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生活再建支援法の見直し、特別立法を               かけはし2004.11.08号

生活支援、住宅再建、村の復興を公的資金で行え


震度7、土砂崩れ、新幹線も脱線

 十月二十三日、午後五時五十六分、いま新潟県中越地震と命名された震度6強の地震が発生した。三十日には地震後初めて電気が点灯した震源地の南二キロに位置している川口町では震度7であったことが明らかになった。今回の地震は、これまで日本では経験したことがないほど余震が多く、かつ激しく続いている。二十三日には本震を除いて震度6以上の余震が四回、5以上が七回も起きている。二十四日、二十五日にも5以上の余震があり、二十六日までの有感地震は四百回以上もあり、二十七日には再び震度6を超える余震が起きている。
 地震発生から一週間たった十月三十日までに明らかになった被害状況は、死者が三十七人、負傷者二千三百七十四人、避難者八万四千人、ライフラインといわれる電気は七千七百四十戸、ガスは四万九千戸、水道は二万三千戸で未だ止まったままである。
 事態の深刻さは数字だけにとどまらない。NHKの朝ドラで全国区化し、日本の原風景とまでいわれた錦鯉発祥の地である山古志村は、村に通じる七つの道路すべてが土砂崩れで寸断され、村全体が壊滅的状況に追い込まれ、地震発生四日後に始めて村民全体が長岡市に避難できた。山古志村まではいかないまでも川口町のように道路が寸断され、いまも支援物資の運搬がままならない陸の孤島的状態にある集落は五十五にも及び、そのうち十集落では再び土砂崩れの二次、三次災害の危険な状況にあると言われている。
 台風による雨とさらに水を吸うと崩れやすい信濃川の洪積地の地質は、いたるところで道路が崩壊・寸断している。さらにアクセスでは高速道路である関越自動車道が不通となり、JRの上越線や新潟新幹線も脱線事故で止まり、新幹線の復旧には一カ月以上の期間が必要であると言われている。

政府には阪神大震災の教訓なし


 地震から一週間がたち、何が問題で何が足りないのかが明らかになりつつある。それは阪神淡路大震災の経験がどこまで生かされて、どの点で教訓化されていないかをみると明らかになる。阪神大震災の場合、被害を受けなかった大阪などの大都市が近くにあり、人も物も短距離で運搬が可能であったし、ヘリも海上輸送も可能であった。そしてなによりも医療整備の整った病院などが近くにあったという違いもある。しかしそれは都市部と山間部の差で、ことの本質ではない。
 地震発生翌日の二十四日には、徐々に被害の大きさと実態が明らかになり始めた。これと同時に阪神大地震以来大きく歩み出したボランティアは現地に向かい、救助活動を始めている。早い人は二十三日の夜に被災現地に出発し、神戸、福井、宮城などの被災を経験した地域では特に多かったと伝えられている。さらに静岡などでは東海地震対策部を作っている自治体の職員が一斉に現地に駆けつけている。また全国各地で炊き出しを経験してマニュアルを持っていたセブンイレブンやローソンなどの各コンビニは近くの工場からおにぎりなどの食料を積み、ヘリも使い車からバイク、自転車とつなぎ被災地に届けている。また隣接する長野・群馬などの農協も自主的に活動を開始している。
 しかし政府は、二十四日「新潟県地震非常災害対策本部」を設置し、「必要な予算はきちんと処理する」、被災地の視察を「検討している」と述べただけで具体的活動をしていない。
 新潟県も災害対策救援部を設置しただけで終日情報収集に追われて具体的対応に踏み出せてはいない。
 私の友人は二十四日の朝一番の長野新幹線で長野まで行き、駅前でレンタカーを借り、実家のある十日町に向かった。実家は半壊し、年老いた両親は家の近くで車中泊し、隣人からもらった水だけで自分たちが行くべき避難場所も知らなかったし、炊き出しをどこでもらえるかも知らなかった。友人は役場に行き、体育館を両親の避難場所にする手続きをした。一段落して回りを見渡すと役場の職員・消防隊員に混じってすでに多くのボランティアが活動していたのでびっくりしたという。また浜松・藤枝市の職員が現地を視察し、避難民にいろいろなことを聞いていたのにも驚いたという。彼らが「阪神の時は一カ月後に役所から許可が出て現地に行ったが、一カ月後では東海地震に備える何の準備にもならないことを気づいた。地震はどこでも必ず起こる。起こったらどうするか、何を準備しておくか、これがすべてを決める。地震は自然災害だが、半分以上は人的災害である」と言ったことを鮮明に記憶して帰ってきた。各自治体間にも経験の蓄積の違い、意識性の差が拡大していることは明白である。阪神大震災の教訓と経験が一番弱いのが政府である。

