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 「一枚の写真が国家を動かす」                  かけはし2004.09.13号

戦争の本質を問う写真展

国際フォトジャーナリストの作品一堂に

大手メディアの報道しない現実

 八月二十一日から三十日まで、戦争の本質を問う写真展が、東京・上野の東京都美術館で開催された。主催は館内の「現代アーチストセンター」。同センターの第三十四回展として、(株)「DAYS JAPAN」と日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)が企画した。
 「DAYS JAPAN」は、フォトジャーナリストの広河隆一さんが責任編集する写真月刊誌。大手メディアでは報道されない世界の現実、戦争の真実を、国際的に活躍する第一線の写真家によるニュースで伝える。「JVJA」は、同じく広河さんが立ち上げたフリーのジャーナリスト集団。プロの映像ジャーナリスト相互の連携と協力、次世代の人材育成等を目的とする団体だ。

最高水準の戦争写真展の迫力


 会場で受付を済ませると、最初のスペースが「DAYS JAPAN」の展示。カラー写真の先鋭な色彩が視界に飛び込んでくる。セバスチャン・サルガドをはじめ、世界中で活躍する著名な写真家の作品が所狭しと並んでいる。弾丸で自らも負傷しながら地を這い、シャッターを切った写真。かつて本紙にも一面で転載されたが、アフガンで爆撃を受けて足が吹き飛んだ少女を抱く老人の写真など、衝撃的なものばかりだ。
 これらの写真は「DAYS JAPAN」に掲載されたものが中心で、世界水準の報道写真の持つ迫力は、さすがだと唸ってしまう。さらに順路を行くと、差別に苦しむハンセン病患者の写真、日本軍慰安婦の写真、中国人強制連行を取材した写真などが、モノクロで並んでいる。このコーナーは、国内の著名なジャーナリストがそれぞれのテーマで取材したドキュメンタリーである。内海夏子さんの近著『女子割礼(集英社新書)』を私は発売と同時に読んだが、彼女の写真も飾られていた。「週刊金曜日」などで活躍する伊藤孝司さんの作品もある。
 その対面には広河さんの作品と、「営みの地球」と題した写真群が展示してある。大伸ばしされた菅洋志さん、中村征夫さんらの美しいカラー作品は壮観だ。森住卓さんが撮影したチェルノブイリ放射能汚染の被害者の痛ましい写真は、特に来場者の関心を集めていたようだ。

一日に約四百人もの来場者


 吹き抜けの階下は、広いスペースをすべて使って展示が行われている。「世界の戦場から」と題したコーナーで内壁を囲み、特別展示の「戦火のイラク」が、中央のパネルに掲げられている。前者は、岩波書店から同名の写真集が作者別の分冊で発売されており、このたび完結した。後者は、豊田直巳さんや綿井健陽さんらのイラクの写真が展示されている。このフロアの展示は、JVJAのメンバーの作品が中心になっている。
 「フィリピン│最底辺を生きる」(山本宗補さん)は、幼い少女が「ゴミの山」に生活の糧を求め登りつく写真など。一枚一枚の印画紙に重く写し出された現実に、私はしばし足を留めて見入る。
 林克明さんは、モスクワに住みながらチェチェンの現状をレポートした。「どこにでもいる普通の男性」を自認する林さんは大学卒業後、セールスマン、業界紙の記者を経て、ジャーナリストとしてロシア、チェチェンに赴いた。「戦争写真家」を名のると、つい見られがちな無骨なイメージとは、まるで異なる。常に、周囲の人々との協力関係を大切にしながら取材に臨んでいるという。
 豊田直巳さんは偶然この日から会場詰め。先日新宿・紀伊国屋ギャラリーでも個展を開いた。
 「イラク陥落」の瞬間に立ち会った豊田さんだが、デジタルカメラの導入で、より仕事が円滑になるだろう。話を聞くと、年内にもまた新刊を出すというから多忙だ。大新聞での紹介もあって、この写真展には一日約四百人もの来場者があった。

運動との連携で世界を変える


 ベトナム戦争時には、多くのフリーランスが現地で取材し、戦争の悲惨さを世界中に発信した。当時の「戦場カメラマン」に憧れた世代が今、ねばり強くしたたかに世界を駆けめぐっている。湾岸戦争以降米軍は、世界中の反戦運動の盛り上がりを恐れ、従軍以外のフリーの取材を厳しく規制したという。大手メディアの官報化、報道統制、人々の関心の低下などなど、大組織の経済的な後ろ楯を持たないフリーランスにとって、逆風は強まるばかりである。「知る権利・知らせる権利」が脅かされているのだ。
 こうした映像ジャーナリズムの危機を乗り切るべく、二年前に発足したJVJA。広告収入に頼らない硬派ジャーナリズムが放つメッセージは、「一枚の写真が国家を動かすこともある」「人々の意思が戦争を止める日が必ず来る」。
 高い志を持つ彼らの地道な活動を、世界中の反戦運動、反グローバリズム運動にかかわる人々は、大いに期待し、応援し続けることだろう。   (佐藤隆)


