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静岡空港                       かけはし2004.01.01号

強制収用阻止と工事中止めざしあらゆる手段で県を追いつめる

桜井建男さん(空港はいらない静岡県民の会事務局長)に聞く


 静岡空港・石川県政は、全国でも群を抜いて深刻な財政危機の中で、大赤字と環境破壊しかもたらさない静岡空港の建設を、自らの政治生命をかけて強行しようとしている。年明けにも、反対派地権者の土地を強奪する土地収用申請が出されようとしている。空港はいらない県民の会の桜井事務局長に話を聞いた。

何の見通しもない静岡空港計画

――来年の闘いの方向性を聞く前に、静岡空港の問題点を話していただきたい。

 静岡空港は一九九一年の国の第六次空港整備計画の中に無理矢理押し込まれました。地元では「バブルの二日酔い」の落とし子と呼んでいます。
 この時、同じように空港建設の予定地に上がったのが、大館・能代、小笠原、琵琶湖、神戸、福井、播磨空港計画です。第六次計画のずさんさは、予定された候補地のその後を見れば明らかです。いまや大館・能代、佐賀空港は赤字空港の代名詞となり、小笠原、琵琶湖、福井、播磨はつぶれ、神戸も静岡と同様に住民の反対運動が広がっています。
 空港計画の前提になった旅客需要予測も何度も修正される有様です。一九九五年の設置許可申請時は百七十八万人を超えるとされ、いまは百万人と主張し、この間マスコミで言われているのは採算ラインを下まわる七十万人という数字で示されています。
 静岡は東海道新幹線が走り、羽田・名古屋という大規模空港が隣接し、巨費を投じてローカル空港を建設しても利用客が増える展望はありません。まして中部国際空港の開港まで控えているとあってはなにをかいわんやです。
 さらに静岡空港の予定地は起伏に富んだ丘陵地であるため、工事の際には膨大な切土・盛土量が出ています。ローカル空港の中では広島空港が切土・盛土量が千六百万立法メートルで、静岡空港はその一・六倍に達します。広島空港の事業費が二千七百億円もかかっているのですから、どう計算しても県当局の計算している千九百億円で完成するわけはありません。その結果、アクセス道路の問題など多くの内容が今日になってもなお不明なままになっています。
 さらに決定的な点は、空港建設において「用地取得の確実性」が重要ですが、住民との合意のないまま工事が進められ、いまなお空港本体の中に反対派の土地が多く存在しています。このため開港計画は二度も修正され、県当局は土地収用という強行手段で突破しようとしているのです。これは三里塚の問題と同じで「ボタンのかけ違い」では済まない住民無視です。
 こうした一連の問題に対して、地元では「静岡空港反対地権者の会(以後、地権者の会)」「空港はいらない静岡県民の会(以後、県民の会)」を中心に闘ってきたわけです。03年の八月二十四日に、県当局の強硬な攻撃をはね返すために全国集会を実現させました。

土地収用申請と国土交通省

――「土地収用申請」は年明け、遅くとも三〜四月と言われていますが、これに対して「地権者の会」や「空港はいらない静岡県民の会」はどう考えていますか。

 静岡空港は、採択以来十年を経過しているので、事業再評価の対象になっています。国が再評価の結果、補助事業と認定しなければ、予算や補助金は出ません。県の事業評価監視委員会は、都合の悪い事実は隠ぺいして八月に国交省に再評価のための報告書を提出し、いま国交省が再評価の審査をしている段階です。
 そのために十二月三日、「地権者の会」と「県民の会」は、国交省と財務省との交渉を行いました。ここで明らかになったことは、五月三十日の前回の国交省交渉の際には「事業の必要性を審議、再評価」すると言っていた前言をひるがえして、「補助金交付の適否を審査する」再評価だと最後まで強弁し続けたことでした。
 空港の設置については、航空法三九条一項に許可要件が定められていて、その五号では用地の確実な取得ができることを要求しているのですが、この規定は同じような道路、河川、港湾、鉄道などよりも特別厳しくなっています。
 国交省と県は一体ですから、未だ空港本体のど真ん中に反対派の土地が何カ所も残り、全国から参加している約千六百人の立ち木トラストが存在し、工事を阻んでいることを隠そうとしているのです。この段階になっても多くの未買収用地が残っているなら、再評価では補助事業と認定することができなくなるからです。
 国交省は、静岡県当局の申請通り事業の再評価を認可しなければ、静岡空港計画もまた、琵琶湖や小笠原空港計画と同様に計画自身がとん挫してしまうことを最も恐れています。さらに静岡と同じように住民の反対が広がっている神戸空港にも波及するという危機感を持っています。
 今年の四月二十二日、県知事は「八月から十二月末が事業認定―土地収用―申請のタイムリミットだ」と発言しています。県が空港の造成工事に着手してから約五年近くになりますが、設置許可当時の計画では二〇〇三年に開港しているはずでした。しかし計画は二度も修正され、現在は二〇〇六年末の開港予定になっており、この方針自体がいまやピンチに立たされているのです。
 したがって国交省は二〇〇四年の年明けから年度末の三月までには、なにがなんでも事業の再評価で補助金を出すと決定するでしょう。十二月三日の国交省交渉での官僚たちの発言はその決意の現われです。

