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「女性国際戦犯法廷」番組改ざん抗議NHK裁判     かけはし2004.0405号

右翼・権力の言論弾圧を許すな

改ざんを正当化しNHKを免罪する不当判決

「天皇制タブー」を打ち破ろう

 三月二十四日、東京地裁で「『女性国際戦犯法廷』NHK番組改ざん事件裁判」の判決公判が開かれた。この裁判は、二〇〇〇年十二月に東京で開かれた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」に取材して〇一年一月に放映されたNHK・ETV2001の番組「問われる戦時性暴力」が、放映直前に右翼や自民党の圧力で全面的に改ざんされたことに対して、主催団体の一つである「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW―NETジャパン)が、NHKと制作会社NHKエンタープライズ(NEP)、ドキュメンタリー・ジャパン(DP)の三社を相手取って提訴していたものである。

NHKの改ざんを免罪する不当判決

 放映された番組には、「天皇有罪」も元加害兵士の証言もなく、だれを裁く裁判だったのかという説明もなく、法廷の趣旨を説明した主催者へのインタビューの代わりに、法廷の意義と被害女性の尊厳を冒涜する右翼政治学者の悪質なコメントがつけられていた。
 提訴の主旨は、NHK側の提示した企画内容に合意したからこそ全面的に取材協力したにもかかわらず、全く別の内容に改ざんされてしまったことによって信頼(期待)利益を侵害されたこと、NHKが番組改編の説明義務に違反したために損害を受けたことの二点。
 東京地裁・小野剛裁判長は判決のなかで、「番組内容は、当初の企画と相当乖離(かいり)しており、取材される側の信頼を侵害した」と認定した。にもかかわらず判決は、自民党や右翼の圧力を受けて番組を改ざんしたNHKの責任を一切問おうとせず、逆に改ざんを「編集の自由」として免罪してしまった。
 その上で判決は、改ざんに抗議して最終段階で制作から降りた孫請けの制作会社DJ社に、「取材に協力したVAWW―NETジャパンに国際法廷の忠実なドキュメンタリーが作られるかのような期待を抱かせてしまったのが悪い」として全責任を押しつけ、「原告に百万円を支払え」と命じた。それは、「一部勝訴」どころか、ジャーナリズムの取材活動と言論活動を制約しかねない、許し難い反動判決である。
 午後六時半から東京芸術劇場会議室で開かれた判決報告集会では、故・松井やよりさんの後を引き受けて裁判闘争を行ってきたVAWW―NETジャパン共同代表の西野瑠美子さんが、判決についての感想を述べた。
 「判決はひどいだけでなく大きな問題を内包している。判決では、信頼利益の侵害と説明義務違反の二つのうち、信頼利益の侵害だけを認定した。判決は、DJ社が制作から降りなければならないほど大きな編集方針の変更があったことを認めている。しかし判決はこのNHKによる改ざんを全く問題にせず、それは編集の自由として認めてしまい、番組が取材された側の期待通りにならないかも知れないのに不要な期待を抱かせてしまったとしてDJ社だけに責任を押しつけ、NHKを免罪した。とうてい『一部勝訴』とは言えない」。

