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輸入再開へ圧力強めるブッシュ政権・外食産業と動揺する小泉政権 |
昨年十二月二十三日、アメリカで初のBSE(牛海綿状脳症)発生が確認されてから一カ月余りが経過した。テキサス出身で牛肉ロビーを強い支持基盤とするブッシュ政権は、米国産牛肉の最大の輸出先である日本に対して輸入再開への圧力を強めており、同時に米国産牛肉に依存してきた日本の外食産業も、安全確認などどうでもいいとばかりに早期輸入再開を叫んでいる。
この問題で最初に確認しておかなければならないことは、BSEの人間への感染と新型クロイツフェルト・ヤコブ病発症による死亡は、いまも続く現実だということである。これまで死者は計百五十三人、昨年もイギリスでは十六人が死亡している。治療法はいまのところなく、発症すれば数カ月後にはほぼ死亡する。
今回アメリカで確認されたBSE牛は、検査が終わらないうちにオレゴン州ポートランドの食肉加工工場に送られ、同州とワシントン州、カリフォルニア州など八州に出荷されてしまった。ワシントン州の農務次官は十二月二十三日の記者会見で、このBSE牛の肉がすでにハンバーガーなどの形で消費されてしまった可能性があると語った。
ヨーロッパやオーストラリアでは、BSEなど安全対策の一つとして、その牛がどこで生まれ、どのようなえさを食べて肥育され食肉として処理されたかなどの生産履歴を、個体識別番号として店頭の製品にまで表示するトレーサビリティーを実施している。日本でもようやく昨年十二月から、国産牛に関してのみトレーサビリティーを開始した。
しかしアメリカではトレーサビリティーを行っていないため、当該BSE牛がカナダ農場から〇一年に輸入されたことは分かったものの、まだ禁止されていなかった肉骨粉で一緒に育てられて輸入された八十一頭のうち六十七頭はどこに行ったか、いまも不明のままである。
アメリカでは毎年処理されている約三千五百万頭の肉牛のうち、BSE発症の典型例である歩行困難で立てないなどの症状を呈する「ダウナー牛」が十五万頭から二十万頭も出ている。しかしその大部分は、けがなどで歩けないだけだとして検査もされていない。BSE検査を受けているのはそのうち約二万頭(〇二年は一万九千九百頭余り。全処理頭数のわずか〇・〇六%)に過ぎず、しかも今回の事態が示すように結果が出た時にはすでに消費されているというずさん極まりない検査体制だった。
症状の出ていない牛はもちろん、ダウナー牛でさえ大部分が全くBSE検査を受けずに処理されて食用に回され、日本をはじめとする各国に輸出されていたのである。「農務省による検査方法は、BSEを『極力発見しないように』策定されていると指摘する声もあった」(ニューズウィーク04年1月14日号)。
そして日本ではこれまで、「アメリカではBSEは発生していない」という理由で無検査の米国産牛肉を野放しで大量に輸入し続けてきた。日本でも昨年、トレーサビリティー法が制定されたが、小泉政権はトレーサビリティーを行っていないアメリカの圧力で輸入牛肉全体をその対象からはずしてしまった。したがって、BSEに感染した米国産牛肉がすでに輸入されていたとしても、それを追跡することはできない。
すなわち、すでに輸入され、消費されてしまった米国産牛肉にBSE汚染があった可能性は否定できず、数年間の潜伏期間を経て日本で犠牲者が発生する可能性もまた否定できないということになる。
輸入再開を迫るブッシュ政権は、「感染源となる脳や骨髄などは取り除かれており、流通する米国産牛肉に問題はない」と安全性を強調している。しかし全米消費者連盟によると、最新式の機械を使っている処理場について農務省自身が検査した結果、集めたサンプルの牛肉の三五%に脊髄組織などが混ざっていたという(朝日新聞12月26日)。
この解体処理システムの危険性の問題や検疫体制の不十分性、九七年に牛の飼料としては使用を禁止された肉骨粉が豚や鶏の飼料として使われているため、製造過程でBSEの病原が牛の飼料に混入する「交差汚染」を起こす危険性があること、そもそも牛に対する肉骨粉使用禁止が十分に守られていないことなど、アメリカのBSE対策が極めて不十分であり、発生の危険性があることが、農務省や食品医薬局や会計検査院など米政府機関のさまざまな報告書によってすでに確認されていた。