ATTAC Japan公共サービス研究会

年金の危機、厚生年金の実質赤字三・八兆円を超す

 七月二十三日、東京・文京シビックセンターで「大騒ぎをした年金改革の裏側」と題してATTAC Japan公共サービス研究会が開かれた。講師は国会内外で年金問題を追い続けてきた前衆議院議員の保坂展人さん。保坂さんは出版されたばかりの「年金のウソ 隠される積立金一四七兆円」(ポット出版)をテキストにして年金破綻の最大の問題点である年金積立金を中心とした利権構造と解決策を提示した。
 保坂さんは「年金の危機が宣伝されてきたが、わたしたちの納めた保険料によって百四十七兆円もの積立金がある。政府はこのことを宣伝しない」「年金積立金の資金運用に失敗に失敗を重ねた厚生官僚は、反省するどころか、先の国会で審議された年金関連法案のなかに、これまで以上の資金運用を行う投資機構の設立をもぐりこませている」「年金問題では、これからの日本をいわゆる『自己責任』型の社会にするのか、それとも連帯に基づく社会にするのかが問われている。年金問題のエキスパートを市民運動の中で育てていく必要がある」と提起した。
 研究会には、企業年金の改悪に抗する電通労組、官僚に握られている巨大金融という点で同一の郵便貯金に従事する労働者、不安定な雇用条件で働く青年労働者、将来年金がもらえるかどうか分からないがとりあえず払い続けているという学生などが参加した。昨年、年金闘争が一段落した直後にフランスを訪問しSUD(連帯・統一・民主主義労組)と交流した郵政ユニオンの参加者は、フランス社会に根付く社会的連帯という思想が今後の日本の年金のあり方を考える上で重要になると提起した。
 政府・厚生労働省とメディアの年金危機キャンペーンは続いている。八月六日「厚生年金の実質赤字は三・八兆円にのぼる」「二千九百億円を厚生年金積立金から取り崩す」と発表した。その一方で、社会保険庁は厚生年金や共済年金を脱退しながら、国民年金への加入手続きをしない人を、職権で強制的に加入させる方針を決めた。
 莫大な年金積立金の投資損失には頬かむりをしつつ、厳しい経済事情から保険料を払えない民衆からはなんとしても保険料を徴収したいというご都合主義的年金改革を阻止することは可能だ。社会保障の切り捨てという民衆からの一層の収奪によって社会を根本的に作り変えようとする新自由主義的グローバリゼーションに対峙する社会運動の世界的ネットワークで小泉の新自由主義構造改革に反撃しよう。    (H)

保坂展人さんの報告から
年金積立金の流出


 年金問題が注目を浴びてから、年金制度の危機的状況が騒がれた。厚生労働省やマスコミは少子化や不況による未納や脱退などを精力的に宣伝してきた。しかし百四十七兆円ある年金積立金の存在や積立金の資金流出などはほとんどといっていいほど明らかにしてこなかった。
 選挙前に公明党は「百年安心の年金を構築」というプランを発表した。これを受けて坂口厚生労働大臣は年金積立金を取り崩すと発表した。しかし年金の「給付五〇%以上」を実施することは極めて短期間しかできない。それも名目賃金の上昇にともなって給付比率が下がり、五〇%割れに追い込まれるのは時間の問題です。坂口発言はこれを追認したに過ぎません。
 年金積立金を運用・管理する機構として一九九九年の年金改正時には年金福祉事業団、二〇〇一年にそれが年金資金運用基金となり、そして今回は年金積立金管理運用独立行政法人となるという。日経新聞は独立行政法人化によって「透明性が高まる」というが、百五十兆円近い年金積立金の管理・運用を一人の理事長が責任を負うという他に類を見ない巨大金融機関が誕生することになる。
 マスコミ報道ででたらめな運営が明らかになったグリーンピア業務は廃止、年金住宅融資も停止して不良債権処理・回収は別法人の福祉医療機構に丸投げする。なぜ福祉医療機構は、回収の見込みのほとんどない不良債権処理を引き受けたのか。それは不良債権処理・回収を引き受けるに当たり年金住宅融資の融資残高と同じ金額のおよそ六兆円を年金積立金から受け取ることができるからだ。これもまた年金積立金の無駄遣いである。
 しかし福祉医療機構には不良債権業務を知るスタッフはいない。ではどうするのか。スタッフはすべてこれまで特殊法人・年金資金運用基金で住宅融資に当たっていたスタッフ十人が丸ごと福祉医療法人に移って行う。カンバンをすげ替え、さらに年金積立金という国民の財産から六兆円もの「支度金」を持たせる。これまで厚生労働省は年金積立金は絶対に取り崩さない、と言っていたにもかかわらずである。
 またこの組織のカンバンのすげ替えについて指摘しなければならないのは、年金積立金の運用に失敗すればするほど、その取り扱う規模が巨大化してきたということだ。年金積立金の株式市場運用が始まった旧・年金福祉事業団の時代には十三年間で約二十七兆円を運用し一兆二千億の大損を出し、二〇〇一年の組織変更後の年金資金運用基金では二年間の間に四兆三千六百九十二億円の赤字を出して、六兆七百十七億円もの評価損を出した。
 今回、労働運動がまったく登場できなかった背景に、高度成長の時期に社労分野では労働組合OBの天下り先としての特殊法人があった。たとえ小さなポストだが、それも労働組合を支持母体に持つ政党が年金問題を徹底して追求できなかった背景にある。厚生官僚の天下りを指摘しても、「かつては社会党の支持母体であった総評のOBにもポストがあてがわれたではないか」と返されてしまうのが落ちだ。今後の運動を考えた場合は、このような構造は根本的に断ち切らなければならない。(発言要旨・文責編集部)



