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袴田事件 無実の死刑囚を救え! 再審棄却を許すな!   かけはし2004.10.4号

東京高裁決定に抗議して弁護団が報告集会

最高裁判例も踏みにじる暴挙だ


 【静岡】 九月四日夜、袴田事件弁護団は、八月二十七日に再審請求を棄却した東京高裁の決定に抗議する報告集会を静岡市の男女共同参画センター「あざれあ」で開いた。
 弁護団は、東京高裁が「弁護団の新証拠はいずれも明白性を欠き、確定判決の事実認定に合理的な疑いは生じない」と弁護側の主張を全面的に退けた棄却決定に対して「明白性の有無は確定判決の証拠と新証拠を総合的に評価して判断すべき」とした最高裁の白鳥決定・財田川決定に反し、さらに高裁決定は「最初に結論ありき」と批判。「疑わしきは被告人の利益に」の刑事裁判の鉄則に反し、検察官手持ちの証拠が開示されないまま審理が進められたのは国際人権規約にも反するとして九月一日に最高裁に特別抗告の申立書を提出していた。
 四日夜の集会には、雨の混じる天候の中、約百人の人々が参加した。
 集会の冒頭、「島田事件」の元・無実の死刑囚赤堀政夫さんからの特別アピールが行われた。赤堀さんは、東京高裁の棄却決定は「五点の衣類などの新証拠を意図的に政治的に切り捨て、いったん確定した事件に対しては、何が何でもそれを維持する」姿勢に貫かれ、「一人の人間・家族の苦境を思いやる人間的な想像力さえない」おぞましい権力の姿をさらけだしたものであると厳しく糾弾した。
 弁護団からの報告で小川秀世弁護士は、高裁による棄却決定の印象を第一に「時間がなくてあわてて作った決定?」と思えると以下の三点、(1)決定文に申立人である弁護人の名前が記載されていない。(2)長文となる決定文書に目次がない。(3)弁護団の主張の誤解など明らかな間違いがある。
 @決定文には、弁護人は、「確定審」において「ねつ造の可能性が顕著であると主張してきた」とある。事実は即時抗告審から「五点の衣類」がねつ造証拠と主張してきた。A捜査機関がねつ造のために衣類を味噌タンクに入れた時期を、「(逮捕された昭和四十一年八月十八日の)一カ月以上も前に五点の衣類という証拠をねつ造しておくなどということは、およそ考えられない」「そのような想定は余りに荒唐無稽なもの」と、弁護側が主張もしていないことを勝手に誤解して、これを前提に批判をしていると指摘し、第二に「捜査機関による証拠ねつ造などありえない」という偏見に満ちた決定が書かれていることを指摘した。
 それは、決定文の中で弁護側主張の第一として五点の衣類と自白が中心証拠(あらゆる観点からねつ造が明らかであり自白の信憑性もない)。第二に「証拠構造の脆弱性」の指摘(@認定された犯行態様に不自然なところが多いA犯行着衣であるとの検討が十分でなく共布発見等の経過が不自然でありねつ造の可能性B自白は、パジャマが犯行着衣とされていること、殺害後から逃走に至る経路に裏木戸を主張するなど虚偽の事実の存在)に対してその反証が驚くべき文言で綴られている。
 @とBに対する反証では「本件においては、犯人の特定の問題と犯行のストーリーとは、区別して考えることができる別個の問題である」とか「五点の衣類が犯行着衣であり、かつ請求人のものであるとすれば、請求人が本件犯行の犯人であることは動かしようがない事実であり、犯行態様や動機などのいわゆるストーリーに不明な部分が残されているとしても、その点から(袴田さん)の犯人性が疑わしくなるということはない」「請求人が必ずしも洗いざらい事実関係を自白しているものではない以上、事実経過などに不明な点が生じるのはやむを得ない」「犯罪は、通常人の日常の生活行動を逸脱した行為であるから、常識的な尺度から見た場合には不自然・不合理なところもある」などと主張している。
 さらに、犯行のあらすじと証拠が極めて不自然であること、「五点の衣類」が犯行着衣でなく、本人のものでないことを、新証拠・鑑定を提出して抗告審に臨んできたことを一顧だにせず切り捨て、確定判決や原決定(地裁再審棄却決定)を手放しで擁護する立場に立っていること、またAのねつ造の可能性では、「捜査機関によるねつ造などありえない」「荒唐無稽」「想定することも困難」と断定し、証拠調べや新証拠の鑑定人尋問すら一切行わなかったのである。
 東京高裁決定は、最高裁判例(白鳥・財田川決定)をも無視した、「確定判決の無条件の擁護」であり、「捜査機関によるねつ造などありえない」(との偏見)に終始貫かれている。幾多のえん罪事件を生み出した風土は依然として変わっていないのである。