「安心」できる避難場所を


 今回の地震での特徴は被災者の多くが車を避難場所とし、車中泊をしていることである。「建物の中は余震が恐い」「人といっしょに居るのがいやだ」という声も確かにある。しかし確信的問題は避難場所が少なく、避難場所に指定された建物も被災者が「安心」できないことが圧倒的に多い理由である。テレビを見ると避難場所の体育館はどこも「すし詰め」状態で、その結果車中泊した人が今度はエコミノー症侯群にかかるという悪循環に陥っている。今回の被災者は高齢者が多い。「人に迷惑をかけるから避難場所に入れない」と言う人もかなりいるという。もし阪神大震災のように風邪が流行したら、被害は一挙に拡大することになる。テントも含めより多くの安心できる避難場所を確保せよ、これが現在の最大の問題である。
 また地震後一週間が経ち、食料を始めとする援助物資が現地に届き始めている。マスコミによるともうすでに充分だという所がある一方で、全然足りないという地区もある。しかし明白なことは被災者には必要な物が充分に届いていないのである。阪神の時でも、福井のナホトカ号の時でも、救援物資を整理し管理し、配布する能力が行政にはなく、かろうじてボランティアによって支えられたのである。
 しかし、今回は高齢者が多く、言葉の問題など旧来経験しなかったことも出てきている。したがってボランティアだけに任せるのではなく、近隣の行政からの応援スタッフを派遣させる必要がある。
 いま被災者を世話している役場の職員・消防隊員は「公務員」としての仕事を強制させられているが、彼らもまた被災者なのである。そのためにも二重の意味で被災地区に隣接する行政は、一定の事情に精通しているスタッフの積極的な派遣が必要なのである。
 新潟は寒い雪国である。十一月になると雪が散らつき始め、十二月は雪が積もる。そして被災地は二メートルも積雪がある豪雪地帯である。そのため「衣食住」の中で「住」の位置は他の地方より大きなウェイトを占める。二十九日より新潟県は仮設住宅の建設を開始した。第一期分は千五百六十戸であると発表した。しかし八千戸は修理可能と計算しても、八万人を超える避難民には応えられない。そこには明らかに「一時疎開」という美辞麗句で他県などの公共住宅で圧倒的に処理しようという計算があることは明白である。
 地震を始め災害に遭遇すると人は「建物、身体、心」の三つのものを順序に壊し、「家と地域と家族」の三つを失うと言われている。いま支援する側に必要なのは被害を「建物」だけに止め、「身体、心」を守り、「家」だけのために「地域・家族」を失わせないようにすることである。充分な仮設住宅を、地域のコミニュケーションを維持できるように建設、保証することである。この点ではボランティアは補助的役割しかできない。したがって、いま問われているのは国と県に対する充分な住宅の要求であり闘いである。阪神大震災で一番に総括されるべきはこの点である。最低でも六千戸の仮設住宅が必要である。

住宅再建は地域社会の再建


 神戸の被災者の運動によってが作られた「被災者生活再建支援法」は、政府の強い反対もあり、住宅本体の再建には支給できないものとされている。政府は、今回この再建支援法を家屋が全壊したり、解体が必要な世帯に最大で三百万円を支給し、大規模な半壊や大がかりな修理が必要な世帯に百五十万円を支給できる「弾力的運用」を発表した。
 しかし村田防災担当相も細田官房長官も適用を強弁するが、あくまで「弾力的な運用」の裏にある本音は、できる限り支出しないということである。住宅が傾いたケースや車庫部分をさして「全壊か半壊の認定が難しい」「実体に合わせて弾力的運用」と繰り返しているが、雪深い地域では一階に車庫を作ったり、家とつながった所に車庫を置くのはごく普通であり、これを持ち出すのは「出ししぶり」であることは明白である。
 復旧事業費の国庫補助率をかさ上げする激甚災害指定についても同じである。政府は十個も上陸した台風被害も含めて特別予算では災害対策費を一兆円以下に抑えたいのである。すでにイラクへの自衛隊派兵で一兆円余支出し、七兆円ものカネが米国債に消えている。小泉が長岡の被災地に行った時、住民が小さい声で「アリバイで来るより早く予算を成立させてよ」と言っていたのが印象的であった。
 しかし再建支援法の最大枠の三百万円が個々の世帯に支給されても、家屋を再建するのはおよそ不可能である。まして地域的コミュニティーの維持などおよびもつかないし、地域コミュニティーを崩壊させた神戸の二の舞になる。政府は、「住宅は私有財産であり、その私有財産の維持・形成に公費を投入するのは望ましくない」という論理を持ち出すが、鳥取県西部地震では、鳥取県が独自に被災者住宅支援制度を作り補助金を出した。そこにあったのは「過疎化を防ぎ、住宅は地域社会の基本単位であり、住宅再建なくして地域の再建はあり得ない」という論理である。そしていまやこの鳥取の論理が災害に対処する自治体の主流になり、昨年の十勝沖地震では北海道平取町、台風の豪雨に見舞われた福井県、そして最近の新潟・福島の豪雨に対してもそうした動きが出ている。われわれはこうした自治体の動きを支持するとともに、国と政府に激甚災害に指定させ、再建支援法の額を五百万円に引き上げることを要求して闘うべきである。
 同時に今回の被災地は高齢者が多く、日本の縮図的状況を呈している。そのために緊急医療体制の構築が不可欠であり、あらゆる方面に呼びかけ実現するために闘う必要がある。病気や「心の傷」は長くなれば長くなる程多く出てくる。阪神大震災で始めて「心のケア」が問題になったが、それに対応するためにも緊急医療体制の構築が必要なのである。

