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                           かけはし2003.9.8号より

住基ネット本格稼働を糾弾する

国民総背番号制=国家による全国民監視・管理体制の強化と闘おう


 八月二十五日、住基ネットの本格稼働が始まった。住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)は、全国民に十一ケタの背番号(住民票コード)をつけ、総務省の外郭団体である地方自治情報センターの一元的管理のもとで全国の市町村をコンピューター網でつなぎ、全国民の氏名、住所、生年月日、性別、住民票コードなどの変更履歴――という六つの個人情報を送受信するというものである。本格稼働開始とともに、IC(集積回路)チップに個人情報を記録する「住基カード」の希望者への配布も始まった。
 小泉政権・総務省は、住基カードを見せれば、本人確認に加え、全国どこの市町村の窓口でも住民票の写しをとれるようになり(広域配布)、各自治体は住基カードを印鑑証明交付や公共料金の決済や図書の貸し出しなど各種の行政サービスに使うことができるなど、「住民の利便性の向上」が目的だと宣伝している。
 しかし、住民票の写しを住んでいない市町村で取る必要性など、めったにあることではない。一人当たりせいぜい十年に一回程度あるかないかだという試算もある。さらに、たとえば静岡県の浜松市と周辺の計二十二市町村のように、条例を定めてお互いの窓口で住民票の写しが取れるようになっているところもある。そもそも、運転免許証などによって本人確認ができれば住民票の広域配布はすでに行われている。単身赴任などで必要になった時には、郵送などで受け取ることもすでにできるようになっている。
 また、資格免許や年金受給に使う場合には、住んでいる自治体で住民票を取らなければならない。すなわち、システムの構築に数百億円もかけ、さらに年間数百億円もの税金を投入して運営する必要があるほど、住民にとっての日常的「利便性」が向上するとは、とうてい言うことができない。
 ネット上を流れる個人情報が漏洩する危険性が指摘され、福島県矢祭町や東京都国立市が「現状では住民のプライバシーを守れない」として、不参加を継続しているほか、横浜市や東京都杉並区、中野区、国分寺市などが希望者だけのデータを送信する市民選択制などの不参加ないし部分参加となっている。
 住民票の写しの広域配布では、続柄や以前の住所などの個人情報がネット上を流れ、転入転出の手続きの簡素化では、戸籍や国民健康保険、国民年金、介護保険などの情報が流れることになり、情報の漏洩や不正使用の危険性がさらに拡大する。ネットワークへの侵入を完全に防ぐことは不可能であり、さらに自治体職員が不正使用に介在するとすれば、そもそも防ぎようがない。昨年十二月には、福島県岩代町で全町民の住民台帳データを入れた磁気テープが委託業者の車から盗まれるという事件も発生した。
 しかし本当の問題は、「個人情報漏洩の危険性」だけにあるのではない。住基ネットに反対してきた運動のキャッチコピーの一つは、「ウシは10ケタ、ヒトは11ケタ−恐怖の国民総背番号制」というものだった。BSE(狂牛病)対策として昨年から導入された「家畜個体識別システム」は、全国のすべてのウシに十ケタの識別番号が割り振られ、どこで生まれ、どこで作られたどのような飼料で育てられたのか、直ちにわかるようにするという触れ込みで作られた。これと同様に住基ネットは、全国民に十一ケタの番号(住民票コード)をつけ、国家がその番号で個人情報を管理し、ICカードによって監視する体制を作り出そうとするシステムなのである。
 今のところ、蓄積されるのは住所、氏名、生年月日、性別、住民票コードの変更履歴などだけであるとされているが、行政機関が保有する多数の個人情報と結びつければ、番号一つで何からなにまで知られてしまうことになる。例えば、図書館カードにも代用できるということも宣伝材料の一つになっているが、ICチップに記録された図書の貸し出し履歴で、思想傾向を知ることも容易にできるのである。