「天皇有罪」を消すことがねらい

 弁護団の飯田正剛さんと大沼和子さんが判決についてさらに詳しく説明し、続いて元NHK政治部記者の川崎泰資さん(椙山女学園大学教員)が「判決を受けて―NHKの体質とこの裁判」と題して講演した。
 川崎さんは不当判決を厳しく糾弾した。
 「判決は驚くべきものだ。政治の世界でももう『秘書が、秘書が』とは言えなくなっている。代議士と秘書は一心同体で、代議士が秘書にやらせた犯罪の責任をとるのは当たり前だ。この問題でも、NHKとDJ社の上下関係は明確だ。本件で一番肝心な、作られた番組に、だれが、どのように介入したのかということが全く触れられていない。裁判所は、NHKのトカゲの尻尾切りに加担したのだ」。
 「松井さんは放映された日に主要なコメンテーターである高橋哲哉さんからかかってきた電話の内容をメモしているが、高橋さんは『無残な番組だ。メチャクチャにされ魂が抜かれ、刀折れ、矢尽きて全く別の番組になってしまった』と語っている。判決でも、NHKとNEPとDJの三社のディレクターが、放映前の段階で『満足の行く番組ができ上がったという共通の認識を持った』と述べている。その『共通の認識』が、突然、右翼の『殺すぞ』という脅迫と自民党からの圧力でNHK海老沢会長が介入し、DJ社が制作から降りざるを得ないほど無残に変えられてしまったのだ」。
 「キーワードは『天皇制』だ。かつて長崎の本島市長が『天皇に戦争責任がある』と発言して右翼に銃撃された。番組から『天皇有罪』を消すことが目的だった」。
 このように番組改ざんの本質を指摘した川崎さんは、戦前の「大本営発表」をそのまま引きずったNHKの戦後の政治との関係を「妥協から屈服へ」「屈服から服従へ」「服従から迎合へ」「迎合から一体化へ」そして「政府機関化へ」、と年代を追って詳しく解説し、「政治を変えない限りNHKを変えることはできない」と強調した。
 報告集会には、DJ社で直接番組の取材に関わった女性をはじめ、新聞記者やテレビ関係者など、この裁判に関心を持ってきた多くの報道関係者が参加した。「私たちはこれからどうすればいい、どう取材すればいいのかと重苦しい雰囲気になった」「責任を問われたのは私だったかもしれない。制作会社はこういう目にあうんだと本当に思った」「テレビの記者もこういう目にあう時代になったんだとひしひしと感じた」などの発言が相次いだ。
 最後に弁護団から、控訴する方向で検討していることが報告された。小泉政権は、イラク戦争と自衛隊派兵をめぐっても、報道の自由、言論の自由にますます制約を加えようとしている。立川・反戦ビラ入れ弾圧が示すような「戦時下の言論弾圧」が強まりつつある。その意味でも、このNHK裁判は重大な意味を持っている。    (I)
★VAWW―NETジャパン連絡先 TEL&FAX03―3818―5903
Eメール vaww-net-japan@jca.apc/org
http://www.jca.apc.org/vaww-net-japan/


解説

「女性国際戦犯法廷」とNHK裁判


 二〇〇〇年十二月八日から十二日まで、東京で「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」が開かれた(本紙01年1月1日号)アジア太平洋戦争のなかで、日本軍は中国や朝鮮半島をはじめ侵略した各国で若い女性たちを「慰安婦」として軍の性奴隷にし、集団レイプなどの暴虐行為を重ねた。この被害者たちが、九〇年代に入ってようやく名乗りを上げ、日本政府に謝罪と補償を求め始めた。しかし日本政府は法的責任を認めようとせず、高齢の被害女性たちは謝罪も補償も受けないまま亡くなっていくという状況が続いた。
 「女性国際戦犯法廷」は、この日本軍「慰安婦」制度の最高責任者である天皇と軍首脳を被告として裁き、責任者の処罰による正義の回復を求める被害者の叫びに応えるとともに、戦時性暴力不処罰の流れを断つことをめざして開かれた。
 法廷は、被害国六カ国の女性活動家や法律家が協力して各国ごとの検事団を結成し、証言や証拠を集め、旧ユーゴ国際戦犯法廷の前所長カーク・マクドナルドさんや旧ユーゴ法廷やルワンダ法廷で法律顧問を務めたパトリシア・ビサー・セラーズさんなど、多数の世界的な法律家や法学者が裁判官や首席検事をつとめる形で開かれた。
 法廷には六十四人の被害女性が参加し、加害者としての元日本軍兵士も証言、多数の証拠文書などの調査にもとづく審理の結果、日本国家に賠償責任があり、立件された最高責任者としての天皇と軍首脳全員に有罪の判決が下され、世界中のメディアが「天皇に有罪判決」と大きく報じたが、日本のマスコミはどれも極めて小さな扱いだった。
 「女性国際戦犯法廷」の主催団体の一つであるVAWW―NETジャパンは、NHKからETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」のひとつ(シリーズ第二回「問われる戦時性暴力」)としてこの「法廷」を紹介する番組を作りたいという依頼を受け、DJ社をオフィシャルカメラとして認定するほか、大量の資料提供、長時間のインタビューなどの全面協力を行った。
 二〇〇〇年末までに編集を完了した番組は、NHKの担当者、制作会社エンタープライズ21、直接取材を担当したDJ社いずれも満足のいくものだった。ところが右翼勢力が番組の放映中止を要求する動きを強め、自民党からも介入があって事態は一変した。NHKは局内試写と再編集を繰り返し、番組を全面的に改ざんしてしまったのである。
 〇一年一月三十日に放映された番組には、どういう団体が、いつ、どこで開いた法廷なのかという、主催者についての説明が一切なかった。最高責任者としての天皇と軍最高指導者たちを裁くことで「戦時性暴力不処罰」の流れを断ち、被害女性の人権を回復するという、法廷の趣旨を説明した故・松井やよりVAWW―NET代表のインタビューもすべて削除された。
 「だれが起訴されて、どんな判決が出されたのか」という最も大事な点がすべて削除された。もちろん「天皇有罪」を宣言する判決シーンもカットされた。中国戦線で女性を強かんしたという旧日本軍兵士の証言もなく、元「慰安婦」被害女性の証言もほとんどが削除された。「法廷」に賛同するコメンテイター二人の発言の核心部分が不自然にカットされた。
 それらに代わって右翼政治学者・秦郁彦の「慰安婦は商行為で当時は合法だった」「もう時効になっている」など、国際法廷のなかでも多数の証拠で論破されつくしているデタラメな長時間のコメントがつけ加えられた。それでもカットされた部分が多過ぎて、放映前にシリーズ前回の映像を不自然に長時間流したりして引き延ばしたにもかかわらず、終了時間が五分も速まってしまうという異常なものだった。
 NHKによる番組改ざんは、「日本軍性奴隷制」(「慰安婦」制度)という戦争犯罪を覆い隠し、被害女性たちをさらに傷つけ、市民の知る権利を奪い、報道機関としての責任と報道の自由を自ら放棄するものである。そしてNHKはVAWW―NETジャパンや世界各国の法学者をはじめとする強い抗議や国会での追及に対しても開き直った。
 このような暴挙に対して沈黙することは、暴力による言論弾圧を野放しにし、権力に迎合する報道自主規制をさらに横行させることになってしまう。このような流れに抗するために、「NHK裁判」は始まった。(I)


