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小泉首相の国連演説批判                かけはし2004.10.4号

「安保理常任理事国」制度そのものの廃止を目指そう


イラク派兵を実績に

 九月二十一日(日本時間九月二十二日)、第五十九回国連総会の一般討論演説で、小泉首相は「日本の国連常任理事国入りの決意」を主眼においたスピーチを行った。小泉の今回のブラジル、メキシコ、アメリカ訪問と国連総会出席の第一の焦点が「国連常任理事国入り」にあったことは間違いない。そのために小泉は、九月二十一日、新常任理事国入りの候補と目されているドイツ、ブラジル、インドとの首脳会談を行って、常任理事国立候補についての相互支持や安保理拡大に向け運動を強化することをうたった共同声明を発表した。また日本に当初割り当てられていた一般討論演説三日目の九月二十三日というスケジュールを、パラオにむりやりバーターを働きかけて二十一日に変更させ、「初日演説」による「アピール効果」を狙うほどの力の入れようであった。
 小泉はこの一般討論演説の中で、イラクへの自衛隊派兵と五十億ドルの「復興支援」、アフガン「復興支援国会議」の主催、アフリカ開発会議の開催によるアフリカ支援などの「実績」を列挙した上で、次のように述べている。
 「わが国は、平和の定着に向け取り組むため、平和構築のための復興への取り組みとともに、国連平和維持活動にも多くの資源を提供してきました。わが国の自衛隊は、東ティモール、イラクなどにおいて、人道復興支援活動を行ってきています。……こうした貢献は国際社会から高く評価されていると私は信じます」「わが国の果たしてきた役割は、安保理常任理事国となるにふさわしい確固たる基盤となるものであると信じます」。
 小泉は、一九九四年に「さきがけ」の田中秀征らとともに「国連常任理事国入りを考える会」を作ってその会長となり、外務省が主導する常任理事国入りのムードに消極的な見解を語っていたことはよく知られている。首相就任二年前の一九九九年にも「安保理常任理事国は、国際紛争を解決する手段として武力行使は当然だという考えだ。日本はまだ、賛否両論があり、国論を統一するためには時間がかかる」と語っていた。
 今回の「国連常任理事国」入りへの「熱意」をこめた小泉演説は、「国際紛争を解決する手段として武力行使は当然だ」という考えに彼自身がイラク派兵・占領軍への参加を通して全面的に同調したことを物語っている。

「憲法の下で」の言及なし


 「常任理事国入り問題」が海外派兵・憲法改悪と完全にセットであることは言うまでもない。「常任理事国入り」が政治日程に浮上した一九九三年の前年には、PKO法が成立し自衛隊がカンボジアに派兵された。
 アメリカ政府も、日米安保にもとづく集団的自衛権の発動容認と改憲問題をからめて日本政府に一貫した圧力をかけると同時に、国連の「集団的安全保障」への参加と常任理事国入り、そして憲法9条の改悪を一組のものとして提起してきたのである。
 そのことは七月二十一日のアーミテージ国務副長官の「国連安保理常任理事国は、国際的利益のために軍事力を展開しなければならない。それができないならば常任理事国入りは難しい」という発言や、八月十二日のパウエル国務長官による「もし、日本が常任理事国としての義務を担おうというのなら、憲法9条は吟味されなければならない」という発言で、改めて明らかになっている。
 小泉は、このアーミテージやパウエルの改憲要求発言を受けた上で、八月段階ではなお「現憲法のまま常任理事国入りを目指す」と語っていた。しかし現実に行われた国連演説では「憲法の下で」という言及はいっさいなかった。この点は一九九六年の橋本演説や一九九八年の小渕演説がいずれも「憲法が禁ずる武力の行使は行わないという基本的な考えの下で」常任理事国入りへの用意がある、と述べていたこととの大きな相違である。
 小泉の国連演説は「平和は武力のみを通じて達成することができないというのがわれわれの信念です」と述べている。ジョージ・ブッシュですら「平和は武力のみを通じて達成できる」などとは言わないだろう。この小泉発言は、まさに「武力行使を通じた平和」という国連安保理常任理事国の「常識」に、外務省官僚の言いまわしで同調した紋章として記憶されるべきである。小泉の国連演説は、「憲法の下での」常任理事国入りというこれまでの公式見解を実質的に放棄した証なのである。

