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ミカエル・ブックさん(ATTACフィンランド)が講演       かけはし2004.11.29号

トービン税の実施は夢物語ではない

与野党議員との懇談会も開催

グローバルな正義をめざす運動の国際的強化を

 十一月八日、東京・文京区民センターで「もう一つの世界への扉を開く――トービン税=通貨取引税の可能性」講演会が開かれた。主催はATTACジャパン(首都圏)で 、六十人が参加した。講師は、ATTACフィンランドのメンバーでヨーロッパを中心にトービン税の実現に尽力しているミカエル・ブックさん。現在は「グローバル民主主義のためのネットワーク研究所」(NIGD)というシンクタンクで活動している。
 はじめにATTACジャパンの秋本陽子さんが、この日の午後に国会議員会館で開かれた国会議員との懇談会について報告した。「民主、社民、共産、自民、公明など十七名の国会議員やその秘書が参加した。主要な通貨取引市場の一つである日本で、トービン税実現のための第一歩となった。トービン税を実現する議員ネットワークの結成を訴える議員など、今後の取り組みの方向性などが見えてきた」。

技術的な問題は
クリアーできる

 つづいてミカエル・ブックさんが講演を行った。
 「七〇年代にくらべ現在の世界の通貨取引の規模は百八十三億ドルから一兆八千八百億ドル、約百倍になった。規模は現在も拡大し続けている。しかしこの膨大な取引にはまったく課税されていない。かつてトービン博士が投機取引を規制するために一%の課税を提唱した。その後九〇年代に入り、ドイツの経済学者スパーン博士が二段階課税方式を提唱した。それは平時においては一万ドル以上の通貨取引に対して、〇・一%という極めて低率な課税を行い貧困撲滅のための資金とするが、通貨危機が引き起こされるような異常な通貨取引に対しては、そのような取引では利益を上げられないくらいにまで税率を引き上げるというものです」。
 スパーン博士の研究によると、EUとスイスで〇・一%の通貨取引税を実施すると、二百億ドル近い税収になる。OECD諸国の開発援助額が約五百億ドルということを考えると、膨大な税収が確保できる。ミカエルさんは昼間の議員との懇談では、課税によって貿易が阻害されるのではないか、という質問を受けた。「〇・一%という極めて低率の課税が現実的に貿易に悪影響を与えるとは考えにくい」とミカエルさんは述べた。またどのように課税をするのか、についても「めまぐるしく世界を駆け巡る投機資金の取引にはハイテクが活用されているが、このような技術はまた通貨取引をコントロールするためにも役立てることができる。実際に民間の金融機関では国内決済にこの技術が使われている。国際的な取引に活用するための研究をはじめなければならない」と技術的な問題もクリアーできると強調した。「結局、トービン税が実現可能かどうかは政治的意思の問題。新自由主義を進めるワシントンコンセンサスに基づいた金融システムをコントロールしようという世界的な動きが始まりつつある。ATTACは通貨取引をコントロールすることを目的としている。これを実現させるために世界的なキャンペーンが必要だ。この世界的キャンペーンを実現させる国際会議を開催したい」として、ATTACフィンランドやATTACアイルランドを中心に開始されつつある世界的なキャンペーンにATTACジャパンが参加することを呼びかけた。
 この七月にベルギー国会でトービン税法案が通過し、国連総会ではブラジルのルラ大統領やフランスのシラク大統領などがトービン税の重要性を訴えたことなど、世界的なトービン税実現の機運が高まりつつある。

ATTAC運動
の真価が問われる

 ATTAC京都の平川秀幸代表(京都女子大学現代社会学部教員)を交えた質疑応答では、トービン税を推進する運動団体の間でも、徴収主体や具体的な課税方法、富の再配分におけるトービン税の役割などについてもさまざまな意見があることから、今後もさまざまな機会を通じて討論をしていく必要があることが提起された。来年一月末にブラジルのポルトアルグレで開催される第五回世界社会フォーラムでトービン税実現のための戦略会議を予定しており、ミカエルさんの所属するNIGDも組織委員会に参加して準備を担っている。ミカエルさんは「ATTACは社会正義をグローバルに実現させる運動であり、それは世界社会フォーラムが成功を収めてきたことで実現に向かっている。しかし通貨取引税についてはATTACはまだその力を十分には発揮しきれていない。いまだ学識経験者の間の理論にとどまっている。下からの運動の拡大が必要であり世界のATTACグループはそのために努力しなければならないだろう。スーザン・ジョージの近著、『オルターグローバリゼーション宣言』をぜひ読んでもらいたい。そのためのヒントがある」と今後の課題も提起した。
 最後に、ミカエルさんはフィンランド語で「増税」と書かれたTシャツを平川さんにプレゼントした。「日本では増税というとあまり受けが良くないかもしれないが、福祉国家の理念が定着しているフィンランドでは福祉の充実のために増税は当然だという考えがまだ根強い」とミカエルさん。今回の講演会にむけてATTACはNIGDが起草した「国際通貨取引税条約草案」など貴重な資料を翻訳した(5面参照)。これらの貴重な資料やネットワークをフルに活用して、トービン税を実現させる「下からの運動」を作り上げるために、「その力を十分に発揮」しよう!(H)