収用申請とどのように闘うのか

――「地権者の会」や「県民の会」は、「土地収用申請」とどのように対決していくつもりですか。

 おそらく国交省の事業再評価は、二〇〇四年の三月までには出されると考えています。三月は静岡県議会の予算の審議の時期であり、これと対応できなければ工事を進めることができなくなります。県当局は予算をたてにとって、関係市町村に「空港建設推進」決議を上げさせ、その圧力を使って「土地収用」=「事業認定」の申請を行うと思います。したがって、「地権者の会」も「県民の会」も、二〇〇四年の年明けから三月末までが闘いの最初の勝負時期だと考えています。おそらく空港反対闘争の大きな山場になると思います。
 土地収用手続きの最初の段階は事業認定ですから、当面の闘争課題は、県に事業認定の申請をさせないことであり、申請を行ってもそれを無効として取り消させるための闘いを展開することだと考えています。
 そのための闘争方針の一方の軸は法廷闘争だと思います。「不服申立て」「処分の取消しなども含めたあらゆる行政訴訟」を展開する準備をしています。
 十月初旬、東京地裁で東京の圏央道建設をめぐる裁判で、「土地収用停止」という極めて重要な決定が出されました。判決の中心は住民、地権者の同意を得ていないということによる道路公団側の敗訴です。これは静岡空港建設反対の闘いを進めているわれわれにとっては、極めて大きな意味を持っています。
 県当局は事業認定の申請をする前に、利害関係者に対して事前説明会を聞くことが義務付けられています。したがって第二の闘いの軸は、県当局が事前説明会の告示を出した段階で、県庁前座り込み闘争や県庁包囲闘争などの大衆的な抗議行動を展開し、必要であれば今年の八月の大集会のように、全国から静岡に結集してもらい、再び大集会を開催・実現することも考えています。また現在立ち木トラストの所有者は千六百人ですが、それを約二倍の三千人まで増やす運動を展開し、大原告団を組織したいと考えています。
 「地権者の会」は、今年空港建設の現地に「空港建設反対!」の大看板を立てましたが、さらに鉄塔や風車なども作り、現地での闘いも強めていこうとしています。

闘いは建設派を追い込んでいる

――三月に向かって静岡県での闘いの雰囲気は盛り上がっていますか。

 国交省・県当局も必死になって攻撃の準備をしていますが、この二〜三年の闘いを通して、明らかに「地権者の会」「県民の会」を中心とする闘う側が空港建設を推進する側を追い込んでいます。
 この事実を最も象徴的に表現している第一の例は、八月に「朝日」「毎日」「読売」という全国新聞の主要三紙が、軌を一にして「空港反対」や「見直し」を主旨とする社説を掲げたことです。これまで各マスコミ・報道の記者のレベルや、個々の記事で反対を表現することはありましたが、「社説」は初めてです。これは明らかに「静岡空港の建設が有害無益」であるという事実が、県民の中に浸透し始めたことの現われでしょう。
 十月から十一月初旬には、イギリスの「ロンドンタイムス」、アメリカの「ワシントンポスト」の取材が相次いで空港反対の地権者を訪ねています。彼らの取材は事前にかなり詳細に調べ、環境破壊と公共事業のあり方を最も日本で象徴しているという観点で「静岡空港」と「第二東名」を取り上げています。
 第二の事実は、百五十九人の国会議員が、「何の合理性も科学的根拠もない静岡空港に対して、土地収用などすべきでなく、直ちに凍結、中止すべき」という署名を行い、十月九日には中村敦夫参議院議員(公共事業チェック議員の会代表)などが、静岡県庁に署名の提出と抗議に出向く事態が作られていることです。これに対して知事も局長も不在を口実に対応せず、おろおろする県庁幹部の対応が各マスコミによって一斉に茶の間に流されるという、笑えない醜態まで垣間見せられました。
 いまや空港反対の闘いを推し進める側が、県当局や空港推進派を追い込みつつあります。しかし未だ力関係が確定したわけではない。空港反対の闘いに共産党が全面的に参加し、ようやく社民党県連が空港容認から反対に転換したばかりという状況です。
 民主党静岡県連は国会議員のレベルでは反対派が多数を占めていますが、県議会議員の中では依然として空港容認派が多数派を占め、自民党や保守系無所属の議員と組んで県当局の側についています。県当局は県議会と関係市町村議会を背景に、土地収用に向けた攻撃を続けることは明白です。

