かけはし重要記事

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                           かけはし2002.4.8号より

「辻元疑惑」━自民党と右派メディアのねらい

国会主導権確保と有事立法強行

 鈴木宗男疑惑追及のスターの一人だった社民党の辻元清美衆院議員は、「週刊新潮」に掲載された「名義貸し」による政策秘書給与の巨額流用問題によって窮地に追い込まれ、ついに三月二十六日に議員辞職に追い込まれた。事態は辻元清美氏個人にとどまることな
く、土井執行部を中心とした社民党全体の問題に波及しつつある。
 「週刊新潮」発売直後に動揺して事実を隠蔽する記者会見を行い、辞職会見でも言い抜けとすり替えに汲々としていた辻元氏の態度、さらに辻元氏への「指南役」の存在について問われて「なんのことだかわからない」と逃げ口上を打った土井党首の対応は、多少なりとも社民党に期待をかけていた人びとをも失望させるものであった。伝統的な労組基盤を奪われ、「護憲」を前面に出した「市民と女性の党」に変身を図っていた社民党は、いままさに組織存亡の危機に見舞われている。
 もちろん辻元氏の「疑惑」は、利権にまみれた鈴木宗男や加藤紘一の件と同列に論じることはできない。しかし辻元氏による秘書給与の「不正取得」は政治資金規制法違反であり、また元民主党衆院議員である山本譲司議員のケースがそうであったように「詐欺罪」を構成することが濃厚である。辻元氏、ならびに社民党執行部は、事態の全容を解明して人びとの前に明らかにすることが必要である。
 今回の「秘書給与流用」疑惑は、言うまでもなく社民党だけの問題ではない。新聞や週刊誌などでの多くの証言に示されるように、国家によってまかなわれる政策秘書を含む公設秘書の給与が、寄付等の名目で議員や党の政治活動を行うための資金として「上納」されていくというあり方は、自民党から社民党に至るほとんどの議会政党によってつねに行われてきたことであった。それは議会政党間の相互のなれ合いによって、あえて問題にされることなく処理されてきた慣行だったのだろう。そこには国対費や海外に出かける与野党議員への「せん別」として「官房機密費」が支出されてきたことと共通のあり方が見られる。
 それらはブルジョア議会政治を「円滑」に機能させるために、かつての最大野党たる旧社会党に与えられてきた「おこぼれ」的な資金獲得源だった。そして「市民と女性の党」を標榜する今日の社民党もまた、そうしたブルジョア議会政治の「裏の慣行」にがんじがらめになっていることを、辻元問題はあからさまに示したのである。この点でわれわれは、社民党がこれまでの事実の全面的な究明の上に、労働者・市民の前に謝罪することを強く求めるものである。
 それでは辻元問題がリークされた背景はどこにあるのだろうか。直接のきっかけについては社民党内の相剋をふくめてさまざまな情報が飛び交っている。しかし、今年に入ってからの小泉内閣の急速な求心力の低下と危機、自民党有力政治家の相次ぐスキャンダルの暴露による自民党への批判の集中が、辻元疑惑の暴露の背景にあることは明らかであろう。
 首相とならぶ小泉内閣の二枚看板の一人だった田中真紀子外相の解任と田中による公然たる小泉批判、「陰の外相」として長年にわたり外務省を牛耳ってきた鈴木宗男の利権の暴露、そして元自民党幹事長加藤紘一の脱税と資金流用スキャンダル。出口のない経済・金融危機になすすべもなく、「聖域なき構造改革」のメッキもはげはじめた小泉政権と自民党は、このままでは三月から四月に予定されている横浜市長選、京都府知事選、衆院和歌山2区補選、参院新潟選挙区補選などの勝利がおぼつかない、という危機感にさいなまれていた。こうした選挙の連続的敗北は、有事法制の提出を控えた国会審議のイニシアティブをさらに野党の手に握らせることになりかねないものであった。それは有事法制強行への意図を、その最初の段階でつまづかせることになっただろう。
 そしてまさにこのタイミングを狙って「週刊新潮」の辻元疑惑暴露記事が発表されたのである。辻元疑惑を契機に、鈴木宗男や加藤紘一の疑惑・不正をめぐって守勢一方だった自民党は野党に対する反撃に移った。「偉そうなことを言っているが、野党だって同じではないか」というわけだ。これによって自民党はODA利権や「政官業」ゆ着にもとづく腐敗に根ざした鈴木宗男・加藤紘一の犯罪と辻元問題を相殺しようともくろんでいるのである。
 辻元氏への攻撃は、「政策秘書名義借り」問題から「赤軍疑惑」なるものへとさらにエスカレートしている。自民党と右派メディアの狙いは、憲法改悪や有事法制など一連の悪法に対する社民党の批判と抵抗を沈黙させ、国会審議の主導権を確保しようとするところにあるのは間違いない。
 小泉内閣は、四月九日に「武力攻撃事態対処法案」をふくむ有事法制案の第一弾を閣議決定し、国会に上程することを決めたと報じられている。
 われわれは、社民党をふくむ野党の国会内での闘いとも連動しつつ、有事法制阻止に向けた労働者・市民の共同行動を全力で拡大していかなければなならない。(4月2日 平井純一)                        

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