仕事の斡旋と生活費の支給を


 日本は「地震大国」であり、いまや水害も台風によって毎年発生している。したがって災害から復興までどのような方法をとるか、その過程でどのような救援をするかは極めて大きな課題であり、「政治的」な問題でもある。
 復旧と救援の核心はいかに地域コミュニティーを維持防衛し、住民の合意と住民の手による計画を作るかである。棚田のある日本の原風景を取り戻す「山古志村」の復興はその試練であるといえる。
 今回の地震で開業以来四十年間、走行中一回も脱線したことのない新幹線が事故を起こした。すでに阪神大震災時の研究で時速二百キロで走行中、レールが横に十センチ揺れると脱線することが明らかになっていた。JRはそれを明らかにせず、安全より「スピード」を追求し続けた。これは国鉄解雇問題と一体であり、JRに対する闘いも合わせて追求しなければならない。
 今後雪の冬に向かって被災者たちは寒さと闘うために膨大な資金を必要とする。雪が降り始めるまでに被災者が仮設住宅に入れる保証はないばかりか、半分以上の人たちは入れないであろう。国は特別立法をつくり、被災者に対する「生活費」を支給せよ。工場などが崩壊して仕事がなくなっている人たちに新潟県は各市町村と相談し就職をあっせんせよ。農村・山村で村ごとの生活再建のための大規模な支援策を行え。ボランティア活動を始め、救援物資・義援金を組織しよう。    (松原雄二)


トロツキーの思想から現代社会を考える

(全5回 第3月曜日 19:00〜21:00)[11月15日開講]
                          アソシエ21学術思想講座

 レオン・トロツキーが、一九四〇年、ヨシフ・スターリンの暗殺指令によって、メキシコの地で殺害されてから、六十年以上が経過しましたが、トロツキーの思想は第四インターナショナルを初めとしたさまざまな革命運動、政治運動や社会運動などに継承されて今日にいたっております。特に世界の反グローバリゼーション運動の中でも、トロツキストは積極的な役割を果たしております。
 それゆえ、現在の諸運動において、運動の戦略と戦術 文化・芸術論、過渡期社会論、民族問題に関する理論、党組織論などのトロツキーの豊富な問題意識に支えられた思想を検証し、その可能性をいかに継承していくのかは、すぐれて今日的な課題になっています。
 そこでこのたび、トロツキー研究所が中心となって、二十一世紀の今日の世界が直面する課題について、五回連続の講座を行います。《トロツキーの思想が現代社会の中で占める意義と可能性》について、講座の中で皆さんも一緒に考えてみませんか。
2004年 [1]11月15日
「ロシア革命論――ロシア革命の今日的意義」/上島 武
[2]12月13日「東方と西方――トロツキーとグラムシ」/志田 昇
2005年 [3]1月17日「過渡期経済論――過渡期の経済学:ソ連などの経済建設をどう総括するか」/西島 栄
[4]2月14日「バルカンとヨーロッパの社会主義連邦の展望――多民族共生の社会をめざして」/湯川 順夫
[5]3月14日「独立的労働者党の展望――大衆的労働者党の消滅に抗して」/山本ひろし』
【講座内容、講師は変更される場合もあります。その場合は事前にお知らせいたします。】
◎講 師◎
上島  武 (前大阪経済大学教授)
志田  昇 (トロツキー研究所、翻訳家)
西島  栄 (トロツキー研究所、翻訳家)
湯川 順夫 (トロツキー研究所、翻訳家、ATTAC JAPAN)
山本ひろし (トロツキー研究所)」
【概要】 学術思想講座、研究会ともに毎月1回開講。定員は15名(5名以上で開講)。
【受講料】学術思想講座は、全5回で5000円(各回ごとの当日参加は1回1500円)。
【申込方法】受講を希望する講座名と住所・氏名・電話(FAX)番号を明記し、郵便振替またはFAX、葉書・封書にて、できるだけ11月12日までにお申し込みください。
【支払方法】
郵便振替(口座00170―6―106267)
でお支払いください。振替用紙に必要事項の記載をお忘れなく。
【場所】 アソシエ21ホール 東京都千代田区西神田1―3―13 山田ビル3階
Tel. 03―5282―2221 Fax. 03―5282―2244
ホームページ http://www007.upp.so―net.ne.jp/associe21/
E―mail
associe@yd5.so―net.ne.jp


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