 昨年、防衛庁が情報開示請求者の職業や社会運動との関係、病歴まで入ったリストを作成していたことが発覚した。住基ネットが本格稼働した八月二十五日には、岡山県倉敷市が高齢者のケアネットワークシステムのため、介護保険認定者を除く六十五歳以上の約六万三千人の家族構成、受給年金の種類、近隣との関係のよしあし、痴呆など精神障害の有無、酒やたばこなどの生活習慣まで、数十項目を面接調査して、電算入力してランク付けしようとしていることがわかったと報じられている(朝日新聞8月25日)。
 家族関係では「嫁との関係が悪い」などいうことも記入されていたが、市では調査の際、電算入力して運用することや、自己情報の訂正を求めることができる権利について、全く告知していなかった。
 すでに昨年八月の一次稼働にあたって塩川財務相は、将来は納税者番号や社会保障番号などと統一したいと語っていた。介護や病歴などの健康管理にもカードを利用することが検討されている。本格稼働によって配布が開始された住基カードは、自治体によってばらつきはあるが、さまざまな行政サービスや銀行や郵便局の窓口などでの身分証明証としても使われ始めようとしている。すでに小泉政権・総務省は住基ネット利用可能な事務を九十三件から二百六十四件に拡大する「行政手続オンライン化法」を成立させている。
 意識的反対運動が持続しなければ、あらゆる個人情報がカードに集積され、カードを持ち歩かなければ日常生活に支障を来すような状況が作り出されてしまう可能性と危険性を否定することはできない。そうなれば、警官が職務質問して住基カードの提出を求め、交番の端末機でその人物の逮捕歴まで含む個人情報をつかみ、詰問するなどという悪夢のような光景が出現するというのも、単なるSF的空想の世界ではない。
 韓国では一九六八年から、朴軍事独裁政権がすべての国民に十二ケタ(現在は十三ケタ)の住民登録番号をつけて管理する国民総背番号制を導入した。住所、氏名、生年月日、指紋、兵役事項、血液型など百四十一項目が住民登録簿に記載されており、住民登録番号は不動産、自動車、警察情報の共通番号になっている。
 七〇年からは十八歳以上を対象に住民登録証を発行し(七五年からは十七歳以上)、光州民衆蜂起に対する流血の大弾圧があった八〇年には、登録証の常時携帯義務が課せられた(現在は「努力義務」に緩和されている)。
 韓国では、このシステムの上にIC機能を持つ「電子住民カード」を全国民に配布しコンピューターネットワークで全国一元管理するシステムの構築が計画されたが、国家によるプライバシー侵害に対する批判が高まったことによって導入は阻止された。電子住民カード導入を阻止した社会人権運動は、国民総背番号制そのものの廃止を要求している。
 韓国政府は、電子政府事業推進の柱の一つとして、全国単位行政情報化システム(NEIS)を推進してきた。NEISは、韓国の学校教育にかかわるありとあらゆる情報を市・道別に一つのデータベースに収録し、それを超高速通信網で連結し、教育部長官(日本の文科相)と市・道の教育監(教育長)がこのデータベースに接近できる権限を付与した統合情報システムである。
 集められている学生の個人情報は生活記録簿、学生生活、学籍、成績、健康記録簿、総合健診登録など三百五十以上の項目に及んでいる。教員の個人情報も、人事管理記録という名目で、血液型、宗教、政党、社会団体への加入の有無まで含めた詳細な情報が集積され、管理されている(韓国「労働者の力」33号から。本紙7月14日号)。
 小泉政権が本格稼働を強行した住基ネットは、このような国家による個人情報の集中的管理システムへの「本格的」一歩を進めるものである。「住民の利便性向上」という口実で、全国民のあらゆる個人情報を一元的に管理し、監視する超管理社会がめざされているのである。