県政の利権構造全体と対決する

――「第二東名」などの他の公共事業に反対している闘いとの共闘は実現しているのですか。

 静岡空港に反対する闘いは、腐敗した県行政に真っ向から対決していく闘いでありますが、「地権者の会」も「県民の会」も県内全体に広がっている闘う人々との連帯・結合はまだ十分とは言えません。多くの点でこれからの課題だと思います。
 〇三年「週刊ダイヤモンド」という雑誌で、静岡県政の利権あさり、腐敗の実態を全面的に暴露する四回にわたる連載がありました。
 取り上げられた問題はかなり多岐にわたっています。「静岡空港」「第二東名」「サッカー場エコバ」「ダムと水問題」「県の裏金とプール金」など、石川県知事のもとで強行された各種大規模プロジェクトの実態、その利権構造、そしてそのもとで形成された三兆円にも及ぶ静岡県財政の赤字について赤裸々に暴露されています。
 全国でも例をみない莫大な建設費を必要とする地方空港の必要性について、未だ県民の間で合意がないという構造があらゆる分野に貫徹し、知事と結びついた一部県会議員、一部企業と団体がすべてを動かし、静岡保守体制を作っていることはあまりにも明らかです。
 その意味でも、静岡空港に対する反対闘争は、石川県知事の退陣を要求する闘い、運動に発展・飛躍することが求められています。
 三月から始まる事業認定阻止闘争は、その闘いの出発点となることが問われているし、他方では三里塚や神戸などの全国の空港建設反対運動の広がりと発展に結びつくと思います。
 特に、静岡県では浜岡原発に対する反対闘争があります。これは単に運動の結合・広がりということにとどまらず、脱原発の考え方とリンクすることになるので、質的な飛躍を実現するのではないかと思います。この考え方は、空港建設を中止に追い込んだ時の用地の利用法とかさまざまに結びつく問題でもあると思っています。空港反対の闘いを広げようとすれば、質的飛躍・発展を求められることをいま真剣に討論しているところです。

年明けとともに強まる緊張

――三月に向けた具体的行動について、何か要請はありますか。

 十一月十八日、知事は五通目の手紙を一方的に地権者に送ってきました。これは県当局の焦りと行き詰まりを反映していますが、一方では〇四年三月にむけて「用地確保」のために努力しているというアリバイ作りでもあります。その意味で、年明けとともに空港建設の現地では、ますます緊張が強まると思います。二〇〇六年の開港がいまや石川県知事の「政治生命」になり始めています。
 「地権者の会」「県民の会」は、空港中止・凍結と土地収用阻止の世論形成と県の「土地収用申請」の動きを封じるために、一方で国会議員の百五十九人の署名をさらに拡大するために第二次運動に踏み切り、他方では前に述べた通り、立ち木トラストの共有者を二倍の三千人に拡大する運動に着手し始めています。この二つの闘いは県が「土地収用申請」に踏み切る動きを封ずるために訴訟の準備をすることと同様に決定的に重要です。
 「土地収用申請」阻止にむけて多くの闘う人々の支援と協力をお願いします。

b闘争基金創設の訴え
 〇六年開港の展望もなく、行き詰まり、追い詰められている県当局と石川知事は「あの手・この手」を使って地権者、共有地権者に攻撃をしかけ、これを強めています。県民合意もなく、県民の生活と環境を破壊する空港建設を止めるには世論の大きな広がりとともに、闘いを大きく展開するための財源を欠かすことはできません。
 しかし、私たちは小さな力を集め、県民一人ひとりの意思に依拠して闘いを進めてきましたが、決定的に闘争資金が不足しています。この重大局面をむかえた現在から、一段と強力な闘いを展開するために闘争基金を創設することとしました。以下の要領と目的に従って実施し、使用することとしますので、一人でも多くの皆さんのご協力を心からお願いいたします。
b闘争基金創設要領
b目的:闘争拠点の建設、記録等資材購入費用 大量宣伝費用、その他
b要領:期間03年12月から04年4月
・目標:1口3000円 計300万円
・振込口座:〒振替 00800―9―37018
空港はいらない静岡県民の会
【問合せ先】 県民の会事務局п^Fax054―653―2791


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