かけはし重要記事

frame01b.html

もどる

韓国はいま                      かけはし2002.4.22号より

陸軍化学兵器廃棄施設の再稼動に反対する住民の闘い

「安全という言葉だけを信じろというのか」

 化学兵器は地球上から消え去って然るべき「死の陰」だと大部分の人々は信じている。そのような信念は、化学兵器廃棄施設(国防部は「化学物質廃棄施設」だと主張)を近くに抱えて暮らしている忠清北道永同郡梅谷面と上村面一帯の二千余世帯五千余人の住民たちにとっては、いっそう確固たるものかも知れない。

米軍司令官のおかげでわかかった?

 だが暮らしのよりどころからわずか一〜二キロメートル余り離れた所に化学兵器廃棄施設を抱えて生きていくのは、化学兵器の根絶に賛成することとは、また異なる問題だ。化学兵器廃棄施設はゴミ焼却場や墓地公園のように、単に生活に不便をもたらすという「嫌われ施設」ではなく、生命自体を脅かしかねない「危険な施設」だからだ。
 二〇〇〇年五月、試験稼動の過程で、マスコミ報道を通じてその存在が明らかになるとともに稼動を停止していた忠北・永同郡梅谷面陸軍○○部隊の化学兵器廃棄施設が再稼動を前にしている。五千百坪の敷地に七百余坪の規模で建てられたこの施設にはガス分野や廃液処理室、廃油乾燥室、焼却処理場などの工場施設四棟が設置されたものと伝えられている。
 われわれにこの施設の再稼動を初めて知らせたのは、大韓民国国防部ではなかった。トマス・シュウォツ駐韓米軍司令官は三月五日の米国上院軍事委員会に出席し「韓国政府は大量殺傷兵器非拡散のための努力を忠実に遂行している」「韓国政府は二〇〇二年春、化学兵器の廃棄を再び始め、年末までに全保有量の四〜五%を廃棄し、その後二〜三年のうちに保有量の四五%を廃棄する予定」だと証言した。
 それにもかかわらず国防部は、いかなる公式的な確認もしないでいる。米国の国会議員たちにとっては「公開された事実」が、大韓民国の国民にとっては依然として「公開された秘密」なのだ。そうでありながらも国防部は最近になって、やたら動き回っている。三月二十一日、民・官・軍の合同現場検証を通じて施設の安全度についての広報に乗り出したのに続き、二十六日にも永同郡庁で住民代表らとともに非公開の会議を開くなど、施設再稼動のための準備作業に拍車をかけている。

だれも信じない国防部の説明

 「本施設は国家安保と直結した軍の主要核心施設として、建設を推進する過程において住民諸君に事前に相談して理解を求めることができなかった点については寛容なお心でご理解願いたい。……本施設は昨年、何度も明らかにしたように廃棄物資・処理工場など、すべての面で安全だということを申しあげます」。
 今年四月に永同郡住民五百余人がソウル竜山区の国防部庁舎前で大規模デモを展開した後、キム・ドンシン国防部長官が住民らに送った公開書簡の内容だ。キム長官は、この書簡の中で施設の安全度は「国防部だけの一方的な主張ではなく、韓国機械研究院、環境部、国際化学兵器禁止機構など多様な公認機関でも安全性を確認したがゆえに自信をもって申しあげることができる」と強調した。
 だが現地の住民らは一年余が過ぎたいまでも国防長官の説明をいささかも信じてはいない。「事前の同意もなしに、こっそり施設を建てたのは、いつだ」。パク某氏(65)は「どのみち必要な施設ならば、どこかに設置されなければならないということぐらいはわれわれも理解している」。けれども「廃棄する物資は何なのか、また焼却の過程で、あるいは焼却後に出てくる物質がまた何であるのか具体的に説明もせずに、安全だという言葉だけを繰り返しているのに、われわれにどう信じろというのか」と語った。このような不信のせいで住民らは「一緒に安全性を検証しよう」という国防部の提案にさえ「サギ芝居には付き合えない」と拒否している。
 二〇〇〇年五月に発足した住民対策委員会パク・チョンヒョン共同委員長(39)は、もっと強硬だ。「いまは安全だという説明も聞く必要がない。ゴミを燃やしてダイオキシンが出てくるという騒ぎなのに、あれは人間を殺す物資ではないのか。施設を撤去し、永同の地から出て行け」。
 パク委員長は「国防部が住民の反対を押し切って施設の稼動を強行するなら、住民らがいかなる極端な行動をするかは分からない」と強調する。実際に永同の住民らは昨年八月、廃棄施設の撤去を主張して京釜線(ソウル・釜山間)のファンガン駅付近で列車を四十余分間停止させてデモを展開した「前科」がある。このデモによって住民代表二人が拘束され、三人が不拘束立件された。
 国防部に対する極度の不信の中で、村にはただならぬウワサが出回っている。一九八〇年代後半に部隊がやってきた当時、弾薬貯蔵施設と伝えられていた施設が、実は化学兵器貯蔵施設だったというのだ。住民のナム某氏(50)は「なぜ、あえてここに廃棄施設を建てるのか考えてみなければならない」と語る。外国でも化学兵器を貯蔵施設で直接、廃棄までした事例は、いくらでもある。ハワイ南西側千三百キロメートル地点のジョンスタン島で化学兵器四十余万点を保管してきた米軍も、八〇年代になって同じ場所に廃棄場を作り二〇〇一年初めまで廃棄作業を行った。
 国防部が化学兵器と関連したすべての内容について確認も否認もしないでいる中で「廃棄施設で処理する化学兵器に米軍が持ってきた物を含まれている」との推測も乱舞している。住民キム某氏(46)は「昨年の初夏ごろからだったか、外国製の化学兵器も燃やすという話が出回り始めた」「国防部は事実ではないということ以外に別の説明がないのを見てウワサをそのまま信じている人も多い」と伝える。

