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恒常的派兵法案反対 武器輸出3原則の緩和を許すな    かけはし2004.10.18号

グローバル戦争への本格的参戦を阻止する闘いを作り出そう


支配階級の集団的
意思を表わす報告

 十月四日、小泉首相の諮問機関である「安全保障と防衛力問題に関する懇談会」(「安保・防衛懇」、座長・荒木浩東京電力顧問)の報告書が提出された。報告書の内容は、十一月末までに策定される新しい「防衛計画の大綱」に反映されることになる。
 「安保・防衛懇」のメンバーは、座長の荒木以外に、張富士夫(トヨタ自動車社長、座長代理)、五百旗頭(いおきべ)真(神戸大教授)、佐藤謙(元防衛事務次官)、田中明彦(東大東洋文化研究所教授)、西元徹哉(元統合幕僚会議議長)、樋渡由美(上智大教授)、古川貞二(前官房副長官)、柳井俊二(前駐米大使)、山崎正和(東亜大学長)という面々である。すなわち財界トップ、防衛・外交の官僚OBと自衛隊元武官のトップ、体制派イデオローグから構成されており、日本帝国主義の利害を代表する集合的意思がここに示されている。
 「安保・防衛懇」報告は、米ブッシュ政権のグローバル「対テロ」戦争に自衛隊が全面的に参戦し、「米英同盟型日米同盟」へと日米安保を再編する「アーミテージ報告」(「米国と日本:成熟したパートナーシップに向けて」、二〇〇〇年十月)以来の動きの集大成としての性格を持っている。二〇〇一年「9・11」以来の自衛隊のアフガン、イラク侵略戦争への参戦が、自衛隊と日米安保の根本理念・戦略にどのような変質をもたらしてきたのか、自衛隊と「戦後」日本国家がどこに向かおうとするのかが、この報告書に集約的に表現されている。
 今日の世界的な米軍再編(トランスフォーメーション)とその一環としての在日米軍の再編、沖縄の「基地負担軽減」という口実をもともなって推し進められる在沖海兵隊の「本土移駐」などの動きが、何を意味しているのか、「集団的自衛権」の承認と憲法改悪や「国連安保理常任理事国入り」を目指した小泉の国連演説、さらには自衛隊のイラク派兵の継続や「大義」なきイラク侵略戦争支持への固執が、どのような戦略的「配慮」にもとづいているのかが、きわめてはっきりとこの報告書の中で打ち出されているのである。
 「安保・防衛懇」報告の内容に即して、それを検討してみることにしよう。

「専守防衛」理念を
最終的に放棄する

 「報告」は、「第1部 新たな日本の安全保障戦略」、「第2部 新たな安全保障戦略を実現するための政策課題」、「第3部 防衛力のあり方(多機能弾力的防衛力)」、「第4部 新たな『防衛計画の大綱』に関する提言」の四部構成である。
 第1部では、「1 二一世紀の安全保障環境」として、日本周辺には二つの核大国(ロシア、中国)と「核兵器開発を断念していない」朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が存在していること、北朝鮮の「大量破壊兵器」や弾道ミサイル開発・配備が日本への「直接脅威」となりうることを強調している。そして台湾海峡での中台・中米の軍事衝突の可能性にも言及している。そこで打ち出されるのが「2 統合的安全保障戦略」である。「統合的安全保障戦略」の目標とは何か。「日本防衛」と「国際的安全保障環境の改善」の二つである。
 「国際的安全保障環境の改善」を目標にした「統合的安全保障戦略」の打ち出しによって、自衛隊の任務が「専守防衛」という創設理念を最終的に放棄するものになったことが、明文的に見て取れる。アメリカ帝国主義とともに全世界で闘う海外派兵国家・「対テロ戦争」参戦国家への飛躍がはっきりと表明されたのだ。それは必然的に「不確定な脅威」に対するアメリカの「先制攻撃戦略」に「同盟軍」として加わることに帰結せざるをえない。ここから「安保・防衛懇」報告の内容、すなわち新たに策定される「防衛計画大綱」の内容がすべて規定されることになる。

安保の再々定義と
新々ガイドライン

 第2部では、「1 統合的安全保障戦略の実現に向けた体制整備」において、「安全保障会議の機能の抜本的強化」がうたわれている。すなわちアメリカの国家安全保障会議(NSC)にならって、「迅速な意思決定」のために閣議を省略して首相・外相・防衛庁長官などによる「緊急事態」対応を行う、ということだ。
 「2 日米同盟のあり方」では「日米間の役割分担を含め米国との戦略協議を実施し、新『日米安保共同宣言』や新『日米防衛協力のための指針』を策定すべき」と結論づけられている。一九九六年の「日米安保共同宣言」や九七年の新「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)は、従来の「極東条項」に代わってアジア・太平洋全域を射程に入れた日米安保の拡大を規定するとともに、「周辺有事」に際しての「後方支援」を軸にした日米軍事協力のための「周辺事態対処法」(一九九九年)を実現させることになった。
 しかし「アーミテージ報告」が一九九七年の新ガイドラインが「太平洋を越える同盟関係において、日本の役割を拡大するための終着点ではなく、出発点となるべき」と述べているように、九七ガイドラインそのものがいまやアメリカのグローバル「対テロ」戦争、ペンタゴンの「全領域支配」戦略に日本を動員する上で、乗り超えなければならない存在になってしまったのである。


