行は、社会的保護を奪われた大多数の住民にとって悲惨な状態を作り出している)、経済成長によるエコロジー上の矛盾を解決できず(エネルギー、環境汚染、食品安全等々の領域で明白である)、最先進国においても労働者の要求に応えることができず(雇用の権利、社会保障、その他)、こうして新しい世界秩序の正統性は社会的にも地理的にも限定され、危うくなってきている」(決議「資本主義グローバリゼーションへの抵抗」『第十五回世界大会報告決定集』91頁)。
 主体的には、新自由主義の攻勢に後退を続ける労働運動や農民運動のなかで、第四インターナショナルをはじめとする左派活動家による抵抗と再組織化の闘いが続けられてきた。ジュビリー2000などの第三世界連帯運動を広げる努力が積み重ねられてきた。エコロジー運動やフェミニズム運動など、さまざまな領域で社会運動を持続し、拡大する努力が続けられてきた。
 これらの多様な抵抗運動が、アジアやブラジルやロシアの国際金融危機やエンロンの破綻が象徴する「ニューエコノミー」の破綻による新自由主義の正統性の喪失と行き詰りのなかで、九〇年代後半から相互に結合することを通じて強化され、急進化する過程が始まっていた。
 それが、MAI(多国間投資協定)を不成立に追い込んだ闘いや、九九年WTOシアトル会議粉砕闘争の勝利などを通じて一体化を強め、政治的「突破」(ブレイクスルー)を実現し、反グローバリゼーション運動として世界的に大きな前進をかちとってきたのである。
 WTOシアトル会議粉砕闘争のスローガンは「世界は売り物ではない」だった。それは個別課題への反対を超え、新自由主義グローバリゼーションそのものに反対し、「市場の論理」による世界支配に反対するものであり、自然発生的な反資本主義の表現であり、新しい国際主義の意識の表現であった。
 「もう一つの世界は可能だ」という世界社会フォーラムのスローガンは、マンデルがかつて「今日、人民大衆は社会を全体として改造しようとするどのようなモデルも実現不可能であると考えている」と述べた状況から、大衆的意識の回復が始まりつつあることを象徴している。言うまでもなく「もう一つの世界」とは、市場の論理が支配する今日の世界とは異なる世界であり、これもまた自然発生的な反資本主義的意識と新しい国際主義の表現である。
 労働戦線でも反戦運動でも第三世界連帯運動でも、「反グローバリゼーション運動」として集約された運動を防衛し組織し前進させる闘いの切り離せない一翼を担い続けた第四インターナショナルは、第十五回世界大会でこのような情勢の転換を確認した。そしてその過程をさらに押し進め、「危機に陥った資本主義への大衆的オルタナティブとしての社会主義革命運動」を建設し、「二一世紀の世界社会主義革命運動のサイクル」を開始する課題に挑戦することを確認したのである。(つづく)(高島義一)


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