全く報道しない中央のマスコミ

 冷戦時代の米国の大量殺傷兵器にかかわる政策をよくよく聞いてみると、これもまた根拠のないデマだとばかりは言いがたい。核兵器や生物・化学兵器などの大量殺傷兵器の「拡散」を阻むために米国は同盟国が兵器製造能力を備えられないようにするかわりに、自国の兵器を配置することを原則としてきたからだ。この原則を韓半島でも踏襲したのであれば、現在、永同の住民らは米軍の化学兵器を処理するために生活の場を脅かされているということになる。
 これに関連してカトリック大国際学部イ・サムソン教授の主張が目につく。イ教授は九四年に著した『韓半島の核問題と米国外交』(ハンギル社)で、こう書いた。「米国は韓国に大量の化学兵器を備蓄している。八〇年代初めにも米国議会はスティーブ・ソルラス米下院アジア太平洋小委員会委員長の発議で「有事の際に使用する目的で」韓国に米国の化学兵器の備蓄量を増やすための予算案を通過させたことがある」。これについて国防部は「化学兵器に関する事項は南北関係など、国家安保に及ぼす影響を考慮して肯定も否定もしないというのが政府の公式の立場」だと語った。「米国がわが国に配置した化学兵器を撤収したのか」との質問に対して同様の答弁だ。
 「永同郡梅谷面は十五万の人口が密集した慶尚北道金泉市と年に観光客三百万人が訪れる全羅北道茂朱郡が隣接しています。しかも廃棄施設の周辺を流れる二級地方河川は大清ダムへ流入して大田市民の上水道源となっているんです」。
 チャン・チョンソク前永同郡議会議員(40)は、「焼却の過程で不燃焼したり、予想もできない物質が生成される可能性もあるはずなのに、どうして百%の安全を保障できるのか」「いま異常がないからといって長期間、化学兵器を廃棄する間に何事も生じないだろうとは、だれも豪語できるものではない」と語った。
 二年余にわたった大変な反対闘争にもかかわらず、わが社会がいかなる反応をも示していないことについても永同の住民らは怒っている。四十代ぐらいの住民は「どんなに闘っても中央のマスコミには一行たりとも出なかった」と取材陣に露骨に不満を表した。「いっそ庭先で化学兵器が廃棄されているということを知らないまま死ぬ方が良かった。そうなれば少なくとも不安のままで残る人生を送ることはなかったのではないのか」。永同郡民らの目に映る化学兵器廃棄の障害物は、安保の論理に身を隠している国防部だ。彼らの荒い息づかいを国防部はどんな手でなだめようとするのか。(「ハンギョレ21」第403号、02年4月11日付、永同=チョン・インファン記者)


もどる

Back