 本紙(7月21日号)で報じたように、国会周辺には三十六台もの高性能監視カメラが設置され、国会に抗議や陳情や請願に訪れた人々をことごとく撮影し、記録している。監視カメラで撮影しているという表示さえ設置されておらず、肖像権を侵害し八八年一月の東京高裁判決の判例にも反する「憲法違反の盗撮」そのものである。撮影データの使用方法や保存期間、外部からデータの提供を求められた時の対応などの運用規定も公開されていない。
 九九年には「盗聴法」の成立が強行された。「犯罪防止」や「テロ対策」を名目に、あらゆるところに監視カメラが置かれ、すべての人々を犯罪予備軍として監視する「超監視社会化」が進行している。道路上を通過するすべての車のナンバーを撮影し記録するNシステムは、すでに全国七百カ所を超える地点に設置されている。監視カメラにバイオメトリクス(生体情報認識)など個人識別システムが組み込まれ、「顔データベース」と自動的に照合し、だれが通過したのかまで瞬時に特定することのできる時代が始まろうとしている。
 朝日新聞(8月29日)紙上で、「監視する社会」と題する対談が行われている。そのなかで「安全を守るためには監視カメラなどによる監視が必要だ」という主張を展開している橋爪大三郎(東工大教員)でさえ、次のように言わざるを得なくなっている。
 「テロを事前に抑止するには……実際より遥かに多くの人々の個人情報を集積する必要があり、テロリストでない人々の個人情報がデータベースのなかに膨大に蓄積される。彼らも監視されている憂うつと(個人情報が)悪用される不安の状態に常時置かれることになる。これは許されるのか。またその効果に見合うだけのコストといえるのか」。
 すでに小泉政権は、顔の骨格や両目と鼻の位置、目の虹彩情報などのバイオメトリクス情報を電子化してパスポートに埋め込み、旅券データと生体情報を読み取るカメラ付きの機器を設置して、出入国審査の際の本人確認に用いる方針を固めた。外務省は来年度中に、一部の国家公務員の海外出張の公用パスポートで試行を開始し、二〜三年後に本格運用したいとしている(朝日新聞8月27日)。
 住基ネットの本格稼働が強行される二日前の八月二十三日、反住基ネット連絡会が東京・渋谷で百二十人で集会を開き、住基ネット廃止を訴えてデモを行った。八月二十五日には、メディア関連労組三団体(新聞労連、民放労連、日本マスコミ文化情報労組会議)と全印総連、自治労連の委員長などが、個人情報に十一ケタの番号をつけて無断でネット上で運用することは、憲法十三条が保障するプライバシーの権利を侵害するものだとして、稼働の中止を求める第六次訴訟を東京地裁に提訴した。
 韓国でもこの六月、人権運動サランバンなど四十四人の人権運動活動家が、「教育部がNEISを推進し、個人の同意なしに個人情報を収集・管理することによって、人権を侵害された」として政府を相手取って慰謝料を請求する訴訟を起こした。
 この住基ネット=国民総背番号制を軸にした全国民の一元的管理・監視体制の強化は、有事立法による徴用・徴発をともなう戦時国民総動員体制の構築と結びついている。それはブッシュ政権とアメリカ帝国主義が押し進める「対テロ・グローバル戦争」体制構築の一環である。
 また一方でそれは、資本に巨大な利潤を保障しようとするものでもある。この間、電子政府化、電子自治体化というキャンペーンが盛んに行われてきた。総務省は、インターネットを活用した「電子自治体」の整備だけで、〇二年から〇五年までに約二兆五千億円の巨大市場が作られると試算していた。
 グローバル戦争と資本の利潤のための「超管理社会」「超監視社会」を許してはならない。それは民主主義と人権を絞め殺すものである。政府・資本のねらいを暴き、反対運動を持続しなければならない。住基ネット本格稼働を糾弾する! 住基カードを拒否しよう! 国民総背番号制と「超管理社会」「超監視社会」を拒否しよう! 住基ネット廃止を!
(8月31日 松本龍雄)

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