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                           かけはし2004.03.15号

北朝鮮の核開発をめぐる六カ国協議が示したもの(下)

荒沢 峻

経済制裁は民衆を苦しめる

 日本政府は二月に外為法改悪によって単独での経済制裁発動を可能にし、自民・公明両党、そして民主党は今国会に特定船舶入港禁止法案をそれぞれ提出しようとしている。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対するこうした経済制裁の圧力や発動が「拉致事件解決」につながるとする発想には、食糧危機と貧困の中にある二千万の北朝鮮民衆の窮状に対する人道的視点がない。金正日独裁支配体制は、こうした国際支援を特権的に独占する余地などないほどの経済的破綻の窮地にある。支援物資を部分的にしろ民衆に配給せざるを得ない状況にある。三百万人の餓死者が出たとされる九五〜九六年の食糧危機は、その後の日本も含めた各国の食糧支援によって緩和されたことは脱北者自身が証言している。また金正日独裁支配を告発してやまない脱北者のだれ一人として、北朝鮮への経済制裁を訴える人はいない。経済制裁によって真っ先に犠牲になるのは彼ら自身なのだ。また北朝鮮への帰国者数万人は日本からの支援物資や送金を断たれたらそれは飢餓への転落を意味する。逆に金正日一族や朝鮮労働党特権官僚たちにとっては、日本が経済制裁に踏み切ったとしても中国、韓国との経済交流・支援があれば政権延命に不足はない。
 いかなる意味でも経済制裁発動は許されない。北朝鮮に残された拉致被害者家族の無条件即時帰国すら危うくし、日朝ピョンヤン宣言署名という到達点をも危うくするだけだ。「日本だけでも経済制裁を発動すれば北朝鮮は崩壊する」などというのは都知事石原や民主党西村らのあくどい願望にすぎず、彼らが頼みとする拉致被害者家族会が切望しているのは、「どうすれば倒せるかではなくどうやったら取り戻せるか」(蓮池透さん)ということであって、目的自身が異なっている。
 二度にわたる六カ国協議では「協議プロセスにおいて情勢を悪化させる発言・行動をとらない」「信頼醸成・合意拡大」「作業部会設置」などで合意をみている。日本政府はこの趣旨に従うなら、米朝間による核凍結論議への一面化に距離を置き、代替エネルギー支援、そして長期展望にたった経済支援協議のために積極的役割を果たすべきだろう。
 すでに韓国は六カ国協議の中でも対北朝鮮支援の姿勢をより明確にしており、日本政府はこの構想に協力することによって核凍結論議を将来展望と合わせた中身のある協議へとつなげていかなければならない。


米中ロの核保有に反対せよ

 また六カ国協議での「米中ロの核保有は是、北朝鮮の核保有は否」という前提
に立った論議に日本、韓国は安易に与するべきではない。「朝鮮半島非核化」とは「東アジアの非核化」に連なり、それは中ロの保有する核も在日・在韓米軍の
保有する核も一掃されなければならないことを意味する。被爆国としての日本、分断国家としての韓国は協議の場でこう主張してこそ北朝鮮による核保有誇示や「自衛のための核抑止力」論を批判し尽くすことができる。
 六カ国協議の今後については、北朝鮮が11月の米大統領選の動向を見すえなが
ら協議の引き延ばしを図るとする分析がもっともらしく語られているが、ケリーが当選してブッシュが退陣したとしても「94年ジュネーブ合意の跌は踏まない」とする米の北朝鮮外交の枠組みに変更はないだろ。むしろ中国が次回協議開催、作業部会設置に向けてイニシアチブを活発化させ、さらに踏み込んだ対北朝鮮外交を展開していくことになるだろう。 (荒沢 峻)


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