ATTAC京都の講演会

課税は社会的に公正な所得配分の手段だ

 十一月四日、ATTACフィンランド創立者の一人のミカエル・ブック氏来日を受けて同氏の講演会が京都市内で開催された。主催したのはATTAC関西とATTAC京都。八日のATTACジャパン(首都圏による)東京講演とあわせて、ブック氏の今回の来日を日本におけるトービン税を要求するキャンペーンの起点にしようと日本のATTAC運動として位置付けた。
 この日の集会はATTAC関西とATTAC京都のメンバーに加えて、経済学をテーマとする研究者や学生の参加も少なくなかった。一方で、市民運動関係からの参加は少なく、社会運動全体へトービン税問題が浸透しきっていないという現状が参加者の構成に反映されていたといえる。開会までに会場はほぼ満員となった。
 最初に、ATTAC京都で活動している経済学専攻の大学院生がトービン税の基本的な考え方について解説してから、ブック氏の講演に入った。ブック氏の講演内容については要旨が別掲されるとのことなので省く。
 公共サービス・福祉が整備されたフィンランドでは、税金とは社会的な配分のためのものであるという認識が大衆的であり、これに対して企業が減税を主張するという構図であること、したがって「もっと税金を」というスローガンが庶民の共感を得るということに、会場からは驚きの声があがった。
 講演後に質疑が行なわれた。「通貨取引のうち大きな割合を占める企業内取引に対してトービン税の課税は可能か」、「『もっと税金を』というスローガンについて説明してほしい」との質問がだされた。ブック氏は、「通貨取引に関しては銀行に記録が残るので、企業内取引であっても課税は可能」「緑の党は選挙スローガンとして『GATSのない町に』をかかげた。GATSはすべての公共サービスを私営化するということを意味するが、そうしたならば教育・医療に予算を使う必要がないので税金を下げることが出来るようになる。フィンランドの諸政党は今では、そのようなことをしてまで税金をさげなくてもよいと述べている。もちろん企業の利潤に対する税金と個人の収入に対する税金の比率というのは問題にされなければならない。例えばシラクの提案の中では企業所得税の国際的な均一化ということが言われている。これは租税回避の防止ということだ」と答えた。

債務帳消し運動
と結びつけよう

 立命館大学の藤岡惇さんからは「『平和の経済学』という講義を担当している。炭素税などのいろいろなアイデアがあるがなかなか実現していない。キーとなるのはグローバルな課税として考えることだと思う。加えて、税収が地域のために使われるということが重要。ATTACには注目している」との発言があった。
 アピールとして、途上国の累積債務帳消し運動を進めている「ジュビリー関西」のメンバーから、「トービン税の税収は南北間の不公正の是正のために使われる。したがって債務キャンセルとトービン税は表裏一体。ベネズエラのトービン税法案やアルゼンチンの債務キャンセルの動きなどに注目しており、十二月の京都社会フォーラムではラテンアメリカに焦点を当てた企画を行なう」との表明があった。
 最後にATTAC京都代表の平川秀幸さん(京都女子大)が「トービン税は『夢物語』のように言われるが、実はすでに半分手にしている『夢』――福祉と公共サービス、税金による富の再分配――であり、現行の所得税さえ百年前には夢物語とされていた。トービン税はすぐそこにあるものだ」と締めくくった。
(ATTAC京都事務局 小森政孝)
 この記事は本紙編集部が小森さんに依頼して寄せていただいたものです。(編集部)


経済時評

崩壊する堤一族支配の秘密

西武王国の深い闇

 十月十五日、西武鉄道株は、二日連続で投資家の上場廃止への懸念から値幅制限いっぱいまで値を下げた。巷では優良企業といわれた西武グループの一角で起こった今回の動向を検証してみよう。