もちろん日本の農水省もこれらの報告を知っており、ホームページで公開してさえいた。すなわち、アメリカの対策が極めて不十分であり、いつBSEが発生してもおかしくないことを知りながら、対策強化を求めようとすらしなかったのである。今回アメリカとカナダを訪れた農水省と厚生労働省の合同調査団の報告は、米政府機関が認めていたBSE対策の不十分性を、あらためて再確認したにすぎない。
農水省・厚労省は、安全確認もなしに大量の米国産牛肉を受け入れ続けたばかりか、脳や脊髄などBSEの病原体である異常プリオンが蓄積しやすい「特定危険部位(SRM)」が入っている肉と加工品を、昨年一年で七百八十四トンも受け入れていたのである。輸入された脳四十キロのうち三十一キロはすでに消費されていた。農水省食品安全部は「人へのリスクはごくわずかと考えている」と話しているという(毎日新聞1月21日)。
ブッシュ政権は、ダウナー牛の食用禁止やBSE検査を四万頭程度(全処理頭数の〇・一%強)に増やすこと、牛の血液を牛の飼料とすることの禁止、牛の脳を人の食品や栄養補助剤として使用することの禁止、「特定危険部位」の除去、飼料工場の生産工程を牛用とそれ以外の家畜用に分離することなどの新たな対策を打ち出した。
しかし日本が処理牛すべてに行っている「全頭検査」に対しては、「非科学的である」「費用がかかり過ぎる」としてかたくなに拒み続けており、日本ではすべての牛に対して行っている「特定危険部位」の除去と焼却についても、「若い牛には異常プリオンは蓄積しない」として、小腸(回腸遠部位)以外は生後三十カ月以上に限定している。そしてアメリカの食肉処理はほとんどが三十カ月以下だから、危険部位の除去はほとんど必要ないことになってしまうのだ。
日本の全頭検査では、生後二十一カ月と二十三カ月の若い牛にBSE感染が現に確認されている。「生後三十カ月以内なら危険部位を除去しなくても安全」という主張に「科学的」根拠はない。
一月二十三日、来日したペン農務次官と日本側との牛肉輸入再開をめぐる日米協議が行われたが、隔たりが大きく、合意に達することはできなかった。イラク派兵という憲法を踏み破る暴挙に全力を挙げる小泉政権は、夏の参院選を控えて政権基盤が揺らぐことを恐れ、露骨な妥協が困難な状況に置かれている。しかし油断することはできない。ブッシュ政権の輸入再開要求は、大統領選に向けてますます強まらざるを得ないからである。
ブッシュの地元テキサス州の牛飼育頭数は全米一で、農務省にはハリソン報道官ら全米肉牛生産者協会(NBCA)出身者が多数顔を並べ、ベネマン農務長官も「農務省の職員にはNBAC出身者が多い」と認めるほどである。米通商代表部(USTR)の農業担当ジョンソン大使は一月八日の中川経済産業相との会談で、「牛肉と石油は大統領に近い業界だ」と語って大統領選に向けた「対米配慮」を求めたと報じられている(朝日新聞1月13日)。
なにしろ英首相ブレアとの会談で「ブッシュ大統領の前では尻尾をちぎれるくらいに振ると言われている」と自ら語って恥じなかった小泉である。そもそも日本側は輸入再開の条件を「全頭検査と特定危険部位除去」とはせず、それと「同等の効果のある対策」としてきた。そして一月十五日の亀井農水相とベネマン農務長官との電話会談では、「早期の輸入再開が望ましい」という認識で一致している。何らかの「落としどころ」を探っていることは間違いない。
対日輸出分についてアメリカ側に全頭検査を実施してもらい、費用などを日本側が負担する案も出されているが、ブッシュ政権は「国内と国外との二重基準は避けたい」として拒否した。日本もアメリカに、高級牛肉をごくわずかだが輸出してきた。アメリカは日本で〇一年にBSEが発生して以来、全頭検査と特定危険部位の除去を行っている日本の牛肉の輸入をいまも禁止したままである。にもかかわらずブッシュ政権は、まともな安全対策もないまま米国産牛肉の輸入再開をごり押ししようとしているのである。