 集会では、特別抗告に触れて、袴田さんが精神を蝕まれ、家族や弁護人の面会すら拒絶する状況が継続していること、えん罪事件であることに加え、死刑確定囚の処遇とも関連して、別の意味での重大な人権侵害であることが明らかであり速やかな再審開始を求めるために全力を尽くすこと、袴田さんに対する適切な治療の実施と処遇の改善にも最大限の努力を払うことが確認された。
 袴田さんの妹の秀子さんは「誠に残念な結果でしたが、がっかりしていられません。今後も支援をお願いします」とあいさつした。(M)




抗議声明
法務大臣退任目前で行われた死刑執行に抗議する
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90



 政府および法務省は、本日大阪拘置所の宅間守さん、福岡拘置所の嶋崎末男 さんに対し、死刑を執行した。
 今回の執行も過去の執行同様、国会閉会中を狙い、かつ野沢太三法相の在任 期間が残りわずかになり、引退を目前にして行ったものであり、あきらかに死 刑執行に対する議論をさせないための政治的な意図のもとに行われた執行であ る。さらに、超党派で構成される死刑廃止を推進する議員連盟は、「終身刑及 び死刑制度調査会設置等に関する法案」を、次期国会に提出するばかりの状態 であり、国会や国民的議論を待つことなく年に最低一度は死刑の執行を行うと いう、法務当局の極めて強い意思表示であるといえる。
 今回執行された宅間守さんは、事件発生からわずか三年であり、しかも弁護 人控訴後、本人が取り下げてから一年に満たないケースであり、異様な早さの 執行である。これは、時間の経過につれ事件の詳細や心境が本人から明らかに される可能性すらもうばったものであり、被害者の遺族への冒涜とも言えるあ り得ない執行であった。また、嶋崎末男さんについては、一審は無期懲役であ り、事件に関しては実行犯でもなく量刑について争いがある。
 われわれは、日本政府および法務省並びに法務大臣に対し、今回の死刑執行 に強く抗議するとともに、直ちに以下の施策を実施するよう求める。
 1 死刑の執行を停止し、死刑廃止に向けて努力すること。
 2 死刑に関する情報を公開すること。
 3 死刑確定囚に対する処遇を抜本的に改善すること。
 4 犯罪被害者に対する物心両面にわたる援助を拡充すること。
以 上
 2004年9月14日
 死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90


レインボーマーチ札幌に千人

「社会的排除」許さずLGBTとの連帯を

 【札幌】九月十九日、セクシャルマイノリティのプライドマーチとして全国的な催しとなった、「レインボーマーチinサッポロ2004」が開催され、全道、全国から千人を超すLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)と、連帯する人々が参加した。
 例年のように大音響のDJフロート車やオープンカーに先導され、同性愛者のシンボル、レインボーにちなんだ色とりどりの風船を持って、パレードは解放感に満ちた空間を作り出した。沿道の市民に向かって、原色のコスチューム、ダンス、プラカードでLGBTの存在と、「プライド」をアピールした。
 今年で第八回目となるマーチは、年を追う毎に参加者が増え、九六年の第一回目の参加者二百人から五倍を超す規模に大きく成長した。東京や大阪でも毎年の開催が難しい中、ほぼ毎年「手作り」のイベントとして途切れずに続けてきたことで、札幌市民の中に定着し、その大きな成果として昨年の上田札幌市長による、「歴史的な」集会あいさつが実現した。
 保守派や官僚による批判、妨害をはねのけて今年も挨拶に立った上田市長は「プライドの意味を考えると、差別抑圧の中で押し殺してきた自分らしさを解放すること。互いに励ましあう場だと思う。札幌の地で開催されることを誇りに思う」「来年もここで会いましょう」と発言し参加者を激励した。
 異性愛社会を変革する、セクシャルマイノリティの運動に連帯を!すべての「社会的排除」と闘おう! (N)