いかに税金を払わ
ずにすませるのか

 堤義明は、一九六五年に、西武鉄道の大株主であり、プリンスホテルなどを運営する国土計画(現コクド)の代表取締役に就任し、父康次郎からグループを継承した。『「西武王国」その炎と影』中嶋忠三郎著(サンデー社刊)に次のようなくだりがある。
 「堤(康次郎)は、正式な個人の遺産というものを徹底的に少なくした。(中略)堤は財産の殆どを法人名義と株にしていた。土地にしても、堤個人の名義というのは微々たるものであった。堤が苦心したのは、個人名義の財産をいかに少なくするかということと、それを法的にいかに通用させるか、ということであった。しかし、脱税になっては困る。税の方面は私ではなく別の専門家がやっていたが、脱税にならないようにと苦心していた。その甲斐あって義明や清二達が納めた相続税は、当時としても、驚くほど少なかった」。
 堤義明は、父堤康次郎からの西武グループ継承以降、西武鉄道より観光開発に力を注いだ。西武グループは、一九八〇年代、ホテル、ゴルフ場、リゾート開発を手広く展開した。二〇〇二年以降も新ホテルの建設開業を急拡大し、来年二〇〇五年には、西武鉄道グループが、東京プリンスホテルパークタワー、品川プリンスホテルアクアシステムを開業する。こうした主要事業への設備投資は、業界に比類ない額で、一千億円を超える。

「虚偽記載」と総
帥・堤義明の辞任

 今年三月の西武鉄道による総会屋への利益供与事件では、現職専務ら九人の逮捕者を出した。九月五日には、この利益供与事件の総会屋芳賀竜臥が死亡し、十月十三日には、西武鉄道をめぐる有価証券報告書の過少記載が明るみに出た。そして、その責任を取り、西武グループ総裁の堤義明が全役職を辞任した。
 西武鉄道の親会社であるコクドが、株式虚偽記載の公表前に数十社の取引先企業へ西武鉄道株を売却していたことも判明し、これがインサイダー取引にあたるとして責任追及の声が上り、このままでは、上場廃止というところまで行きつく可能性も出てきた。
 上場廃止基準には、二期連続での債務超過や時価総額十数億円未満が一定期間継続するなどの規定があるが、西武鉄道の場合は、東証の調査対象が、第一番目に少数特定持ち株比率が八〇%を超えていること。二番目に財務諸表に重大な虚偽記載が見られること。第三番目に上場継続を認めることが投資家保護を損なうという理由である。
 日本では、証券取引法に、重要な事実の不開示や虚実記載についての賠償規定がありながらも実際にはそれが充分に機能していない。それも発行会社の役員の過失責任しか規定がなく、不開示・虚偽記載と損害との因果関係の立証が難しく、損害額の推定規定もないからだ。
 しかし、今年六月にその証券取引法が改正された。内容は、有価証券報告書虚偽記載等による損害賠償請求権の規定の強化がうたわれたことだ。この改正は、今年十二月一日から適用できる。西武の場合、この新しい適用に対応するためだともいわれている。

非上場企業コクド
のグループ支配

 この西武グループ支配は、堤義明が実質的に牛耳るものとなっていた。
 「支配力の源泉は、経営実態をほとんど公表していないコクドを事実上の事業持ち株会社として、複雑な資本・取引関係で連結売上高四千二百億円近いグループににらみを利かせる経営構造にある。堤氏は資本金約一億円のコクドの株式の四〇%を握るといわれる。さらに信頼の厚い側近を主要企業トップに配置する構造も権力を支えてきた」(「総師退場西武の蹉跌・上」日本経済新聞十月十五日)。
 しかし一方で、堤義明は株式実務や法律的手続きまで関わらず、管理者の責務を実質的には果たしておらず、この側近たちが、堤の意向を推し量るあまり相次ぐ不祥事の種を蒔いたともいえるが、監視体制としての公認会計士や顧問弁護士の機能が働かない実態でもあった。堤義明以降の企業統合には、こうした企業体質が解決されぬままであった。

国友会=持ち株
制度と労組否認

 また労使関係は、経営者側が、組合結成を認めていない。さらに社員が会社株を持つという持ち株制度を導入していることで知られている。しかも「国友会」をつうじたこの制度にもかなり問題がある。
 国友会が組織されたのは「『昭和三十年(代)の終わりか昭和四十年(代)初め』。西武鉄道は本誌に対し、『コクド所有の個人名義株は昭和三十九年(一九六四年)からあった』」と回答している。
 「昭和三十九年といえば、堤康次郎が他界し、義明が後を襲った年だ。そして、これと同時期に国友会も始動した。これらの時期の一致にこそ、堤義明による『王位継承』の謎を解くカギがある」(「西武王国「闇の系譜」『東洋経済』10月30日増大号)。
 つまり堤義明の支配を完成させるために国友会が組織され、配当金や社員名義の株の管理は、経営者に委ねられている。労使関係改善の方策とした制度は、取りも直さず「西武王国」内の経営者側の自己完結制度であり、恒久的に労働者の利益を保証するものではなかったことは明らかだ。何故なら今回の株式虚偽記載は、上場企業として、社外にいる株主はもとより、企業理念を持ち株制度のもとに統合され、組合結成をも認められなかった社員への最大の裏切り行為であるのだから。  (浜本清志)


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