海外派兵を自衛隊
の主任務に格上げ

 したがって「3 国際平和協力の推進」の項では、現在の自衛隊にとっては「自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度」(自衛隊法第一〇〇条の七)においてなされる「付随的任務」である「国際平和協力義務の実施」を、「直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛する」(同法第三条@)とならぶ「主たる任務」に格上げすることが提言されている。言うまでもなくそれは、新たな「安全保障環境」の下では、米軍と一体となった海外派兵こそが自衛隊の「主任務」にほかならない、と主張するものだ。
 さらに「報告」は、現在では「テロ特措法」や「イラク特措法」など特別措置法で対応してきた「平和協力活動」について、「一般法の整備を検討すべき」と述べ「恒常的派兵法」によって対処すべきであると促している。また「弾道ミサイル防衛の日米共同技術研究が共同開発・生産に進む場合」を前提にして、「武器輸出3原則を見直し、少なくとも米国への武器禁輸を緩和すべき」と提言している。MD(ミサイル防衛)が現実になるに従って、今や邪魔になってしまった「武器輸出3原則」を放棄することがうたわれている。これがいっそう大規模かつ無制限なグローバル「武器市場」への参入をねらう資本家階級の利害を体現していることは言うまでもない。

「対テロ」戦争の前
線に立つ自衛隊へ

 「報告」第3部で打ち出されたのは、「多機能弾力的防衛力」という新たな概念である。従来の「防衛計画の大綱」では、国土への「直接侵略」に対処する「必要最小限」の武力を備えた「基盤的防衛力」構想が基調になっていた。もちろん、この「基盤的防衛力」整備という文句によって、一時期は世界第二位となった巨額の軍事費が計上され、世界でも有数の軍事力を備えた「自衛隊」が増強されてきたことを忘れてはならない。
 しかし今回の「多機能弾力的防衛力」という構想によって、冷戦型戦略に対応した陸上自衛隊の定員や、戦車、戦闘機、地方隊所属の護衛艦の数が削減される一方、「対テロ」戦争、とりわけ「国際的脅威の予防」を名目にして、最新の軍事技術に対応した実戦装備の強化が図られようとしている。すなわち装備の面においても、本格的な対「テロ」グローバル戦争の前線で戦闘できる海外派兵型軍隊への飛躍を意味する。
 こうした「安保・防衛懇」報告、そして同報告にもとづいた新「防衛計画大綱」が、「集団的自衛権」の行使と憲法改悪を前提にしてのみ現実化しうるものであることは間違いない。

沖縄と連帯し米軍
基地移設反対を!

 小泉首相は「安保・防衛懇」報告を受けて、「いいことを報告してますからね。必要なことです。そういうのを総合的に考えて、今後新たな大綱を作っていかなければならない」と述べた。
 「国連安保理常任理事国入り」と恒常的派兵法の整備、憲法改悪は、新たな「防衛計画大綱」とセットで、政治日程に上げられている。それはブッシュ政権の「対テロ」グローバル戦争への全面支持とイラク派兵・占領軍への参加と一体であり、日本の米軍司令中枢基地化を軸にした在日米軍基地の再編計画と一体である。「テロ対策」を名目にした「国民保護法」体制の発動、住民監視体制の強化も、その一環である。
 グローバル戦争に対応した米軍基地の再編と、自衛隊の海外派兵軍隊化に決定的に踏み込んだ「戦争国家」作りに正面から立ち向かう闘いが、沖縄での普天間基地全面返還・辺野古新基地建設阻止の運動を先頭に展開されている。われわれは沖縄の闘いへの支援をいっそう強めるとともに、「安保・防衛懇」報告や新「防衛計画大綱」に表現された自衛隊の新たな戦略の侵略的本質を明らかにする運動を拡大していかなければならない。
 小泉首相は沖縄の反基地闘争に直面して、東京都内の講演で「沖縄米軍基地の本土移転」に初めて言及した(10月1日)。「沖縄の基地負担の軽減」というおためごかしの言葉で、アメリカのグローバルな基地再編に全面的に協力しようとする小泉の発言を許してはならない。
 沖縄にも「本土」にも米軍基地はいらない! という訴えを、アメリカのグローパル戦略と連動した自衛隊の恒常的海外派兵化に反対する闘い、憲法改悪に反対する闘いと結びつけなければならない。「対テロ」戦争のための日米安保の再編と対決し、基地も安保もなくす闘いを広げよう。
(10月11日 平井純一)                                       


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