地球規模の戦争へ加担

 今回の「国連常任理事国入り」への小泉演説は、アナン国連事務総長の下に設置された「有識者諮問委員会(ハイレベル委員会)」の「国連改革」の提言が今年十二月にも発表されることを見越したものである。そして中国なども日本の常任理事国入りには、必ずしも正面から反対する態度を打ち出していない。
 マスメディアもおおむね日本の「常任理事国入り」を積極的に支持している。たとえば毎日新聞9月20日の社説は「常任理事国入りの支持固めよ」とのタイトルで次のように述べる。
 「世界第2位り経済力を持つ日本は、米国の22%に次ぐ19・5%の国連分担金を拠出している。これは米国を除く常任理事国4カ国の合計を上回る。経済援助やPKO(国連平和維持活動)で実績を積んでいる。日本は常任理事国入りにふさわしい活動が十分可能だ。/だとすると、常任理事国入りを強く主張するのは当然なのだ。逆に小泉首相が各国に支持を呼びかけなければ、日本は国際社会で果たすべき責任を回避しようとしていると見られてしまう。小泉首相は常任理事国入りを堂々と主張しなければならない」。
 同時にこの社説は、「常任理事国入りと憲法論議はきちんと分けて議論しなければならない」と述べ、「『恒久平和』を主張する日本国憲法の理念を否定する国はいないはずだ。……むしろ国連で平和外交を展開することによって憲法の真価が問われる」としている。つまり「常任理事国入り」と「平和憲法」の両立論である。
 しかし国連憲章四二条の「安全保障理事会は……国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる」規定や、同四十七条の「常任理事国の参謀総長又はその代表者で構成される」軍事参謀委員会の規定などは、決して常任理事国としての活動が現行憲法とは両立しうるものではないことを示している。むしろ、常任理事国入りをもテコにして、パウエルやアーミテージ発言に示されるように「9条明文改憲」論にアメリカ側から拍車がかかることになるだろう。
 そして安保理常任理事国入りは、アメリカが主導するグローバル帝国主義同盟の連合軍として自衛隊が地球規模の戦争に積極的に加担していく力学をいっそうはっきりとした形で作りだしていく。04年版「防衛白書」、新しい「防衛計画大綱」などで打ち出される海外派兵を「主任務」とする自衛隊の再編は、この「常任理事国入り」と一体のものである。

民衆にとっての「国連改革」


 「常任理事国入り」を批判する上での根本的な問題は、国連安保理常任理事国制度が軍事大国・核大国による世界秩序を維持するための道具だということである。核兵器で重武装し、武器輸出を行って紛争のタネをまき散らしている常任理事国は、「拒否権」という排他的特権を行使する存在でもある。
 現在の安保理は、国連憲章において「国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせ」(第二十四条)、「安全保障理事会がこの憲章によって与えられた任務をいずれかの紛争又は事態について遂行している間は、総会は、安全保障理事会が要請しない限り、この紛争又は事態について、いかなる勧告もしてはならない」(第十二条)という、総会をも上回る権限を有している。そして常任理事国制度そのものが「すべての加盟国の主権平等」(国連憲章第二条の一)という原則と矛盾するものである。
 「国連改革」を語るのであれば、まず安保理が総会に従属する機関になること、「主権平等」の原則と完全に矛盾する排他的常任理事国制度を廃止することから始めなければならない。
 しかし日本の常任理事国入りを批判する日本共産党の志位委員長談話(「しんぶん赤旗」9月23日)ですら「世界の諸国民の声が公正に反映されるような改革」を主張しつつ、常任理事国制度の問題点について指摘していない。カナダの国連代表部報道官ですら常任理事国ではなく「国連総会などに実効性を持たせることの方が重要」と語っているにもかかわらずである(毎日新聞9月22日)。
 国連常任理事国入り問題は、「戦争ができる国家体制」を背景にした大国主義意識を動員しながら、改憲世論の組織化の一翼を構成するものになっている。われわれは、民衆運動の連携による「平和・人権・公正・民主主義」にもとづくグローバルなオルタナティブ秩序を構想していく観点からも、国連安保理常任理事国制度の廃止を射程に入れて闘っていかなければならない。
  (9月26日 平井純一)                  