読書案内
フジモリ氏に裁きを!日本ネットワーク編 現代人文社 840円+税
『フジモリ元大統領に裁きを』


 一般的に言われてきたラテンアメリカに特有の統治形態、つまり権威主義的・カリスマ的ポピュリズムは、ペルーの前大統領であるフジモリ政権の特徴のひとつとして語られることが多いが、日系人であるフジモリが、大統領に選出された理由として、日本政府からの援助の期待が、ペルーの一部の支配者層の利害と折り合ったことが大きかったと言われている。またここでも日本のマスコミが、常に誇張していたフジモリ人気は、世論操作に近いものがあったことをも本書は告発している。
 フジモリは、有力な与党を持たずに一九九〇年にペルーの大統領に選出された。このため、軍を権力基盤とした独裁体制による統治へ向け、軍と共謀してクーデターにより国会を閉鎖し、憲法を停止させ、本書で告発する数々の人権侵害の行為を繰り返していた。
 フジモリ政権は、第三期で崩壊し、日本残留中にFAXの打電で辞意を発表した。そのフジモリを日本政府は、法務省の異例な措置をもって日本国籍を与え、彼を受入れた。
 本書は、「フジモリに裁きを!日本ネットワーク」によりフジモリ政権下で行われたこうした人権犯罪行為の幾つかを告発し、さらに日本に逃亡したフジモリをペルーに引き渡すことを要求する根拠を明らかにしている。
 二〇〇三年七月三十一日、駐日ペルー大使から日本政府に対して、フジモリの身柄引渡請求書が手渡された。
 ペルー外相は、二〇〇四年四月二日、同国政府が国際司法裁判所に対し、日本から引き渡しを拒否されたフジモリ前大統領の身柄返還を求める訴えを提起すると発表した。フジモリはペルー司法当局により、一九九一年から一九九二年にかけて、民兵グループが二十四人を殺害した事件の黒幕として訴追されているからだ。
 その他にも本書では、幾つかの重要な事件においてフジモリが深く関与しているとし、引き渡すことを要求する根拠を明らかにしている。現在、合わせて計二十数件の刑事訴追の用意が進められている。
 おもには、次の五項目が掲げられている。@職務放棄A多数派工作に行った議員買収Bモンテシーノス特別顧問の退職金支払いに関しての公金不正Cバリオス・アルトス事件、ラ・カントゥタ事件といった人権侵害事件D公金横領事件。
 さらに本書の五章「不妊手術推進政策」でも取り上げられているが、この本の刊行後の四月「ルモンド・ディプロマティーク」誌のフランソワーズ・バルテルミー特派員による報告がなされた。フジモリ政権における最大のスキャンダルは、ペルーの内外を通じて完全に闇に葬られたままとなっていた。しかしここにきて、同政権が優生政策の下で、三十万人以上の女性に強制不妊手術を施した事実が明らかになった。
 その多くの対象となったのが貧しい先住民の女性たちであった。あらためて当時のフジモリ政権がいかにゆがんだものであったかが伺える。
 また、かつて一九七〇年代初頭チリの人民連合政府が、ピノチェト率いる軍部のクーデターにより押し潰された。そこでは、一般市民や外国人までもが大量に虐殺された。その後、ピノチェトは、チリ全土を掌握し、大統領の座についた。これを後押ししたのが、米国政府であり、水面下では、日本の幾つかの企業が動いていたと言われている。
 チリ政府当局は、当時の虐殺に関して、ピノチェトを国内で裁判にかける方針であるが、ピノチェト側の弁護士は、裁判に耐えられる体調ではないことを理由に裁判を拒否している。
 ペルーの前大統領フジモリも含めチリの元大統領ピノチェトの大量虐殺の責任を不処罰にしている現状に対する闘いを、国際的潮流として確立していけるのかが重要であり、特にフジモリ問題は、日本政府がどう対応するかが何より問われている、と本書は説く。
 遠い地のペルーの出来事ではなく、日本で行われている現在進行中の「フジモリに裁きを!日本ネットワーク」の問いかけを真摯に受けとめ、今後の活動に期待したい。 (浜本清志)

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