小泉政権に早期輸入再開を要求しているのはブッシュ政権ばかりではない。一月十五日、外食産業約四百五十社で作る日本フードサービス協会は、年末に続いて二度目の緊急会議を開催し、輸入再開を叫んだ。協会副会長の吉野家ディー・アンド・シー安倍修二社長は記者会見で「世界でもまれな全頭検査を強要するより、輸入を再開し、消費者の選択に任せるべきだ」と力説した(朝日新聞1月17日)。同協会は店頭でも米国産牛肉が国際獸疫事務局(OIE)の安全基準に添っているとする意見書を配布して、世論に早期輸入再開を訴えていくという。
吉野家はじめこれらの外食産業もまた、雪印など深刻な食品不祥事を引き起こした多くの食品産業と同様、食の安全を放り投げて利潤を最優先することを恥ずかしげもなく宣言しているのである。それは、資本の論理と新自由主義グローバリゼーションが食の安全を破壊しているという現実を象徴している。
BSEは、食肉や魚介類から野菜に至るダイオキシン汚染、成長ホルモンや大量の抗生物質が使われた食肉の汚染、使い回しの古い牛乳とろくに清掃もしない機械のために発生した雪印の食中毒をはじめとする、一連の食品汚染のおぞましい到達点である。
それは、資本の論理、利潤最優先の生産方法がもたらしたものである。あらゆる食品がもはや自然の産物ではなく、大量の薬品による化学的処理を施された工業製品となっている。牛も豚もその他すべての家畜も、搾乳量の極大化や肥育期間の最大限の圧縮で資本の回転速度を早め、利潤を極大化するために、草食動物が自然の状態では絶対に摂取することのない肉骨粉などの動物性飼料や各種の薬剤を使い、工場化された牧舎で「大量生産」されるようになってしまった。それはいまや、クローン牛の生産に行き着いている。野菜や穀物や果物の生産も同様である。最大限に効率をあげるための農薬の大量使用、化学肥料の大量使用は、いまや害虫を殺す毒素を持った遺伝子組み換え農産物に行き着いている。
資本のグローバリズムのもとで、大商社やアグリビジネスが第三世界の農民に低賃金で生産させ、国内の小規模農業ではとうてい太刀打ちできない低価格で大量に持ち込んでくる農産物もその象徴である。効率よく大きくし、見栄え良く規格どおりの大きさに揃え、鮮度を保って長距離の輸送をするためには、大量の農薬と化学肥料が不可欠となる。それは第三世界の民衆が必要とする穀物などの食料生産を解体し、帝国主義工業国向けのアグリビジネスに支配された輸出用農業に転換することでもあり、飢餓の増大と大規模な環境破壊を必然的にともなっている。
そしてこのような低価格の輸入農産物に対抗して生き残るためには、欧米や日本のなかの小規模農業も、同様の自然とはかけ離れた工業的方法を採用せざるをえない。すなわち、グローバリズムのもとで急速に進行する農業の「効率化」と「低価格化」は危険性の増大と一体であり、環境も労働条件も安全性も破壊するものであることを、BSE問題はあらためて明らかにしたのである。
アメリカでのBSE発生に続いて、鶏インフルエンザがアジア各国に広がり、人間への感染と死亡も出始めている。小泉は一月二十三日の参院代表質問で「養鶏場のニワトリは生まれてから死ぬまで土の上を歩いたことがない。太陽の光を浴びたことがない。これで本当に健康と言えるのかどうか。非常に懸念を持っている」と述べた。まさにその通りである。そしてそのような異常な状態を、WTOのもとで小泉らが押し進める新自由主義グローバル化政策がさらに促進しているのである。
アグリビジネスの支配と新自由主義グローバリゼーションから、食の安全と農業を守らなければならない。農産物自由化政策のもとで、日本ではいまや農業そのものが崩壊する危機にある。ゼネコンや農業機械業者に補助金が流れ、農民には借金だけが残るような「農業保護」政策ではなく、農民が農業で生活できるような直接所得補償政策が必要である。それを基盤にして「地産地消」に近づけようとすること、食糧自給率の抜本的向上をめざすことが必要である。食の安全と農業を守るために、WTO反対運動や自由貿易協定(FTA)反対運動をさらに強化しなければならない。
安全確保の補償もないまま米国産牛肉の輸入を再開させてはならない。牛肉ロビーの圧力を受けたブッシュ政権との妥協の道を探る小泉政権に対する、厳しい監視が必要である。(1月30日 高島義一) |