けんり総行動に二百人が参加
グローバルな攻撃に労働者の国際的な連帯を


 九月十七日、東京都内で「けんり総行動」が行われ二百人が参加した。十七カ所の企業や官庁に対して要請行動が行われた。以下は抗議先と要請主体。みずほ銀行―「組合否認」(全統一労組光輪分会)、朝日新聞―「差別」全国一般東京南部ヘラルド朝日労組、東京スター銀行―「倒産」(全国一般埼京ユニオンカメラのニシダ)、昭和シェル石油―「賃金差別・不当配転・転籍」(全石油昭和シェル労組)、タイソンフーズ―「組合否認」(労働安全衛生センター)、フジTV―「解雇」(反リストラ産経労組)、由倉工業―「不当労働行為」(全国一般全国協由倉工業労組)、郵政公社―「解雇」(4・28郵政不当処分)、国土交通省―「1047名解雇」(国労)、NTT―「解雇」(全国一般東京労組NTT関連合同分会)、日逓―「賃金差別」(郵政ユニオン日逓支部)、メレスグリオ―「解雇」(首都圏なかまユニオン)、ケーメックス―「団交拒否」(全統一労組ケーメックス分会)、都庁―「解雇」(全国一般東京労組文京七中分会)、大塚製薬―「解雇」(全国一般全国協大塚製薬労組)、トヨタ―「解雇」(フィリピントヨタ労組を支援する会、全造船関東地協)。

 早朝のみずほ銀行への抗議などを闘ってきた仲間たちは、正午に郵政公社前に集まった。けんり総行動実行委を代表して、中岡基明さんは「銀行や親会社へ抗議行動を続けて、リストラや倒産攻撃を闘いによってはね返してきた。郵政公社は年賀ストに対して首切り攻撃をしてきたが、東京高裁でそれが違法・不当であると判決が出されたにもかかわらず、交渉にも応ぜず、最高裁に異議申し立てをした。小泉構造『改革』は企業の利益第一主義を押し進め、労働者を過労死や自殺に追い込むものだ。断固としてこれをはねかえして闘いぬこう」とあいさつした。
 続いて国労闘争団の山下さんは「四十五波の上京団として全国キャラバンを行っている。1047人の解雇問題を政府の責任で解決をすべきだ。十一月下旬に集約集会を開き、小泉政権を追いつめていきたい」と訴えた。郵政ユニオンの棣棠副委員長は「九月十日、小泉は郵政の民営化を閣議決定した。小泉は民営化をしないという法律まで作っていたのに違反して行った。深夜勤やトヨタ方式の導入で職場はひどい状態になっている。民営化は百害あって一利なしだ」と民営化を批判した。4・28被処分者の名古屋哲一さんは「豊かな多様な闘いで最高裁で必ず勝つ」と決意表明した。
 この間、郵政公社に交渉の申し入れをしたが、郵政公社は申し入れ書を受け取ることさえしないひどい対応に怒りのシュプレヒコールをたたきつけた。
 この後、国交省前に移動して東京争議団共闘、全労連などの仲間たちとともに、1047人の解雇撤回をせまった。
 一日行動の最後はトヨタ東京本社だ。二百三十三人の解雇と闘うフィリピントヨタ労組の派遣代表二人を交えて、果敢な抗議行動が行われた。
 フィリピントヨタ労組は日本の全造船関東地協に加盟し、トヨタに日本の組合の支部として正式に団体交渉を申し入れた。トヨタ前では、タガログ語の演説、スペイン語のシュプレヒコールなどがこだました。
 フィリピントヨタ労組は二〇〇一年に独立労組としてうまれたが、会社はこれを認めず、大量解雇をしてきた。昨年十一月、ILOは「組合を認め解雇撤回すること。誠意ある労使交渉。冤罪的刑事訴訟の取り下げ」などの勧告を行った。しかし、トヨタは「フィリピンの問題は現地で解決する」と団交を拒否している。この最後の行動に、神奈川シティユニオンなどたくさんの労働者が組合旗を林立させ、資本のグローバルな攻撃に、労働者のグローバルの連帯で抗議する闘いを実現させた。   (M)  

【訂正】前号(9月27日号)3面「大阪9・11」記事4段目右から18行目「難民申請のイラク人」を「難民申請のイラン人」に、5面「プロ野球選手会スト」記事1段左から2行目「一切に」を「一斉に」に、それぞれ訂正いたします。


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