立川・反戦ビラ入れ弾圧と闘おう
不当起訴された仲間たちから獄中メッセージ


 反戦ビラ入れで不当起訴された三名のテント村の仲間たちから、弁護士接見を通じて全国の仲間たちへ向けてのメッセージが届いています。
ONさん 逮捕されてすでに一ヵ月近くの時間が過ぎましたが、皆さんの粘り強い、あたたかな支援に支えられて留置場の中でも元気に過ごしています。起訴され、長期間の勾留が続くと思いますが、留置場の中の生活にも大分慣れてきました。外で頑張っている皆さんも、中に居る私のことを余り心配せずに思い切り闘って下さい。弾圧にひるまず、ともにイラク派兵に反対しましょう。
Sさん 不当にも起訴されてしまい怒りを新たにしています。基地の街で自衛官に呼びかけるのは当たり前のことです。イラク派平反対の声を挙げることを、決してやめるつもりはありません。一緒に頑張りましょう。
OBさん 不当な逮捕、起訴に怒っている。再度の接見禁止にも憤りを感ずる。しかし、これまで頑張ってこられたのも全国の広範な皆さんの支援があったからだこそと思っています。他の獄中の仲間とともに無罪を勝ち取るまでがんばりぬいていきたいと思っています。


日本の平和運動家への逮捕拘禁は「表現の自由」の侵害である
アムネスティ・インターナショナル

 アムネスティ・インターナショナルは、二週間以上にわたって、平和運動家三人が、自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配布したために警察留置場で勾留されていることにつき、強く抗議する。男性二人と女性一人のこの運動家たちは、東京西部の立川で二月二十七日に逮捕された。
 逮捕の容疑は刑法第百三十条の住居侵入罪である。この運動家たちは、自衛隊の派遣について、人びとにもっと慎重に考えてほしいと呼びかけるビラを配布していた。彼らは、このビラを、立川の自衛隊の官舎の郵便受けに配っていた。アムネスティは、この運動家たちは、表現の自由を侵害されて拘禁された、良心の囚人であると考える。表現の自由は、日本国憲法の二十一条、そして日本も締約国となっている自由権規約の十九条に定められている。この運動家たちは直ちに釈放されなければならない。
 アムネスティは、また、この三人の家族に対しても嫌がらせがおこなわれている点を懸念している。たとえば家宅捜索であるとか、ノートやコンピュータ類を押収するなどである。三人の運動家は立川の警察留置場に勾留されており、逮捕後、毎日ほぼ八時間にも及ぶ取調べを受けている。取り調べの最中には弁護人は立ち会っていない。アムネスティが受け取った情報によれば、彼らの取り調べを担当しているのは警視庁の公安二課であり、この事件が公安事件として取り上げられていることを示唆している。
 「アムネスティは、彼ら三人を直ちに釈放するよう要求する。また釈放後、日本は彼らの権利が、日本も締約国となっている国際人権基準に保障されているように、きちんと守られるよう要求する」。アムネスティはそのように語った。(アムネスティ発表国際ニュース3月18日)


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