コラム

地球温暖化とクマゼミの東征

 異常気象という言葉では語り尽くせない程、台風の上陸が相次いでいる。
 六月末に季節はずれの台風が上陸して以来、今年発生した十八号のうち半分以上が日本に上陸している。
 八月三十日、台風十六号が日本全土を雨や風が襲ったのを境に、セミの鳴き声はすっかり弱くなり、気をつけないと鳴いているのがわからない程になった。かわって秋の虫の音色がどんどん大きくなり、季節は確実に秋に移り、本格的な台風シーズンに突入している。
 地球温暖化、夏の異常高温がセミの生息地に大きな影響を与えているということが言われて久しい。われわれが小中学校の時に習った「北限」というものの多くは修正され始めている。
 近畿、九州、沖縄などを主要な生息地としているクマゼミは、東海道を東征しており、現在は名古屋を過ぎ、三河周辺まで進出しているという記事を読んだのは昨年である。クマゼミの鳴き声は「シャア、シャア」という感じの金属音でとにかくうるさい。およそ「セミ時雨」という言葉の響きには遠い。夏、大阪の友人の家に泊まると朝の六時頃、まず一匹が「シャア、シャア」と鳴き、続いて数匹が「シャア、シャア」と鳴くとそれを合図として一斉に鳴き始め、最早寝ていられなくなる。木を見るとまるで鈴なり状態で、日本最大の大きさというだけあってとにかく目立つ。
 私は東北地方の生まれだから、クマゼミという名前は知っていても、こんなにうるさい鳴き声を出すとは大阪の友人宅に泊まるまで知らなかった。
 今年八月初め、神奈川県の三浦半島の先端に行った時、突然「シャア、シャア」という鳴き声に遭遇した。初めはテープかなと思ったが、樹の上の方から聞こえてくるのでクマゼミに間違いないと確信した。中学校の教師をしている友人によるとすでに数年前から三浦半島ではクマゼミの鳴き声が聞こえるようになったという。彼によると風に乗って運ばれたか、船で運ばれたかはわからないが、三河周辺にいるのが東征の本隊とすれば、三浦半島にいるのは斥侯ともいえる部分だという。この斥侯は横浜・東京方向に進出するよりも、気候の温暖な房総方面に東京湾を越えて広がり、本隊が東京に来る頃には海岸線を茨城や福島の南部まで進出しているだろうという。
 彼によると温暖化の影響はクマゼミにとどまらず、アブラゼミ、ミンミンゼミなどセミ全体に影響を与えている。その最たるものは、セミの「初鳴き」がどんどん早くなり、今年は平年より十日から十五日も早かったらしい。他方夕方になると「カナ、カナ」と鳴く「ひぐらし」は全国的にどんどん少なくなっているとのこと。さらに彼は真顔でアブラゼミは「ジージリジリジリ」と「油の揚げているような」音で鳴くから温暖化への対応力が一番あるかもしれないと冗談を飛ばした。
 地球の温暖化・異常気象は、われわれのまわりにジワジワと止めようもなく押し寄せてきている。そのうち「岩にしみいる」などという情緒はなくなってしまうのかもしれない。   (武)


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